2021 4月感想(短)まとめ

2021年4月に、ちょこまかとtwitterにて書いていた短い映画感想の備忘録(一部加筆修正)です。


     ※


【劇 場】
◆警官をも殺した強盗たちを捕らえるべく奔走する敏腕刑事アンドレが、やがて事件の暗部に踏み込んでゆく『21ブリッジ』ブライアン・カーク監督、2019)は、ある種の地味さと苦味が堪らない1作。

本作を予告編や惹句から受ける「これは『ニューヨーク1997』(ジョン・カーペンター監督、1981)か、はたまた『ダークナイト ライジング』(クリストファー・ノーラン監督、2012)か」という派手な印象を思って観ると、あるいは「意外に地味だな」と肩透かしを食らうかもしれない。しかし、本作はこの地味さこそ妙味なのであり、その味わいは ’70年代に撮られた敏腕刑事映画、犯罪映画、暴力映画を髣髴とさせるものだ。

たとえば本作の冒頭で描かれる、殉職警官への弔いと、裁きを下す者としての主人公の神性さは『ダーティハリー』(ドン・シーゲル監督、1971)の幕開けを思い起こさせるし、本作の音楽で印象的に鳴るスネア・ドラムのリズムと音色は『タクシードライバー』(マーティン・スコセッシ監督、1976)のテーマ曲(バーナード・ハーマン)のイントロ部が脳裏に甦る。その他、本作を観ていると『セルピコ』(シドニー・ルメット監督、1973)や『狼たちの午後』(同監督、1975)、『重犯罪特捜班/ザ・セブン・アップス』(フィリップ・ダントーニ監督、1973)などといった映画群が思い浮かぶことだろう。また、時代は少々遡るが、本作に登場するとあるキーワードは『暴力脱獄』(スチュアート・ローゼンバーグ監督、1967)の原題を、マイアミへの逃亡を図る強盗ふたりの顛末は『真夜中のカーボーイ』(ジョン・シュレシンジャー監督、1969)をオマージュしたのではないだろうか。

悪い癖であてどなくアレコレ挙げてしまったけれど、近作で似たようなコンセプトの作品といえば、やはり真っ先に『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督、2019)が思い浮かぶ。こちらが画面の色調から作劇のテンポ、舞台立てまで全面的に '70年代映画に寄せていたのに対し、本作『21ブリッジ』は殺陣のリアリティやリズム、音響や撮影の組み立て、あるいは物語内のディテールなど、あくまで現代的なアクション映画の水準を保ちつつ、'70年代映画の──そのやるせなく苦みばしったエンディングの後味まで含めて──味わいを醸そうとしたのではないか。

とするなら、本作にルッソ兄弟が関わっていることにも合点が行く。彼らが最初に監督したMCU作品『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)は、アメコミ映画に '70年代ポリティカル・サスペンス映画の味わいを持ち込んだものだ。『~ウィンター・ソルジャー』同様、本作のアクション描写は今日日(きょうび)の作品としての重厚さとリアリティ、一部パスクールなどを使ったケレン味もあって見応え十分だ。同時に現代社会における様々な暗部をそこかしこに感じさせる描写の数々は、終幕後も尾を引き、それらについて考える契機ともなることだろう。

ことほど左様に、現代アクションの水準と '70年代映画の味わいが絶妙にマッチした本作は、そういう映画が好きな人には堪らない1作となってくれるはずだ。


     ※


【ソフト】
◆深夜の救急病院内で奇怪な現象が巻き起こり、外はカルトに包囲される『ザ・ヴォイド 変異世界(スティーブン・コスタンスキ、 ジェレミー・ギレスピ監督、2016)は、『要塞警察』や『ザ・フォッグ』、『遊星からの物体X』といったジョン・カーペンターの映画を煎じたうえに煮詰めたような感じで、ちょっとグロテスクだけど楽しいコズミック・ホラーだった。ラストの画も美しい。


     ※


◆いじめられっ子の高校生シューウェイが、ひょんなことから彼をいじめる同級生たちと共に怪物を捕獲して監禁してしまう『怪怪怪怪物!』(ギデンス・コー監督、2017)は、端的にいって傑作であり、観ているあいだ本当に嫌な嫌な嫌な嫌な気持ちにさせてくれる1作。

というのも、本作は決して観客を安全地帯に置かないからだ。いじめっ子たちの行動の醜悪さはもちろんのこと、彼らにいじめられている可愛そうな主人公シューウェイもまた、捕らえた怪物への虐待・拷問へと──自身への言い訳を口にしながら──いっしょに加担してゆくという構成は、彼に感情移入していたであろう本作の観客もまた否応なく加害者の側でもあるのだと突きつけてくる。

ここであえて個人的なことを申し上げるなら、幼い頃──軽微ではあるが──ちょっとしたイジメの対象だったこともある身としては、彼らの関係性は他人事と思えない。本作は、単にスクールカーストのホラー的戯画化だけではなく、台湾が経てきた歴史や、ひいては現在もなお続く人種差別や民族浄化といった人類の負の本性にまで切り込むような、とても広く深い射程を持った作品でもある。もちろん我々だって無関係ではない。日本の入管の現状──法改正でさらに劣悪になろうとさえしている──や外国人技能実習生に対する非人道的扱いにも当てはまるような、人間の持つ怪物性をまざまざと炙り出す本作は、ひと言の綺麗事をも許さない強烈な作品だった。