『47RONIN』(日本語吹替え版2D)感想

カール・リンシュ監督。キアヌ・リーヴス真田広之柴咲コウらを主演に迎え、みんな大好き「忠臣蔵」をファンタジー要素を加えつつ大胆にアレンジしたアクション時代劇。

将軍・徳川綱吉が治める鎖国時代の日本。かつて赤穂藩藩主・浅野内匠頭に命を救われた混血の異人カイ。浅野の娘ミカと心を通わつつも、浅野への忠義を誓い、領地の片隅で一人静かに暮らしていた。そんな中、赤穂藩の追い落としを目論む隣国の藩主・吉良上野介は、謎の妖術使いミヅキと共に奸計を巡らせ、浅野に刃傷沙汰を起こさせてまんまとお家取り潰しに追い込むことに成功。さらに浅野の忠臣・大石内蔵助はじめ家臣たちは浪人となり、四散してしまう。一年後、大石は出島でオランダ人の奴隷となっていたカイを助け出すと、復讐への助太刀を要請する。こうして大石率いるわずか47人の赤穂浪士は、ついに吉良への仇討ちへと立ち上がるのだったが……。


     ○


うーむ、非常に中途半端。

序盤こそ、赤穂藩の浅野家は「赤」、吉良家は「青」、徳川家は「黄金」とパッキリと色分けされた衣装やセットのデザイン──つまりは黒澤明監督『乱』(1986)やチャン・イーモウ監督『HERO』(2003)などのみんな大好きワダ・エミ*1的世界観──に、明らかに日本には見えないが、どこかしら山水画のように後方にニョキニョキと拡がる山々、禍々しい吉良の山城、そして多くの日本人キャストに囲まれてひとり佇むキアヌ・リーヴス! ……これらの画を見せ付けられれば、その節操のなさに気分も盛り上がろうというもの。

しかし本作は、その節操のなさのわりにはある種の臨界点を突破してくれないのだ。たとえ麒麟(らしき魔物)*2が出ようが、天狗が瞬間移動で宙を舞おうが*3、山肌に巨大な仏像が埋まっていよう*4と、超巨大な人間が出てこようと、実にあっさりと流れていってしまう。本来の製作意図であろうファンタジーとしての“不思議の国じぱんぐ”的要素が、どこまでいってもささやかな味付けにしかなっていないのだ。




そう、かの『300〈スリー・ハンドレッド〉』(ザック・スナイダー監督、2007)のようにはいかなかった。僕が本作に期待していたのは、まさにフランク・ミラーによる原作漫画の完全再現を目指してケレンの彼方へすっ飛んでいった『300〈スリー・ハンドレッド〉』の“じぱんぐ版”だったのだけれど、そういう意味では肩透かしを食らった*5。変なところで行儀がいいといおうか、おとなしいといおうか……。日本人キャストやスタッフが多めだから気を遣ったのかな? でも、世界の忍者スター真田広之もといデューク真田が出てるのだから、もっとハシャいでもよかっただろうにね。

また、カメラ・ワークもなんだか下手というか間抜けで、被写体の輪郭──役者の顔や、背景の建物が──が妙なところで途切れたり、わけもなく余計なものが手前をナメたりとどうもぎこちない。俯瞰視点からのショットが多いくせ、ロングショットが少なく短いので、世界観も何だかこじんまりして見えてしまって残念だ。どうした、ジョン・マシソン!


     ○


とはいえ最大の問題は、脚本がまとまり切ってない点だ。知ってのとおり本作は「忠臣蔵」をモティーフに、キアヌ・リーヴス演じる鬼っ子*6カイや、彼と身分違いの恋を演じるミキ(柴咲コウ)や、吉良家に仕える謎の女ミズキ(菊池凛子)などオリジナル人物を組み込んだアレンジがなされているが、彼らのストーリーと元の忠臣蔵のストーリーとが巧くかみ合っていない。

たとえば、観客の心をグッと盛り上げるはずのクライマックスの討ち入りシーンも、本来の大石内蔵助吉良上野介との一騎打ちと、カイとミズキの対決と完全に物語が分断されてしまっているため、観客の感情的なつながりが保たれていない*7。また、カイが異人であるために幼いころから浅野家の家臣たちから差別されている、という設定までは良いのだが、いまいち彼の敵対者が絞りきれていないのも問題だろう。極端にいえば、それはひとりでいいわけで、その敵対者との和解を経るシーンをもっと明確に描けばこそ、カイが四十七浪士に名を連ねる一瞬が感動的になっただろうし、それまでの物語の進行も現行よりもスムーズになったはずだ。


     ○


やりようによってはもっともっと面白くなったんだろうけれど、惜しいといおうかなんといおうか。もう1歩突き抜けてほしかった1作だった。

*1:本作にはいっさい関わっていない、念のため。

*2:オープニングの魔物討伐シーンは、プロットの位置的にも『もののけ姫』(宮崎駿監督、1997)の冒頭に付されたアシタカの祟り神殺しのシーンに強い影響を受けていると思われる。

*3:天狗が顔を映像がブレるくらいの速度でカタカタと振るわせるショットがあるが、これは多分『ジェイコブズ・ラダー』(エイドリアン・ライン監督、1990)からの引用だろう。キャラクターの心を憔悴させるという、その演出意図からも明らかだ。

*4:ピーター・ジャクソンが『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)で見せたようにしっかりと見たかった。

*5:ちなみに、中盤にある長崎・出島の一連のシーンは明らかに、ただし超薄口の『300〈スリー・ハンドレッド〉』だった。それに『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(ゴア・ヴァービンスキー監督、2003)と『シャーロック・ホームズ』(ガイ・リッチー監督、2009)が足されているのは言うまでもない。

*6:イギリス人と日本人のハーフで天狗に育てられた後に赤穂家に拾われる、という設定。

*7:デューク真田とサイバー忍者“ネオ”──『マトリックス』(ウォシャウスキー兄弟監督、1999)のことですよ、念のため──のタッグを組んだ戦いをもっと観たかったなぁ。