2013年鑑賞映画作品/1-10 感想リスト

『貞子3D〈2Dヴァージョン〉』……英勉監督。『リング』シリーズ最新作、とはいったものの、映画の物語やルック等これほどまで“シリーズ感”が感じられない作品も珍しい(むしろ新しい!?)。もっとも違うところは、恐怖演出の方法。いわゆるJホラー(心霊ホラー)としての表現手法が用いられてきた前作までとは異なり、本作では人間と幽霊(貞子)が同じフレームに映ったり、貞子の主観ショットがあったりと、完全にモンスター映画としての手法に完全に振り切っているのである(それ自体も、非常に単調なのだけどね)。『リング』ってそういう映画だったかしらん、と思わなくもないが、100歩譲ってモンスター映画だったとしても、いくらなんでも脚本がずさん過ぎる。「貞子復活の謎」という本作のマクガフィンの処理は、なんとなく『セブン』っぽいっしょ、みたいなので終わってしまって何も解決してないし、アクションも嘘が多く*1、いわゆる「イヤボーンの法則」を多用し過ぎ(『サルまん』読みましょう)。そんなこんなでスカスカな脚本を尺で埋めようとするものだから、全体的に会話シーンがくどくって観ていて大変くたびれました。今回の白眉は、貞子を演じた橋本愛──とくにその眼力を利用した、もっとも単純な恐怖演出が一番恐ろしかった。とはいえ、スタッフ陣は本当に『リング』を観たことがあるのかと疑いたくなる今作──キャラクターとしての貞子を含めて──のルックは、『リング』というよりも『エクステ』(園子温、2007年)に近かったので、『エクステ2.5』とかいう企画すればよかったんじゃないかな、と思った次第であります。

『ビフォア・ザ・レイン』……ミルチョ・マンチェフスキ監督。3パートからなる連続したオムニバスで映画の物語は語られるのだが、このパートごとのつながりが非常に不思議な作品だった。時系列に沿って進んでいるのかと思いきや、過去と未来が交錯したり、矛盾しながらもそのまま進行したりと、いうなれば時空の歪んだ円環構造を持っているのだ(こればかりは観てもらうほかない)。このメビウスの輪的小宇宙で展開されるのは、暴力の連鎖だ。いくら流転しても留まるところを知らない暴力の連鎖──その不条理性をこれ以上ないほど無常で残酷なかたちで描き切った凄まじい1本だった。

『捜査官X[エックス]』……ピーター・チャン監督、ドニー・イェン主演。のどかな田園の日常から始まり、急にドニー主体のアクション映画となり、はたまた金城武演じる捜査官のミステリ映画となり、中二病が再発しそうな武侠映画へとなだれ込むという実に不思議なテイスト──いってしまえば、けっこう無茶なバランス──の作品で、これがなかなか面白い。ここのところドニーがやろうとしている香港アクション映画の総括的な、あるいはドニーへの継承的な物語が大きな核となっていて(物語は完全にフィクションだが)、ドニーの主人公がクライマックスに辿る顛末と、対峙する敵を演じるのが“あの”御大で……と、これ以上はいえないや。カンフー映画ファンはニヤリとするに違いないこの仕掛けを、とくとご覧あれ。

ナバロンの要塞』……侵入できるかできないか、バレるかバレないか、裏切り者は誰か、といった具合に戦争アクションというよりもサスペンスフルな部分が非常にスリリングで楽しかった。全体をとおしてカメラワークがとくに素晴らしく、とくに裏切り者のくだりでは見事なカメラワークによって物語を台詞以前に見事に語りきっている。また、前半の見せ場であるクレタ島の断崖絶壁を登って侵入するという高所サスペンスも、単に画だけでなく、キャラクターの性格付けを利用した緊張感の演出が一味加味されており非常に見応えがあった。

『ロボット(日本公開版)』……シャンカール監督。インドの大スター/ラジニカーント主演。とにかく破天荒な映画で、アクションの荒唐無稽さも去ることながら、いきなり蚊と会話したり、失恋の嫉妬にロボットが狂うだとか、観ているあいだ中「この映画はおれをどこへ連れていくんだーッ!?」と思いながらも、それすらも不問にしてしまう圧倒的な力技と魅力に有無も言えずに圧倒された。とはいえ、案外ロボットSFとしてきちんとしてあるので、最後などホロリとさせられる一面も。ところで映画後半、物語のある展開から、普通の映画では単なるメイキング映像になる部分を見事に本編映像として使用していて、なるほど面白いことをするな、と印象に残った。とはいえ、日本公開版はミュージカル部分など、かなりザックリいろんなものを切れられたのが眼に見えるのが残念(50分くらい切ってある)。これは完全版も観たい。

