2015年鑑賞映画 感想リスト/21-30

ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』(2014)……亀垣一監督。ある事情から怪盗キッドに化けて宝石を盗み出したルパン三世を追うコナンは、あるときイタリアの人気アイドル・エミリオが来日したというニュースを目にするが、そこには次元大介の姿があった──2009年に放送されたテレビスペシャル『ルパン三世VS名探偵コナン』(同監督)の好評を経て製作された続編。
双方のキャラクター・デザインそのまま描かれた独特の──なんとなればカットの切り替えしごとに“絵柄”が違う──世界観は、相も変わらずドラッギーでグラグラする。パパ次元と息子・コナンの親子漫才を筆頭に、クロスオーバーするキャラクターたちの掛け合いも楽しいし、前作でもっとも不満だったアクションの愚鈍さも今回はきっちり解消され、スピード感溢れる作画に仕上がっていた。しかし、ストーリー/事件の核心として、前作の物語設定とマクガフィンを然したる説明もなしに組み込んだのにはいささか疑問が残る。前作とのつながりは、キャラクター同士の相関くらいに留めた緩やかなものにして、事件そのものは本作で独立したもののほうがスッキリしたのではないか。前作は双方のメインキャスト交代劇以前の作品でもあるのだし、そもそも発表メディアが異なるではないか。でなければ、タイトルに「2」のナンバリングを入れるべきだろう。



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『ベルリンファイル』(2013)……リュ・スンワン監督。韓国情報院のチョ・ジンスは、北朝鮮とアラブ組織の武器取引現場を察知するが、その場にいた北朝鮮諜報員ピョ・ジョンソンを取り逃がしてしまう。一方ジョンソンは、妻のリョン・ジョンヒが二重スパイの疑いをかけられたことをかつての後輩であり保安監視員のトン・ミョンスから告げられる──ベルリンでロケを敢行したサスペンス・アクション。
敵味方が錯綜し、謎が二転三転する脚本のキレや話運びのテンポの良さ、そして見事としかいいようのないアクション・シーンの数々をして、まさしく傑作。とくに武術監督チョン・ドゥホンによる、北朝鮮軍隊格闘術“撃術”を参考にしたという格闘アクションが秀逸。急所を一気に狙う即決の立ち回り、相手を壁や鉄骨の角に叩きつけたり、冷蔵庫から取り出した缶詰の角でガンガン殴りつけたりと、とにかく相手の痛覚を強烈に叩く殺陣はフレッシュ。そして、複雑な諜報合戦ののち、ついに互いのイデオロギーを越えてタッグを組み、敵の総代に殴り込みをかけるクライマックスも非常にアツい。映画の幕は次なる戦いを予感させつつ閉じられるが、ぜひとも続編を観てみたい。



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伊賀忍法帖』(1982)……斎藤光正監督。主家の奥方を我が物にしようとする松永弾正は、果心居士の計らいによって究極の惚れ薬「淫石」を作るため伊賀の里の娘・篝火を拉致。恋人を奪われた伊賀の城太郎は、篝火を救い、松永の野望を阻止する戦いを決意する──山田風太郎の伝奇時代劇を映画化。
原作小説のエログロな設定を、アイドル主演映画──ヒロインは渡辺典子──としてギリギリ成立するまでに融和したバランスが絶妙。城太郎を演じた真田広之千葉真一JACによるアクション・シーンや、巨大なセットを作って撮影された東大寺のスペクタクル・シーンなど見所が多い。ただ、忍術アクションについての映像によるロジックがいささか強引なのと、ラストのびたいち納得できない──というか、なにが起こったのかまったく判らない──「愛」なる展開がたいへん気になる。



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『天使行動』(1987)……テレサ・ウー監督。日系企業の仕切る国際麻薬シンジケートが結託してインターポール捜査官を次々に血祭りに上げるなか、事態の打開を図るため、最強の外部諜報部隊“エンジェルズ”のサイジョーやムーンら4人がついに召集された──西城秀樹主演の香港バイオレンス・アクション。
設定そのものはタイトルからも推察されるように「チャーリーズ・エンジェル」の男女混成版だが、ともかくアクションが凄まじく、物語の粗など気にしている暇もない。やたら人海戦術を組んで襲ってくる敵戦闘員をエンジェルズがマシンガンや手榴弾、鉄パイプでバタバタとなぎ倒していく様は、いわゆる“無双”状態ですこぶる爽快だし、高層ビルの鉄骨を素手で登っていく──命綱もマットもなかったらしい──どうかしてるアクションも目白押し。アクション映画初体験だった西城秀樹もほとんど吹替えなしだったそうだ。なかでも白眉は、当時アイドルからアクション女優に転進したてだったムーン・リーと、シンジケートの血に狂ったボスを演じた大島由加利(JAC出身)のカンフー対決が展開されるクライマックスだ。殺陣のやりあいも見事なら、お互い薄手の衣装──安全対策のしようがないような──のままドッカドッカと壁やら重機やらに叩きつけられる豪快さ! うへぇ、すごい(けど若干引く)。



