『ホビット 竜に奪われた王国』(2D字幕版)感想

ピーター・ジャクソン監督。魔法使いのガンダルフに誘われ、邪竜スマウグに王国を奪われたトーリン・オーケンシールド率いる勇敢なドワーフ一行の旅に参加した小さくて臆病なホビット族のビルボたちの旅は続く。はなれ山に向かうために「闇の森」に分け入った一行だったが、獰猛な巨大クモに襲われる。間一髪のところをレゴラス率いるエルフたちに助けられるが、排他的な闇の森の王スランドゥイルに囚われてしまう。一方、旅の仲間を離れた魔法使いガンダルフは、世界の滅亡を呼ぶ“悪”の復活の兆しを見つけてしまう……。


     ○


面白かった。かつて『ロード・オブ・ザ・リング二つの塔』(ピーター・ジャクソン監督、2002)がそうであったように、お話の前提条件は説明し終わったからということで、前作『思いがけない冒険』以上に“一難去ってまた一難”印のアクションに次ぐアクションで息つく暇もない。


前作から引き続く本作の特徴として挙げられるのは、やはり“移動”だろう。前半で描かれる「闇の森」のスランドゥイルの館からの急流下りや、クライマックスで展開される「はなれ山」内での邪竜スマウグ*1との追走劇など、とにかく上へ下へと縦横無尽にビルボやドワーフたちが移動をし続けながら展開されるアクションは、デジタル技術によって自由自在に飛び回るカメラワークと相まって、遊園地にある体感型ライドにでも乗っているかのような臨場感を味わえる*2。それに加えて今回は、その舞台にある様々なギミックを使ったパズル要素の強いアクションが展開されるのも面白い。パズルが組み上がったときが勝利の瞬間ということで、非常にゲーム的なリアリティを組み込んでいるようにも思える*3


     ○


また、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでは旅の仲間のひとりでもあったエルフ族のレゴラスの再登場がアツい! 前作で“オモシロ殺陣役者”だったガンダルフがビルボたちから離散してしまうのをいいことにやりたい放題。人間離れした強脚にものをいわせて軽やかに画面内を駆け回り、激流を樽に入って下るドワーフたちの頭を踏み台にしながら追いすがるオークを射抜いたり、射抜いたオークの死体をスケートボードにして*4滑走しつつ次のオークを仕留めたり、わざわざ画面手前に斬ったオークの首をすっ飛ばしてきたり、梃子(テコ)の原理によって跳ね上がってきたオークの首を短刀2本でちょん切った挙句にわざわざ画面に大映しにしてみたりと、本作におけるブラックな笑いを一手に担って場内は大盛り上がりだった。ウーン、おししい役どころだなぁ*5


そういったアクションに説得力を持たせ、トールキン的世界観に実在感を持たせるのにもっとも重要なのが、背景や小物といった美術デザインだが、本作でもそれは難なくクリア。とくに背景美術は、前シリーズのような壮大さに少し欠けるぶん、とにかくディテールにディテールを重ねるような緻密な作り込みにはクラクラした。湖の町エスガロスやはなれ山の坑内など思わず観光したくなるようなシーンが目白押しだ。そのなかでもとくに白眉だと思うのが、邪竜スマウグが陣取る地下倉庫。ヤマと敷き詰められた金銀財宝のなかにドラゴンが眠っているというイコンはおなじみだが、それを実写ベースの映像で、しかも思い描いていた以上の金銀財宝の絨毯というのは、思えば新鮮な画だ(金貨の雪崩!)。


ただ、3部作の繋ぎに位置しているからか、若干キャラクターの成長葛藤の部分がおざなりになっているのではないかと思う部分もチラホラあって、そのあたりに不完全燃焼を感じたのは感じたのだけれど、それでもなお伏線を張れるだけ張り巡らして“そこ”で切るなんてなんていけずな演出だろう。来春がまたまた楽しみになった。

*1:このドラゴンの造型がほんとうに素晴らしい。

*2:IMAXシアターでの高フレーム3D上映ならば、その没入感はさぞ凄いのだろうなァ。

*3:とくにクライマックス、勝ち目など到底ありそうもない邪竜スマウグを追い詰めてゆく段取りがそうだろう。綿密に組み上げていった一世一代の仕掛けが完成し、トーリンが「どうだ参ったか!」と高らかに宣言するときのカタルシスはえもいわれない。それだけに、一瞬成功したかにみえたその攻略がスマウグ自身から「あほか!」と一笑に伏されてしまうラスト・シーンの絶望感たるや……。

*4:レゴラスといったらスケボー。わからない人は前シリーズを観てね。

*5:同じエルフでいえば、映画版オリジナルキャラクターであるタウリエルの造型もまた素晴らしい。明るいブレンドや濡れ羽色のようなブルネットにスッキリと整った目鼻立ちといったお姫様然としたものではなく、赤毛に牧歌的な美しさをもったタウリエルの姿は、ガラドリエルやアルウェンとよりも階級が低いとされる彼女の社会的立場や、負けん気が強く、主君の命令に自らの意思で逆らったり、忌避の対象であるドワーフのひとりキーリに心惹かれるといった進歩的な彼女の性格をよく現している。