◆『バイオハザード:ザ・ファイナル』(ポール・W・S・アンダーソン監督、2016)……T-ウィルスによって世界を壊滅させたアンブレラ社とアリスとの最後の闘いを描くシリーズ最終作。
続篇が公開されるたびに劇場に足を運んでは、なんとも知れぬ虚脱感に浸って帰ってくること15年……やっと肩の荷がおりた。ともあれ、終わってくれて、ありがとう。まあ、それはそれとして、物語もそうだが、アクションをこうも判りづらく撮って繋げるものなのかと逆に感心することしきり。3D版を観たけれど、うまくないチャカチャカ編集で全篇貫かれるので、3Dの楽しみは皆無。でも、なんだかんだで微笑ましく観られたのは、このシリーズがきっかけで結婚したミラとポールのおしどり夫婦感に満ちているからかもしれない*1。仲良きことは、善きことかな。
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◆『ソロモンの偽証/前篇・事件』(成島出監督、2015)、『ソロモンの偽証/後篇・裁判』(成島出監督、2015)……1990年冬。自殺と断定された同級生の怪死に違和感を拭えない藤野涼子は、真実を明らかにするために通う中学校を巻き込んでの学校裁判を開こうとするが──宮部みゆきによる同名小説の映画化。
事件そのものの顛末ではなく、学校教育やいじめ、家庭や世間体の問題など、もっと根深い暗部が、中学生の裁判によって明らかになってゆく展開は、胸をすくものがある。が、いかんせん尺が長過ぎなのは否めない。せめて現代パートと、それに起因する取ってつけたようなナレーションがなければ、もっと集中して観られたのではないだろうか。
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◆『ライズ・オブ・シードラゴン/謎の鉄の爪』(ツイ・ハーク監督、2014)……水軍艦隊を全滅させたと噂される海神・龍王の怒りを静めるための生贄となった美しき花魁インに何者かの魔の手が迫る。判事ディーはこの事件の謎を解けるのか──唐朝末期を舞台にした武侠ミステリ。
これほど偽りのない邦題も珍しいくらい、そのすべてが文字どおり登場するツイ・ハークらしい過剰なサービスが楽しい。あまりにサービスが直截すぎてミステリとしてはどうかと思わなくもないが、そんな疑念も帳消しにしてくれるだろう。本国では3D公開ということもあって、人が、拳が、武器が、瓦礫や木端がこれでもかと飛び交うアクション・シーンも愉快。それにしても、敵の首領の日本語吹替を演じた若本則夫は、いったいどこからあんな声を出しているというのか……。
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◆『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(ザック・スナイダー監督、2016)……スーパーマンとゾッド将軍のメトロポリスでの激戦によって多くの社員を失ったブルース・ウェインことバットマンは、スーパーマンを殺すことに執念を燃やしはじめるが──『マン・オブ・スティール』(同監督、2013)の続編。
前作を観ながら辟易した、コラテラル・ダメージを出し過ぎな最終決戦について捉えなおした冒頭の災害映画然としたシークェンスは、なるほどやはりこちらのほうがしっくりくる。しかし後半になるにつれて、脚本を詰め込みすぎたのか、キャラクターの行動や展開がたいへんお粗末になるのはいかがなものか。ただ、多くの人が賞賛するようにワンダーウーマン役のガル・ガドットの画になりっぷりは素晴らしい。また、ジェレミー・アイアンズの演じるアルフレッドもなかなか味がある。
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◆『ミケランジェロ・プロジェクト』(ジョージ・クルーニー監督、2014)……ナチスによって略奪される欧州各地の美術品を取り戻すため、ハーバード大学附属美術館館長のフランク・ストークスは知己の専門家たちを集めた特殊部隊“モニュメンツ・メン”を結成し、前線へと向かった──史実を基にした戦争ドラマ。
