2011年に観た映画リスト+メモ その3(Last)

ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』……あの“顔”を連れてきただけでも勝ち。

くまのプーさん 完全保存版』……何層にも構築されたメタ構造によって裏づけされた良質なコメディ・アニメ。ディズニー映画を見ていて「原作には出てないけど」という台詞を聞くとは思わなかった。

世界侵略:ロサンゼルス決戦』●……FPSゲームのような印象。カメラが役者に寄り過ぎかつグラグラ揺れるので、空間把握がすこぶるしにくい。ドキュメンタリー的手法を用いたつもりなのだろうが、逆にアクションがぜんぜん臨場感を得ていない。

『昼下りの情事』●……オードリー・ヘプバーンは、「頭は良いのだけれど何かが抜けている」というタイプの役柄を演じさせたら天下一品のコメディエンヌだと思う。ワイルダーの演出良し、脚本良し、ボブ・カットのオードリーも可愛い傑作(個人的にはラストだけ納得いかんけどね(笑))

アナコンダ2』……ふつうに楽しいモンスター・パニックだった。

『パリの恋人』……ファッション雑誌のエポック的存在である『ヴォーグ』の製作現場を一方で描いた作品だが、無論ミュージカル映画としてもたいへん楽しい(オードリーのソロ・ダンス・シーンは必見)。個人的には、映画の展開とは異なって、序盤に出てきたオードリーがもっとも魅力的だと思うのだけれど、それは価値観における映画と僕との時代的な差のせいだろう。

麗しのサブリナ』……『昼下りの情事』と同じワイルダー監督作品(『昼下り〜』以前)だけれど、非常に鈍重な印象を受けた。おそらくこれは、ストーリィを語るよりもむしろオードリーの魅力──あのハンフリー・ボガードが篭絡されるほどの──を撮ることに傾倒したためだろう。いまでいうアイドル映画のような印象。

『パンドラム』……脈々とその系譜が途絶えることない宇宙船ホラーSF。メリハリの効いた演出とアクションで最後まで楽しめた。

ロミオとジュリエット』1968●……語り主体のシェイクスピア演劇は映画と相性が悪いんじゃないか、というのが僕の持論だけれども、残念ながら今作はその持論が当たってしまった。ひと言で言って、タルい。かつて観た『秒速5センチメートル』(新海誠)と同じタルさを感じた。

くまのプーさん』2011●……素晴らしい。第1作にあったメタ構造を踏襲した造りと作画がきちんとしていて良かった。劇場で思わず大笑いしてしまった、幼児的なくっだらないギャグの連発も周到でレベルが高い。

      • 110

ネッシーの涙』●……くまのプーさん』(2011)の前座。絵本を朗読している、という体で描かれるので、子供が想像している、という意味において後に続くプーさんへとすんなりと我々観客の意識をシフトさせてくれる。

ある日どこかで』●……なにも知らずに観に行ったら、大好物のタイムトラベル・ロマンスだった。序盤から、やたらとマシスンとかの名前が出てくると思ったら……。少々テンポが遅いのが気になったけれども、良作だった。

『折れた矢』……インディアンへの/からの視線を設けた最初期の作品だそう。執拗に白人女性の存在が画面からオミットされているのが興味深い。

ゴッドファーザー』●……何か不穏な出来事が発生するときの<静から動へ>というカメラ・ワークと編集が大変素晴らしい。ただ、イタリア行ってからの演出とその点がぜんぜんズレていたので、統一すりゃ良かったのに。

塔の上のラプンツェル』……中盤のダムでのアクションシーンが楽しい。吹き替え版のヒロインの歌唱部分はショコたんじゃないんだね。

スカイライン -征服-』……世界侵略:ロサンゼルス決戦』と同時期に公開され、いろいろと悶着もあったようだが、『世界侵略』より断然『スカイライン』のほうが楽しく観ることができた。アクションの撮り方がオーソドックスで観易いし(そのおかげで異性人なんかのディテールもよく見えるし)、ちゃんと人類が敗北するというのが良かった。ちなみに、僕はこれを観ていてヒッチコックの『裏窓』を少しばかり思い出した。

『悲しみよさようなら』……ウィノナ・ライダーのために書かれた脚本らしいけれど、なるほどやっぱりノニーはちょっと変わったはみ出しものの女の子という需要のされ方なんだなぁ、とこれを観て納得。でも、この映画の脚本は、けっこう完成度が高い(ディキシーという女優の不在をめぐる物語として)。

『ナック』……ビートルズ映画でおなじみのリチャード・レスター監督作品。綺麗どころズラリのオープニングは圧巻。なにか斜から見るように乾いた独特な語り口とか、ヒロインの物言いとか、当時としては結構新鮮だったんじゃないかしらん。

