『ゴジラvsコング』感想(ネタバレ)

ゴジラvsコング』アダム・ウィンガード監督、2021)……全世界を股にかけて繰り広げられたゴジラキングギドラの激闘から数年。それ以降活動を沈静化していたゴジラがふいに大手テクノロジー企業APEX社の巨大工場を襲撃し、大きな被害が発生してしまう。このゴジラの行動に疑問を覚えた少女マディソンは、級友ジョシュとともに謎の真相に迫るべく、怪獣に関する陰謀論を展開する覆面ポッドキャスターのバーニーとのコンタクトを図ろうと奔走する。

いっぽう、地球空洞説を唱える科学者ネイサンは自説の正しさを証明するため、永年コングの研究と管理を担当しているモナークの元同僚アイリーン博士のもとに赴く。ネイサンはコングと、コングと唯一心を通わせる聾唖の少女ジアの先導によって地下世界を目指そうというのだ。そして、それに技術的援助を申し出たのが、APEX社のCEOウォルターだった……。

1933年にキング・コングが、1954年にゴジラが誕生し、はじめての公式戦『キングコング対ゴジラ』(本多猪四郎監督、1962)があってから幾星霜、誰もがいつかまた再戦をと願い、同時に決して叶わぬ夢物語かと思われた両者の新たな闘いがついに描かれた本作をひと言で表すなら、紛うことなき “怪獣プロレス” 映画といえるだろう。なんとなれば、観ているあいだ「オイラはいったいなにを観てるんだ」と困惑するくらい振り切った作品である。


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【本記事は一部ネタバレを含みます。とくに後半にて警告後、核心部のネタバレに触れる箇所がありますのでご注意ください】


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怪獣プロレスとは、文字どおり映画やテレビをリングに見立てて怪獣と怪獣が闘いを演じる様を言い表したもので、テレビの普及によって巻き起こった昭和のプロレス・ブームに日本中が沸いたころ制作された対戦メインの怪獣モノを指す言葉だ。前作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(マイケル・ドハティ監督、2019)からその気はあったけれども、本作は作りからして徹底している。

コングがさわやかな夜明けとともに身支度をして唯一の理解者である少女ジアと交流するという本作の冒頭を観てもわかるように、本作の善玉レスラーはコング(トレーナー、付き人、トレーラー有り)であり、いっぽうのゴジラはなにかにつけて彼を挑発して対戦を挑む悪玉(ヒール)として登場する。これまで存在をほのめかされていた地下世界を巡る旅──プロレス的にいえば巡業(?)──をしながら、コングはゴジラと第1回戦、第2回戦と対戦を繰り返しつつ勝敗を決してゆくわけだ。

このように本作は、怪獣プロレス映画の代表格であり本作の元祖でもある『キングコング対ゴジラ』を現代の最新VFXをふんだんに用いて正しくリメイクしてみせた1作といえるだろう。『キングコング対ゴジラ』では、両者リングアウトという結末を迎えるが、果たして本作ではどうなのか? ウィンガード監督は以前「勝者を決めたい」とインタビューに答えていたがその真意は? ──というのが、本作最大のフックとなろう。


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そういった作品の性質もあって、本作では前作まであったシリアスさは完全に鳴りを潜め、一貫して楽しい総天然色空想科学映画的な雰囲気で全篇が展開される。作中でのテクノロジー発展は留まるところ知らず、その虚構性の高さはほとんど天井知らずといってよい。おそらく本作を観た多くの観客の脳裏に──怪獣映画以外で──浮かぶのは、藤子・F・不二雄の「大長編ドラえもん」的なSF感ではないだろうか。

むしろ藤子SFのほうが科学考証がしっかりとしているのではないかと思えるほど、本作は一事が万事ツッコミどころだらけであることは論を待たない。前作は主要登場人物全員が怪獣級の狂人ばかりで驚いたけれども、今回は畳み掛ける展開そのものが、普通の映画と思ってみると面喰らうこと間違いなしの狂いっぷり。これまでの1度の死者数が半端ないためか、目の前で人がどれだけ死のうがまったく動じない登場人物たちも可笑しければ、劇中に登場するすべてのセキュリティはガバガバである。

とはいえ、アイリーンやネイサンたちの地下世界への冒険はジュール・ヴェルヌコナン・ドイルといった古典SF、あるいは数多あるトンデモ冒険SF映画的な楽しさもあるし、かたやマディソンとジョシュたちのAPEX社潜入を巡る冒険も『グーニーズ』(リチャード・ドナー監督、1985)のような雰囲気が満載であり、本作を「そういったものだ」と割り切ってみれば、本作は最大級の笑顔を我々に与えてくれるだろう。



そして、そんな雰囲気をより増進するのが、本作の色使いである。ここ数年来世界を席巻している ’80年代リバイバル・ブームの波がついに「モンスター・バース」シリーズにも到来したとみえて、本作では登場するメカニックは大小を問わずすべて青と赤のネオンカラーが採用されており、いうなれば『トロン』シリーズなどを髣髴とさせるポップな色世界となっている。極めつけはネオンサインきらめく香港100万ドルの夜景にて展開されるコングとゴジラの対決シーンということになろう。

