2022 7-10月 ひとこと超短評集

7月から10月にかけて劇場で観たにもかかわらず、とくにこれといった理由もなく、なんとなく書きそびれていた作品群の、ひとこと超短評集です。


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◆人気女流作家とその表紙を飾るイケメンモデルがひょんなことから孤島での宝探しを強要される『ザ・ロストシティ』(アーロン・ニー、アダム・ニー監督、2022)は、いわゆる古めかしいハーレイクインものを思わせる宣伝だったし、表面的には馬鹿馬鹿しいユルいギャグやツッコミどころ満載だが、観終わってみると本作はむしろそんなジャンル的なお約束をことごとくパロディにすることで、非常に今日的な価値観で映画を作っていたことがわかるだろう。各キャラクターの設定や関係性に見えるジェンダー的批評性や、そのじつ他者をお互いに思いやる重要さを物語として丹念に描くことで観客に思い起こさせてくれる良作だ。


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アベンジャーズを引退したソーが「神殺し」の異名を持つゴアと対峙する『ソー: ラブ&サンダー』タイカ・ワイティティ監督、2022)は、ベテラン俳優陣らのアンサンブルや底抜けに明るく絶妙にユルいギャグ、そして『ウルトラマンティガ』の最終回を思わせるようなクライマックスの闘いなど、全体的に楽しい楽しい、そしてそのじつ宗教とはなにかという遠大な問いにも真っ向勝負を挑んだ見応えのある作品だ。ただ、ナイトシーンが例によって今日的な色調設計で文字どおり暗くて見づらいのがもったいない。本作こそ、'80年代映画的な夜の明るい色合いを再現するにふさわしい作品だと思うけれど……。


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◆ときは ’70年代、悪党集団にひょんなことから誘拐されたグルー少年を救うべく、ミニオンズたちが一路サンフランシスコを目指すミニオンズ フィーバー』カイル・バルダ監督、2022)は、ここ2作品ほどどうにも煮え切らなかったフランチャイズのなかでは、かなり持ち直してきちんと楽しい作品だった。アメリカにおけるブラックエクスプロイテーション映画とカンフー映画、そしてディスコがブームの時代背景をうまく取り入れているのと同時に、少年期のグルーが師と仰ぐのが──やがて彼自身がそうなるように──いまでは時代遅れとも思われる過去のムーブメントに生きる人物なのが泣かせる。順序的には次は '80年代ということになろうが、ただそれはもうシリーズでやっちゃってるんだよな(どうするのだろう)。


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◆恐竜が世に放たれた世界でひそかに進む世界的な陰謀にオーウェンとクレアが挑むジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(コリン・トレヴォロウ監督、2022)は、 “そこの角にふつうに恐竜が歩き回っている” 日常を、どこか西部劇をも思わせる静かなタッチで描く序盤の抒情は非常に心惹かれるのだけれど、いわゆる取りもの合戦になってゆく中盤以降どうにもグダグダともったいぶった展開になってしまったのが残念だ。なんとなれば、本作も売りであったろう「ジュラシック・パーク同窓会」要素が蛇足以外のなにものでもなく、だったら「~ワールド」の主人公であるオーウェンやクレアたちの物語を掘り下げていったほうが見応えがあったのではないか。


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◆とにかく不運な殺し屋レディバグの請け負った簡単な仕事が大きな陰謀に繋がってゆく『ブレット・トレイン』デヴィッド・リーチ監督、2022)は、原作のいかにも伊坂幸太郎的なパズル的な物語構造と、新幹線という閉所空間と内部にある小道具を最大限に活かしたアクションと殺陣の見事な構築が合致した1作だ。タランティーノ映画的な台詞の応酬シーンをもうすこし摘まんで、尺をもうすこしタイトに仕上げたなら、より一層ひきしまった作品となったろうけれど、それはそれとしても真田広之の相変わらずの動きの素晴らしさよ!


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1920年、英国植民地時代のインドはデリーで出会ったビームとラーマが友情と運命の狭間で激闘する『RRR アールアールアール』S・S・ラージャマウリ監督、2021)は、驚天動地とはこのことと言わんばかりのアクションシーンが目白押しで、約3時間の上映時間もあっという間だ。予告編でも大きくフィーチャーされた「どったんばったん大騒ぎ」な中盤の見せ場ももちろん、前半とクライマックスとできちんと対をなすアクション構築、そしてなにより荒唐無稽なアクションをきちんと説得力を持たせるキャラクター描写の厚みが、本作の世界を実在感をもって立ち上がらせているのが素晴らしい。冒頭に流れるケチャのようなコーラスワークがダイナミックな劇伴をはじめとした音楽の聴き応えや、ダンスシーンのなんとも知れぬ多幸感も味わい深い。


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◆27年前に人知れず飛来した宇宙船に搭載されたA.I.に出会った少年少女たちの冒険を描く『ぼくらのよあけ』(黒川智之監督、2022)は、今井哲也による原作漫画を手堅くまとめた脚本と、アニメーションの動きや背景美術による画面密度など申し分ないのだけれど、であればもっと台詞を削って言語的で直情的な感情表現を抑えれば、もっと映画になったのではないか。もったいない。