アタック・ザ・ブロック』……ジョー・コーニッシュ監督。ロンドンのマンションを舞台に、異星人と不良少年たちの闘いを描く。エイリアンの「黒より黒い」シルエットに、ゲーム『ICO』に登場した影のように、ある一点だけを青白く光らせたデザインが秀逸。ちょくちょく登場するゴア・シーンもよい出来。本作はとくに、イギリスにおける移民問題をテーマに据え、不良少年モーゼスが異星人侵略をきっかけに、彼自身が溺れていた暴力と対峙・克服し、リーダーとして成長してゆく様子を描く脚本はとても感動的だ。

太陽の王子 ホルスの大冒険』……高畑勲演出。いまでいうレイアウトと思しき役職として宮崎駿も名を連ねる長編アニメーション。スタッフ自身も身を投じていたという、労働運動はなやかなりし時代に製作された作品とだけあって、労働とコミニュティという主題が、ホルスの貴種流離譚的成長物語に見事に組み合わされている。また、中盤にはヴェルトフやエイゼンシュテインといった監督のロシア・アヴァンギャルド映画を思い起こさせる演出が使用されているが、これも労働とコミニュティという主題から出てきた演出だったのだろうか、と予想される。本作を観て、ゲーム『バイオハザード4』のスタッフは、本当に宮崎/高畑映画から多くのインスパイアされたのだなぁ、とふと思った。

『フランケンウィニー』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20130105/1357396881

『ドライヴ』……ニコラス・ウィンニング・レフン監督。『ザ・ドライバー』(ウォルター・ヒル監督)を髣髴とさせる作品だが、想像していたよりも静かな映画で驚いた。タイトルを見る限り、ひとつの売りとしてカー・チェイスが予想されるものの、とにかくアクション映画的カー・チェイスになることを拒絶するかのように展開されるアバンの見せ場は、この映画が「静」の特性を持つことの宣言にほかならない。チェイスよりもむしろ、刃物や殴打といった肉感的なアクションがとても印象的な映画だが、ここでもやはり、その動性はグッと堪えて溜めて溜めて、ある一瞬の臨界点を突破したときにこそ巻き起こってしまう、といった感じ。そしてその暴力は、リアルでありながら、ある種の幻想世界に迷い込んだかのような不思議なリズムで刻まれる。現代劇ではあるが、どちらかというと、名無しの主人公(劇中では「キッド」と呼ばれる)が、すべてを調停し、やがて去ってゆく西部劇を思わせる。たいへん面白かった。

『ももへの手紙』……沖浦啓之監督。瀬戸内の島を舞台に、父を亡くした少女ももの、妖怪3匹をとおした成長を描くファンタジー・アニメ。題材としては、宮崎駿細田守が監督してきた映画と重なる部分がかなりあるが、本作では、ももと母、ももと妖怪たち、島民らの相関の距離感の按配や、いわゆる泣かせの部分の演出、クライマックスにおいてすら、きちんと抑制が効いており、この手の映画にはときに感じることのある息苦しさや押し付けがましさがないところがとても好印象。ひとりになると途端に多弁になるもものキャラクター造型もリアルで、物語を小気味よく転がしていってくれる。画面も、スタッフをみれば一目瞭然ではあるが、見事のひと言(とくに、沖浦監督の前作『人狼 JIN-ROH』を観たときも感じたことだが、“脚”演出が本当に素晴らしい)。エンディング近辺にてやや息切れ感があるものの、この種のアニメ映画の新たな傑作であり、必見の1作だ。

10

*1:たとえば、クライマックスにある吹き抜けのロビーでの貞子とヒロインの格闘シーンを思い出そう。そのなかで、上階にいたヒロインが1階にいた貞子の髪に足を捉えられ、中央にある階段をもの凄い勢いで引きずり降ろされる。あと少しで貞子に捕まるという瞬間、ヒロインはとっさに鉄の棒を拾って貞子に突き刺すが、この鉄の棒、それ以前のショットには一切映っていない──あるはずのところにない──のだ。これより前のシーンで、ヒロインがその階段を上って建物の奥へ行くシーンがあるが、たとえばそのときにその棒を映り込ませておけば──実際には、映り込んでしかるべき位置に転がってすらいないのだが──より緊迫したものになったはずであろう。