2014年鑑賞映画 感想リスト/91-100

『人類滅亡計画書』……キム・ジウン監督(第2話)、イム・ピルソン監督(第1話、第3話)。人類滅亡をテーマにした短篇3本のオムニバス映画。▼第1話「素晴らしき世界」は、ナンセンスな笑いの詰まったゾンビもので、現代の人間社会における食物連鎖──というか円環──の目を伏せがちな気持ち悪さをサラッと描いてしまう前半部もさることながら、家族や友人から抑圧され続けてきた冴えない主人公がゾンビになってようやく解放されてゆく過程に、思いのほかグッときた。▼第2話「天上の被造物」は、寺が購入した受付けロボットが悟りを得てしまうという少し不思議系SF。不気味の谷との境界にいるようなロボットのデザインは悟ってそうな実在感があってよかったし、こういう思想的SFは好物なので楽しんだのだけれど、いかんせん会話というか禅問答のシーンが多く、映画としてはそこで固まってしまったが残念。どちらかといえば演劇的な展開だった。▼第3話「ハッピー・バースデー」は、ネットで注文したはずのビリヤード・ボールが何故か宇宙から巨大隕石としてすっ飛んでくるトンデモSF。映画のメインは、当のビリヤードを注文した小学生の女の子と家族が地下シェルターに避難して隕石墜落を待つ様子を描くが、この家族が交わすやりとりのニアミスっぷりが非常にチャーミング。また、間に挿入されるテレビ討論会の様子もモンティ・パイソンばりにシュールに転がりまくって笑いを誘う。ただ、ちょっとオチが弱いのが残念(あっ車掌さん!?)。


『愛の嵐〈ノーカット完全版〉』……リリアーナ・カヴァーニ監督。1957年、ナチス親衛隊だった過去を隠してウィーンのホテルで働くマックスの前に、収容所で弄んだユダヤの少女ルチアがオペラ指揮者の夫と連れ立って現れるが──ふたりの間にかつての倒錯した激情が蘇る姿を、過去をフラッシュバックしながら描く。制帽とサスペンダーだけでナチの高官を前に踊らされるルチアを演じるシャーロット・ランプリングのヴィジュアルだけを先行して知っていたけれど、実際に観てもかなりのインパクト。しかも、その後でマックスがルチアに彼女の嫌っていたという男の生首をどや顔でプレゼントするという、サロメの再現エピソードまで付くのだから、さらに凶悪だ。こんな具合に、本作の登場人物たち──被害者であるはずのルチアでさえ──は、すべからく人間性や理性が欠けてしまっている。マックスとルチアががむしゃらに求め合う姿も、ナチの残党たちが思わず「ハイル!」と敬礼する姿も、むしろ動物だ。それを生んだのが、一種の社会的状況だというのが非常に恐ろしい。


フッテージ』……スコット・デリクソン監督。ノンフィクション作家のエリソンは謎の一家惨殺事件の調査のために家族と郊外の一軒家に越してくるが、その殺人を映したフッテージを屋根裏で発見する──禁じられた映像を目にした作家が見舞われる恐怖を描く。劇中に登場するスナッフフィルムの出来がいい感じで、スーパー8で撮られたという設定の画素の粗い映像が雰囲気満点だ。事件ルポばかり書いているはずのエリソン本人が、この手の映像が苦手らしくていちいち「うへぇ」と怖がっているのが妙にリアル。それでも映像をコマ送りしたり、一部を拡大しながら、やがて不気味な犯人らしき“染み”を発見するまでの前半は『欲望』(ミケンランジェロ・アントニオーニ監督、1967)もかくやで、ジャンル的にも映画の展開が読めずにハラハラした。ただ、1時間を過ぎたあたりから、判りやすくオカルト・ホラー映画に転じたのはちょっと残念。もちろん予告編を見た時点で予測できるし、十分きゃあきゃあ怖がったので“良くも悪くも”なのだが、時間配分的にもうちょっとリアル路線で攻めて欲しかった。ただ、そんなことよりも主人公にこれだけは言っておきたい──まずテメェは明かりを付けろ!


