2012年鑑賞映画作品/71-80(+TVドラマ) 感想リスト

『歌う!ヒットマン』……実は随分前に観たのだけど、なにをどう抑圧したのかすっかり記憶から消えていたのを、友人とのふとした雑談の内に生じた違和感からハタと思い出したというまさにトラウマ映画(←洒落)。『0093 女王陛下の草刈正雄』の姉妹編ともいうべき、まごうことなきふざけっぷりは今でもまざまざと失笑さえ漏れてくるほどにおバカというにはあまりにシュールであり、そもそも劇場公開時には3D公開だったというこの事実は「いったいどこに3Dである必要があったのか」と一晩中考えあぐねる権利を強制的に授与され、ステイサム主演の『アドレナリン』シリーズにあるような「○○しなけりゃ死んじゃうよん☆」的設定をインド映画の型に当てはめてパロディにしたというにはあまりに少ないミュージカルシーン向けの楽曲の数に、そのメロディはまさに自身の死後「天国でも地獄にいても」忘れえぬこと間違いなしという愛すべき──しかし1度だけ愛しあってしまえば一生分の恍惚の表情を浮かべてもう腹いっぱいであろうことは想像に難くない──映画であり、ぜひともゆきずりの一期一会で終わらせたく存じ上げたい映画であり、かように一期一会の利便性というか価値を認識させられた映画もそうそうないという意味において傑作でありました! というふうに結ぶには“それでも”もったいないと感じるくらいにはほどよくオモチロ可笑しい作品であって、そのサービス精神の尊さを認めるのにさぶさかではないのでありました。

『ミッション:8ミニッツ』』……D・ジョーンズ監督2作目。ある支配的構造から終わりなき非日常を強要された主人公の主権奪取という物語は、前作と同様。相変わらず絵作りや金の掛け方がうまく、クライマックスでは──そこに生じるある1つの疑問というか突っ込みを除けば──梶尾真治「梨湖という虚像」に通ずるようなリリカルな感動も味わえるウェルメイドなSF映画

エクソシスト/ディレクターズ・カット版』……ホラーは苦手なので避けて通ってきたけれど、ようやっと重い腰をあげて鑑賞。むしろ社会派ドラマ的な重厚な演出を重ねる前半に引き込まれ、いよいよ例の“影”が眼前に現出するクライマックスにおいてはある意味感動すら覚えた。メチャクチャ面白かったっす。

砂丘』……M・アントニオーニ監督。広告に溢れたプラスチックな町並みや、それと対をなすような広大なアメリカの砂漠地帯、また超高速撮影されたラストの爆破シーンと、とにかく撮影が格好いい。学生紛争をどこか斜から眺めたような視点も面白い。あらすじを説明するには、けっこう変な映画だけど。

『回転』……Jホラーの撮影技法に決定的な影響を与えたとされる古典的作品(1961年イギリス)。向こうのほうにボンヤリと立っているだけの幽霊がとにかく恐ろしい! 一度それが画面に映りこんでしまった以上、ほかのどのショットにも何か映っているんじゃないかと思われ、恐怖と不穏な感覚に始終さいなまれた。

『生血を吸う女』……イタリア製怪奇譚。ほのかに毒々しい照明の使い方と、現実と幻覚のあいだを行き来するかのようなシークェンス、最期に燃え上がる人形たちの耽美的な美しさが凄い。

『友だちのうちはどこ』……イラン映画。間違って持って帰ってしまった友だちのノートを返すべく、主人公は隣町に出かけて友だちの家を探し回る、という至ってシンプルな映画。とはいえ、少年の小さな成長譚として非常によく出来ている。話がまったく通じない大人たちや隣町の風景といった“異界”表現や、光の演出など素晴らしい。そして、最後に少年が選んだひとつの冴えたやり方とは? ラストショットに映ったあるものを観たとき、思わず膝を打った。

七つまでは神のうち』……三宅隆太監督・脚本によるホラー。思いがけず機会をもらったので鑑賞。タマフルにて監督の名を知り、ビビリ故に監督本人による小説版を読んでからの鑑賞だったけれど、画としての演出や間の撮り方などで十二分に怖がらせてもらった。キャスティングの顔の造作の的確さ、また、低予算を補う象徴的なカメラワーク──階段の手すりを利用した境界描写やキャラクターの断ち切り方等々──が素晴らしい。ただ、小説版にあった“あのオチ”が映画版にもあれば、そこかしこにあった布石も回収されたのではないかとは思う。余談だが、オーディオ・コメンタリィはモノラルで収録してもらえたほうが聞き易かった(ヘッドフォン鑑賞なので)。

『あぜ道のダンディ』……妻に先立たれ、感情表現が苦手な中年男の宮田。彼には大学入学を控えたふたりの子どもと、中学以来の親友・真田がいた。映画は宮田が最終的に「父」となるまでを叙情豊かに描く。しかし、そこかしこに散りばめられたさり気ないギャグ=照れ隠しによって、適度に笑いというクッションがはさまれている点にとても好感が持てた。また、キャラクターや物語を語る細かな演出が説明過多でなく、いちいち巧い。石井裕也監督おそるべし!

『白い肌に狂う鞭』……M・バーヴァ監督。名家にて起こる殺人と、次第に屋敷内に充満してゆく怪奇現象の行方を描く。クリストファー・リーがヒロインに鞭を振るう倒錯的なシーンの妖艶さはなかなかで、こういった要素を積み重ねてゆき明かされるクライマックスはなるほど心霊映画とも呼べる出来。説明台詞がいま観ると過多な気がするけれど、製作年を考えれば仕方が無いかな(1963年作品)。

80

+TV
刑事コロンボ/構想の死角』……若き日のスピルバーグ監督作かつコロンボ第1作。随所に後のスピルバーグらしい演出が垣間見えたりなんかにして(ミクロからマクロへのカメラワークとか)、その辺を探りながら楽しく鑑賞した。