『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2D字幕版)感想

ダグ・ライマン監督。桜坂洋によるライトノベルAll You Need Is Kill』(集英社、2004)を大胆に脚色、トム・クルーズ主演で映画化したSFアクション。

謎の侵略者“ギタイ”の攻撃によって、人類は滅亡寸前にまで追い込まれた近未来。軍の広報担当だったウィリアム・ケイジ少佐は、ひょんなことから兵卒として最前線へと送られてしまい、実戦経験のない彼はあえなく戦死してしまう。しかし、気がつくと彼は前線基地へ送り込まれたその日にタイム・ループしていた。何度となく死んでは同じ時間を繰り返すなかで、“戦場の牝犬”との異名を持ち、かつてケイジと同じくタイム・ループ能力を持っていたという兵士リタ・ヴラタスキと出会う。ループ能力がギタイを倒す鍵になると確信するリタによって、最強の“兵器”となるべく容赦ない特訓を繰り返し課されるケイジだったが……。



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面白かった! 正直なところ、こんなに面白い作品であろうとは思っていなかったので、うれしい驚きだ。



◆以下、脚注でネタバレあり◆


本作の大きな魅力のひとつは、各所で語られているように、本作を観る体験が、まるでゲーム・プレイのようだということだろう。とくにアクション・ゲーム──そのなかでも「覚えゲー」と呼ばれる、倒すべき敵の動きを逐一覚えていかなければクリアできないような難易度の高いゲーム──において、失敗しては再びセーブ・ポイントからやり直す感覚を、映画でここまで再現したのは本作が初めてではないだろうか。

トム・クルーズ演じる主人公ウィリアム・ケイジのタイム・ループ能力を発動するキーは「死ぬ」ことだ。ケイジが死んでは元の時間に戻って、同じ時間をやり直し続けることは、そのまま我々がゲーム中に失敗して再びステージをプレイし直すことにほかならない。というわけで、本作では我々がゲームで「ここで死んだから、次はこの手でいこう」と考えながらステージのゴールを目指すように、ケイジもまた「ここで死んだから、そこの一歩手前で方向転換して、次に……*1」とあの手この手を試しながら戦場でギタイの殲滅を目指してゆく。映画を観ながら、「もう1歩でクリアできたのに……」と歯がゆい思いをしたかつてのゲーム体験を思い出されたかたも多いはずだ*2



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とにかく全篇、ケイジがあれやこれやと死にまくるわけだが、あの天下の大スターであるトム・クルーズが1本の映画内でむざむざと何度も死ぬという画が新鮮。あるときはギタイにやられ、あるときは友軍の飛行機の下敷きになり、あるときはリタに撃ち殺される、エトセトラ……これだけトム・クルーズが死にまくる様はそうそう見られるものではない。一部のシーンでは、こういった彼の死に様(=珍プレイ)をテンポよく積み重ねてブラックなギャグ・シーンに仕立てて笑わせてくれるのもよかった。とくに前半にあった、ケイジが隊列から逃れるためにトラックの下を潜り抜けようとして「うぎゃっ」ひき殺されるくだりなんか最高だ。

そんな「死にまくる」トム・クルーズという彼の新鮮な一面をみせてくれる一方で、本作は彼がこれまで様々な映画で見せてきた異なった魅力の数々をギュッと詰め込んでいるのも見所だ。『宇宙戦争』でみせた小市民ぶりや、出世作『トップ・ガン』などでみせた軍服姿はいわずもがな、『マイノリティ・リポート』や近作『オブリビオン』でみせたSFガジェットを着込んだ姿、『アウトロー』でみせた変人奇人ぶり、さらには『ミッション・インポッシブル』シリーズで彼が演じるイーサン・ハントばりのスパイ・アクションまで本作に盛り込まれている。

ことほど左様にファンも納得のサービス度に加え、トム・クルーズが出てくる映画をまだ観たことがないというアナタにはこの1本と薦められる、まさに「トム・クルーズ映画」の決定版に仕上がっている。



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最後の最後で若干ひっかかる部分*3もあるのだが、それをおいても完成度の高い脚本と迫力満点のアクションが楽しめる本作は、広く薦められる良質なエンタテインメント作品だ。ぜひ劇場へ足をお運びください。

*1:覚えゲー」要素があまりに複雑すぎて、ヒロインのリタから「もう無理、覚えられない」と突っ込まれる場面が笑える。

*2:また、後半のある展開によってケイジからタイム・ループ能力が削がれながらも戦いの最終局面へと立ち向かう展開が待ち受けるが、これもラス・ボス付近でちょうど残機がなくなったり、セーブ・ポイントがなかったりといったゲームではよく見かける状況で、思わず「あるある!」と頷いた。

*3:ギタイの親玉である「オメガ」を、自らの命と引き換えにケイジは打ち倒すが、気がつくと彼は自分が前線基地へと強制移送される前に乗っていたヘリコプター内で目を覚まし、どうやら戦争が終わったことが判明する──ここで、彼がタイム・ループするのはオメガの血を浴びたからだ納得できるが、なぜこれまでとは違った「時点」にタイム・ループしたのかの説明が一切ないため、ちょっと飲み込みづらいのは否めない。▼むしろ、これまでと同じようにケイジが前線基地に送り込まれた時点で目を覚ましたほうが、自然だったのはないだろうか。前線基地でケイジが目を覚ますと、どうやらこれまでと様子が違う。どうやら戦争が終わったようだ。そこに同じようにファレウ曹長がやってきて「戦争が終わっちまったら、お前さんへのこの指令書も意味がねえな」などと言って立ち去る。そこから本作の実際のラストである、リタへの再会に繋げたほうが、それまでの映画内ルールで理解していた観客が、飲み込みやすいだろうし、「戦争の終結」という決定的な差異が一層際立ったのではないだろうか。対照実験の基本ルールは、AとBとのあいだで異なる条件はひとつだけ、っていうでしょ。