2022 2月感想(短)まとめ +α

2022年2月に、ちょこまかとtwitterにて書いていた短い映画感想の備忘録(一部加筆修正)です。それにくわえて、この2ヶ月間に劇場で観たにもかかわらず、とくにこれといった理由もなく、なんとなく書きそびれていた作品群の、ひとこと超短評集です。


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【劇 場】
◆生活に困窮し、亡き祖父の持ち家で暮らすこととなったフィービーと兄トレヴァー、母キャリーの家族のまわりでゴーストが騒ぎ出すゴーストバスターズ/アフターライフ』ジェイソン・ライトマン監督、2021)は、「まさか」と思いつつも涙させられる素敵な続篇だった。


本作は ’80年代に一世を風靡した第1作『ゴーストバスターズ』(アイヴァン・ライトマン監督、1984)と第2作『ゴーストバスターズ2』(同監督、1989)の続篇。監督には父アイヴァンから息子ジェイソンが引き継いで登板(脚本も担当)し、30年あまりの時間差を経て制作された “久々” のパート3である。

そんな本作は、どんなにチンチクリンな格好をしても抜群の存在感と演技力でスクリーンを引き締めるフィービー役のマッケナ・グレイスを筆頭に役者陣の好演は見事だったし、テイストは尊重しつつも '80年代当時では絶対に不可能であったろう精緻なVFXによる映像の迫力も満点だ。鮮やかで微細な光の表現や、テラードッグの見事にブラッシュアップされた存在感など素晴らしい。あの人やこのゴーストにその道具と、いたるところに懐かしの面々がファン・サービスも楽しい。しかしそれ以上に驚くのが、本作全体を彩るタッチの差だろう。


『1』と『2』が、いわゆる幽霊モノにコメディの要素と、いかにも '80年代らしいトレンディドラマの風味とを掛け合わせた作劇であった──だから、暗喩的には案外エロティックな作品でもある──のに対し、本作では主人公が子どもたちということもあって、そういった要素はほぼオミットされている。舞台も大都会ニューヨークからオクラホマ州の田舎町へと、その風景の情感は大きく一変する。

もちろんこういったルックだけではない。ポツネンと暗闇に佇む家のまわりで幻想的に舞うオレンジの光、カメラ位置を低く設定して撮影されるカー・チェイス、向こうからユサユサと小麦畑を揺らしながら近づいてくる “なにか”、オープニング・タイトルの表示のさせ方やタイミング、少年少女が手を取り合って冒険する基本設定、そもそも本作の物語がシングルマザーであるキャリーと子どもたちとの関係性や、彼女の父との確執を根幹に添えていたりと、はっきり言って本作は非常にスティーヴン・スピルバーグ映画的なのである。キャリーとのあいだにロマンスが芽生えるゲイリーが、腰にキーチェーンを提げてチリチリ鳴らすショットがあるのも──その役柄としての前振りももちろんのこと──言わずもがなのオマージュだろう。

’80年代において、スピルバーグが様々なジャンルを往来しつつも、家族に生じた軋轢や確執を一貫して子どもの視点から切り取って描いてきたこと *1を思い起こすなら、同じころに作られたシリーズの続篇にそのタッチを持ち込んできたことは興味深い。1977年生まれのジェイソン監督が多感な時期を過ごすなかで、父アイヴァンの背中を間近に眺めつつ、まちがいなくスピルバーグ映画にも触れているだろうから、彼のなかでの ’80年代ノスタルジアとは、本作がスクリーンに映し出すタッチとして血肉になっていたのではないだろうか。


これらの要素がついに終結するクライマックスの展開には、自分でも驚いたことに思わず涙してしまった。物語的にも、そして「彼」がどうして本作でこういったかたちで登場したからかといえば、もちろん「彼」を演じた人物がすでに故人であるからだけれど、それも含めて見事な大団円だ。

もちろん、粗がないではない。フィービーがゴーストの存在を受け入れる展開がいくらなんでも雑だったり、彼女の新たな友だちとなるポッドキャストが不意に “文字どおり” 居なくなる場面がそこかしこにあって不自然だったり、フロントガラスまだ直してなかったンかいといったツッコミもあるけれど、これはこれでシリーズらしい御愛嬌といったところか。

