『宮本武蔵─双剣に馳せる夢─』……西久保瑞穂監督。押井守原案・脚本。もともとヒストリーチャンネル向けの企画だった作品だけに、映画というよりもそういった番組としての風合が強い。とはいえ、いわゆる再現映像/再現ドラマにあたる部分をアニメーションで描き、なおかつ台詞等々はすべて弁士風のナレーションで処理するという一風変わったバランスで面白い。宮本武蔵は何故二刀流だったのかの考察を巡るワールドワイドな規模で展開される押井の歴史雑学もまた、歴史に弱い僕にとっては目新しい知識が多く、非常に楽しめた。
『鬼神伝(おにがみでん)』……川崎博嗣監督。平安時代に時間移動した中学生・純が、平安貴族および僧侶たちと“鬼”と呼ばれる山岳民族との闘いに巻き込まれ、やがて本当の正義とは何かに気付く様子を描く。原作は高田崇史による同盟ジュヴナイル小説。アクション・シーンを彩る数々の剣戟や爆発・瓦礫といったエフェクト・アニメーションをはじめ、作画は大健闘。映画が描こうとしたテーマ自体も悪くない。ただ、脚本の詰めがあまりにも甘過ぎる。善とは何かというテーマの根幹やあまり意味を成さない設定を台詞で全部説明したと思ったら、物語を転がす上で必要不可欠なシーンや設定説明がないし、何より肝であるはずの「少年の成長」がきちんと描かれていないのが難点だ。あと、タイムスリップした感じ──カルチャーギャップ的側面──が希薄過ぎるのも問題だろう。いくらなんでも、想定される年齢層の観客をバカにし過ぎではなかろうか。宇崎竜童による音楽も劇判としての出来はお世辞にも良くない。映像面でも、異様なほどフィックス(固定)のカメラワークがなく──8割以上カメラがパンしたり手持ち風だったりと動いており、無論それを成立させた作画技術の水準は高いのだが──画面がフラフラとおぼつかない。やりようによってはもっと面白いジュヴナイル映画足りえた題材と作画クオリティだっただけにもったいない1本だった。
『冬の嵐』……アーサー・ペン監督。代役としてカメラテストに呼ばれた女優が巻き込まれる事件を描くサスペンス。「代役」をキィに展開されるストーリーとクライマックスの落とし方が見事で、ヒロインに降りかかる出来事も舞台が雪に閉ざされた洋館だけあって、ホラー映画もかくやの恐ろしさで背筋も凍りつく(執事役のロディ・マクドウォールの怪演!)。派手な作品ではないが、演出の底力が存分に発揮された見応えのある1本だ。
『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』……ポール・W・S・アンダーソン監督。映画自体は、ご存知“あの”三銃士の物語に飛行船(と一応の空中戦)を取って付けた退屈極まりないものだったが、出来る限り実写で撮ろうという意気込みとミラ・ジョヴォヴィッチをかくも美しくフィルムに定着させる天才的手腕は、ポール=ダメなほう=アンダーソン監督の右に出るものは恐らくはいまい。
『クヒオ大佐』……吉田大八監督。幾人もの女性を騙した実在の結婚詐欺師“クヒオ大佐”を題材にし、偽アメリカ軍人クヒオ大佐という男と、彼にどうしようもなく惚れてしまう女たちの姿を描く。本作は結婚詐欺の話だが、しかし単に結婚詐欺を描いた映画ではない。本作は、我々と虚構との切っても切れない関係への真摯な問いかけだ。つまり、なぜ我々は映画にせよ小説にせよ漫画にせよ、はたまた結婚詐欺にせよフィクションを、物語を欲してしまうのかという問いかけだ。だからこそ、本作がクライマックスにおいてクヒオ大佐の虚構が一瞬の実在性の獲得という勝利を得る様を描き、そしてそのシーンを“わざわざ”遠いロサンゼルスを舞台に海外ロケを敢行してまで撮影したに違いない。クヒオにとって、彼を愛した女性たちにとって、そして我々にとってフィクションとは何なのか? 映画は解答を示さない。しかし、その不在性こそがまさしくフィクションではないか──そのようなことを考えさせられる、胸に迫る1本だった。必見。
『ファンタスティック Mr.FOX』……ウェス・アンダーソン監督。ロアルド・アールによる児童文学『父さんギツネバンザイ』を原作としたクレイ・アニメーション。結婚・出産を機に泥棒家業から足を洗った父ギツネが迎える“中年の危機”とそこからの脱却を描く。ときに立体的に、ときに平面的にちょこまかと動き回るキャラクターたちのアニメーションが楽しい。また、キツネたちの毛並みの質感にクレイ・アニメ独特の面白みがあって味わい深かった。ひょんなときにディズニー版『ロビン・フッド』や『アメリカの夜』の楽曲が使用されており、耳をもくすぐられた。
『タイム・アフター・タイム』……ニコラス・メイヤー監督。自らの発明したタイムマシンを奪った切裂きジャックを追って、H.G.ウェルズが現代('79年)のサンフランシスコを舞台に冒険を繰り広げるSF作品。ウェルズと切裂きジャックの追走劇、現代女性とのロマンスなど様々な要素がある本作だが、やはりタイムトラベルSFには必要不可欠なカルチャー・ギャップ・コメディの部分が良く出来ていて面白い。ウェルズのファンなら膝を打つであろうとある結末も面白かった。ただ、何故タイムマシンをそのタイミングでしか使わないのか、という確たるルール設定がないので、時間移動によるサスペンスという部分の強度がちょっと弱いのが残念だった。
『狼よさらば』……マイケル・ウィナー監督。チンピラに妻を殺された挙句に娘を廃人にされた設計士の男は、やがて夜な夜な街に巣食うチンピラたちにヴィジランテ型の制裁を下すようになる──というチャールズ・ブロンソン主演のアクション映画。復讐という大義名分があるとはいえ、人を殺めることで少しずつ、しかし確実にかつての温厚な人格からは変貌していってしまう男の姿を丁寧に描く様は鬼気迫るものがある。しかも本来の復讐それ自体は果たされないという不条理が、それに拍車をかける。ラストで我々に指鉄砲を向けて不敵に笑うブロンソンの表情には、狂気すら感じさせる。
『未来世界』……リチャード・T・ヘフロン監督。人間そっくりのロボットを駆使したアミューズメント施設“デロス”での悲劇を描いたマイクル・クライトン原作・監督『ウエストワールド』の続篇。テレビ映画出身の監督作だからか、若干テンポがテレビ寄りで愚鈍に思えた(90分くらいでよかった)けれど、デロス内部で進行する陰謀のアイディアがなかなか面白く、それを巡るサスペンスで観客を引き付けてくれる。劇中に登場するとあるロボット──その名をクラークという──の哀愁漂う雰囲気に、ちょっと涙させられた。
『ラストスタンド』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20130525/1369454703
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