2012年鑑賞映画作品/141-150 感想リスト

『ことの終わり』……ニール・ジョーダン監督。小説家がかつて不倫関係にあった友人の妻──自分を捨てた彼女がいま愛している第3の「オトコ」とはいったい誰ぞや、というのが物語のひとつの重要なキィであり(その解答もまた驚いたけれど)、それを探る過程で何度も繰り返し映される思い出の意味合いが、どんどん転じてゆく構成がすごい。嫉妬に狂う小説家が映画のラストで搾り出すひと言も、沁みるものがあった。原作はグレアム・グリーン私小説で、それが実際というのにも驚き(映画化にあたってだいぶソフトにされたらしいが)。

『牝犬』……ジャン・ルノワール監督。主人公のおとっつぁんが不憫でならない。ラストシーンに描かれる、あり得たかもしれない自分の明るい未来に、ついぞ気付くことすらできないあの姿がとくにね。大なり小なり一線を越してしまうことで生ずる悲劇を描いているだけに、画面上に現れる境い目の配置による演出が面白い。

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20121130

巨神兵 東京に現る 劇場版』……記事参照>>同上

『人生の特等席』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20121204/1354621729

ジョン・カーター』……アンドリュー・スタントン監督。エドガー・ライス・バローズによるSF小説火星のプリンセス』を実写映画化。この映画を観て、遡ってこれまでの様々なSF映画のイメージ・ソースになっていたのかなぁ、と思うほど、既視感の強い映画だった(今作に特に近いのは『スター・ウォーズ エピソード2』だろう)。それはよいのだけど、ちょっと脚本の整理不足が目立っていて、特に前半1時間が少し鈍重に思われた。序盤から3つ巴の視点が代わる代わる描かれるのだが、それをジョン・カーターひとつに集中しておけば、もっとスッキリしたのではないだろうか(尺も含めて)。クライマックスもちょっと画面が暗過ぎて何がなんだかちょっと判りづらかったのも難点か。惜しい1作。

薔薇の葬列』……松本俊夫監督。ゲイ・ボーイの主人公が巻き込まれる倒錯したエディプス神話を、フィクションとドキュメンタリーを入り交えた独特の筆致で描く。キューブリックが『時計仕掛けのオレンジ』撮影前に鑑賞して影響を受けた作品としても知られる。不穏なオルガンのスコアや、多視点ゆえに生じる時系列シャッフルと同じシーンの繰り返しは、どこかアラン・レネ去年マリエンバートで』や、未見だが聞き及ぶところの『二十四時間の情事』を思い起こさせる(今度観てみることとしよう)*1。鑑賞者の立ち位置をグラつかせるような演出や構成がスリリングで素晴らしい。

ブラック・レイン』……リドリー・スコット監督。大阪を舞台に、アメリカ人刑事とヤクザとの抗争を描く。リドリー・スコットの描く異世界は、確固とした実在感/生活感があって良い。バブル時代の日本は、いま見るとまさにSFだが、そこにさらにフィルム・ノワール的な誇張の施された独特の空気感やシャープさが加わり、絶妙な格好良さを伴っている。高倉健松田優作らの演技も見所。

『夜の大走査線』……ノーマン・ジェイソン監督、シドニーポワチエ主演。公民権運動の最中、まだまだ人種摩擦の激しい南部を舞台に、黒人刑事が巻き込まれた殺人事件に挑む。劇中、これでもかと描かれる大小さまざまな人種的軋轢描写は、それでもソフトに抑えられているとはいえ、なかなか見ていて胸に迫るものがある。その独特の緊張感が画面から滲み出るようだ。

『拝啓天皇陛下様』……野村芳太郎監督、渥美清主演。戦時下の日本陸軍で、出会っては別れを繰り返した男ふたりの友情の悲喜こもごもを人情味溢れるタッチで描く。上映時間は90分程度だが、観終わった後の充実度はそれをはるかに凌ぐものだった。それぞれのシークェンスにある演出やカメラワークがとにかく手際良く巧みなので、ちょっとしたギャグでも素晴らしく映え、その時代ゆえのペーソスもしっかり描きこまれている。芥川也寸志芥川龍之介の3男)による楽曲も見事な1作。タイトルは、渥美清演じる“山ショウ”が、天皇へ手紙をしたためようとする展開から。

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*1:実際、松本俊夫は自著の中でアラン・レネらヌーベルバーグの作品を高く評価している。