『アバター』3D上映版

ターミネーター』や『エイリアン2』を撮ったジェームズ・キャメロンが、『タイタニック』という異色作を経て満を持して公開したSFアクション大作。

とにかく映像美が、凄い、凄まじい――情報量も迫力も。美しい衛星パンドラの自然、景観。そこで様々に生息する生物。そして目を見張るVFX満載の映像――これだけで、2時間40分という長丁場を乗り切るその力量は見事。

脚本こそ、この映像の数々を見せたいがための実に単純なストーリィ構成で、細かいところで歯抜けもみられる。たとえば、主人公ジェイク(演/サム・ワーシントン)と衛星パンドラ研究チーム(チーフ役はシガニー・ウィーバー。この人は本当に歳をとることを知らないね)の面々との人間関係描写やら、キロ数十億といわれるパンドラ特有の鉱石がいったい何に使用できるかとか、劇中での荒廃しているらしい地球について一切の描写がないなど、といった感じだ(イースト・プレス刊『アバター 公式完全ガイド』をパラパラめくって見ると、映画本編では語られなかった設定やコンセプト・アートなども存在するようなので、あるいは――むしろ、キャメロンのことだから――そのうち、その辺の補足場面を組み込んで再編集した《完全版》が製作されるのかもしれない)。が、しかし、このとんでもない映像をテンポよく観客に見せるという観点から言えば、実に巧い構成であることは相違ない。

もちろん、SF映画ならではのギミックもおもしろい。衛星パンドラに乗り込む主人公らは、その原住民である“ナヴィ”とコンタクトをとるために、自らのDNAとナヴィのDNA情報を混合し、ナヴィの姿を模して作られたアバターの姿をとらねばならない。そのためにアバターの脳と自身の脳を同調――シンクロさせて自身がアバターを操る(まさに化身である。なんだかエヴァンゲリオンを小生は想起してしまったわけだが、そういえばナヴィの造形――大きな瞳、細くしなやかでかつ優美な体躯――は、どことなく貞本義之の描くキャラクタを思わせる)という設定や、衛星パンドラ全体――動植物すべて含めた――が、ひとつの《有機ネットワーク》とでもいえるシステムを構築しており、これにナヴィたちは有機的に接続することが出来るといった描写が興味深い。その他、ナヴィの言語であるとか、パンドラの生態系であるとかあらゆることが細かく設定されており、世界観の構築という点でも大いに見どころがある。

とはいっても、やはり映像の凄まじさに飲み込まれる快感はたまらない(上記のことは、映像的にひじょうにも楽しい)。クライマックス、衛星パンドラの運命をかけたナヴィと人類とのガチンコ合戦シーンなどは、近年稀に見る迫力で手に汗握らせてくれる。映画館で観なければ、これはもったいないだろうと素直に思える(ときに未来から送り込まれた殺戮兵器に、ときに宇宙に存在する無慈悲な生物に、ときに極寒の大西洋に浮かぶ氷山に、人類がさんざっぱらコテンパンにされる映画を撮ってきたキャメロンが、今度は逆にとことん人類をコテンパンにする映画を撮った――というのもなにか趣深いものがある。ある意味でこの映画は『《逆》エイリアン2』といえるかもしれない*1。そういえば、かつて『第5惑星』なんて映画もあったなぁ……)。

ところで、小生は今回この『アバター』を3D上映ではじめて――つまり、3D上映という方式の映画をはじめて――鑑賞したのだけれど、3Dとしてはそこまで楽しめなかった。とにかく情報量が多いこの作品の画面において、ウリである3D効果をかけた結果、画面に奥行きが――観客にはより――あるように見える、これはたしかである。しかし、仮に画面の奥行きを単純に【奥】【中央】【手前】という階層に分けたとき、【手前】のものがもっとも目立ち、次いで【中央】、最後に【奥】というふうに見えるわけだが、この結果、本来画面で注目されるべき箇所が、そうしづらくなっているような気がするのだ。

たとえば、画面で注目されるべき被写体――ここでは主人公としよう――が【中央】にいるとしたとき、彼よりも【手前】にあるオブジェクト――壁や椅子など――や、【手前】を横切るもの――飛び散る瓦礫や葉、あるいはモブなど――のほうがどうしても目立ってしまい、ついついそちらに目が行きがちになってしまったのだ。ましてや、非情に情報量の多いこの『アバター』においては、いま記したようなショットが頻出するし、おそらくさらに複雑な奥行きの階層割がなされているのだろう。今回、画面でもっとも目立っていたと印象に残ったのは、われわれ観客の眼前をゆきすぎる微小な火花だ*2。もちろん、これは小生が3D上映慣れしていない身であったから起きた現象であり、3D上映を観る訓練を今後重ねてゆけば克服できるものなのかもしれない。つまり、すくなくとも今回は、というニュアンスである*3

比較のために、ぜひとも2D版も鑑賞にゆきたい。

*1:この『アバター』はかなり多くの面で『エイリアン2』のリメイク的な要素が見られる。ストーリィ構成における人物相関や社会的立場の対立関係の描かれ方や、登場するメカニックのデザインやコンセプトもかなり類似しているし、音楽を担当したのも同じジェームズ・ホーナーである(劇中『エイリアン2』を想起させる――というかまんまな――スコアも少なからず登場する)。また『エイリアン2』の際にキャメロンがコンセプトにしたという、ベトナム戦争におけるアメリカのゲリラ戦闘における劣勢/敗退というモチーフも、今回はそれ以上にクライマックスの合戦シーンで大きく描かれた。

*2:字幕スーパーについても同じような問題点があるように思われる。ある意味しかたのないことだと重々承知はしているけれども、字幕は配されるそのシークェンスにおいて、暫定的にもっとも見やすい階層【手前】に配置されているのだが、どうしても、その階層よりも【さらに手前】を何かが横切ったり字幕に重なったりすることがある。そんなとき、字幕がその【さらに手前】のものに溶け込んでいるように見えて少々気持ちが悪かった。また、場面によって字幕がある位置/距離感に若干の差があるようにも思え、なかなか字幕を追うにも苦労させられた。3D上映の映画は、いまのところ吹替え版を見るほうが、失敗は少なそうだ。

*3:さらに余談だが、3D上映を見る際の必需品の3Dメガネ――これ、ほんとうにどうにかならないかな、技術革新とかで。実生活において眼鏡を使用する者の悩みの種である(笑)。