『映画 けいおん!』

かきふらいによる同名漫画を原作とした、京都アニメーション制作のTVアニメ版『けいおん!』の映画化。卒業を控えた軽音楽部の面々は、卒業旅行としてイギリス・ロンドンへの旅行を思いつくが……。


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けいおん!』大ファンを自称する後輩(男)に誘われる形で、映画館に連れて行くことになったものの、何を隠そう僕は
けいおん!』ビギナー。
漫画もアニメもこれまで1カットたりとも観たことがなく、風の噂に聞く“ぼんやり”とした雰囲気しか知らない、という体たらくでの鑑賞ということになったのです。まさに実験。このように門外漢なので、けいおニズムに反することを書くかもしれないが、そこはそれ、笑って許してほしい。


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さて、やはりなんといっても開口一番こう言いたい──「勉強になった」と。これはたしかにブームになるなぁ、という印象はヒシヒシと伝わってきた。とくに、主人公である軽音楽部部員たちの動きの描写や捉え方が、たいへん新鮮だった。

脚や手、ポージングなどの細かな演出が、監督をはじめとして女性スタッフが大半を占める作品というだけあってか、これまで見慣れたアニメーションとは一味もふた味も違って見えた。とくに印象に残ったのは、平沢唯が旅行先であんまりくたびれたものだから、ホテルのベッドでうつらうつらし、とうとう眠りこけてしまう一連の描写。彼女が舟を漕ぎ出したときの動きに合わせて一瞬目が白目になったりと、ほんとうに細かい仕草でみせてくれる。

前述の後輩(男)に尋ねたところによると、今作で使用されたサウンドトラック(歌ではなく劇伴/BGM)はかなりの曲が映画用に書き起こされたものだとか。今回イギリス旅行の話、ということからか、ザ・ビートルズエレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)などといったイギリス出身のミュージシャンの楽曲を思わせる劇伴が使用されていて、耳をくすぐられた。そういう意味では、映画オープニングのつかみも音楽を使ったギャグとしてのパンチが効いていて面白かった(『けいおん!』の演ってる音楽ってあんな感じだよね、と思っていただけに)。


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ただ、1本の映画として観たとき、もちろんファン・サービスなのだろうとは思う部分も含めて、ちょっと詰め込みすぎな印象は否めない。わんこ蕎麦のように次か次へと間髪いれずに挟み込まれるギャグは、そのひとつひとつはクスリとさせるものなのだけれど、画面内の雰囲気とは異なって少々せわしなさが目立つ。せっかく尺がある程度自由にできる映画なのだから、もう少しのんびりとした間があってもよかったかもしれない。

あと、4回もライブ(演奏)シーンがあるのはやはり多すぎだろう。演奏シーンはどうしても物語がストップしてしまう性質を持つため、あそこにもここにもというのは、どうしても映画全体をとおして観たとき、散漫になっている。『けいおん!』という作品の性質上、物語における抑揚を求めるのは難しいだろうから、それを補うフックとしてライブシーンを機能させれば、もっと印象的なものになったのではないだろうか。例えば、最初のライブのところでは、寸でのところで演奏しない、とかすれば、観客の興味の持続も叶っただろう。

また、オーディエンスの反応と、それに対する部員たちらの、そして彼女たちと観客との対話/セッションの描きこみが薄かったのも気になったし、ライブでもう少し曲数を聞かせてほしかったなぁ。


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とはいえ、この完全な『けいおん!』ビギナーに興味を持たせたのもまた事実であり、とりあえずはTVアニメ版もきちんと観てみたくなった。だが、しばらくはオアズケを食らうことになりそうだ。なんせ、近所のレンタルショップでは、みんな借りられていたのだから。



追記:テレビアニメ版の感想
第1期……2011年に観た映画リスト+メモ その3(Last)の記事内
第2期……2012年鑑賞映画作品/1-30(+TVアニメ)感想リストの記事内