2013年鑑賞映画作品/90-100 感想リスト

『A Y.M.O. FILM PROPAGANDA』……佐藤信監督。YMOイエロー・マジック・オーケストラ)の散開ライヴ(1983年)を元に製作された映画作品。YMOプロパガンダしてまわる「少年」と、現れては消える謎の「女」、そしてYMOメンバーらの邂逅と彷徨を、ライヴ映像を交えた映像詩で描く。本作が冒頭にモノローグとして引用する映画『アルファヴィル』のなかで、ゴダールが現在(撮影当時)のパリの風景をSF的情景のものと定義したように、本作に登場する実景は異質なものにみえる。というのも本作に登場する風景には人気(ひとけ)あるいは生気がまるでないからだ。そのなかで少年が出会う「女」もYMOも、ライヴに熱狂する観客たちも、一世を風靡した「YMO」という時代の終わりを知らぬまま、いつまでも饗宴のさなかに居続けようとする幽霊のように見える。それは、さながら『恐怖の足跡』(ハーク・ハーヴェイ監督、1962)に登場する死者たちだ。画面には、乾いたアレンジのライヴ音源も相まって、不思議な寂寥感が溢れている。当時YMOがいかに自覚的に自らを滅しようとしたかが垣間見られるような1本だった。

『ギフト』……サム・ライミ監督。片田舎で静かに暮らす予知能力保持者アニーが巻き込まれる殺人事件の顛末を描く。不思議な映画だった。基本構造はサスペンスやミステリーのそれだが、アニーの特性ゆえに時おり心霊映画のようなテイストになったり、保守的で抑圧的な村社会をカリカチュアしてみせたり──明らかに魔女裁判を思わせる──と、スティーヴン・キングの作品群に近い印象だ。そういえば、本作でアニーを演じたケイト・ブランシェットの姿は、成長したキャリー(シシー・スペイセク)を思わせる。モダン・ホラーとして味わい深い作品だった。

『殺意の香り』……ロバート・ベントン監督。しばしば精神分析家が探偵に喩えられるように、本作ではフィルム・ノワールにおける探偵役をロイ・シャイダー演じる精神分析家が担っている。精神分析家と患者間に起こる転移や、奇妙に不穏ながらエロティックな夢描写とその分析、事件解決のきっかけとなる言葉遊びなどのイコンが散りばめられていて楽しかった。

裏切りのサーカス』……トーマス・アルフレッドソン監督。英国諜報部“サーカス”幹部会に潜む裏切り者“もぐら”の正体を暴くべく調査するベテラン・スパイのスマイリーの姿を描く。事件の内容そのものよりも、サーカス内の人間関係──その極度に強調されたホモ・ソーシャルな関係性──の相関図を、「調査する現在」と「聞き出される過去」とで時系列シャッフルしながら浮かび上がらせるという構造。アルフレッドソン監督が『ぼくのエリ/200歳の少女』でみせた暗鬱ながら計算された画面設計、そして日常のなかに突如として巻き起こる一瞬の暴力という緩急の付いた演出力は近作でも健在だ。ラスト、シャンソン「ラ・メール」の流れるなか描かれる大団円が不思議な感動を生む傑作だ。

ベルフラワー』……エヴァン・グローデル監督。世界の崩壊を夢見て定職にも付かず、日がな1日火炎放射器付きスーパー・カーを作って過ごすウッドローとエイデンにも恋人が出来るが──彼らの友情と恋、そして破局を描く青春映画。『マッドマックス2』に出てくるヒューマンガスを信奉している故に車を改造し続けるという主人公ふたりの純なボンクラっぷりに涙。痴情のもつれから5つ巴の報復合戦という、幻想的なまでに凄まじい暴力世界に映画とウッドローは突入していくが、それすらも否定される哀しみと虚無感、そしてラストでちょっとだけ描かれる微かな希望と救いに、僕はすっかり胸を射抜かれてしまった。本作は、麻薬を売ってチョッパーで走り出すことも叶わない今日日(きょうび)のオレたちの『イージー★ライダー』だ。

