『300〈スリーハンドレッド〉 〜帝国の進撃〜』(3D字幕版)感想

ノーム・ムーロ監督。フランク・ミラーのグラフィック・ノベルを映画化した『300〈スリーハンドレッド〉』(ザック・スナイダー監督・脚本*1、2007)の歴史アクション・ファンタジー映画の第2弾。ペルシア帝国はスパルタ軍殲滅のため陸路を進撃する傍ら、その美貌を凌駕する残忍さを持つ女司令官アルテミシア率いる大艦隊がアテナイに向けてエーゲ海を進軍。これを食い止めるべく、アテナイの勇者テミストクレス将軍がギリシア連合艦隊を率いるが、両者の数には圧倒的な差があった。テミストクレスに勝機はあるのか……。


     ○


面白かった。本作ももちろんパンツ一丁で闘う筋肉ムキムキマッチョマン大集合のガチムチ映画だけれども、前作の“This is SPARTA!(わしらスパルタ人じゃけんのォ!)”で突っ切る猪突猛進型陸戦ではなく、海戦をメインに据えたのがよかった。映画の大部分を彩るダークブルーに深く沈んだ画面の色彩設計からもみてとれるように、前作とはカラーリングを異にした作品となっていて、アクション映画シリーズが陥りがちなマンネリ化をひとまずは脱した形になっている。

また、劇中で描かれる海戦の画の素晴らしさ! ギリシアとペルシアの圧倒的な戦力さを示す超現実的な──画面奥からやってくる大波の水面にひしめく幾千ものペルシア艦、など──光景の面白さもさることながら、海戦それぞれに趣向(=作戦)が凝らされていて、バリエーションに富んだ戦闘シーンは僕ら観客を飽きさせない。とくに印象に残ったのは、映画のクライマックス「サラミスの海戦」で登場するとある長回しアクション。その躍動感といおうかライド感はなかなかに新鮮だった。

とはいえ本作のイチバンの見所は、筋肉だらけの画面においてひときわ異彩を放つ、エヴァ・グリーンが演じたペルシア艦隊司令官アルテミシアだろう。全身を黒を基調とした衣装で包み、敵味方関係なく気に食わない野郎を次々にブチ殺しながら、優雅に司令官席に鎮座まします姿は、さながらサディズムの化身だ。彼女の前では、前作であれだけ存在感のあったペルシア神王クセルクセスもたじたじだ。

しかも彼女、もともとはギリシア人だのに、幼い頃に当のギリシア民兵に家族を皆殺しにされたうえに奴隷船に売られたところを、ペルシア人使節*2に拾われ最強の殺人マシンに育て上げられたという設定*3が泣かせる。アルテミシアの戦いは彼女自身の過去との戦いなわけだが、それゆえに双剣をふるってテミストクレスとの一騎打ちに挑む姿は、物悲しく美しい。惜しむらくはアクション面でもうちょっと彼女の見せ場あればよかったのだけど。


     ○


ただ、本作には難点もある。まず、本作の時系列が若干わかりづらいところだ。

本作は前作『300』の直接の続編ではなく、スパルタ王レオニダスが「テルモピュライの戦い」に挑んでいる最中に起こった海戦を描いている。いっぽうその頃、というわけだ。それだけならまだしも、映画の物語自体は「マラトンの戦い」から始まり、それからクセルクセスが金ピカつんつるテンの神王となり、スパルタに戦を仕掛ける──という前作の物語時間より過去から始まり、なおかつ物語の語り手がいるのは、前作の結末より未来であるサラミスの戦いなのだ。もちろん本作にも、スパルタは多少登場するのだが、前作との接合がいまいちうまくまとまっていないのが残念だ。

また、細かいことだけれど、クライマックスのサラミスの海戦で、最初から風景が朝焼けでまぶしいというのはいかがなものか。せっかくそれまで薄暗いブルーに画面を染めて、勝ち目のない陰鬱なイメージを作っていたのに、これでは勝つことが宣言されているようなものではないか。ミラーの原作で描かれた色遣いを忠実に再現しようとしたのかもわからないし、歴史的にその海戦の行く末はわかりきっているからかもしれないが、映画では一応「もうダメだ」ってところからの起死回生の一打が用意されているのだから、雲間から陽が差し込むのはそのタイミングのほうが効果的なのではないだろうか。


     ○


最後に3D効果(XPAND方式で鑑賞)は、かなり整理されていてストレスなく観られるもので、僕としては助かったけれど、効果それ自他は少し抑え目なのかしらとも思え、物足りないひとは物足りないかもしれない。とくに目立った3D効果は、冒頭、クセルクセスが巨大な宮殿から、はるか階下の群集を見下ろす際の俯瞰ショットにおける高低差表現。高所恐怖症の身としては心底気持ち悪かった(褒め言葉)。

なにはともあれ、血肉沸き踊るガチムチ歴史大作7年ぶりの続編、ぜひ劇場でご覧ください。

*1:本作では監督を降板し、脚本と製作を務める。

*2:ちなみに、前作でレオニダス王に蹴っ飛ばされるアノ人。

*3:いわゆる「この子は悪くないのに!」型の設定。