『ガラスの墓標』など

  • 『ガラスの墓標』…原題は“CANNABIS(大麻)”だが、冒頭のナレーションにもあるとおり、愛と青春の映画。ぱっと見では、かなりいびつで、ストーリィの筋すらも分断されているような乱暴な編集に見えるが、逆にそれによって、マフィアの殺し屋・セルジュと大使の娘・ジェーンの炎のごとき恋模様と、セルジュを慕うその弟分との危うい人間関係──この三角関係(こそ)が実にシャープでソリッドに浮き彫りにされている。この3人の関係の、まさに表象だけを切り取ったかのようなその編集が非常に面白い。そして、ジェーン・バーキンは本当に綺麗。
  • アメリカン・ビューティー…崩壊寸前の一家族と、その隣人や友人などとの人間関係の顛末を描く。特に印象に残るのはやはり、カメラで撮った画面で世界を見つめるリッキー。カメラという客観という主観を手にすることで、彼なりの道を──本当に美しきものを迷わずに見つめてゆく姿はとても素敵だ。地に足が着かなくなってしまった登場人物たちの中で、実に際立っている。
  • ウォッチメン…『300<スリー・ハンドレッド>』のザック・シュナイダー監督作品。スーパー・ヒーローたちを、そして人類を襲う未曾有の計画を描く。2時間40分近くの尺で、ほぼ全キャラクターの過去や身の上を語りつくし、さらにミステリィカタルシスまでをもぶちこみながら、その冗長さをまったく感じさせない独特のプロット構成が見事。映像も大変素晴らしい。映画のクライマックスにて描かれる<究極の正義>の如何についてなど、観たもの同士でおおいに語らえる作品だろう。
  • ワルキューレ…ナチ将校たちによるヒトラー暗殺計画を映画化。この歴史的事実の結末がいかなるものかを知っていても、手に汗握る映画だ。その計画実行時における、実行者たちの混乱やすれ違い、保身に独走など、実に人間味に溢れている。愛国が謳われる現代、ナショナリズムパトリオティズムとの違いをきちんと理解したうえで、その言葉を使って欲しいと思わさされる。細かいことだが、冒頭のドイツ語から英語へと文字・音声ともに徐々にシフトしてゆく演出は、自然で実によかった。
  • 『女帝-エンペラー』…チャン・ツィー主演、シェイクスピアの『ハムレット』を題材にとった、武侠史劇。壮大かつ絢爛豪華なセットや衣装、エキストラの多さに目を奪われる。アクションにもうちょっと緩急があっても良かったかと思うが、この映画、アクション・シーンで所々特殊な編集──おそらく、1ショットの内の数コマを抜いていると思われる──がなされていて、非常に印象に残った。