『トータルリコール』感想

レン・ワイズマン監督作品。言わずと知れたポール・バーホーベン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『トータル・リコール』(1990)のリメイク版。

科学戦争により、世界がブリテン<富裕層>とオーストラリア<コロニー/低所得層>に2分された近未来。コロニーに暮らす人々は、地軸エレベータ<フォール>によってイギリスまで向かい、労働力とされていた。ロボット警官<シンセティック>の組立工として働くダグラス・クエイドは、あるとき興味を持った記憶販売会社<リコール>の門を叩く。諜報員の記憶を選んだダグラスだったが、その記憶を注入しようとした途端、警官隊に包囲されてしまう。辛くもその包囲網を突破したダグラスだったが、家に帰り着くと最愛の妻であるはずのローリーまでもが、彼を抹殺しようと襲いかかってきた。どうやらダグラスは、レジスタンス組織に関する重大な秘密を記憶していたらしいのだが……。


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本作の見どころはなんといっても、そのアクションの舞台となる未来都市。均整で清潔なブリテン/雨の降り続く多国籍感満載なコロニー/モノトーンにくすぶった禁忌地帯など、『メトロポリス』や『ブレードランナー』、『ストーカー』、『マイノリティ・リポート』といった、SF映画の歴史に連綿と培われてきた未来都市造型の現状の総決算といった具合で、そういったわれわれのよく見知った要素が矢継ぎ早に画面に展開されるのだ*1SF映画ファンが見れば、思わずニヤリとしてしまうこと必至*2。キャメロンの『アバター』は、そこに広がる自然と、80年代風マシンの描写においてVFXの進化をわれわれに見せ付けてくれたけれど、今回ワイズマンは、未来都市描写において、見事に技術的アップデートをわれわれに見せ付けてくれている。

こういった都市描写を観ていて、僕が一番に連想したのは、士郎正宗の漫画およびそれの映画化作品(『アップル・シード』『攻殻機動隊』)。そこにおいて描写されていた都市描写の雰囲気に近いものがある、といえば、なんとなくはイメージしてもらえるだろうか(ロボット警官もいるしね)*3

都市の設定的な新しさを見出すなら、双方の都市がともに非常に入り組んだ重層構造を持っていることだろう。コロニーなどは、まるで無造作にレゴブロックを組み上げたような複雑怪奇な構造を持っていて、これが劇中に展開される上へ下へのアクションの見事な舞台装置となっているのである。今回メガホンをとったのが『アンダーワールド』シリーズや『ダイハード4.0』のレン・ワイズマンだけあって、全編を彩るアクションの数々は、じつに元気があってスリリング。ワイズマン映画の撮影/編集は、今日日のアクションのなかでもかなりきちんと整理されているのでじつに観易いのも、そのスリリングさの一助になっていて、たいへん楽しめるものになっている。


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観ていて時間がみるみる過ぎるジェット・コースター・ムービーとしてかなり出来の作品であることには違いないのだが、細かいところに少しばかり粗があるのが残念ではあった。

ひとつには、ブリテンとコロニーの対立構造──とくにブリテン側のとある陰謀があるのだが、それの因果関係がいまいち判りづらいこと。ふたつには、ふたりのヒロインを演じたケイト・ベッキンセールジェシカ・ビールの映画内での姿が非常に似通っていること(日本人の目から観ているからかもしれないけれど)。終盤にとあるトリッキーな演出があるのだが、それがどうも一瞬飲み込みづらいというかショックさに欠けるというか……。

ともあれ、上質な未来都市造型とアクションが詰まった娯楽作品であるので観て損はなし。オリジナル/シュワちゃん版を観てなくても全然楽しめるので*4、ぜひ劇場で高密度な都市描写を楽しんでいただきたい。


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余談だが、本作に登場する<リコール社>は、どうも韓国系の企業として設定されているような印象を受けた(社の内装や、劇中何度か登場する電子看板の表示に注目)。時勢の流れを感じ、『JM』でビートたけしがインテリ系やくざ演じてたのが懐かしく思えた。とはいっても、ハリウッドから見たジ・アジアなんですけどね。

*1:プロダクション・デザインはアメリカ版ゴジラの造型で有名なパトリック・タトプロス

*2:終盤<フォール>の壁に掛かっている液晶画面、これには地球のコアが赤く表示されているのだけれど、その姿かたちがどう見ても某HAL-9000にしか見えなかったのは僕だけじゃないはず。

*3:そこかしこに日本の漫画やアニメないしゲームからの影響が見え隠れするので、それを探すのも楽しいだろう。たとえば、アクションのとある1ショットが『スプリガン』(1998)にそっくりだったり、ゲーム『バイオハザード』ではお馴染みのとある仕掛けが出てきたりもする。

*4:リメイク版のくせに製作会社がORIGINAL FILMっていうんだから、冒頭なんの意味もなくクスッとしてしまった。それはともかくとしても、シュワちゃん版を観た人に向けた目配せもきちんとあるので、こちらも楽しいこと請け合い。