2014年鑑賞映画 感想リスト/31-40

『さらば友よ』……ジャン・エルマン監督。アルジェリア戦争から帰還した軍医バランは見知らぬ女から金庫破りの仕事を持ちかけられるが、いざ実行というときに同じく戦争から帰還した傭兵プリッツが姿を現した──アラン・ドロンチャールズ・ブロンソン主演のクライム・サスペンス。ドロンとブロンソンが演じる男たちの友情が、じつに緊張感をもって描かれていて面白い。それがとくに盛り上がるのは、金庫破りを終えて事件の裏の真相が明かされる後半部分だろう。ラストに描かれる「お前たちは知り合いだろう」と刑事に詰問されても、「こんな奴は知らん」とお互い目すら合わせないふたりのやりとりは心底格好よかった。本作が興味深いのは、物語の対立項が、ホモ・ソーシャルな絆で結ばれた男たちと女たちだという点だ。両者は決して相容れない。それ故にもたらされるラストの顛末は、ある種のカタルシスに溢れていると同時になんともいえない苦々しさをもはらんでいる。このフィルム・ノワール的な余韻と、'60年代のポップなデザインが垣間見える画作りとの取り合わせが見事な作品だった。


ホビット竜に奪われた王国』(2D字幕版)……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140302/1393739339


ミッドナイトクロス』……ブライアン・デ・パルマ監督。映画の音響効果マンのジャックは、深夜の公園で音を採録中に交通事故を目撃、しかもテープを聴き直してみると銃声が録音されていた──『欲望』(ミケランジェロ・アントニオーニ監督、1967)にインスパイアされたサスペンス。『欲望』で描かれる、在ったはずのものが無くなる、という哲学的な恐怖の側面はオミットされていて少し残念だったが、ジャックが葬られそうな事件の真相を探るべく、じつは撮影されていたフィルムと彼自身が録音した音声を繋ぎ合わせて──映画を作ることによって──過去を再現する展開は、まさに映画である本作において際立っている。芥川龍之介の「地獄変」を思わせるラストは、ものづくりが持っているある種の狂気を見せ付けられるようで見事だった。


天才マックスの世界』……ウェス・アンダーソン監督。頭脳明晰だがクラブ活動に入れ込みすぎて落第を繰り返すマックスは、赴任してきたばかりの新人教師ローズマリーに一目惚れしてしまい──彼が巻き起こす騒動をユーモラスに描く青春コメディ。ジェイソン・シュワルツマンが演じるマックスの存在感が見事。彼が奇しくも演じてしまう若気の至りゆえの騒動と、その孤軍奮闘ぶりがとても愛おしい。その彼がそのまま大人になったような中年ハーマンを演じるビル・マーレイのくたびれ演技も可笑しい。ラストが少し尻すぼみな感じはするけれども、愛すべき作品だ。


アイアン・フィスト』……RZA監督。金塊輸送の噂に沸く叢林村でギャング同士の抗争が勃発し、それに巻き込まれた“鍛冶屋”は拷問の末に両腕を切り落とされるが──カンフー映画マニアとしても知られるヒップホッパーRZAが自ら監督・主演したアクション。この人は本当に“こういう”ショウブラザーズの奇怪なカンフー映画とかマカロニ・ウエスタンが好きなんだろうなァ、と観ていて思わず顔がほころんだ。ひとりひとりのキャラクターのケレンに溢れた殺陣や奇天烈な武具の設定など、いちいち面白い。エグすぎない程度のゴア描写もバッチリで、中盤まではとにかく楽しい。ただ惜しいのは、クライマックスで描かれる3人×3人の戦闘シーンの構成がやや雑で、しかもボリューム不足なのもあって盛り上がりに欠けること。しかし、その心意気や良し! 『続〜』を待ってるよ。


『クロニクル』……ジョシュ・トランク監督。暴力的な父と病に伏す母を持つ内気な高校生アンドリューは彼の生活をビデオで記録しはじめるが、あるきっかけから、ふたりの友人とともに超能力を手に入れてしまう──POV形式を利用したSF作品。監督自身がその影響を語るように大友克洋の『AKIRA』などを思わせるひとつひとつの超能力描写が面白いのはもちろんのこと、本作がとくに秀でているのはすでに多くの場所で語られているように、POV形式(いわゆる一人称=カメラ視点)であることが物語的に、そして映画的に機能している点だ。本作の主な撮影者は主人公アンドリューであるが、これは本作のカメラワークが彼の自我そのものにほかならない。アンドリューが鏡に映った自分を撮っているファースト・ショットはその宣言(映画のテーマ、そして彼がこれから辿る顛末を1ショット一発で描くファースト・ショットの見事さ!)だし、“超能力”という論理的ギミックを巧みに用いながら、彼の変化に合わせてカメラワークもまた大きく変化していることに気づくだろう。ラストに付されたちょっとしたシーンも、胸にグッとくる素敵なものだった。とてもとても素晴らしい作品だ。