カサンドラ・クロス』……ジョルジュ・パン・コスマトス監督。ジュネーヴの国際保健機構に押し入ったゲリラのひとりが、アメリカが秘密裏に保管していた悪性肺炎に感染、機密漏えいを恐れたアメリカ軍は彼が逃げ込んだ大陸横断列車をポーランドへ隔離しようとするが──リチャード・ハリスら主演の乗り物パニック・アクション。ジャンルの持つ面白さのツボをきっちり押さえながら、なおかつ機密情報の扱いにおける為政者と市民との戦いを描いた社会派サスペンスでもあったことに驚いた。列車が暴走特急と化すのは、機械の故障でも自然災害のせいでもなく、すべてお上の人間の指示によるのがやるせない。なにより恐ろしいのは、すべての悪の元凶が、映画には一切登場せず、糾弾もされえないことだ。登場人物たちは目に見えぬ巨大な力に弄ばれ、バタバタと倒れてゆくばかりだ。そして、映画は一応の大団円に終着するが、その結末は非常に苦々しい。


『アシュラ』……さとうけいいち監督。飢饉のために母親から喰われそうになりながらも人喰いの獣として生き残った童アシュラは、やがて出会う法師や村娘・若狭らとの出会いによって人間性を培ってゆくが──ジョージ秋山による同名漫画のアニメ化。CGアニメでありながら、まるで手描きのように陰影を斜線で表現していたり、絵の具で塗られたようなキャラクターのテクスチャ表現が新鮮。大飢饉によって喰うか死ぬかの瀬戸際に立たされるシチュエーションは強烈で鬼気迫るものがあって色々考えさせられるのだけれど、いかんせん音楽が鳴りっぱなしなのがどうにもクドい。クライマックスを彩るはずのアクション・シーンも、同じテーマ曲がほとんど変化もなく2〜3回も繰り返されており、これではまるでゲームの戦闘が長引いているかのようで、鈍重になるばかりなのが残念だ。名キャストたちによる演技合戦は素晴らしい。


オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2D字幕版)……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140724/1406198856


思い出のマーニー』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140727/1406411470


GODZILLA ゴジラ』(2D字幕版)……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140730/1406713924


ドッペルゲンガー』……黒沢清監督。意思だけで動かせる車椅子型義手の開発が行き詰っていた医療機器メイカーの技師・早崎の前に分身が現れ、やがて彼に振り回されるようになる──ドッペルゲンガーを題材としたサスペンス。登場するドッペルゲンガーの性質が、臆病であれば豪快に、といった具合に元の人格と真逆というか自我理想的というか、これまで自分が抑圧してきた側面を前面に出してくるのが興味深い。画面に映る早崎は、いったいどちらの早崎なのかが判然としないところなどかなり不穏だが、その一方でまるでスラップスティック・コメディもかくやの演出なのが独特の笑いを誘う。それにしても、ラストで突然に、一連のチャップリン映画のような光景になるとは驚いた。


『カルト』……白石晃士監督。心霊番組のレポーターを務めることになったタレントのあびる優岩佐真悠子入来茉里の3人は、霊能者同行のもと、霊現象に悩む金田母子のもとを訪れるが──ドキュメンタリー・タッチで綴られるホラー。いわゆるモキュメンタリーによる臨場感もさることながら、心霊現象場面の合成も滑らかで、かなりリアル。また、映像の逆回しや微妙な早回しというささいなテクニックで、ここまでの不穏感を煽られるものかと驚いた。映画は次第に、単なる心霊番組の範疇には収まらないような規模のものに転じてゆくが、その拡がりを必要最低限──小規模──の映像で見せるところなんかすごく巧い。ラストには、この物語がたどる顛末を最後まで観たいと切に思ったが、そのときにはすでにジャンルがまったく別のものにすり替わっているので、このラストもやむなし。
100