『キャリー』(2013年版)感想

キンバリー・ピアース監督。聖書の次に多くの人に読まれた小説家*1ともいわれるスティーヴン・キングのデビュー小説を1976年のブライアン・デ・パルマ監督版に続く2度目の劇場映画化。
狂信的クリスチャンの母親(ジュリアン・ムーア)から厳しい教育を受け、学校では周囲から疎外されている女子高生キャリー(クロエ・グレース・モレッツ)。彼女は、激しい興奮状態に陥るとある能力を使うことができるテレキネシスだった。それを誰にも打ち明けることなく、キャリーはつらく寂しい日々を送っていた。そんな中、ひょんなことから彼女は女生徒たちの憧れの的であるトミーとプロムパーティーに参加することに。喜びに浸るキャリーだが、その裏では彼女への残酷ないたずらが計画されていた。


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デ・パルマ版とのもっとも大きな違いは、舞台となる時代が現代である2010年代に変更されていることだろう。これによってもっとも大きな効果をあげているのは、やはり冒頭に描かれるキャリーへのいじめシーンだろう。母親が狂信的なキリスト教徒であるために、生理について何の知識もなかったキャリーは、体育のあとのシャワー室で初潮になりパニックになってしまう。その様子を見たほかの女生徒たちが、生理用品は投げつけるは罵倒するはの大狂乱になる。デ・パルマ版でも相当だったが、本作ではさらに、イケてる女子グループのリーダーであるクリスがその様子をスマート・フォンで動画撮影してネットにアップするという残虐非道な演出がプラスされている。ここで感じる嫌なフラストレーションは、クライマックスに至る布石として絶大な効果を上げているだろう*2


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また、キャラクター造形もより整理というか、観客の1番印象に残るであろう側面をより強調したものになっている。たとえば、キャリーのいじめに加担したことを反省し、彼女をプロムに誘うよう恋人トミーに頼むスーは、本作では生理用品を投げつけたりしないなど、実はそこまでキャリーをいじめないどころか、キャリーが生理を知らないことを最初に推察するのもスーである。

いっぽう、クラスの女子のリーダーであり率先してキャリーいじめを行うクリスは、前述のような残酷ないじめを繰り広げるし、それを説教されたことに腹を立てた彼女は、名のある実業家であるらしい彼女の父親を呼びつけて校長に詰め寄るなど傍若無人の限りを尽くす。

つまり、いい奴はよりいい奴に、悪い奴はより悪い奴にというわけだ。そして、これによって、ある事件をきっかけにキャリーが自らの超能力を解き放ってプロムを破壊し尽くすクライマックスの結末──とくに犠牲者──が異なる。


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デ・パルマ版では観衆の目の前に辱めを受けて自失したキャリーが、会場にいる誰からも嘲られているかのように錯覚して──彼女の主観シーンの直前を見れば、実はそうではないことが判るはずだ──会場にいる教師や生徒を誰かれかまわず皆殺しにしていく。

しかし、本作ではそうではない。とくに、デ・パルマ版を観た観客からすれば、最も驚くのは体育のデジャルダン先生を助けること。デジャルダン先生はキャリーがはじめて見つけた自身の理解者だったからだ。唐突にも殺されてしまったデ・パルマ*3と比べると、原作どおりであるし、確かに溜飲の下がる変更(より戻し?)のようにも思える。


が……、

ということは、本作におけるキャリーは自失するどころか、実に沈着冷静にクライマックスの殺戮をおこなっていることになる。「キャリーは悪い娘じゃないんですよ」ということを判りやすく演出しようとしたために、かえってサジ加減ひとつで殺す/殺さないを決めるイヤなキャラクターに見えはしないだろうか。確かに悪い奴が次々にキャリーの手にかかって次々に凄惨な死に方をしていく様は確かに溜飲が下がって気持ちがいい*4し、あるいはキャリーを演じたクロエ・グレース・モレッツ側のキャラクター戦略の一環かもしれないが、果たして功を奏すのかどうか……。

また、関連として、ジュリアン・ムーアの怪演の割には、宗教に向けられる批評的な視線が明らかに減退している。クリスは確かにひどい娘だし、宗教に熱狂する余り歪んだ愛情を持ったキャリーの母も悪といいうるだろう。しかし、キャリーの身に降りかかった不幸の根幹にはなにが潜んでいたのか、それに対する無言の考察が本作にはない。デ・パルマ版で、すべての事件が終わったあと、キャリーもろとも崩れ落ちる家の中で、不気味にわれわれを見据えるイエス像を思い出そう。


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なんだか小言ばっかり書いてしまったかたちになったが、「オッ」と思わせる演出も少なくない*5本作は、秋の夜長にぴったりの映画体験になってくれるはず。ぜひ劇場でご覧ください。

*1:なんと皮肉なたとえだろう。

*2:また、プロムに浮かれる高校生たちの姿もより破天荒になっていて可笑しい。プロム当日、トミーがバカみたいに長いリムジンをレンタルしてキャリーを迎えに来るシーンなどは、劇場で笑い声があがった。

*3:とはいえ、「あなただって可愛い女の子よ」とキャリーを励ますシーンで、ハタと自身の老いに気づきキャリーに嫉妬するかのような演出がある。いっぽう今回のリメイク版では、その演出は完全に排除──キャリーを励ますシーン自体はあるが──され、先生も自身の年齢などいっさい気にしないハツラツな性格の人物として登場する。

*4:とはいえ、終始いけ好かない人物だったクリスについては、冗談のようだが痛ましいなかなかオツな殺されっぷりだったので、それは好きなのだけど

*5:たとえば、学校のトイレの鏡を超能力で割ったキャリーが、洗面台に落ちた欠片を浮遊させながら、その破片破片に映りこんだバラバラの自身に向かって笑いかけるシーンは、僕が本作でいちばん好きな部分だ。