2013年鑑賞映画作品/81-90 感想リスト + TVアニメ

『マラソンマン』……ジョン・シュレシンジャー監督。ダスティン・ホフマン演じるマラソン好きの大学生がナチの残党が絡む事件に巻き込まれてゆく様を描く。映画前半ではホフマンとロイ・シャイダーのまったく異なる視点から物語も絡むことなく描かれていて困惑するが、繋がると今度は誰を信用してよいやら判らない状態に晒され、巻き込まれたホフマン同様に不信感が画面に満ち溢れてくる。有名な前歯掘削拷問シーンは確かに凄かった。作品の構造や幕切れも含めて、非常にフィルム・ノワール的な側面が強い作品だった。

『シティヒート』……リチャード・ベンジャミン監督、クリント・イーストウッド主演。禁酒法時代を舞台にしたノワール調のアクション・コメディという少し不思議なバランスの映画で、アクションの合間合間にスラップスティックな表現を挟み込んでくる。観た感触としては、ジャッキー・チェン監督・主演の映画(特に『奇蹟/ミラクル』)に近いかな。無愛想だが気のいい正義感という十八番をイーストウッドが楽しそうに演じている。目を見張る完成度というわけではないが、ゆるやかに楽しめる作品だった。

エクスペンダブルズ2』……サイモン・ウェスト監督。シルヴェスター・スタローンほか諸々大集合の“筋肉ガチムチ男祭”系アクション映画の続篇。冒頭のアクションからメーターが振り切れるんじゃないかというアクションのインフレ具合から、まあ見せ場の連続。スタローンと信頼できるハゲ/ジェイソン・ステイサムのコンビも堂に入り、その他エクスペンダブルズの「中学生男子か!」的やりとりに終始笑わされた。暗くて何をやっているのかよく判らなかった前作のクライマックスの反省からか、今回は全編通して明るめの画面設計で、編集もそれなりに整理されていて観やすくなった。メタ的ギャグもノリノリだ。チャック・ノリス登場時にあの曲が流れるってことは、やはり彼は“いい奴(The Good)”ってことなのかしらん。

宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』……アントニオ & マルコ・マネッティ監督。若き翻訳家が政府機関からとある取調べの通訳を依頼されるが、取調べを受けていたのは“王さん”という中国語を話す宇宙人だったというイタリア製SF映画。藤子・F・不二夫の漫画にありそうな1アイディアSFだが、これがけっこうよく出来ている。ひとつずつ重ねられる展開の見せ方や取調べシーンの緊張感でグイグイ観客を引き込んでくれるし、近頃流行りのいろんな映画のテイストを80分程度の尺に納めてしまった欲張りな造りも面白い。役者の仕草ひとつで「おっ」と思わせる細やかな演出、そして鑑賞後に思い返したときには、ひとつの場面にこめられたニュアンスが反転してくるという重層性も加味されているあたり見事だ。かつて若者が毛沢東に憧れた欧州において、今日の中国に対するイメージはどういったものに変化しているのだろうか──その一端も本作は垣間見させてくれる。翻訳家のヒロインを演じたフランチェスカ・クティカのフォトジェニックな魅力も満載だ。必見。

『DR. EASY』……シャイノーラ監督。“ドクター・イージー”と呼ばれる医療ロボットは、傷を負った犯人を治療すべく彼が立て籠もるアパートの一室に赴くが──という短篇SF映画。本作のキィは“痛み”である。これを正味6分ほどのなかで、犯人とロボットとの静かなやりとりで表現しており素晴らしい。感情のともるはずのないロボットの表情に、われわれは何を読み取るだろうか。Webで鑑賞可能。

THE GREY 凍える太陽』……ジョー・カーナハン監督、リーアム・ニーソン主演。ツンドラ地帯に墜落した飛行機のオットウェイら生存者たちに迫り来る狼たちからの逃避行をスリリングに描く。過酷な撮影が想像される極寒地帯での撮影の美しさや、1ショットで危機迫る状態を一挙に見せる画作り、墜落時の衝撃やにじり寄る狼たちを示す音響設計など、主人公たちが放たれる想像を越えた絶望感を見事に表現している。しかし、単にサバイバルを描いた派手目な作品ではなく、むしろ非常に象徴的で内省的な作品だった。主人公オットウェイと行動を共にする6人の生存者と迫り来る狼(群れとそれを率いるボス)はすなわち、主人公の心のダークサイドにほかならない。途中で次々に命を落とす6人はオットウェイが持つ“弱さ”の象徴(例えば、オットウェイと同じファースト・ネームを持つキャラクターがいたことを思い出そう)、そして狼たちは彼の“死への欲動”の象徴のように思える。漠然と「死」を望む主人公がついに「生」を奪い取ることを決意した瞬間、彼はすでに勝者なのだ(だからこそ、映画はあそこで終わるのだ)。スタッフ・クレジットも飛ばしてはならない。というのも、その最後にある重要な1ショットが置かれているからだ。そこに映る、映画冒頭にあったとあるミラー・イメージを観て、あなたは何を思うだろうか。ソフト版邦題は『ザ・グレイ』。

ワイルドスピード EURO MISSION』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20130707/1373185650

『アルゴ』……ベン・アフレック監督、主演。1979年イラン革命の最中、テヘランによって占拠された在イラン米国大使館から辛くも逃げだしてカナダ大使邸に身を潜めた6人の米国大使館職員を秘密裏に米国へ脱出させようと奔走するCIA捜査官の姿を描く。実際にあった「イランアメリカ大使館人質事件」と極秘救出作戦を題材にした脱出サスペンス。70年代風映画を再現/再構築したようなルック──本作のワーナー・ブラザーズのロゴは'72年にソウル・バスがデザインしたものが使用されている──は今日日の感覚からは地味に映るかもしれないが、画面と相反するように「バレるのか/バレないのか」「間に合うのか/間に合わないのか」という王道かつ古典的なサスペンスをそれこそわんこ蕎麦のごとく次々に、しかも巧みにまくし立ててくるアフレックの演出力が見事だ。普段は忘れがちだが、フィクションという虚実なものが人間を、世界をも動かし大事を成すことすらあるのだ、ということを思い出させもしてくれる素晴らしい作品だった。

