2022 3-6月 ひとこと超短評集

3月以降に劇場で観たにもかかわらず、とくにこれといった理由もなく、なんとなく書きそびれていた作品群の、ひとこと超短評集です。


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【なんとなく書きそびれていた劇場鑑賞作品の超短評(3-6月)
◆地図にない場所に眠る秘宝を巡るネイサンとサリーの冒険を描くアンチャーテッドルーベン・フライシャー監督、2022)は、冒険活劇映画を体験することをコンセプトにしたゲームを映画に逆輸入した作品だけあって、天井知らずな握力の持久力によって繰り広げられる立体的で荒唐無稽なアクションの連続が楽しい。また、この手の作品に珍しく、登場人物の誰しもが大なり小なりクソ野郎なのも可笑しい。


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◆とある夫婦の新婚旅行中に起こった不可解な殺人事件にポワロが挑むナイル殺人事件ケネス・ブラナー監督、2022)は、前作からとあるキャラクターを続投させたことや、観ている最中は無駄かと思われた冒頭の第1次大戦シーンを巡るアレンジによって、ポワロの人物像をより深く抉ってみせるのが、本作最大の見どころだろう。ラストシーンのなんとも知れぬ切れ味と切なさよ。


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◆やがて世界トップクラスのテニス選手となるウィリアムズ姉妹を、父リチャードがいかにして育てたかを描く『ドリームプラン』レイナルド・マーカス・グリーン監督、2021)は、親の夢を子に託すタイプの教育が持つ明暗を、劇中の様々な比較対象によって描いていて興味深い。勝負に負けてなんとやらを地で行くラストの爽やかさも格別だ。


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◆夜ごとの自警活動を始めて2年経ったバットマンの前に、謎の犯罪者リドラーの不穏な影が現れる『THE BATMAN-ザ・バットマン-』マット・リーヴス監督、2022)は、’70年代ノワール映画を思わせるダークで陰湿な雰囲気が見事にフィルムに定着された1作だ。心身ともにやつれはてているバットマンブルース・ウェインを演じたロバート・パティンソンの存在感、「アヴェ・マリア」の変奏によって醸されるリドラーの不気味さときたら、たまらない。


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◆バスター・ムーンたちが大都会でのショーを行うべく、引退した伝説のロック歌手キャロウェイを引っ張り出そうと奮闘するSING/シング: ネクストステージ』(ガース・ジェニングス監督、2021)は、思わずリズムを取りたくなるような楽曲と見栄えのよい振付けが合致したミュージカル・シーンとコミカルでスラップスティックなギャグ・シーンによって、非常に勢いのよい作品だ。いっぽうでふと我に返ると、前作以上に独り相撲で他人に迷惑をかけまくるムーンの唯我独尊ぶりは若干ノイズだったか。


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見世物小屋に流れ着いた浮浪者スタンがやがてコールド・リーディングを習得する『ナイトメア・アリー』ギレルモ・デル・トロ監督、2021)は、全篇にわたって映されるおどろおどろしくも鮮やかな色彩と、やがて物語がたどる円環構造を思わせる丸のラインを巧みに用いた舞台セットのデザインが美しい1作。冒頭の短いシークェンス一発で、本作がこれからたどる悪夢感を見事に描出せしめた演出の巧みさで、全篇に渡って、じんわりとした不穏さを楽しませてくれることだろう。


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◆薬物依存を克服したジェームズとその飼い猫ボブが体験したクリスマスを描く『ボブという名の猫2 幸せのギフト』(チャールズ・マーティン・スミス監督、2020)は、本作出演後に惜しくも亡くなった名優猫ボブの達者な立ち振る舞いと、人々の善意の心が胸に染み入る1作。ただ、本作のメインストーリーの時間軸が、前作でのどのあたりになるのかが若干つかみづらかったのは惜しい。


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ドクター・ストレンジマルチバースから移動してきた少女アメリカ・チャベスと出会うドクター・ストレンジマルチバース・オブ・マッドネス』サム・ライミ監督、2022)は、これでもかこれでもかと炸裂するサム・ライム節がなんとも楽しい1作(ライミ版『スパイダーマン』3部作にも登板したブルース・キャンベルの吹替えに、同じ江原正士をキャスティングしたのはエライ)。MCUってこんなにドバドバ血を流して大丈夫だったんですねえ。


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◆重力異常をきたした東京でパルクール・ゲームに励む若者たちの前に謎の少女が現れる『バブル』荒木哲郎監督、2022)は、縦横無尽に駆け回るアクション・シーンの楽しさと、泡の表面に映る様々な色のように不思議な鮮やかさを再現した色彩設計の美しさは突出しているけれど、いかんせん話運びがお粗末に過ぎるのがもったいない。というのも、伏線を張る前にその答えを映す展開しかないからだ。TVアニメシリーズ的なオープニング・タイトルを入れたことで最初のアクション・シーンのインパクトがひどく弱まっているという序盤の作品構築が、本作の決定的な欠点を如実に表している。


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◆ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル海軍大佐が、とある作戦実行のために教官職を命ぜられるトップガン マーヴェリック』ジョセフ・コシンスキー監督、2022)は、脚本が若干弱いかなと思う部分──集まった候補生の半分に文字どおりスポットどころかカメラも向かないのは特に気になった──はあるけれど、前半においてピートの脳裏にとある過去が一気に去来するシーンの見せ方とトム・クルーズの演技、そしてなんといっても実機にIMAXカメラを設置して撮影した飛行シーンの臨場感と迫力は、見応え抜群だ。ぜひ劇場で観ておきたい。


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