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『天使行動2』(1989)……テレサ・ウー監督。任務の合間に休暇でマレーシアを訪れた“エンジェルズ”のアレックス、ムーンとエレイン。彼らはそこでアレックスの学友で、現在は富豪となったピーター、そしてCIA捜査官となったマルコと出会う。再会を喜ぶアレックスだったが、マルコは彼に「ピーターに気をつけろ」と忠告する──メイン・キャストとスタッフがほぼ揃ったシリーズ2作目。
本作では、後にジャッキー・チェンの映画に携わることになるスタンリー・トンをアクション監督に迎え、テンポのいいカンフー・アクションは前作からさらに洗練。クライマックスの密林内のゲリラ基地を部隊に展開される高低差を活かした殺陣とコマンド・アクションは迫力満点だ。そして、本作では脚本も非常に健闘。かつての学友の再会と対立という男のドラマに、エレインのほのかな恋愛も絡めた筋立てが、より一層アクションをエモーショナルに引き立てる。ムーン・リーはドラマ的にはあまり絡まないものの相変わらず無茶なアクションに体当たりでこなしている。20メートルはあろうかという巨木から、爆発をバックに一直線に飛び降りるスタントは必見だ。



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『天使行動3』(1989)……テレサ・ウー監督。タイを訪れたベトナム使節が暗殺される事件が発生、その陰謀をつきとめるべく“エンジェルズ”たちは捜査を開始するが、そこにはタイの発展をよく思わぬ某国の思惑があった──アレックス・フォン、ムーン・リーら主演のアクションシリーズ第3作。
シリーズのなかで最も格闘アクションにその尺が割かれており、タイマン・バトルあり、多勢に無勢バトルありと、それぞれ質の高い殺陣で見応えがある。また、クライマックスで展開されるジェット・パックを背負って敵軍を一網打尽にしてゆく銃撃戦は、『007 サンダーボール作戦』(テレンス・ヤング監督、1965)で僕の観たかった──実際にはない──アクションを実現してくれているようで楽しい。ただ、クライマックスのタイ軍対敵軍のコマンドバトルをやるためとはいえ、このシーンの後半にならないと主人公たちは登場せず、その実、敵側の思惑は半分くらい叶っちゃっているのがアクションそのものがいいだけに惜しい。また、世界征服を企むスペクターみたいなヤツも登場する──こいつが部下を指示棒で折檻するのだが、このときの部下のやるきのないリアクションが笑える──が、結局どうなったのかを描かないので、全体としてはなんだかガヤガヤしているうちに終わっちゃったなぁ、というところが残念ではある。



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涼宮ハルヒの消失』(2010)……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20150205/1423139248



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フィッシャー・キング』(1991)……テリー・ギリアム監督。過激な毒舌トークが人気のラジオDJのジャックだったが、あるとき寄せられた電話相談に「君の敵はみんなブチ殺せ」と答えたことが、実際に事件に発展。3年後、失墜した彼は「聖杯を探す使命を受けた」という奇妙な浮浪者パリーに出会うが、パリーは件の事件で最愛の妻を亡くしたために自失したことを知る──聖杯伝説の「漁夫王」をモチーフにした、ジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズら主演のヒューマン・ドラマ。
反知性主義的なヘイト発言が引き起こす暴力の凄惨さをまざまざと切り取る前半部の恐ろしいこと恐ろしいこと。その自身の失態を省みながら、パリーの漁夫王になることで何とか立ち直ろうとするジャックの姿は感動的だが、それ以上に、その関係性が決して一方方向でないのが素晴らしい。ジャックはパリーの、パリーはジャックの、そして……と誰もが誰かの漁夫王になり得るのだと高らかに謳い切ったリチャード・ラグラヴェニーズによる脚本は、理想と希望に満ち満ちている。



