2013年鑑賞映画作品/感想リスト 121-130

バイオハザード ダムネーション』……神谷誠監督。東ヨーロッパ某国の内戦に巻き込まれたレオン・S・ケネディの活躍を描く長編フルCGアニメーション。話があっちやこっちや行ったうえに、おそらくは観客がもっとも期待したであろうレオンとクレアの名コンビ復活を見事にうっちゃらかした前作『ディジェネレーション』(同監督、2008年)を踏まえてか──正直、最初の30分で描かれる空港内での“バイオハザード”騒動だけで作っとけば傑作だったのに──、今作では物語が整理されており見易くなった。また、レオンのほかにお馴染みエイダ・ウォンを大々的にフィーチャーするなど、ファンへの目配せもしっかりあるのが長所。しかし、やはり後半になるにつれアクションの中に半ば無理やりにドラマ的な場面──よくある“良さ気”な台詞の応酬──をねじ込んだために、なんとも曖昧模糊な印象になってしまっているのが前作同様に残念だった(ラストはいくらなんでも噴飯ものだ)。また、今回やたらとゲームっぽさを狙ったと思しき一人称視点(POV)の視点が頻出するが、しかし『バイオハザード』は一部を除いて基本的にFPSゲームではないから、むしろ『バイオハザード』っぽさを廃する結果となってしまっているし、明らかにアクション・シーンにおけるスピード感や映画的なサスペンスを薄める原因となっている。しかし、まさかリッカーに「ああん健気(嘆息)」という感慨を受けるとは夢にも思わなかった。


エリジウム』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20131013/1381666412

スター・トレック/イントゥ・ダークネス』……J・J・エイブラムス監督。リブート版シリーズ第2作。劇場で鑑賞してから余りに時間が経ったので簡単に。僕は『スター・トレック』完全初心者だが、「とにかく映画館に行きたい」と思いついた拍子に鑑賞。これまでエイブラムス監督作とは、クリフハンガーがやたらと続く作劇と揺れ続けるカメラワーク嗜好という作風から相性が悪かったので、どうなるやらとの不安もあったが「なんだ面白いじゃねえか、画面も揺れないし」と楽しい作品だった。キャラクターの相関関係をさらっと説明しつつ展開されるアバンの活劇シーンから、どんどん右肩上がりに物語や画面の規模が高まりながら迎えるクライマックスまで「ハラハラドキドキの連続」という枕詞が似合うバランスの取れた作品だ(『マン・オブ・スティール』とはココが違う)。また、思った以上に白兵戦シーンやガチンコ殴り合いのバトルが多いのは意外な点だった(『スター・トレック』に詳しい友人もそのように評していた)。“やおい”の始祖としても名高いシリーズ──カップリングを「カーク/スポック」と表記することから“スラッシュ・フィクション”と呼ばれる──らしく、ときおり挟まれる男同士の微妙なこじらせ描写にも笑わされた。未来のサンフランシスコが舞台なのだが、その際、画面の奥のほうにそれとなく金門橋が映っているというようなディテール表現も、個人的にはグッときた。『スター・ウォーズ』新シリーズの監督にエイブラムスが起用されたが、これなら任せてもいいかしらん、と思わされる1本だった。

スター・トレック』……J・J・エイブラムス監督。というわけで前後しての鑑賞となったリブート版第1作。『イントゥ〜』を観ていて、唐突に登場した老スポックに頭が「?」で満たされたが、なるほどそういう理屈だったのね、と納得。シリーズものの1作目としてレギュラー・キャラクターのキャラクター説明が多いのは仕方がないとして、それを差し引けばなるほど楽しい冒険活劇に仕上がっている。『イントゥ〜』でもそうだったが、役者の絡むシーンにおいては、背景がかなり実写の割合が高く、画面が豊かに見えて楽しい。また、エンタープライズ号の船内がかなり明るく、しかもきらびやかに照明設計されているのが、機械の新しさ表現として活きているのも面白い。

009 RE:CYBORG』……神山健治監督。世界各国で頻発する超高層ビル爆破事件を捜査すべく10数年ぶり集結した9人のサイボーグ戦士たちの活躍を描く。不勉強ながら石ノ森章太郎による原作はおろか、ほとんど『009』シリーズについてのリテラシーがない状況で鑑賞した。とはいえ、前半30分を使用してサイボーグ戦士たちが再集結する過程を丁寧に描いてくれており、すんなり映画世界へ入り込むことが出来た。まずは映像美が凄まじい。3D公開を前提として作られたからか、細部までバッキバキにピントの合った(描きこまれた)背景美術が美しい。また、009の鉄腕アトム的ヘア・スタイルをよく無理なく3Dモデルとしてリブートせしめたキャラクター・デザインもまた見事だ。物語が進むにつれて冒頭に提示されたポリティカル・クライム風味から、神学的問いに移行する展開にも意外性があって驚いた。劇中で展開される「神とはなにか」という考察、そしてそれに基づいたラスト・シーンの顛末も興味深い。ただ、出しっ放しで終わった“少女”や“天使の化石”などのアイテムをもう少し映画的もしくは物語的に消化できなかったろうか。そうすれば映画のラストがもう少し合点のいきやすいものになっただろうに。

