『ワイルド・スピード EURO MISSION』感想

ジャスティン・リン監督。ヴィン・ディーゼルポール・ウォーカー主演の『ワイルド・スピード』シリーズ第6弾。

ドミニクは新たな恋人・エレナと、ブライアンは妻ミアとの間に生まれた息子・ジャックと共に、それぞれ静かな生活を送っていた。そんなある日、モスクワにて軍隊が襲撃され、機密を奪われる事件が発生。事件を追うFBI特別捜査官ホブスは、事件の黒幕に元英国特殊部隊のオーウェン・ショウ率いる組織の影を見る。彼らを撃滅するため、ホブスはドミニクに協力を要請する。協力を渋るドミニクだったが、ホブスが持ってきた資料の中には死んだはずの恋人レティの写真があった。ドミニクはレティの行方と事件の真相を追うため、再びチームに召集をかけた……。


     ○


あーッ、楽しかった!──と心底思える痛快娯楽アクションだった。ヴィン・ディーゼル扮する走り屋ドミニクが主人公に復帰した4作目以降どんどん面白くなっているシリーズだが、今回も見事に期待に応えてくれた。

チームを組んでブツを奪うという、いわゆるケイパーものにシフトした本シリーズだが、本作でもその構造を踏襲。前作『MEGA MAX』では、まだ敵か味方かわからなかったFBI特別捜査官ホブス(演じるのは“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソン)も今回は完全にドミニク側に付いて世界征服を企てる悪人を追うという、本作はもはや完全に『ルパン三世』の世界である。厳ついディーゼルとジョンソンが付かず離れずキャッキャウフフする様は、観ていてたいへん暑苦しい(笑)。

映画全体の構成も、なかなか整理がされており見易いものとなっている。とくに、けっこうな頻度で様々なアクションを入れ込みつつストーリーを捻りつつ展開させてゆきながら、ドミニク・チームやFBI、さらに悪役まで、20人近くいる主要キャラクターのそれぞれに見せ場を持たせる展開の妙には舌を巻いた。オープニング・クレジットの最中に過去作の映像をモンタージュすることで、さらりと前回までのあらすじをやってみせるところもスマートだ。4作連続登板のリン監督は、確実にその演出技術を高めてきている。コヤツやりおるわ。


     ○


さて、このシリーズの肝──カー・チェイスである。本作には計5回のカー・チェイス・シーンが登場する*1以下、若干ネタバレになりますのでご注意(こういう映画なんで、事前情報──予告編すら──を何一つ入れずに観に行かれたほうがゼッタイ楽しいはず)。



まずはアバンにあるドミニクとブライアンのカー・チェイス。こちらは短いながらも自動車どうしの基本の“キ”の字的なカー・チェイスが楽しめ、掴みとしてはバッチリだ。ただ、もう少し尺があれば、直後につくギャグのオチとしての機能がもっと出ただろう。

続いて前半の見せ場であるパリ市外でのカー・チェイス。悪役の『マッドマックス』もかくやのケレン味あふれる改造車が登場し、パリ市警のパトカーやドミニク・チームの面々を次々とひっくり返してゆく様は、なかなかに爽快。ショウらの手ごわさを見せ付けるギミックとして十二分に機能している。

その後しばらく経ってから、ドミニクと、彼の元恋人で“理由”あって悪役側に付いているレティ(ミシェル・ロドリゲスの姉御)とのストリート・レースのシーン。ここではカー・チェイスそれ自体がひとつのラブ・シーンのように綴られており、エンジンの爆音のわりにロマンチックなのが見所だ。



さて、いよいよクライマックスの見せ場のひとつである4つ目のチェイス・シーンでは、予告編にもフィーチャーされている戦車が登場し、いよいよ画面のインフレ具合に拍車がかかってきて、観客のテンションもあがるというもの。スペインの高架ハイウェイを一般車両を次々とペシャンコにしながら突っ走る戦車の姿は、まるで怪獣のよう。この非情で無差別な戦車の走行がショウの極悪非道ぶりを示すのにも抜群の効果を上げており見事だ。僕も観ながらガラにもなく「テメェこの野郎、ブッ殺してやる!」と熱くなっておりました。また、このシーンの締めくくりにはとある高所サスペンス的な見せ場が用意されており、これが笑っちゃうほど凄かったので、正直これを観るだけでも本作を観に行く価値はある*2

で、もう終わりかと思っていたらところがどっこい、まだ続く。最後はスペインNATO基地の飛行場を舞台にスポーツ・カー集団と巨大軍用輸送機が追いかけっこするという、もう何が何だかわからない怒涛のクライマックスに雪崩れ込む。自動車で軍用機を追いかけながら片やその車上で、片や軍用機の貨物室でドッコンバッコン殴り合うというもので、よくよく考えたら「この滑走路はどれだけ長いのか」と思わなくはないのだが、そこはそれ、感情の高ぶりと比例するようにシーンを繋いであるので気にならないところが不思議なものだ。ただ、アウトシーン──つまり軍用輸送機の外側でのやりとりが、夜が舞台であること、合成の比率が高いことなどの理由からか、ショットとショットの整理不足が否めず、どこで何をやっているのか判りづらかったのが難点。嘘でもいいから、もう少し明るめの画面設計にしておけば良かったんじゃないかしら。


     ○


細かいツッコミはままあれど、全体として明るくハイテンションな作品なので、スカッと楽しむことができるだろう。アクションも笑いも不足なく盛り込まれた、土曜の夜にはうってつけのポップコーン映画だ。観終わったあと無謀運転したくなること請合い! もし、シリーズ未見の方なら4作目くらいから軽くおさらいしておくと、より楽しめると思われる。

ところで、本編終了後に次回に向けたオマケ映像が付く。なんとそこには、あの“信頼できるハゲ”の姿が! 「7」が実現するのならば、これは実に楽しみなことである。

*1:ちなみに、アクションシーンそれ自体も同じくらいの回数ある。

*2:ところで細かいところだけれど、全体を通してカーチェイスシーンで犠牲になるモブの自動車には、決してドライバーの顔が直接映らないのには感心した。チェイス・シーンでのノイズを排除し、底抜けなエンタテインメントに徹しようとするリン監督の演出意図が見える。