2021 10月感想(短)まとめ

2021年10月に、ちょこまかとtwitterにて書いていた短い映画感想の備忘録(一部加筆修正)です。


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【劇 場】
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(キャリー・ジョージ・フクナガ監督、2021)……https://masakitsu.hatenablog.com/entry/2021/10/13/175559


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◆遠い未来、宇宙で最高の価値を持った香料〈メランジ〉の原産地である惑星アラキスの覇権を巡る領家間の戦争に巻き込まれたアトレイデス家の後継者ポールの姿を描くフランク・ハーバートの古典的SF小説の傑作を実写化した『DUNE/デューン 砂の惑星ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2021)は、予想の斜め上を行く、腰を抜かすほどに素晴らしい映像が体験できる傑作だった。


本作は、「U」の文字を90度ずつ回転させるだけで「DUNE」と読ませてしまうタイトル・ロゴの秀逸なデザインが端的に示すとおり、とにかく画、ヴィジュアルが素晴らしい。

デューン砂の惑星)こと惑星アラキスの広大ながらも微細に波打つ砂漠──その砂粒ひとつひとつにいたるまで──を捉えた画をはじめ、それぞれの領主が統治する惑星それぞれの表情を映し切った撮影──被写界深度を深く取ることで、より広々とした空気感を醸す画作りが印象的──が美しいのは当たり前のこと、登場する衣装から武器、戦闘機や香料収穫機といったメカニック、そして長大な建築物とその内装といったプロダクション・デザインの面白さもまた格別。映画前半に登場する領家あるいは皇帝が所有する抽象的でなめらかな質感の巨大宇宙船と、惑星アラキスの砂漠を飛翔するトンボを思わせるメカニックのディテールが楽しい戦闘機との対比など、その持ち主や使用目的によって様々に意匠の持ち味が違うのが世界観を拡げてくれるだろう。

もちろん本作の原作小説が『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』に大きな影響を与えた作品であったり、すでに──こちらもとくにヴィジュアル面は素晴らしい──デイヴィッド・リンチ監督版(1984)もあるので、既視感がないわけではないけれど、本作でも隅から隅まで作り込まれたデザインによって、このSF世界に決定的な存在感を与えている。

その世界を生きる登場人物たちのキャスティングも見事にはまっている。なんといっても主人公ポールを演じたティモシー・シャラメはやはり印象的だ。ギリシア彫像もかくやの彫の深くノーブルで甘い顔立ちにスラリとした長身の体躯は世界観にピッタリと似合っていたし、本作において常にどこか掴みどころのないアルカイックな微笑みを浮かべるシャラメの表情は、あれよあれよと領主同士の覇権戦争に巻き込まれたポールの心境と、出来る限り説明的な描写を省いた本作の語り口に呑まれる観客の心情との架け橋になってくれるはずだ。


そして、これらを──剣戟や戦闘シーンといった比較的スピーディなものも含めて──きちんとスケール感を伴って切り取ったカメラ・ワークとVFXとの融合によって、なんなら1ショットごとすべてがキメ画と言っても過言ではないほどに、本作の映像は見事。本作の155分という長尺もまた、それぞれのショットを味わうために必要な時間であって、もちろんこれを鈍重だと感じられる観客もあるだろうが、しかしこんなにも美しく壮大なショットがポンポンと飛ばされては勿体ないことこのうえないというものだ。この画に被さるサウンド・デザイン、そしてハンス・ジマーによる劇判も、世界を重層的に盛り上げる。

ただ惜しむらくは、──これは冒頭開幕のタイトルですぐに明かされることなのでネタバレでもなんでもないの思うのだけれど──本作が「PART 1」という序章である点だ。したがって無理やりにでも物語全篇を押し込んだリンチ版とは違って、本作のみではポールの物語は終結せず、申し訳程度に原作後半部の展開や戦闘シーンがポールの予知夢として挿入されている。なんとなれば、尺が5時間でも6時間でもいいので全篇語り終えるまでこの映像世界のなかに浸っていたかった! ……というのが正直なところだ。

また、砂漠を舞台とした超大作として本作が意識していないはずがないであろう──というよりも、ハーバート自身がこれのSF版を志した──『アラビアのロレンス』(デヴィッド・リーン監督、1962)*1にあった恐ろしいほどロング──尺も構図も──の1ショット1発ですべての状況を伝えきるような決定的な印象を残すショットが1ヵ所でもあれば、なおよかったのになぁ、というのは高望みが過ぎるだろうか。


とにもかくにも、僕の鑑賞した地方のシネコンのスクリーンにおいておや、映画に吸い込まれるような強烈で美しい映像を臨場感抜群に体感できたことはたしかであり、皆様方それぞれ鑑賞環境事情はあれ、できるだけベターな場所で観ていただきたい。また、平田勝茂翻訳による日本語吹替え版も良い出来だったので、映像に集中するなら、こちらのヴァージョンを選ぶのもありだろう。ヴィルヌーヴ監督、完結篇ゼッタイ作ってくださいね!


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【ソフト】
◆1979年の朴正煕暗殺事件の内幕 *2を描くKCIA 南山の部長たち』(ウ・ミンホ監督、2020)は、史実モノとしての面白さとイ・ビョンホン演じる中央情報部キム部長が陥る究極の中間管理職的困り顔の機微もさることながら、終盤での画面に映る様々なアクションをいかに動かすかの演出が素晴らしすぎる。


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*1:また実際に、最初の映画化企画は『アラビアのロレンス』組で製作する形で立ち上がったという。

*2:ただし、本作では登場人物の名前を架空のものに置き換えるなどしたフィクションとして作劇されている。