2023 ひとこと超短評集【Part 3】

今年になって劇場で観たにもかかわらず、とくにこれといった理由もなく書きそびれていた作品群の、ひとこと超短評集【Part 3】です。備忘録、備忘録。


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◆自我を持ち暴走を始めた最新軍事AI ”エンティティ” を巡って、イーサン・ハントたちの戦いが始まる 『ミッション: インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』クリストファー・マッカリー監督、2023)は、驚天動地の生身アクションが「これでもか、これでもか」とつるべ落としに展開される一大巨編だった。予告編でさんざんフィーチャーされた、バイクにまたがって絶壁の崖から飛び降りるアクションなど──撮影順からいっても──序の口も序の口。パリ市街でのフィアット500を駆ったコミカルなカーチェイス、疾走する列車の内外で展開される格闘戦、そして相変わらずよく走るトム・クルーズなどなど、どれもこれもよく練られた素晴らしいアクションの連続。なんとなれば、そのあまりの高カロリーさに、中盤で観ながら数秒気を失ったほどだ。

もし本作をご覧になったのなら、ぜひYoutube にアップロードされている公式メイキング動画も合わせて観てみたい。映画全篇で繰り広げられる多彩なアクションをいかにして撮ったのか、その驚愕狂気の現場を垣間見られることだろう。


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◆配管工事のさなか、別次元に存在する「キノコ王国」に迷い込んだマリオとルイージの活躍を描く『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(アーロン・ホーバス、マイケル・イェレニック監督、2023)は、3DCGアニメーションだからこそ成し得た見事なゲーム「マリオ」の映画化作品だった。いわゆる横スクロールアクションゲームの2Dプレイ画面をいかに立体的な世界に落とし込んでみせるか、そしてそれを観客に違和感なくリアルなゲームプレイ感覚を想起させるか、さらにそれを──ゲームの進化と同様に──3D世界にふたたび戻してゆくのか……といったゲームを映画化する際に避けては通れない──そして難しい──要素に真正面から立ち向かい、そして見事に映画へと昇華させた作り手たちの技量と努力がスクリーンに焼き付いている。

イルミネーション・スタジオお得意の抱腹絶倒ギャグの乱れ撃ちも楽しく、同時にマリオが救うべき相手がルイージであり、メンターがピーチ姫であるという本作独自のキャラクター配置のアレンジがとても今日的な価値観に刷新されている点も、じつは気配りが効いていて印象深い。そして、ドラマがクライマックスに突入して最大の盛り上がりを見せるかな、ふいに『新世紀エヴァンゲリオン』(庵野秀明監督、1995-1996)へのオマージュが蹴り出されたときには「なにやってんだよ」とひっくり返りました *1。そんなこんなで本作は、ゲームの映画化作品として、ひとつの試金石となるだろう。最高。


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貧困層の青年ノアが、ひょんな拍子に古代の遺物を巡るオートボットたちの闘いに巻き込まれるトランスフォーマー/ビースト覚醒』(スティーヴン・ケイプル・ジュニア監督、2023)は、舞台となる1990年代当時の映画ではあり得なかったであろうキャスティングと、そこかしこで流れるヒップホップ・ミュージックの取り上げ方に、なるほど今日(こんにち)でしか成し得なかった映画化作品として存在感を放っているし、出来得る限り原作アニメの日本放送版『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』の雰囲気に近づけた日本語吹替え版の完成度も嬉しい*2

もちろん、いくらなんでも仕掛けが雑すぎるとか、なんでそんなところにピンポイントでスイッチがあるのか、などなどツッコミどころも多いといえば多い本作だが、アクション的な白眉は、中盤に展開されるペルーの禿山にウネウネと敷かれた山道でのカー/トランスフォーマーチェイスのシーンだろう。文字どおり縦横無尽、こちらに向かって走る車両の奥で山をくんずほぐれつ転がり落ちるオートボットたちの戦闘を1ショットに収めるなど、立体的でケレンの効いたアクションを楽しめるだろう。主人公をふたりにしたことで、ドラマ部分が若干弱くなった気もするけれど、新しくも肩ひじ張らない湯加減のエンタメ作品として、ちょうどよい1作だ。


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◆上海沖200キロにある最新の海洋研究施設を古代より生き残ったメガロドンたちが襲うMEG ザ・モンスターズ2』ベン・ウィートリー監督、2023)は、前作が “世界イチ信頼のおけるハゲ” ジェイソン・ステイサムと “世界イチの超巨大ザメ” メガロドンとが並び立つ画でもはや100点満点の作品だったのが、本作ではサメの数からクリーチャーの種類から “ズ” とあるだけあって倍々ゲームで10,000点、といった風味の1作だった。

本作で次々に繰り出される荒唐無稽──といえば聞こえはいい──な展開と設定の数々への説得力を、すべてステイサムの存在感ひとつで支えているという、映画以上にスリリングなバランスで成り立っているのが、1周回って凄まじい。直前のシーンで超絶深海の水圧のためにひとり死んでいるのに、同じ場所で「鼻抜きすれば大丈夫」とフンスと素潜りをかましてしまうステイサムの姿は、本作の白眉だろう。どんなに「そんなバカな」と思っても「だってステイサムだもの」でなんとなく納得してしまう、この不思議な気持ちはなんなのでしょうね。スターとは、こういうことなのかもしれませんね。


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*1:どうみても「瞬間、心、重ねて」ですよね。

*2:日本版の監督を務めた岩浪美和が、実写化シリーズには初めて吹替え版演出として登板している。