2025年7月に、思い出したかのようにちょこまかとX/旧twitterにて書いていた短い短い映画感想の備忘録(一部加筆修正)です。
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【劇 場】
◆世界地図に載っていない謎の孤島に秘められた巨大な陰謀にルパン三世たちが挑む『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』(小池健監督、2025)は、シーンごとを観れば面白いところは多いのだけど、全体としてはもうすこしやりようがあったのではないかと首を傾げたくなる1作だった。
本作は『次元大介の墓標』(同監督、2014)を皮切りに、これまで第4部まで制作された「LUPIN THE THIRD」シリーズの第5部に当たり、これまでチラホラ張られていたラスボスへの伏線が回収されるべき1作だ。たしかに、さすがテレコム作画だけあって全編にちりばめられたアクション・シーンの臨場感あふれる動きは見応えがあるし、無気味に脈動する島の──これまで登場した孤島の要素 “全部” 盛りのデザインや設定も奇抜な──美術や、本作のファム・ファタルである少女サリファの妖しい表情も面白い。
ただ、いっぽうで気になる点も少なくない。アバンに附された “これまでのあらすじ& 1stOP風の登場人物紹介” は正直蛇足だし──これまでどおり、いきなり物語を開始したほうがスマートだろう──、そこかしこに登場するテロップや日本語字幕 *1も必要性をあまり感じず、ふいに始まる設定説明シーンが本当に説明に徹していて面白みに欠ける。そしてなにより、本作ではフラッシュバックを多用しすぎであり、これがただでさえ本作では2か所以上を同時並列にカットバックするために維持が難しいであろうテンポを削ぐ要因となっていてもったいない(もうすこし観客を信頼してほしい)。
そのうえ観客には提示されていないことまでフラッシュバックされては、これはもう伏線回収ではなく後出しジャンケンであって、かえって物語の顛末の納得度を下げてはいまいか。また納得度といえば、いくらなんでも本作の結末は諸々煙に巻きすぎであって、これで行間を読めというのはいささか乱暴だろう。せめて、誰がどういう動線を辿ったのかなど、もうすこし事件の顛末をきちんと描いてほしかった。
ことほど左様に、なんだかもったいないなァというのが、本作の印象だ。これまでの「LUPIN THE THIRD」4作を楽しんできた身としては、シリーズの魅力だったケレンなアクションによる洒脱なオチをいまいちど期待していたのだけれど、それは果たされなかった。
〇
◆かつてのパンデミックから逃れるために隔離された孤島の村で生まれ育った少年スパイクが、村の掟に沿って父とともに狂暴化ウイルスに感染した者たちの跋扈する本土へと渡る『28年後…』(ダニー・ボイル監督、2025)は、なんとも知れぬ不思議な風味を醸す1作だった。
もちろん第1作『28日後…』(同監督、2002)からして、観た者に不思議な感情を抱かせる──まさしく脚本のアレックス・ガーランドのタッチ──ロード・ムービー風のゾンビ映画だったけれど、本作はそれともまたどこか異なる風合いだ。本作で描かれる要素を雑多に思い出すなら、まるで中世ヨーロッパに退行したかのようにも見えるムラ社会と風習、森の中に立ち現れる石造りの建物の残骸、緑美しい丘の稜線に並ぶ人々のシルエット、ときおりハタと訪れる神々しい光景のショット、ひたひたと忍び寄る無気味な死の影と新たなる生命の誕生、そして新世代への希望……と、なるほど本作は『第七の封印』(イングマール・ベルイマン監督、1957)をゾンビもの──思えば『第七の封印』もパンデミックものともいえるだろう──として愚直なまでに再構築しているのではないかしら。
〇
◆『スーパーマン』(ジェームズ・ガン監督、2025)は、ほんとうに素晴らしかった。まさに「いま」──世界を分断で覆い、さらにそれを加速させようとする大馬鹿者どもが蔓延る「いま」こそ──観たいヒーロー映画を体現した見事な見事な1作だ。
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◆宇宙線の影響で特殊な能力を得た4人組が、ギャラクタスによる地球存亡の危機に立ち向かう『ファンタスティック4: ファースト・ステップ』(マット・シャックマン監督、2025)は、画面のなんとも懐かしい風合いが楽しい1作だった。
本作は架空の1960年代を舞台としているだけあって、衣装から小道具、スーパーカーから宇宙船といったメカニック、テロップからタイトル・デザイン、そして現実のニューヨークの街並みに少々追加された建造物にいたるまで、その形状や色彩にレトロでアナログ、それでいてちょっとモダンな '60年代SF的なデザインを徹底して採用しており、かつて観た当時の映画作品をついつい懐かしく思い出してしまう。この21世紀に、噴射口を真下に向けて発射台にそのまま垂直着陸して帰還するロケットを劇場で、しかも新作で観られるなんて、ちょっと感動してしまった(空飛ぶ車の演出が途端に『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督、1982)風味になるのはご愛敬か)。『大魔神』(安田公義監督、1966)もかくやのクライマックスも楽しい *2。
ただ、目に映る数々のデザインが素晴らしかっただけに、例によってVFXの粗さの誤魔化しのためか、フィルム・グレイン強めの画調が本作ではとくにもったいない。できることなら、もっとパッキリくっきりとした画調で観たかった、というのは贅沢なのかしらん。とはいえ、本作に限っていえば、これまでのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)とは別の世界線(アース)という設定もあって、とくに予習の必要性も感じなかった──冒頭に附されたバラエティ番組風の設定説明はクレバーな演出だ──ので、単品の作品としても見易いのも、また美点である。旧約聖書におけるアブラハムの逸話を逆転させたかのような物語も、いま必要な正義とはなにかを観客に考えさせてくれるだろう。
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【ソフト/配信】
◆とある独裁国家の指導者への取材を敢行する記者クレアの護衛を引き受けた元特殊部隊メイソンの活躍を描く『ザ・ボディガード ローグ・ミッション』(ピエール・モレル監督、2023)は、決して巧い映画じゃないのだけれど、いかにも遅れてきた '80年代アクション映画かしらんと観ていると、ところがどっこい至って真面目な物語展開をみせる本作は、これを主演に選んだジョン・シナの人柄を思わせるようで味わい深い。
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◆些細なことからいがみ合う合衆国大統領と英国大統領が、凶悪なテロリストたちに戦いを挑む『ヘッド・オブ・ステイト』(イリヤ・ナイシュラー監督、2025)は、いかにも遅れてきた ’80年代アクション映画然とした愉快なアクション映画だった。
もともと、どちらの主人公も軍隊上がりという設定だったのを最終的にはジョン・シナ演じるウィル・デリンジャーをアクション映画スター出身の大統領としたことで、いよいよ「もしもシュワちゃんが大統領になったら!?」といった雰囲気が笑いを誘うし、クライマックスで展開される1対多数のカーチェイスは懐かしのジャッキー・チェン映画のタッチで楽しい。そうはいっても、本作最大の敵が自国ファーストと世界の分断を目論んでいるあたり、たいへん今日的な問題にも切り込んだなかなか見応えのある作品だ。
それにしても、冒頭のトマト親父ギャグの応酬が──原語版でも吹替え版でも──ほんとうにくだらなくて好きでね……。
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