『TIME/タイム』

人間の成長が「25歳」で止まる近未来。しかし、その世界の通貨は、その人が持っている「時間」──25歳を過ぎた人々は富める者は永遠に、そして貧しき者は残留時間がなくなれば即座に死んでしまう──であり、世界は富裕層が暮らすニュー・グリニッジと貧民層が暮らすスラム区域に二分されていた。スラムで暮らす28歳(25歳+3年)の青年ウィル・サラスは、ひょんなことから100年を超える時間を手に入れる。彼はニュー・グリニッジへと向かい、世界の体制へ反旗を翻そうとするが……。

アンドリュー・ニコルが監督・脚本・製作をつとめるSF映画作品。通貨とは異なる価値基準が人々の貧富の差にかかわる、といった設定や、支配者がある人物の支配に失敗する、という本作の物語構造は、『ガタカ』(1997)や『シモーヌ』(2002)、また『トゥルーマン・ショー』(1998)といった一連のニコル作品に通ずるものであり、その幕切れの後味も含めて、『TIME/タイム』はまさしくニコル印のSFといえるだろう。

人間の寿命に人工的にリミットが与えられるという設定として、寡聞な僕が真っ先に思い浮かぶのはやはり『2300年未来への旅』(1976)だ。こちらは30歳になると人々がそうと知らずに処理/殺されてしまうというものだったが、本作『TIME/タイム』では、それにもうひと捻り加えて、時間すなわち寿命が通貨になっている。これによって、主人公たちの追走劇に時間的なサスペンスを無理なく組み込むことに成功しており、このアイディアはウマいな、と感心した*1。画面内──正確にはキャラクターの左腕に内蔵された時計の表示によってカウント・ダウンされているのだから、いやおうなく盛り上がってしまう*2

ただ中盤からクライマックス手前までにかけてのボニー&クライド『俺たちに明日はない』ならぬウィル&シルヴィア『俺たちに時間はない』的な展開を見せるくだりがちょっと脚本段階で整理不足な感は否めない。あっちに行ったりこっちに行ったり、という細々とした展開がコテコテ盛られていてダレてしまったのが残念だった。また、極力実景を使って近未来世界を描写して見せてくれたのはすごいよかったのだけど、もう少し「時間=通貨」というマーケティングが見えるような看板などがあっても良かったかもしれない。

しかし、本作の若者しか登場しないという、諸星大二郎の漫画「子供の王国」もかくやの“グロテスクな画面”が普通に展開されていることに、僕は一見の価値ありと思う。

*1:ちなみに、映画の中盤でウィルとヒロイン・シルヴィアのふたりが夜の海を裸で泳ぐ、というシーンがあるけれど、これはおそらく『2300年〜』へのオマージュだろう

*2:この映画がテーマのひとつとして掲げているある種の死生観が、ハイデガー的だなと感じてしまったのは考えすぎかな。