『ニューローズホテル』……アベルフェラーラ監督。エックスと相棒のフォックスは、天才科学者ヒロシをヘッドハントして多国籍企業に売り込むべく、コールガールのサンディーに彼をかどわかすよう仕向けるが──近未来の東京を舞台に描く、ウィリアム・ギブスン原作のSFスリラー。 ちょっとウォン・カーウァイっぽいヴィジュアルで描かれる、まだまだフロッピーとVHSが未来だったころの東京描写に懐かしさ──1998年の作品だが、クリストファー・ウォーケン主演なのもあってびっくりするくらい'80年代映画っぽい──を覚えるくらいで、とくにSFらしいSF描写のない不思議なバランスのSF映画だった。あえて物語のディテールをぼかして描いているので判然としない部分もあるが、むしろ「世界には男と娼婦しかいない」と思っている──実際にそういったキャラクターしか出てこない──男たちが、当の女性からしっぺ返しを喰うという側面が強調されているのが興味深い。ちなみに世紀の天才学者ヒロシ役でイラストレータ天野喜孝が出演、それから、あれっ“教授”ったらなにしてんの(この辺も実に'80s)。


イノセント・ガーデン』……パク・チャヌク監督。18歳になった誕生日に父を亡くしたインディアのもとに、長らく世界中を巡っていたという伯父チャーリーが現れ「君は僕と同じく特別な存在だ」と囁いた──突然現れた謎の男の存在に翻弄される少女と母の姿を描く。じつに不思議な映画というか、ヒロインが子どもから“大人”へと姿を変える──エディプス・コンプレクスの克服──成長譚を、ヒッチコック風のサスペンスに仕立てたような作品で、たとえば近作では『ハンナ』(ジョー・ライト監督、2011)が似通った題材を扱っている。とはいえ、本作においては彼女の成長がある種の呪いとして伝染してゆくというテーマが興味深い。本作で描かれる父殺しは、彼が自身を生贄として呪詛を完成させる行為にほかならない。野原に咲く白い花びらが赤く染まるラストが印象的だ。しかめっ面の似合う女優ミア・ワシコウスカがヒロインを好演。


野獣死すべし』……須川栄三監督。真面目で優秀な大学院生・伊達は、人は強き野獣として生きるべきという自身の哲学のもと、完全犯罪を企てるが──大藪春彦の同名小説の映画化第1作。ニーチェの超人思想を素で体現したかのような伊達の強烈なキャラクターと、彼を演じた仲代達矢の存在感がすごい。ギョロっとした両目をかっと見開いたまま、はっきりとした感情を捉えられないアルカイック・スマイルを浮かべ続ける仲代の表情と単調な台詞回しは、モノクロ映像とも相まって非常に恐ろしい。ここで描かれる「政治にも社会にも期待できない」という大学生たちの会話は、巡り巡っていまの日本と大して変わらないのだから不思議なものだ。脇を固める東野英二郎や小泉博もさすがの存在感。


『真昼の決闘』……フレッド・ジンネマン監督。かつて逮捕した悪漢フランクが正午に町に帰ってくることを知った保安官ケインは住人に協力を求めるが、誰も彼に耳を貸さず、ただ着々とフランク到着の時間が迫るばかりだった──脚本を手がけたカール・フォアマンが製作当時に吹き荒れた“赤狩り”によって浮かび上がった負のアメリカの姿を描いたともいわれる異色西部劇。ゲイリー・クーパー演じる保安官が、拳銃片手に正義を執行するいわゆる「強いアメリカ/正義のアメリカ」としての保安官像ではなく、出来れば暴力を避けたいような一般市民として登場するの興味深い。彼を襲う正義とは無関係の「長いものにはまかれろ」とか「ことなかれ主義」という同調圧力は、いま観ても観に迫る。また、そういった世間の実情の如何を知り尽くしているがゆえに“逃げる”ことしか出来なかったヘレンの歯がゆさといったら……。上映時間と劇中の時間がほぼ一致しているリアルタイム劇としての完成度も高い、必見の1作。
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