『宇宙人ポール』

ショーン・オブ・ザ・デッド』や『ホットファズ-俺たちスーパーポリスメン!』のサイモン・ペッグニック・フロストのコンビが放つSFコメディ。オタクのイギリス人のグレーム(サイモン・ペグ)とクライヴ(ニック・フロスト)は、アメリカ・オタクの祭典「コミコン」を訪れるために、アメリカにやってきた。ふたりはキャンピング・カーを借りての道中、ネバダ州のエリア51付近を通過したところで宇宙人のポール(声: セス・ローゲン)と出会う。彼は何ものかに追われており、ふたりに逃げる手助けをしてほしいというが……。


前2作がそれぞれゾンビ映画・刑事アクション映画への愛に溢れた傑作だとするなら、今作は俺たちの大好きなスピルバーグ映画(+それをはじめとした'80年代ボンクラ映画)への愛に溢れまくった──結論から言えば──大傑作である。

未知との遭遇』や『E.T.』を基調に、大小ありとあらゆるパロディとオマージュの連発(「例の倉庫」とかポールのミヤギ・モーションといった小ネタレベルから、チェイス・シーンでのカメラワークや編集の緩急など技術的な面まで)がもちろん楽しい映画ではあるのだけれど、前2作同様それだけに留まらないのがペッグ-フロスト映画の偉いところ。すなわち、そういったサンプリングが表層的なコピーで終わらずに、語るべき物語をきちんと語るために必然的に用いられており、しかもなおかつその必然性を持った演出のおかげで元ネタを仮に観客が知らなくてもちゃんと面白く映画を楽しめるような造りになっているのである*1。とにかく非常にやっていることが高度で恐れ入る。スピルバーグが『未知との遭遇』や『E.T.』において描き出そうとした他者(エイリアン)との対話というテーマをもう一歩踏み込んで、イギリス人でオタク(外国人)-保守的なアメリカ-真にアメリカ的なる者(ポール)という3者の関わりから鮮やかに描ききっている。

そういった目配せの周到さをよくあらわしているなと今回思ったのが、物語におけるキャラクター相関だ。今作では、基本プロットに「逃亡者グループvs.追跡者グループ」の構図があるが、どちらのグループでも、ひとりのワイズマンによって、愛すべきおバカふたり組が巻き込まれる、というような対関係になっているのである。そこに、なにかに狂信的な女性が加わるところまで対になっているのである。

監督はエドガー・ライトの降板によって、グレッグ・モットーラが務めているが、今回この変更が吉と出ていることは指摘しておきたい。とくにアクション演出において、ライトはどちらかというと今日日の短いショットと激しいカメラワークの積み重ねを得意としているようだが(小生は少々苦手)、モットーラによる今回の演出では抑制の効いた──さらにいえばスピルバーグ的なものとなっており、非常に見やすいものとなっている。

いろいろまだまだ言い足りないことは数々あれど、結論は次のとおり。様々なところでオススメされている本作においては、まさしく今更だが、大変よくできた楽しいエンターテインメントとしては昨今珍しいくらいの良質なジャンル映画なので、観て損はなしである。

*1:前2作で扱われたジャンルに関してほとんど門外漢だった小生が、大ファンになってしまったのだから、今作でもそのバランス感覚は健在だろう。