アイアン・スカイ』……ティモ・ヴオレンソラ監督。「月の裏側にはナチスの秘密基地があった」というyoutube上にアップした映像を元に、制作費のうちおよそ1億円のカンパを世界中から集めて製作されたSFコメディ映画。ナチスの技術力のまま100年たったようなスチーム・パンクなデザインが秀逸で、マメ球と歯車、ケーブル好きにはたまらない画面が満載。スチーム・パンクということで、和製スチーム・パンク映画だった『スチーム・ボーイ』や、行き着く所まで行った挙句ある種のスチーム・パンクっぽさがあった『マトリックス レボリューションズ』などのパロディも登場し、シネフィルを楽しませる。とはいえ、この映画がえらいのは単にオタクの祭典になっていないところだろう。ほとほと下らないギャグの連発のなかには、ナチスだけでなく、アメリカを、日本を、北朝鮮を、全世界を皮肉る露悪的だが批評的な視線に満ちている(9.11だって例外ではない。ナチのニューヨーク急襲を伝えるニュースの「時間」に注目だ)。そして最後には、かつてクラークとキューブリックが思い描いた『2001年宇宙の旅』のハッピー・エンドの光景を見事にひっくり返してみせる。なんと絶望的な皮肉だろうか。見事な快作だった。ところで高橋ヨシキによる日本独自の小説版では、登場する米国大統領の名前に保守系お騒がせ議員サラ・ペイリンの名前が付けられているとか(映画では「米国ファッキン大統領」と呼ばれるだけで名前は出てこない)。そう言われれば確かにそっくりだ。

ダーケストアワー 消滅』……クリス・ゴラック監督。モスクワに降り立った若いアメリカ人企業家ふたりだったが、その夜、淡いオレンジの光を放つ目に見えない多数の物体が空から襲来、人々を襲い始めるというSF映画。日本公開当時、ニコニコ動画バナーなどで「B級だB級だ」とやたらプッシュされていたので、どんなものかなと思っていたけれども、たしかにB級感あふれるSFだった。これを1本観れば、ここ10年くらいのSF映画のトレンドがだいたい把握できるんじゃないかってくらいに類型的なキャラクター配置に展開、どこかで観たことのある画の連続だったり、物語規模の割にはクライマックスの見せ場の画面が思いのほか地味だったりと、まぁそんな感じ。しかし、裏を返せばだからこそある程度以上の水準を持った面白さの安定感があるし、その中でいかに目新しいことをやってやろうかという気概がある。謎の物体に触れた途端に身をよじりながら“灰”になってしまう描写や、無人となったモスクワの街という画は新鮮だったし、「ギャオーッと鳴くからギャオス」的な妙な納得をさせられてしまう科学設定もよかった。いやもう満足、十二分に楽しませてもらえた1本だった。

90

     ○

TVアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』……新房昭之監督。少し前にようやっと鑑賞した。魔女や裏世界のデザイン、象徴的な画面構成や微妙にズラされるアクション繋ぎ、そして最終回に描かれる大団円と、全体的に20世紀初頭から1970年代くらいまでのアヴァンギャルド的なイコンやら思想を包括している──ダダイスムに始まりニューエイジ思想に終焉する──ような印象を持った。しばしば語られるように、“魔法少女もの”における変身がすべからく少女の性的成長の暗喩とするならば、もっとも正統派なのは美樹さやかの設定や彼女が辿る運命ということになろうか。主人公である鹿目まどかと、物語の重要な位置を占める暁美ほむらの関係性は、さながらゲームにおけるプレイヤーとゲーム・キャラクターのそれのように思える。ヌーヴェルヴァーグ調の画面/編集も面白かった。あと、暁美ほむらa.k.a.ほむほむが可愛かった。


TVアニメ『Another(アナザー)』……水島努監督。綾辻行人による同名小説のTVアニメ版。もとより原作が持っていた結末のデウス・マキナ的部分は仕方ないとはいえ、原作を巧く消化しながら後半部を膨らませる形でアレンジしてみせてくれたので満足。とくに第8話「Hair stand -紺碧-」では、その後の展開に向けての伏線が画として表現されており、いわゆる“水着”回ながら見所満点だった。前半部でちらほら見える『オーメン』ネタにもクスリとさせられた。
▼ところで、TVアニメ版を観て改めて気付いたけれど、本作は精神分析的寓話として捉えることも可能ではないか。本作における“現象”を無意識の領域に抑圧されたトラウマ記憶とするなら、過去の“現象”とクラスに1人だけ紛れ込んでいるとされる“死者”についての記憶/記録に様々なほころびが現れているのにも納得がいく。そして、3年3組で毎年のように“現象”が発生するのは、そもそもかつての「クラスメイトの死」というトラウマ記憶の抑圧(その死を認めたくない故のふるまい)に端を発する“現象”が、さらに新たなトラウマ記憶(現在のクラスメイトたちの死)とその抑圧を生じさせるうえに、もし解決しようとすればさらなるトラウマ記憶を発生させることでしか“現象”を止め得ないからか。それら幾層にも渡るトラウマ記憶とその抑圧が長年積み重なり、集団的無意識の怪物として少年少女たちに襲い掛かるのだろう。まさにフラッシュバック。あと、見崎鳴が可愛かった。