2012年鑑賞映画作品/61-70 感想リスト

『キャリー』……スティーヴン・キング原作、デ・パルマ監督。キリスト教を妄信するあまりに生まれてしまう悲劇を描くという点は、その後のキング作品にも多く描かれるテーゼ。また、それによってヒロインを徹底的に支配するのがその母親だったので余計にそう感じたのだけれど、全体的にヒッチコックぽい撮り方や演出だなと。

トッツィー』……ダスティン・ホフマンの癇癪持ちふうの演技は相変わらずのお家芸で安心して笑える、トータルでは面白い映画だった。けれど、脚本に決定的な欠点があるような気もして、それというのも、ホフマン演じる主人公の成長がいささかおざなりではないかしら。

スーパーバッド 童貞ウォーズ』……宇宙人ポール』のグレッグ・モットーラ監督。超ボンクラかつ少々下世話版『アメリカン・グラフィティ』といった感じで表面上は非常にくっだらない(なおかつ身につまされる)笑いが連発するのだけれど、しかしその実脚本がすごくよく出来ている一品。3人の少年たちはそれぞれに異界に旅をして、ひとまわりの成長を遂げて帰還し、それまでの少年時代にさよならを告げるのでありました。

キートンの探偵学入門』……1924年。トリック撮影を駆使して描かれる、主人公が映画に入り込むというギャグが、編集ともあいまって──というか編集にまつわるギャグ──滅茶苦茶よく出来ている。冷静に考えればひやひやするようなスタントも連発するが、それを巧く笑いに昇華しているのがキートン映画のすごいところと今回も再認識。

ドクトル・ジバゴ』……D・リーン監督。ロシア革命前後の歴史の渦中で翻弄されながら懸命に生きる2人の男女を描く。3時間を越える巨編だが、その時間を感じさせない演出の的確さがやはり素晴らしい。時間的スケールと風景のスケールとの対比が圧巻であり、編集も心地よい。

『メカニック』……オリジナル版。ステイサム主演のリメイク版も楽しんで観たけれど、どちらかといえばこちらのほうが見応えがあった。ブロンソン演じるアーサー“メカニック”ビショップの寡黙な渋さをはじめ、それぞれのキャラクター描写にどことはなく深みが感じられた。

『アジョシ』……映画の導入や中盤のドラマ繋ぎがゴタゴタしているほかは、よく出来たアクション映画。見どころは、ウォンビン演じるおじさんの長い前髪に隠れた両目がいつはっきりと画面に登場するか(個人的すごくグッと盛り上がったポイント)。ウォンビンとタイマンを張る用心棒のおじさんもいいキャラだった。

『戦場にかける橋』……長尺であること──それは各ショットだったり全体だったり──それ自体に演出としての意味がきちんと存在し、かつ面白さに繋がっている映画を、寡聞な僕はあまり知らない。「フード理論」的演出にも注目してみると、こちらも凄く面白い。

シベールの日曜日』……トラウマ的体験によって記憶喪失にある青年ピエール、世知辛さゆえに少々大人びた少女フランソワーズというふたりの「子どもたち」が織り成す、純粋ゆえの悲劇。物語もさることながら、どこか不穏さや冬の寒さを感じさせる撮影がものすごく美しい映画だった。

ミスター・ノーバディ』……ある老人が語る人生の物語。構成は、「もしもあのとき違った選択をしていたら」というアニメ『四畳半神話大系』を髣髴とさせるもの。しかも、2時間のあいだシームレスに幾重にも広がる平行世界を見せ付けるのだから恐れ入る! 最期を迎えた主人公が、狂言回しであるインタヴュワーの「どれが本当(Right)の人生だったのか」という問いに答えて言うことばは、観たとおり後ろ向きながらも希望に満ち溢れており、さわやかな感動を残す。傑作。

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