『第七のヴェール』……精神分析それ自体が映画の語りとなった作品の走りだそうで。クライマックスは少々眉唾だけども、ヒロインが精神分析家によって過去を語り始めるときの映像がかっこいい。

『エンジェル ウォーズ』……ザック・スナイダー監督。フロイトの夢判断的世界をこれでもかと描く(抑圧されたナニの描写ばっかり)。悪い映画じゃないと思うが、ラストの顛末は蛇足だったかな。

      • 120

『リセット』……人々が影/闇に襲われ次々に消失してゆく様子を描く。モンスターが今作では影なので、そのエフェクトは非常にシンプルなのだけれど、それがむしろ怖い(その恐怖を生む演出も秀逸)。余談だが、おそらくこの作り手たちは黒沢清監督の『回路』に強い影響を受けているに違いない(だからこそ、人々が消失したことを表現するために、旅客機が街中へと墜落するのだと思われる)。

猿の惑星 創世記〈ジェネシス〉』●……エンタテインメント映画としては今年1番の出来と言っていいだろう。多くの情報量を手際よく観客に伝える確かな演出が素晴らしい。そうやって観客をグイグイ映画へと引きずりこんでくれるので、クライマックスに至るや、かなり燃えます。過去の『猿の惑星』シリーズを知らなくてももちろん楽しめるのだが、往年のファンや、その頃の映画が好きな観客への目配せも細かく設定されており、そのバランス感覚には恐れ入る。

『ロスト・ソウルズ』……スピルバーグ映画の撮影でおなじみカミンスキー初監督作品。撮影が美しい。キリスト教的教養の少ない僕にとって、ストーリィは少々難解だったが、一緒に観た友人との議論のなかでだいぶ読み込めた気がする。エクソシストって裁判所の令状で出動するんだねぇ。

『草食系男子の落とし方』……ウィノナ・ライダーが見たかったので鑑賞。そういう色眼鏡を抜きにしても、もうひとりのヒロインは要らないだろう。無理やり三角関係──にもなってないのだけど──に持ち込まないほうが、絶対スッキリしたって。

デイブレイカー』……ヴァンパイアもの。ヴァンパイアの存在を一種のウイルスのようにとらえた設定、そして人間の血を飲まなければ浮浪/野生化してしまうという設定などが面白い。ゴア描写もしっかりあるが、不思議といやにならなかった。物語の落とし方には多少疑問が残るけれど、概ねよく出来ていた。

太陽がいっぱい』●……オチの落とし方に、すかっりオトされてしまった。中盤の不穏そうな演出も素晴らしい。ヒロインを演じていた女優さんがたいへん綺麗で眼福でした。

『尼僧ヨアンナ』……オランダ映画。変な映画だったが、面白かった。とくに主人公の神父が自らと対面し語っているような描写が興味深い。

『スティング』……最後の種明かしには、ヤラれたと思った。レッドフォードがかつての師匠であり相棒の危機を悟るときのカメラワークがかっこいい。

『ゾンビ・ランド』……変化球なゾンビ映画(『ショーン・オブ・ザ・デッド』のような)。そのなかで語られるのは、オタク青年の疑似家族獲得までの顛末であり、青春映画として非常に好感を持った。もちろんジャンル・ムービーの定石もきちんと踏んでいる。

世界最速のインディアン』……悪人ゼロ。問題はあっさりと次々に解決される。これほどフックのない洋画珍しいと思う。実はこの映画って、アンソニー・ホプキンスが主演の『けいおん!』なんじゃないかと、最近思っている。

      • 130

『アパッチ』……ランボー』のイメージソースってこの映画なんじゃないか。

『壮烈第七騎兵隊』……カスター将軍の生涯を描く。その歴史的な正負は抜きにして、『アラビアのロレンス』的な構造を持った作品だなぁと感じた。

『西部開拓史』……オールスターとスター監督で描くノスタルジックな西部叙事詩シネラマの画面作りとはこういう感じなのか、と勉強になった。

ソルジャー・ブルー』……インディアンと白人の争い描く際に以前以後を生んだという決定的な作品だそう。アメリカン・ニューシネマを髣髴とさせる演出が随所に見られる。クライマックス以外にも、さまざまに見所がある映画。

『恐怖の足跡』……ロメロがゾンビメイクの参考にしたというホラー。しかし、幽霊譚というよりもむしろ、現代社会の行き場のなさや息苦しさを描き出した映画じゃないかと思う。

『南部の唄』……ディズニー映画のなかでも、その人種的描写において問題になった作品。エンタテインメントとしては決して悪い作品じゃないけれども、ただ黒人奴隷が歌っている歌詞の内容など違和感は拭いきれない。

タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』●……実写のエンタテインメント映画技法を知り尽くしたスピルバーグだからこそ撮れた場面が連発される。話題の1カットアクションシーンももちろんのこと、3Dアニメとしては確かに地味ながらも、実写では絶対に不可能という絶妙なカメラワークが目白押しである。ただ、ちょっとそのめまぐるしいアクションを盛り込みすぎた嫌いもないではない(終盤ちょっと疲れてしまった)。

映画 けいおん!』●……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20111215/1323961362

『悪い種子』……『トラウマ映画館』(町山智浩)に紹介されていた作品。その指摘にあるとおり、とって付けられたラスト“天誅”シーンとそれに引き続くキャスト紹介は、いま観ると当時の価値観が垣間見えるようで興味深い。「悪い子」を演じたパティ・マコーマックの存在感がすごい。そういえば、『ウルトラQ』の「悪魔っ子」ってこれが元ネタじゃないかしらん。

      • 140

小さな巨人』……ホフマン好演の1作。最近の映画で言うと『ベンジャミン・バトン』が近いかな。白人社会とインディアン社会の両者を行き来することで、それぞれの価値観を描き出そうしている。

『ザ・ライト-エクソシストの真実-』……エクソシストのシステムの一端が垣間見えて興味深い。ホプキンスの演技が素晴らしいだけに、クライマックスでは余計なエフェクトは付けないほうが良かったんじゃないかしら。

『REDLINE』……眼がチカチカするほどの情報や色彩を持ちながら、基本手描きだという、ある意味恐ろしいSFアニメ。ただ、クライマックスにおいて色んなものが投げっぱなしになってしまっていて、思わず「なんでやねん!」と言いたくなった。作画やら音楽やら、そういった画面内の世界観構築が素晴らしかっただけに、その点が残念。蒼井優ってあんな声出せたんだね。

カサブランカ』●……ハンフリー・ボガード主演のサスペンス。ジャンル・ムービーとしての出来も秀逸だけど、ちょくちょく挟み込まれるギャグも、良いクッションとして機能している。

『わたしを離さないで』……主演3人を演じた6人それぞれが、よくぞこれだけの“顔”をそろえたな、という感じに、見事にキャラクターを表現している。正直この映画それだけでも勝ち(ほかの部分ももちろん良かったが)。

『アンノウン』……リーアム・ニーソン版『WHO AM I?(ジャッキー・チェン)』だった。全体的によく出来ていて楽しめた。

『パーフェクト・スナイパー』……マッハ!』等のP・ピンゲーオ監督作品。ほんとこの人の映画は直球に宗教(仏教)が前面に出されていて、ある意味タイの監督の中では最もハリウッド映画タイプなんだろうと思われる。ラストではもうひと眼張りしてアクションしてほしかったなぁ(オチは良いとしても)。

去年マリエンバートで』……2011年が去年になる前に観ようと思ったので大晦日に鑑賞。食い違う記憶/食い違う編集。なにか静止した世界。精緻な撮影。不穏なパイプオルガンの音色。はっきり言ってさっぱりお話は判らなかったけれども、下手なホラー映画よりも怖いこの作品を僕はたいへん好きです。

148作品

TVアニメ
四畳半神話大系』……毎回ループしながらも異なりかつ連鎖する脚本や、中村裕介のイラストをアニメーションとして再現した作画や平面的な画面など、大いに楽しめた。とくにアニメだから可能な、ラストで明かされる“とある仕掛け”が大変素晴らしい。あと、明石さんが可愛い。

けいおん!』……映画版から翻っての鑑賞。高校生であれば必ず生じるであろう日常生活における様々な問題をことごとく消去しながらも、細やかなヒロインたちの動きの描写によってアニメ的なリアリティを保持するその力量、そして──視聴者それぞれの好き嫌いは置いておいて──誰ひとりして「嫌なキャラクター」にならないようにする目配せの的確さなど、本編の内容とは裏腹にとてもその演出眼はとても鋭い。これは社会現象にもなるや、と遅まきながら納得した。あと、秋山澪が可愛い。

ベン・トー』……半額弁当を求めてスーパーでバトルする、というアイディアを青春/部活もののアニメ(あるいはライトノベル)の文脈に盛り込んだだけでも勝ちじゃないかな。ただ、そのアイディアの規模のわりに「謎の組織」が出てきたりするのは、ちょっとやりすぎ感も否めないし、なにより1クールでやるには消化するストーリィの尺が長過ぎた(モナーク編まででやればよかったと思う)。あと、槍水先輩が可愛い。


イヴェント
山下達郎『Joy 1.5〜The Movie』@梅田……アルバム『Ray Of Hope』初回特典に応募したら当選してしまった。しかも、画面がちょうど視野いっぱいになるような前後列で、しかも左右のほぼ中心という、しごく良い席だった。ファンとしてこれほど嬉しいことはない。

以上