2012年鑑賞映画作品/131-140 感想リスト

ペントハウス』……ブレット・ラトナー監督。ベン・スティラーエディ・マーフィら主演のチーム・ケイパーもの。一見、コメディ映画のように思えるが、その実けっこうちゃんとした犯罪映画で驚いた。経済破綻以降の今日的な「敵」役を配置するなどして、うまく主人公たちが「なぜ盗みを働かなければならないのか」という部分への感情移入をスムーズに行っており、素直に楽しめる。今回のストーリーと、ベン・スティラーの醸す誠実で善意のある人なのだけど凄く不器用な雰囲気がうまくマッチしているし、出てくるキャラクターすべてのキャスティングが本当に素晴らしい。マシュー・ブロテリックのぐすんとした感じとか最高だよ。とはいえ、展開上繋がってねえじゃん!というツメの甘さが時おりあるが、まぁそれはそれでラトナー節ってことでひとつ。もとより自論として、ルパン三世をハリウッドで実写化するなら、ルパン役にはベン・スティラーだろうと思っていたので、その願いが少しばかり叶った気がして嬉しくなりましたとさ。いい映画だと思うよ。

『バンデッドQ』……テリー・ギリアム監督。『未来世紀ブラジル』を製作するための資金繰りとして撮られたのだとか。タイムホールを通って縦横無尽に様々な時代を辿る盗賊団に巻き込まれた少年の冒険(プロット自体は、ギリアムの所属していたモンティパイソンの番組みたいだ)を描くが、そのそれぞれの時代の映像ひとつひとつが凄い。セットや特撮、トリック撮影やデザインが、豊かで重厚。その力技だけでも観ていて納得、観ていて楽しくなる。とあるものをかぶった巨人のくだりなど馬鹿馬鹿しくもゴリゴリ押される説得力の勝利で、大笑いした。

トロール・ハンター』……アンドレ・ウーヴレダル監督。映画製作のために熊の密猟者を追っていた大学生たちは、その密猟者がトロール・ハンターだと知り、彼に密着取材を試みるというノルウェー産『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』型モキュメンタリー。いわゆる「手持ちカメラで実際に撮影されたビデオが発見された」という体にはなっているものの、アメリカ映画に顕著な極端なブレや揺れは少なく、その実けっこう的確な劇映画的編集が成されてもいるため、前述の『ブレア〜』や『クローバーフィールド』などと比べると、意外とストレスなく観ることができる(この2本は本当に酔った。『REC』などヨーロッパ産はその辺の抑制が効いてて良いですね)。こういったジャンル映画としても一種の怪獣映画としても十分に楽しいが、なんといってもこの映画の見どころは普段あまり見られないノルウェーの風景の数々だ。山の形や地表、空に澱む雲、その光の加減など、その画それ自体が新鮮で、ひとつの観光映画としても機能してくれる。一石二鳥の楽しさがあるこの映画、けっこうおススメです。

ダーク・フェアリー』……トロイ・ニクシー監督。ギレルモ・デル・トロ製作・脚本。イギリスのTVM『地下室の魔物』をリメイクした洋館ホラー。地下室に巣食うノームの封印を解いてしまった少女に降りかかる恐怖を描くという、児童文学タッチな物語ながら、ずっしりと暗く沈んだ闇を利用した恐怖演出が素晴らしい(まさに原題の"Dont't be Afraid of the Dark〈闇を怖れてはならない〉"を映す画面色彩だ)。また、ノームたちが繰り出す暴力描写も──いわゆるゴア描写ではないが──実に重たく痛みを伴うもので、さすがデル・トロ印といったところ。秋の夜長にはぴったりの映画だった。