いずれにせよ、久々の続篇としてたいへん満足させていただいたし、余談ながら「ややや ケッタイな」はどうなっているのかを確かめるためにも、ぜひ劇場へ出かけたい1作だ。


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【ソフト/配信】
◆遠未来、地下世界で独自の進化を遂げた人造生物「マリガン」の生態系を調査するため、主人公がひとり人知れぬ世界に挑む SFストップモーションアニメ『JUNK HEAD』(堀貴秀監督、2021)は、「こ、これを(ほとんど)ひとりで……!?」と驚愕せずにはおれない見事な作品だ。まことに個人制作とは到底信じられないような映像のクオリティも然ることながら、アクション構築の面白さ、ユーモアの楽しさ、そしてドラマ部分のちょっとした演出の機微まで、とにかく手抜きがない。これらがあればこそ、本作のなんとも知れぬ “キモ可愛い” 世界観が活き活きと実在感を持って立ち現われ、観客にも愛着を持って受け入れられるに違いない(キモいところは本当にキモいのでご注意あれ)。また、本作がそこかしこにオマージュしていると思しきアレコレの作品群って「オイラも大好きなヤツじゃん!」と親近感を抱かずにはおれない。続篇もぜひ実現してほしい。とにかく、凄いものを観させてもらった。


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【なんとなく書きそびれていた劇場鑑賞作品の超短評(1-2月)
スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム』ジョン・ワッツ監督、2021)……トム・ホランド版「スパイダーマン」シリーズひとまずの最終作にしてオリジンとなった本作は、これまでの映画史のなかでも類を見ないアクロバティックでかつ、きちんと筋のとおった物語と構造が見事というほかない。無論、それゆえに多大な予習が必要だいう難点もあるけれど、その労に報いるだけの1作だ。


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『クライ・マッチョ』クリント・イーストウッド監督、2021)……イーストウッド監督主演最新作として、彼がこれまで背負い、そして都度更新してきた男性性/マチズモ(マッチョ)的イメージをどのように描くのか、という点においては興味深い作品だったけれど、いささか中盤の脚本が緩すぎて崩壊しかかっているのがもったいない。


     〇


『ハウス・オブ・グッチ』リドリー・スコット監督、2021)……ハイ・ファッションのブランド「グッチ」のお家騒動までの顛末を描く実録映画だけれど、強大な富と権力を持った家系にあるがための奇妙な狂気が全篇に溢れていて、それがもはやある種のコメディ映画としてすら成立するくらいのブラックな笑いを生んでいる。なによりグッチ家に嫁入りした主人公パトリツィアを演じたレディ・ガガの技量と存在感たるや、錚々たるキャスト陣のなかにあってまったく引けを取らない。


     〇


バイオハザード: ウェルカム・トゥ・ラクーンシティヨハネス・ロバーツ監督、2021)……完結したミラ・ジョヴォヴィッチ版に代わって新たにリブートされた本作は、とくに序盤から前半にかけてのキチンとホラー映画として観客を恐怖させる部分に見応えがある。ただ後半以降は、これでもかと盛り込まれた原作ゲームの要素が、むしろ作品のノイズになっている感も拭い切れない。もうすこし的を絞ったほうが、まとまったのじゃないかしらん。


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『ウエスト・サイド・ストーリー』スティーヴン・スピルバーグ監督、2021)……同名ミュージカルを原作とした、『ウエスト・サイド物語』(ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス監督、1960)以来の再映画化だが、やっぱりスピルバーグの天才性を痛感させられる見事な作品だった。縦横無尽に動き回りながらもダンスの振り付けを安定して捉えるヤヌス・カミンスキーの撮影、光と影のリアルさと美しさが共に際立つ演出、そして今日(こんにち)だからこそ可能になった物語細部のアップデートなど、見どころを挙げだしたらキリがない。


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*1:その視点が父のものになるのは、'90年代を待たねばならない。