もちろんトム・ホーケンバーグ(=ジャンキーXL)による劇判でも、壮大なオーケストラのなかシンセベースがビートを刻み、あまつさえ『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督、1982)で流れたヴァンゲリスの音楽にそっくりな楽曲さえ登場する。こういったオーケストレーションの方向性で伊福部昭による「ゴジラのテーマ」を聴いてみたかった気もするが、本作では登場せず残念だ。


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といった具合に、本作の持つ極端なまでの陽気で能天気な──あえて言ってしまえば──馬鹿馬鹿しさを是とするか非とするかで、評価がパッキリと分かれることだろう。ここまで書いてきた僕でさえ正直、少々やりすぎな感がしないでもない。

だが、それを差し置いても素晴らしいのは、本作の怪獣バトル──その充実さである。本作はこれまでのシリーズ──とくにゴジラが登場する2作──と比べても、格段に怪獣の見せ場はグレードアップしている。



まずは画面の見易さだ。これまでのリアルな黒味(第1作)、もしくは宗教画的な色調(前作)で統一された画面もそれはそれで魅力だったが、いささかハッキリとは怪獣が見えないという難点もあった。しかし本作では、先述のように ’80年代映画的な明るい色味が強調されたことでシーンの昼夜を問わず怪獣たちの雄姿と挙動がかなり見易くなっている。

またボリュームである。これまで怪獣同士の闘いの最中に人間パートが頻繁にカットバックされる割合が多かったのに対し、作り手たちも「怪獣プロレスなら、主役は怪獣である」と徹底したのだろう、本作ではゴジラとコングの激闘をシーンとして、きちんとまとめて見せてくれるのが嬉しい。空母の上という対戦場所も新鮮なゴジラ対コング1回戦目にしても、香港での第2 および第3回戦目にしても、それぞれがそれぞれの得意技を繰り出しながらモミクチャになり、周囲のビルをなぎ倒して闘う躍動感を余すことなく、尺もしっかり取ってじっくりと映し出す。



そして、それを捉えるカメラワークも本作は素晴らしく、巨大感を強調するアオリの画も然ることながら、ときおり挿まれるアクロバティックなカメラワークも効果的。とくに、香港の高層ビルを軽やかに飛び移るコングを追いかけながら捉えるショットや、コックピットからの主観で怪獣スレスレをかすめるショットなど、ライドに乗っているような臨場感と迫力を与えてくれるだろう。

加えて、本作ではゴジラやコングの足許がきちん映されるショットが多かったのも印象的だ。「平成ガメラ」シリーズ(金子修介監督、1995~1999)以降、怪獣の巨大さを醸しつつミニチュア・セットである印象を弱めるためだろう、瓦礫の山を踏む怪獣たちの足許を捉える広い画を見かけることが少なくなった感があったけれど、本作では俯瞰でゴジラやコングを捉えるショットも頻出し、崩れ落ちたビルの瓦礫に彼らがしっかりと立ち、あるいは倒れ込んでいる様子を見ることができる。

もちろん、本作の怪獣バトルにおいてミニチュア・セットなど作られているはずもないが、このカメラワークのおかげでミニチュア感も陳腐にならない程度に醸されていて面白い。CGであればこそ、むしろこの手の映像は足許の瓦礫の挙動などを描き込まなければならないために返って手間が増えそうなものだし、怪獣の巨大感を削ぐリスクもあったろうに、敢えてこのカメラワークを選択し、かつ効果的に使用してみせたことは見事である。


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ことほど左様に、よくも悪くも怪獣プロレスに振り切った本作は、いわゆる万人向けのよくできたエンタテインメントではないかもしれない。しかし「それはそれ、これはこれ」というように、その極端なまでの一点突破型の作劇にこそ魅力のある作品だ。なにより怪獣バトルに関しては、質と量ともに、これまでのシリーズのなかでも最大級の満足感を得ることができるはずであり、この世紀の怪獣スペクタクルを観るためにこそ映画館の大スクリーンに出かけたい1本だ。


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【以下、核心部のネタバレにつきご注意!】


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さて、『ゴジラvsコング』の闘いに決着はつくのか!? ──といったところで、思い出していただきたいのは、本作が怪獣プロレス映画であるということである。プロレスにおいて起こることのひとつに乱入がある。そして本作にもそれがある。ゴジラとコングがぶつかり合っていた香港市街というリングに殴りこみをかけるヤツがいる。それは誰か。