ヒューゴの不思議な発明』……マーティン・スコセッシ監督。父を亡くした孤児のヒューゴと半ば引退状態にあったメリエスとの出会いを描く。主人公ヒューゴを巡る顛末こそフィクションだが、そのほか歴史的な側面はほぼ史実に即して作られているという、スコセッシ流映画史啓蒙映画。ある意味、若い世代に向けた教育映画的側面が強いため、確かに語り口それ自体はそれほどスマートではない──単にエンターテインメントとしては、少しバランスが悪かったりテンポが悪かったりする──だろう。しかし、画面に登場するレイアウトや展開がサイレント時代を彩った名作映画と重ねあわされる演出や、メリエス作品をはじめとした実際の映画の場面が上映される展開は、過去から現在までの映画──動く画を見せるための黎明期の技術から今日の最新の技術まで──の連綿とした繋がりを思い起こさせるもので、ここには不思議で力強い感動を覚えざるをえまい。序盤、ヒューゴが在りし日の父に思いをはせるシーンを思い出そう──ここで、ヒューゴの後ろで光がカタカタと明滅しているのは故なきことではないのだから。

フレンチ・コネクション2』……ジョン・フランケンハイマー監督。前作で取り逃がした麻薬王を追ってマルセイユに降り立った刑事ポパイの活躍を描く。前作のドキュメンタリー嗜好の演出を継いでおり、アクション・シーンも多少トーンダウンしているため、いま見ると画それ自体は地味に映るかもしれない。しかし今作は、展開がなかなか凄くて、ポパイは麻薬組織の手に落ち薬漬けされてしまうのである。その後に描かれる荒療治の荒療治たるや! この象徴的な死から復活を遂げるポパイはもはや不死身なのだった(今回はとくに、イエスを念頭に置いた脚本)。

『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』……ブラザーズ・クエイ監督。いやあ、むつかしかった。『モレルの発明』と『ロクス・ソルス』の2つの小説を題材にとった作品。後者のほうは未読だが、たしかにお話の根底となるアイディアや語り手の不確かさといった要素はなるほど確かにといったところ(かなり複雑な入れ子構造になってるんじゃないかしら、という印象をもった)。シュバンクマイエルに影響を受けたという監督兄弟だけあって、ストップモーション・アニメも登場し、映画全体を包む陰鬱で不可思議な雰囲気が良い。

『ディーバ』……ジャン=ジャック・ベネックス監督。歌姫シンシア・ホーキンスに心酔する青年ジュールは、知らぬうちに様々な思惑が交錯する事件に巻き込まれることになる。独特なテンポ感に多少戸惑ったけれど、とにかく画作りが、パリの町並みや裏通り、廃工場、灯台……と、光と影とが絶妙に入り混じったロケーションと撮影が、1ショットそれぞれに美しく、カッコいい。中盤にあるチェイス・シーンもスピード感があった。後にジャン=ピエール・ジュネ映画の常連となるドミニク・ピノンが演じた暗殺者のキャラクターも面白い。

『皆殺しの天使』……ルイス・ブニュエル監督。どういうわけだか広間から出られなくなった高貴な人々──彼らが次第に隠された下種な人間性をあらわにしてゆく様を描き出すブラック・コメディないしシチュエーション・ホラー。DVD解説によると、ヨハネの黙示録がひとつのイメージ・ソースだそうだが、なるほど彼らが広間から出られなくなる理由の不明確さや物語は、たしかにキリスト教的な罪をどんどん犯してゆく感じ(観ていて『ミスト』や『CUBE』などを思い出したのも無理からぬことじゃないかしらん)。ラスト、いっけん決着をみたかに思えた恐怖が、さらに拡大感染してゆくという悪意あるエンディング含めて非常に面白い作品だった。

『戦火の馬』……スティーヴン・スピルバーグ監督。第1次世界大戦に徴用されながらも生き残った駿馬“ジョーイ”の数奇な運命を描く、一大叙事詩スピルバーグにしては抑え目な演出で、少しばかり単調に見えるけれど、画面と場面の構築のうまさはやはり凄い。光の演出なんか傑出しているし、ロングショットで一連の状況をバシッと捉えるところなどさすが熟練工といった感じ。馬たちの名演も涙を誘う。今回、舞台が第1次世界大戦ということで、中盤に描かれる塹壕からの突撃シーンなどは、キューブリックをかなり意識して撮ったように見受けられる。ラストシーンでの夕焼けとそこに佇む影の演出は、『風と共に去りぬ』オマージュかな(ホームとなる土地に舞い戻ってくるという点でも)。

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