『サボテン・ブラザーズ』……ジョン・ランディス監督。無声映画時代、活劇映画シリーズのヒーロー3人組“サボテン・ブラザーズ”を本物だと勘違いした村娘は、彼らに村を襲う無法者の退治を依頼するが、サボテン・ブラザーズたちは映画の撮影だと勘違いして──三谷幸喜が「一番感銘を受けた映画」とするコメディ。なりすまし型の定型を取りながら、勘違いに勘違いを重ねた物語設定が面白い。サボテン・ブラザーズが「これマジだ」と気づいた瞬間に見せる情けないにもほどがあるリアクションは、その物語設定が大いに活きた爆笑シーンだし、一方で映画内だけの虚構だった英雄性を彼らがすったもんだあったうちに勝ち取る展開はなかなか泣かせる。でも問題点も多い。物語と特別関係のない単発ギャグも多い──歌う木のくだりとか──し、いつ君たち仲良くなったのかの前振りもないし、それまでオープン・セットを使用したりでずいぶんリアルな画面だったのが、いざ3人が無法者のいるアジトへ向けて旅立った瞬間にいかにもなセットが画面に現れたりで、いろんなものがバラけている。なるほどたしかに三谷映画的感覚を随所に感じられる映画だった。
『戦闘機対戦車』……デヴィッド・ローウェル・リッチ監督。1942年、ドイツの敗北の色濃い北アフリカ戦線を舞台に、地雷調査に赴いたアメリカ戦闘機と、敗走する部隊から1台だけ取り残されたドイツ戦車との孤独な攻防戦を描くテレビ映画。新鮮──このひと言に尽きる作品だ。戦闘機と戦車とでは戦闘能力に差がありすぎではないかと思っていたが、序盤で独戦車によって米戦闘機は羽を撃たれて飛行不能の状態になり、エンジンを騙し騙しなんとか陸路で逃げまわるという発想がすごい。しかも独戦車を指揮するのは気の狂った鬼将軍、乗組員をまとめる中尉はリアリストの優秀な軍人という、せまい戦車のなかにも対立項を組み込んで、観ている僕らを飽きさせない。ついに追い詰められた戦闘機と戦車の一騎打ちの果てに訪れる意外な結末は、静かながらも熱く燃える必見のラスト・シーンだ。
『何がジェーンに起こったか?』……ロバート・アルドリッチ監督。かつて可愛らしい子役として一世を風靡したジェーンだったが、年を経てその人気は演技派として芽の出た姉ブランチに入れ替わってゆく。あるときブランチは事故で半身不随となり、ジェーンは姉の世話をしながら、人気を横取りした姉への嫉妬を陰湿ないじめで晴らそうとする──ベティ・デイヴィスとジョーン・クロフォードが競演したサイコ・サスペンス。たいへん恐ろしい映画だった。酒に溺れ、姉をいじめ抜き、ベッタリと化粧を塗りたくって少女時代の栄光に固執するジェーンを演じたベティ・デイヴィスの存在感がものすごい。さながらホラー映画に登場するマッド・サイエンティストや怪物だ。そんな妹の攻撃に耐えるしかないブランチの状況は、見ていると胃がキリキリと痛んでくるが、その積み重ねの果てに明かされる大どんでん返しには心底驚かされた。何がジェーンに起こったかをぜひ確かめていただきたい。
『ノロイ』……白石晃士監督。怪奇実話作家の小林雅文は「隣家で不気味な泣き声がする」という母子の依頼を調査するが、同時に彼のまわりや彼自身も怪異現象に見舞われはじめる──小林が発表予定だったビデオ作品「ノロイ」に収録された戦慄の事実を描く。──という体(てい)のモキュメンタリー・ホラー。いままで寡聞にして観てきたモキュメンタリー映画のなかでも、もっとも面白かったもののひとつに数えたい。最初からウソと判ってはいても、そこにグイグイ引き込る“事実”の作り込みと構築が気持ちいい。いかにもありそうな地方の伝承をでっち上げたり、それを研究する郷土史研究家のリアル過ぎる佇まいが虚構世界を引き立てる。反対に、荒俣宏やアンガールズら本人の劇中番組への出演や、そのデジタル放送以降前のテレビ映像などなどの“2005年(公開年)”感も懐かしい(当時に観ていたらもっと面白かっただろう)。またクライマックスに向けて、アレもコレも、はたまたソレさえもが気持ち悪いぐらいに共鳴しあい、ひとつのおぞましい真実に収斂していく展開もスリリングでスケアリング(観ながら同監督の『ほんとにあった! 呪いのビデオ the movie2』を、昔なにも知らずに観て心底楽しんだのを思い出した)。資料映像も怖いぞ。
『1999年の夏休み』……金子修介監督。近未来の日本。全寮制の男子校が夏休みに入り、寮生がみな家に帰るなか、寮に残った3人の少年の前に、3ヶ月前に自殺した悠に瓜二つな少年・薫が転入してくるが──。不勉強ゆえにタイトルだけはずっと知っていたが、先頃これが萩尾望都の『トーマの心臓』が原作だと聞いて仰天して興味を惹かれた。メインの少年たち4人を演じるのは男装の少女たちであり、しかもその演技に本人あるいは別人の声──女性キャストに混じって、ひとり佐々木望がいるという周到さ──をアテるという徹底した性の中性化/抽象化が独特の実在感を放っている。あわせて、彼ら(彼女ら)しか登場しない──1箇所あるモブ・シーンは、モブを追いかけるようなカメラ・ワークと音声だけで表現される──画面や日本離れした風景、そしてカタストロフ後の世界を思わせる独自の世界観設定から滲む不穏さが、生と死をめぐる物語と少年時代の1回性を引き立てる。いやむしろ、それが少年たちを捕らえた永遠に反復するあの世ないし煉獄のようにも同時に思われ、観ながらなんともいえない不思議な気分に包まれた。