不勉強ながら、こういった史実があったことを知らなかった身として、そのとっかかりとして本作には大きな意義がある。が、史実であることに足を引っ張られた──大幅に脚色がなされているようではあるが──のか、ものすごく品行方正な『戦略大作戦』(ブライアン・G・ハットン監督、1970)といった感じで、いささか単調に過ぎる感があるのが残念。
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◆『エンド・オブ・キングダム』(ババク・ナジャフィ監督、2016)……英国首相の急逝にともなって、その葬儀のため各国代表がロンドンへ集結した。アッシャー合衆国大統領もまた、シークレット・サービスのバニングを連れて渡英するが、彼らは再び大規模なテロに瀕することになる──『エンド・オブ・ホワイトハウス』(アントワーン・フークア監督、2013)の続編。
集団自爆テロの恐怖を大々的に再現した前作から変わって、本作では米国がすすめるドローン戦争に対する報復への恐怖をフィーチャーしたあたりに、時代の移ろいを感じる。それはそれとして、全篇に渡るあまりに粗雑な造りと、ジェラルド・バトラー扮するバニングの残虐さに、ちょっと笑ってしまった。それを象徴するかのような「おどれら、わしらン国は1000年安泰じゃけえのう!(意訳)」というバニングの台詞……けだし名言かな。
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◆『劇場霊』(中田秀夫監督、2015)……いまだ芽の出ない若手女優・水機沙羅は、女貴族エリザベートの生涯を描く新作舞台に端役で出演することになった。しかし、無気味な球体関節人形が小道具として鎮座する劇場で、次々に不可解な死亡事故が発生する──AKB48の島崎遥香主演のホラー。
ホラー映画ということになってますが、同監督の『クロユリ団地』(2013)がそうだったように、本作はどちらかといえば怪奇映画寄りの作品だ。球体関節人形の無気味な容姿と動き、死蝋となった被害者の無残な姿、極彩色の照明などが、その雰囲気を盛り上げる。が、いかんせん脚本の整理不足が否めず、登場人物がいくらなんでも無理のある行動をとることもしばしばで、恐怖よりも先にそちらが気になってしまう。また、日常空間と演劇空間という相反する舞台がありながら、演出のテンションが同じなのでもったいない。役者陣はよかったけれど。
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◆『ミッドナイト・アフター』(フルーツ・チャン監督、2014)……深深夜の路線バスに偶然乗り合わせた17人は、終着駅で異変に気付く。いつの間にか彼らは、誰もいない世界に迷い込んでいたのだ。無人と化した香港で、なんとか真実をつかもうとする彼らだったが──終末型SFスリラー。
謎がさらに謎を呼び、別の謎がどんどん追加されてゆき、そしてそのすべてが潔いほど──文字どおり──なにひとつ解決されない。これはなかなかの番狂わせであって、ジャンル映画的に観れば間違いなく憤怒する人が多いだろう。ただ、個々に描かれるシーンごとのブラック・コメディめいた笑うに笑えない展開や、多くの登場人物たちをきっちり描き分けているのが見事だ。また、本作が“雨傘運動”に代表されるような昨今の香港における政治的状況の暗喩であるとする指摘もあり、なるほど、であるならば諸々の謎の寓意性や未解決性が腑に落ちる。
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◆『死霊館 エンフィールド事件』(ジェームズ・ワン監督、2016)……アメリカ人超常現象研究家エドとローレン夫妻は、ロンドンのエンフィールドで発生した怪奇現象の調査に赴くが──1977年に実際に起こったポルターガイスト現象を題材としたホラー。
ずっしりと重い影を落とした風景を、じっくりと追う長回し撮影と絶妙な編集の緩急によって、じわりじわりと現象の発露までの段取りを踏んでみせる前半1時間の恐怖シーンが見事でスケアリング。また、後半1時間の、脚本に散りばめられた謎や象徴性がパズルのように組み合わさりながらクライマックスへと雪崩れ込んでゆく展開は、『エクソシスト』(ウィリアム・フリードキン監督、1973)もかくやのスリリングさ。たいへん面白かった!
*1:だって、映画のラストで奥さんに「君は完璧なひとだ」って言ってるのだもの。これはなかなか言えることじゃないよ。