アウトロー』……クリストファー・マッカリー監督、トム・クルーズ主演。元米軍憲兵隊捜査官でありながら現在は流れ者のジャック・リーチャーは、ピッツバーグで起きた無差別狙撃事件の捜査に乗り出すが──というサスペンス・アクション。冒頭の明らかに『ダーティ・ハリー』(ドン・シーゲル監督、1971)を思わせる狙撃銃のスコープ視点で標的をなめるように探る長いシーン──ここで画面に滲む嫌な緊張感も最高だ──からも判るように'70年代クライム・アクションを意識した作りが徹底されている。中盤にある台詞も音楽もない、なおかつじっくりとカメラが回されるカー・チェイスもその証明になるだろうが、好きな者にはたまらん1本だ。また、ジャック・リーチャーの浮世離れした感を表す独特の間──人と話すときの距離感や言葉遣い──や笑えるのだか笑えないのだか微妙なギャグのやりとりもツボをつかれた。スペイン発祥のキーシ・ファイティング・メソッドを使った格闘戦も重みと痛みがあって面白い。僕はかなり好きな作品だ。オススメ。

ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝』……ツイ・ハーク監督、ジェット・リー主演。明の時代、悪徳役人を成敗して回る流浪人ジャオの前に、空飛ぶ剣の使い手である督主ユーが立ちはだかるが──という武侠映画。武人たちが宙を舞い、刀やら手裏剣やらがすっ飛びまくるアクション・シーンは若干、CGとの合成が粗いのが気になるけれども愉快で楽しい。ジェット・リーほか群像劇的に幾人も集う武人たちもそれぞれキャラが立っていて面白い(僕の好きだったのはグイ・ルンメイ演じる韃靼人の王女チャン。めっぽうワイルドで武器も一癖変わった形状のものを用いていて素敵)。でも、びっくりするくらいストーリーが大雑把というか、それぞれに関連性のない「一方そのころ」話が多くて追いづらいし、登場人物たちが終結した後もその話自体はあまり集約しないうえ、最後に付されたどんでん返しは驚きというよりも「じゃ最初の30分は何だったの!?」ともはや歴史改変によって巻き起こるタイム・パラドクス的困惑を覚えた。まさしく邦題が示すとおり「空飛ぶ剣」と「幻の秘宝」のストーリーなのでした(間の“と”が重要)。ちなみに本作は、ハーク監督が脚本を手がけた『ドラゴン・イン/新龍門客棧』(レイモンド・リー監督、1992)の続編とのことだが、深い関連はない模様(僕も未見)。

『街の灯』……チャールズ・チャップリン監督・主演。盲目の花売りの少女に一目ぼれした放浪者が、彼女の目を治すべく孤軍奮闘する姿を描く。チャップリンの運動能力の高さをフルに生かしたコメディ・シーンも相変わらず凄いし、ヒロインを演じたヴァージニア・チェリルの“盲目”演技の自然さも見事。そして、ラストに描かれる快復した少女と放浪者との再会シーンが本当に素晴らしい。自分を助けてくれたのは富豪の紳士とばかり思っている少女が、ズタボロの姿で目の前に立つ放浪者こそが救い主であったことに気づく。驚きとも失望ともみえる表情を浮かべた彼女の「You?(貴方でしたの)」のひと言からチャップリンの悲喜入り混じった笑顔に切り返されるという数ショットは、えもいわれぬ感動をもたらしてくれる。素敵な1作だった。

96時間/リベンジ』……オリヴィエ・メガトン監督、リーアム・ニーソン主演。家族と共にイスタンブールでひと時を過ごすブライアンは、謎の集団からの襲撃を受け、今度は自身が拉致されてしまうが──というお父さん最強型映画『96時間』の続編。ブライアンの、待ち合わせにはたとえ少し早く到着しても寸分違わぬ時間にわざわざ車から降りるといった尋常じゃないキャラクター描写や、前作でもイチバンの肝だった“拉致られ”描写の面白さ──自分が拉致されると判ってからのブライアンの行動や展開の妙!──をきちんと継承しており、続編としての出来は十分。ただ、アクション・シーンがやたらカットを割ったチャカチャカ編集で、実に空間把握がしづらいのと、結局どういう仕組み/論理で敵に打ち勝てたのかが極めて判りづらくなっており残念(メガトンの悪い癖)。

エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』……マーティン・スコセッシ監督。19世紀末のニューヨーク社交界を舞台に、貞節な婚約者と自由奔放な彼女の従姉との間で揺れる青年の姿を描く。ストーリーはともかく、わざわざカットを割って映される装飾豊かな食器類や小物のアップ、衣装デザインに圧倒される。また本作はそれ以上に──登場する家々の壁に多くの絵画が飾られているように──本作は舞台となった19世紀後半に活躍したマネ、モネ、ドガ、スーラといった印象派の画家の絵画世界を画面に再現しようとしており興味深い。スコセッシが本作で見せた過去の芸術の再現は、近作『ヒューゴの不思議な発明』(2011)での黎明期の映画世界を最新3D映画のなかに再現する試みにも通じるなぁ。

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