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『[アパートメント:143]』(2012)……カルレス・トレンス監督。数ヶ月前に妻を亡くして以来、10代の娘と幼い息子と暮らすアパートでポルターガイストに悩まされていたアランは、怪異現象の科学的権威であるヘルザー博士のチームに調査を依頼するが──いわゆるPOVおよび定点観測型ホラー。
部屋のいたるところに監視カメラを設置し、また、調査チームにも撮影技師がいるため、カメラワークはある意味でオーソドックスなもの(もちろん、使用カメラによって解像度や色味など、映像の手触りはショットごとに違う)。そのぶんアパートの一室で起こる怪異現象や、現象の謎をつまびらかにすることで浮き上がる別のドラマに集中できる。恐怖の演出としては、映像にかぶせるラップ音や「ババン!」という音響効果による驚かせが多いが、あえて登場人物たちの台詞の録音状態を聞き取りづらくしている──カメラのマイク以外では集音していないような演出──ため、余計に驚かされるのでタチが悪い(褒め言葉)。映像のほうも、およそ考えつくひととおりの現象は定期的に起こってくれるので、たいくつしない。映画は、ホラー映画での定石に則ったショットで終わるが、これにいたる何らかの前フリがあれば、より効果的だったのじゃないかしらん。



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ホワイトハウス・ダウン』(2013)……ローランド・エメリッヒ監督。ホワイトハウス議会警察官のジョンは、別居中の幼い娘エミリーを連れて職場を訪れたが、突如として謎の武装集団がホワイトハウスを制圧。娘とはぐれ、大統領と合流したジョンは、ふたりでこの窮地を解決しようと奔走する──ホワイトハウス陥落型アクション大作。
面白かった! まさかエメリッヒ作品がこんなに面白いわけがないと高をくくって観ていたら、驚くほどいいアクション映画だった。ほら、エメリッヒは良くも悪くもソツなく大作娯楽映画を仕上げてしまう監督ではあるが、そのソツなさが悪い具合に結実する作品が多くて、これまでさんざっぱら煮え湯というか、煮え切らない思いを味わってきたから完全に舐めきってたのだ。いま頃観たのもそのせいです。ごめんね、エメリッヒ。とはいえ、彼だけの功績というより、今作の座組──とくにジェームズ・ヴァンダービルトの脚本との組み合わせが、エメリッヒの特性をよい方向に活かし、成功に導いたのではないか。
ヴァンダービルトは『ゾディアック』(デヴィッド・フィンチャー監督、2007)や『アメイジングスパイダーマン』(マーク・ウェブ監督、2012)を手掛けているが、彼の本作の脚本もまたすごく出来がいい。主人公ジョンの、娘エミリーとの関係を主軸した成長葛藤を、アクションの見せ場を散りばめながら丹念に描ききる。とくに序盤で描かれる「エミリーが一生懸命練習して旗を振った学校の発表会にジョンが行き損ねたことに、彼女が腹を立てている」件を回収するクライマックスは非常に美しい。しかも主人公の名前が“ジョン”であることからも判るように、キャラクター配置から状況設定まで、どれだけ好きなんだよというくらい『ダイ・ハード』(ジョン・マクティアナン監督、1988)にオマージュを捧げまくりでサービス満点だ。
さらに驚くのが、本作が大味なアクション大作を装いながら、その実、ものすごく政治的なメッセージを孕んでいることだ。本作の敵役は、海外テロリストや宇宙人、モンスターや自然災害などといったアメリカの外部にいる他者ではない。ジェイミー・フォックスが演じた大統領は明らかにオバマ大統領をモデルにしているが、そんな彼を陥れようとするのは保守系右翼のアメリカ人たちなのだ。ひどく簡略化していえば、本作で描かれる闘いは“ハト派”対“タカ派”の闘いであり、現在社会の縮図にほかならない。まだ小学生のエミリーが、大人顔負けに政治情勢に詳しいのも相当意図的な設定だろう*1
ことほど左様に、本作の脚本はたいへん濃い。たとえば前述の3点のどれかに傾注してしてしまえば、変にあつくるしい映画になっただろうことは想像に難くない。しかし、ソツないエメリッヒ節で演出されたことで、全編にバランスよくその“濃さ”が配分され、なおかつ大味アクション大作としての体裁も保つというスマートな出来栄えとなっている。エメリッヒが本作においては“雇われ”に徹したのも吉と出たのだろう。本作の成功の秘訣は座組では、というのはこういった理由からだ。まあ、いろいろと細かいツッコミ──2、3のアクションがちょっと残念とか、“そこ”は包丁使えよ! とか──はあるものの、観ておいて損はない傑作だ。少なくともエメリッヒの最高傑作には間違いない。

*1:でも、これって他人事じゃないんだよね。