『ビッグ・リボウスキ』……ジョエル・コーエン監督。友人ふたりと素人ボウリング・チームを組む“デュード”は、ひょんなことから彼と同姓で街の大富豪リボウスキの若い後妻誘拐事件の身代金引渡し役になるが、事態は一癖もふた癖もある様々な人物の介入にかき回されて──コーエン兄弟が描く不条理コメディ。台詞回しのリズム感は皆それぞれ抜群なのに、ひとつも会話がスムーズに通じない。通じないだけならまだしも、それによって事態はどんどん複雑怪奇に、ダメダメになっていくさまがなんとも愉快きわまる。もちろん蚊帳の外から観るから楽しいのであって、巻き込まれるのはまっぴらごめんだ。そんな本作をコミュニケーションの不可能性という人類最大の哲学的テーマに果敢に挑戦した意欲作、あるいは単にしち面倒なやつらが延々くっちゃべっている喜劇ととるかは僕の知るところではない。それにしても、本作のスティーヴ・ブシェミとフィリップ・シーモア・ホフマンの存在感ときたらズルいくらい。画面に出てくるだけでなにもかも持ってってしまう可笑しさには風格さえ感じる。
『攻殻機動隊 ARISE/border 1: Ghost Pain』……黄瀬和哉総監督、むらた雅彦監督。陸軍501機関所属の完全義体のサイボーグ草薙素子三佐は、恩師であるマムロ中佐が何者かに殺害されたことに不信感を抱き、独自に調査を開始するが──士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』をベースに、草薙が公安9課を設立するまでの前日譚を描く新シリーズ第1作。本当は4部作全部が出揃ってから観ようと思っていたのだけれど、つい誘惑に負けてしまった。それにしても作画の凄まじいこと! 黄瀬和哉(メイン)と西尾鉄也(サブ)がキャラクター・デザインという僕好みの画風であることもあろうが、いわゆるアクション・シーンに限らず、細かな重心移動までリアルに再現される挙手一投足は、観ているだけでドキドキする。アクション・シーン満載なのも結構。いきなり草薙自身が怪物コンプレックスに陥いるサイコ・スリラーをパート1に仕立ててきた冲方丁のシリーズ構成も興味深い。赤いジャンパにパンツルックという草薙のキャラクター・デザインを以前見かけたとき「なんだか『AKIRA』の金田みたいだなァ」と感じたが、実際に赤い大き目のバイクを駆ったりなんかして、思っていた以上に金田してたのには、ちょっと笑ったけれど。押井守監督版『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)以来の草薙役──このときはラストに登場する少女・草薙──登板の坂本真綾はじめ、新キャストもいい感じ。
『攻殻機動隊 ARISE/border 2: Ghost Whispers』……黄瀬和哉総監督、竹内敦志監督。難民虐殺の罪を問われている混成78部隊の元上官ソガ大佐は、自らの潔白を証明すべく、特殊な軍事モジュールで都市機能を掌握しようとするが──士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』をベースに、草薙が公安9課を設立するまでの前日譚を描く新シリーズ第2作。パート1同様にアクション・シーンをふんだんに盛り込んでいるが、今回はわりとハリウッドSF映画の再現が目白押しだ。スーパー・スローモーションの肉弾戦や渋滞するハイウエイでのカーチェイスは『マトリックス』シリーズ、ワイヤを使ってロジコマが街中を移動するシーンは『スパイダーマン』シリーズなどを思い起こさせる。ただ、これはパート1にもいえることだが、本編の尺を60分以内に設定しているため展開にスピード感はあるが、アクション真っ只中に展開上重要な説明台詞が入ったり、それにSEや別の台詞が大きく被ったりと、若干ストーリーを飲み込みづらい構成になっている感もいなめない。無理を承知でいえば90分版が観てみたい。そういえば、本作のエンディング・テーマを青葉市子が歌っていたが、劇判担当のコーネリアスからの細野晴臣つながりかしらん。
『STAND BY ME ドラえもん』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140825/1408972202
『イントゥ・ザ・ストーム』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140829/1409306375
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