今回、王者2匹の闘いに乱入する本作の真の悪玉とは、予告編でも仄めかされていたようにメカゴジラである。本作でメカゴジラを作ったのは、前作まで登場していた芹沢猪四郎博士(演・渡辺謙の息子・蓮(演・小栗旬)であり、彼はAPEX社の技術者としてCEOウォルターの下で密かにこれを建造していたのだ。あの親にしてこの息子ありというか、とんだグレ息子である。そして冒頭でAPEX社の工場をゴジラが襲ったのはこのためだったのだ。



本作のメカゴジラの造型は、これまで日本でのシリーズに登場したどのメカゴジラともデザインの方向性が異なるのが興味深い。昭和、平成、ミレニアム、そして怪獣惑星(一応)のシリーズに登場した機体のような洗練された線は排除され、ゴジラを模してはいるが、あくまで工業製品であること示すような姿が新鮮だ。両手などは文字どおりロボット・アーム *1のようであり、その無骨なデザインは、ガシャンガシャンと音を立てながら歩く姿にとても合っている。

操縦は遠隔で、前作のラストにちょっとだけ登場したギドラの生首(の骨)を生体コンピュータとして経由して操縦者──蓮自身──の精神を連動させて駆動するという仕組みだ。稼動域の隙間には各種ミサイルを配備し、口からレーザービームを発射して敵を圧倒する。このあたりの設定はこれまでの機体の設定からすこしずつ引っ張ってきているものだが、やはりもっとも類似しているのは昭和シリーズの『ゴジラ対メカゴジラ』(福田純監督、1974)と『メカゴジラの逆襲』(本多猪四郎監督、1975)に登場した2体だろう。

とくに精神連動によってメカゴジラを操縦するという設定は、エヴァンゲリオンや『パシフィック・リム』(ギレルモ・デル・トロ監督、2013)に登場するイェーガーというよりも、『メカゴジラの逆襲』にてヒロインのサイボーグ少女・桂が自身に組み込まれたコンピュータによって遠隔操作することの引用かと思われる *2



また、ゴジラとコングの頂上決戦に割って入る役回りが “メカ” であることは、必然である。というのも、ご存知のようにゴジラだけでなく、かのコングにもメカ版が存在するからだ。それは『キングコングの逆襲』(本多猪四郎監督、1967)に登場する電子怪獣メカニコングであり、2匹は東京の浅草を舞台に、最終的には東京タワーによじ登りつつの大格闘を演じるのだ。

思えば今回、コングが地下世界探索 *3のために氷原が拡がる南極に連れて来られた際の画面やシチュエーションは、『キングコングの逆襲』にて、悪の天才科学者フーが放射性物質「エレメントX」の採掘のためにキングコングを北極に拉致する展開にそっくりである。

このように、それまで命懸けの争いを演じたゴジラとコングが、それぞれがかつて敵対したことのある ”メカ” を相手についに共闘するというクライマックスの展開は、それはもう盛り上がること必至。重量と遠距離のゴジラ、そしてスピードと柔軟さのコングの息がついに合致して繰り出される攻撃に拍手喝采*4 *5

そして互いに健闘を称え合うように別れる両怪獣の笑顔の清々しさ! うーん、100点!


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このように、なんとなく──しかし両者の顔を立てて、とっても気持ちよく──ウヤムヤにされたように思えるゴジラとコングの決着だが、作中において第1回戦はコングの判定負け、第2回戦はゴジラのK.O.負け、そして第3回戦においてはコングのK.O.負けがしっかりと描写されている。したがって本作『ゴジラvsコング』の勝者は2勝1敗でゴジラであり、ウィンガード監督の初心はしっかりと果たされていたことは記憶に残したい。

とにもかくにも素晴らしい名勝負、名試合を活写してくれてありがとう──本作は、その実それに尽きる。


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【おまけ: 備忘録】
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*1:バーニーが「ロボット・ゴジラだ!」と言った直後にジョシュが「いや、メカゴジラだよ」と訂正するのが可笑しい。

*2:本作のラストで海に帰るゴジラを映す空撮ショットは『~の逆襲』のそれにそっくりだ。

*3:余談だが、コングが地下世界で最初に闘うヘビとコウモリを合わせたような怪獣は、『キングコング』(ジョン・ギラーミン監督、1976)に登場した大蛇との闘いのオマージュだろう。ちなみに、ランス・レディックが演じるモナーク司令官の名前はギラーミンである。

*4:ところで、メカゴジラが文字どおり硬質なため、本作ではコングはもちろんのこと、ゴジラがひたすら人間くさく表情豊かなのが見所のひとつであり、少なくとも映画作品ではこれまで誰も見たことのなかった満面の笑みを浮かべるゴジラという珍しい光景を目にすることができるのも特色だ。

*5:ちなみに『キングコング対ゴジラ』において、唯一ゴジラとコングとが共同に行うのが熱海城の破壊であった。くんずほずれつの闘いを演じつつ富士山麓から熱海まで下った両者は、ふいに城を挟んで対峙したかと思うと、ものすごい勢いで両側から城に殴りかかって大破壊に興じるのだ。つまり、本作のメカゴジラ熱海城にほかならない(暴論)。