ヒル妖怪ハンター』……塚本晋也監督。諸星大二郎による漫画「妖怪ハンター」シリーズを題材にとった実写映画。沢田研二が演じた稗田礼二郎の“ヘタレで間抜け”という原作とはまったく異なるキャラクター設定が新鮮だった。コテコテのギャグのなかにしっかりと恐怖演出とスプラッタ描写を挟んでくるという不思議な見応えのある作品だ。ヒルコの造型もかっこいい。

『ファンタジア』……ベン・シャープスティーン監督。オーケストラの名曲に乗せて描かれるディズニーのアニメーション詩篇。1940年公開とはとても信じられない謎の技術が画面上に続出して圧倒されっぱなし。とくに素晴らしかったのは、光の表現。シャープなものからソフトなものまで、そのバリエーションや表現技法はさすが。

『エイリアン・バスターズ』……アキヴァ・シェイファー監督、ベン・スティラー主演。ご近所にどうやら殺人鬼が潜んでいるらしいということで“ご近所ウォッチャー”を組織したエヴァンだったが、集まったのはたったの3人で一筋縄ではいかないダメな連中、しかも殺人鬼はエイリアンだった──というSFコメディ。ちょっとばかり行き過ぎた善意の人を演らせてら、やはりスティラーは巧い。だめんず4人が事件を通してそれぞれ葛藤し成長するところを描ききるなど脚本もよく出来た秀作だ。ただ突然にショッキングなゴア描写やエロいギャグが挟まれるので、苦手な人はご注意あれ。

『エル・トポ』……アレハンドロ・ホドロフスキー監督。最強のガンマン“エルトポ”が辿る数奇な運命を、神秘主義的な無常観で描くカルト映画。暴力の支配する世界のなかで簒奪者として生き延びてきたエルトポの姿は、前半は拳銃を持つイエス・キリスト、後半からは映画半ばで象徴的な死と生まれ変わりを経て、僧侶を思わせる姿になる。そんな思想的転向を経てもなお収まらない暴力の応酬という無常観は、さまざまな社会的・宗教的風刺スケッチを積み重ねながら描かれるアヴァンギャルドな物語と映像と相まって強烈な味わいだった。

『アナザー Another』……古澤健監督。綾辻行人による同名小説の実写映画版。物語の大枠についての構造分析は前にちょっとばかり書いた(http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20130715/1373879531)ので割愛するとして、評判のほどは聞いていたけれど、思った以上に悪い意味でモヤモヤさせられた。端的に、まず脚本段階でのプロットが練り足りておらず煩雑で、それにつられるように編集もアベコベで違和感しか残らなかった。その上、ドヤ顔で繰り出される謎演出の連発に、観ていてたいへんくたびれた。あと、クライマックスの合宿シークェンスだが、舞台設定が8月8日だという夏真っ盛りなのに、まったく夏に見えないのはいかがなものかと。みんな長袖にパーカーなんか着ちゃってさ(しかも直前のシーンまで、みんな半袖シャツという不・思・議☆もちろん直後もな!)。また細かいことでかつ、個人的な経験値なのだけど、自然気胸になったからってあんな大袈裟な対応されたことがないので違和感が(急患だったらああなったのかしらん)。ただ、千曳司書の回想シーンで、無人の教室でひとりひとりを点呼していき、最後に紛れ込んだ死者の席にたどり着いて「お前は誰だ?」となる部分はオッと思わされる演出でよかったのと、映画のラストで明確に現象はまだまだ続いていることを打ち出したところは、アレンジとしてむしろよくなった部分といえるだろう。あと、ヒロインを演じた橋本愛は──撮り方はともかくとして──美しかった。総じて『貞子3D』と甲乙付けがたい出来だった。


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