『ラストスタンド』感想

キム・ジウン監督。アーノルド・シュワルツェネッガーが『ターミネーター3』以来10年ぶりに映画主演をつとめたアクション映画。年を重ねて第一線を退き、アメリカ合衆国とメキシコの国境付近の町・ソマートンで保安官として静かな生活を送っていたレイ。ある日彼の元にFBIから緊急の電話が入る。移送中の麻薬王が仲間の助けを得て脱走し、時速400キロを出せる最新鋭の車シボレー・コルベットZR1と、同じく最新鋭の兵器を駆使してFBIを振り切り、メキシコへの国境越えの途中に位置するこの町へ向かっているという。警察の応援も間に合わないという状況下で、レイは敵を迎え撃つ決意を固めるが……。


     ○


ようやっと鑑賞した。結論から言えば、重過ぎず軽過ぎずいい具合にエキサイティングで面白かった──つまり、おかえりシュワちゃん

というわけで、今回シュワルツェネッガーが演じたのは、かつてロサンゼルスで名うての刑事だったにもかかわらず、メキシコ国境に程近い田舎町に引っ込んだ初老の保安官レイ。このキャラクター造型がまず素晴らしい。皺が幾重にも刻まれた顔にいつもの無表情を浮かべてノソーっと登場し「田舎はいいぞ。ドンパチなんぞ下らん」と笑う感じは、10年近くもアクション映画界から遠のいていたシュワルツェネッガー自身と重なる見事な演出だ。

ほかにも、彼が隠居──もとい政界にいた頃に世界を沸かせた(?)報道(パパラッチ)のいくつか*1を暗に匂わせるような台詞を自虐的に吐かせてみたりと、随所に今日のシュワちゃんを思わせるネタも満載だ。そんな彼が夕暮れ時にポーチに腰掛けビールをゆっくりと呑む画には、ジョン・ウェインもかくやの風格さえ垣間見える。



ポーチでビールを一杯の画に留まらず、ライムスター宇多丸氏の指摘のとおり、田舎町を守る無骨だが気のいい保安官が、馬にまたがり束になって襲ってくる族を町の目抜き通りで迎え撃つ……という本作の全体的な構成は古きよき西部劇そのものである。思えば、本作がハリウッド・デビュー作であるキム監督が韓国映画界で活躍していた頃、マカロニ・ウエスタンの傑作『続・夕陽のガンマン』(セルジオ・レオーネ監督、1966)を元ネタに『グッド・バッド・ウィアード』(2008)*2という作品を撮っている。マカロニ・ウエスタンがイタリア製西部劇故という、純正のウエスタンでないが故に韓国映画という枠のなかでウエスタンを撮る際の元ネタにしたのだと考えるならば、ハリウッド映画である本作『ラストスタンド』を純正の西部劇を基礎において構築したことになんら不思議はないだろう*3



そんな現代の西部劇としての本作では、むろん悪役は馬なんかにはではなく、シボレー・コルベットZR1限定1000馬力モデルというモンスター・カーに乗って町に迫る。このZR1の爆走ぶりを描くチェイス・シーンにおけるエクストリームな表現が面白い。一気にグンと加速するGを感じさせるような見せ方で盛り上げくれる。また、クライマックスでのシュワルツェネッガーとのカー・チェイス場面もまた面白い。2台の車が広大なトウモロコシ畑に雪崩れ込みながら、生い茂るトウモロコシによって互いに姿が見えなくなった相手との駆け引きを演じるシーン(そしてそれを映す引きの1ショット)など新鮮だ*4

このようなカー・チェイスでのアイディアはもちろん、後半部のもうひとつの見せ場となる町の目抜き通りでの銃撃戦シーンのアクションもまた、いろいろと趣向が凝らされていて手に汗握らされた。時おり挟み込まれる笑いのクッションも的確で、テンポよくシーンを転がしていていて小気味いい(保安官と共闘する仲間たちや町の住人のキャラクター付けがまた巧い)。そして、ついに訪れる最終決戦において、ボロボロになりながらも最終防衛線(ラストスタンド)として確固として譲らないシュワルツェネッガーの姿に、胸がアツくなること請け合いだ。



シュワルツェネッガーが一時引退間際に出演した映画は、どこか尻すぼみ感が残るものが多かっただけに、今回の主演復帰作は期待以上の出来栄えだったのが、ただただ嬉しい。面白いから、ぜひ観てみて。


※ただし、暴力描写が若干残虐なので、苦手な方はご注意を。

*1:たるんだ腹回りを撮られたこととか、例の家政婦とネタ事件とかね。

*2:「イイ奴、ワルい奴、ヘンな奴」という意のタイトルはもちろん、『続・夕陽のガンマン』の原題“The Good, The Bad and The Ugly(イイ奴、ワルい奴、ズルい奴)”からの引用。余談だが日本でも『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(三池崇史監督、2007)という同様の企画の快作/怪作もあった。

*3:本作において、映画のオープニングが保安官の慰霊碑から始まること、大口径の拳銃がフィーチャーされること、また黄色いスクール・バスが重要な役回りを演じることから、こちらも現代版西部劇としての側面もある『ダーティハリー』(ドン・シーゲル監督、1971)も念頭にあったのではないかと推測する。

*4:ここで『馬と呼ばれた男』(エリオット・シルヴァースタイン監督、1969)を思い出した。