『アーティスト』

サイレントからトーキーへと映画が変わろうとしていた時代。サイレント映画のスター俳優・ジョージと、トーキー映画とともにブレイクしてゆく新進女優・ペピーとの出会いと恋を描く。

21世紀型(?)サイレント(ふう)映画。アニメーション映画だと、シルヴァン・ショメ監督の『ベルヴィル・ランデブー』や『イリュージョニスト』、アンドリュー・スタントン監督の『WALL-E ウォーリー』などが、サイレント映画の手法を前面に押し出して製作されていたけれど、今作は実写映画。

とにかく目に映る画面──カメラワークや編集、移りこむ小道具や登場人物の立ち位置などなど──から、映画を読み取り斟酌する楽しみに溢れている。時代の流れに抗い落ち目になっていくジョージと、開花してゆくペピーとのすれ違いを映すくだりなどが、とくに素晴らしい。

一方で、この映画が実は──というほどでもないけれど──トーキー映画であるからできた仕掛けもまた素晴らしい。中盤、ジョージがトーキーの世界でひとりだけ取り残されるという悪夢を見るくだりがあるが、そこで施される演出によって、映画という虚構性、しいてはジョージのキャリアの虚構性が無残にも暴かれることになる。これほど恐ろしい演出もなかなかない。

また、ジョージを演じたジャン・デュダルジャンの演技、とくにその独特に誇張された表情の演技が素晴らしい。よくぞ、という感じに映画の世界観にハマる“顔”である。また、彼のいじらしい愛犬アギーの名演も特筆に価するだろう。

ただ、後半のストーリーが少々くどい嫌いがあったのが残念ではあった。もう少しコンパクトにまとまっていたらなァ、と思うところであった。

ただ、やはり映画を観ることを自覚的に促してくれる仕掛けに溢れた作品なので、できればスクリーンで鑑賞されたい*1

*1:そういえば、予告編において僕の涙腺を振るわせてくれたピアノ楽曲は、案外ひっそりとしか使われていなかったのが意外であった(予告編製作者の塩梅のよさに脱帽)。字幕が寺尾次郎氏だったので、てっきりフランス語表記かと思ったのはここだけの話