2013年鑑賞映画作品/51-60 感想リスト

トレマーズ3』……ブレンド・マドック監督。ゆるふわ系モンスター映画──と呼ばれているかどうかは定かではないが──第3作。やっぱり脚本がよく出来ており、安心して観られる。前作よりもさらにツイストに捻りを加えた展開がイチイチ良いし、思いもよらなかったオチの付け方には座布団1枚を進呈したい。ただ、これまでシリーズに独特にユルさを与えていたカントリー・ミュージック調の音楽が今回影を潜めており、それがとてももったいない。

『TUBE』……ペク・ウナク監督。韓国産『スピード』とでもいうべき地下鉄アクション。アクション・シーンに迫力があるし、クライマックスでのある展開はなかなかアツくグッとくるものがあって楽しめた。『恋する惑星』でのフェイ・ウォンを髣髴とさせる不思議系ヒロインをペ・ドゥナが好演している。ただ、一瞬連続ドラマの完結篇なのではないかと思えるくらいにキャラクター説明がゴタゴタしていて──ヒロインにおいては結局よく判らずじまい──物語に入り込みづらかったのが難点か。その辺をもう少し整理できていれば、けっこうな傑作になっただろう。面白かっただけに惜しい!

デス・レース2000年』……ポール・バーテル監督。第4次世界大戦によって世界を統一したアメリカで開かれる残虐無比な大陸横断レースを描いた、天下のロジャー・コーマン製作のカルトSFとして名高い。その名声どおり、面白かった。奇天烈なデザインのマシンたちも格好良いし、車の方向転換だけであんなにサスペンスフルになるとは思ってもみなかった。また、人をヒットする(ひき殺す)ことでレーサーのポイントになるなど、こちらの倫理観をグワングワン揺らしてくる設定と描写も凄い。B級映画的お約束を散りばめながら、本作自体が暗にB級映画に対する批評的側面を持ち合わせているように感じられるのが興味深い(そして、引いては当時の──あるいは現在にも通じる──社会風刺としても機能しているだろう)。

ヴァルハラ・ライジング』……ニコラス・ウィンディン・レフン監督。中世の時代、隻眼の奴隷戦士と彼と行動を共にする奴隷の少年が辿る闘いと彷徨を描く。『ドライヴ』でみせていた静謐な暴力描写が冴え渡る、哲学的で宗教的な作品。ひと言でいえばタルコフスキー映画ばりに難解だが、画作りの見事さや演出の妙でグイグイこちらを引き込んでくれる。宗教的と書いたのは、明らかに隻眼の奴隷戦士がオーディンの暗喩であり、彼と少年が出会うのがエルサレム奪還に向かうキリスト教徒たちであり、そして彼らが最終的にたどり着くのが、かのレイフ・エリクソンが名付けたとされる地であることからだ。冒頭に付されるキャプションとを考え合わせると、およそ“そういう”話であろうところまでは考えたが、果たしてそれが正解であるかは寡聞な僕には判断できない。

ザ・レイド』……ギャレス・エヴァンス監督。麻薬王が支配するマンションに乗り込んだ特殊部隊の攻防を描く、インドネシア版『マッハ!!!!!!!』的アクション映画。また凄いのが出たなァと嘆息することしきり。映画が開始してものの10分からもうアクション飛ばしまくりで、次から次に敵がわらわら沸いてくる様子はもはやゾンビ映画さながら。それをまた次々ブッ倒してゆく戦法がまたエゲツナイのなんの(本当に殺すための戦術、というふうな演出)。ただ、基本的にハンディ・カム撮影のようなので、そういった見辛さがあったり、ラストがちょっと尻すぼみなのは残念ではあったが、フレッシュなアジアン・アクション映画として必見の1本だ。

『EVA<エヴァ>』……キケ・マイロ監督。作成中の子ども型アンドロイドに組み込む感情プログラムのモデルを探していた青年アレックスは、エヴァという10歳の少女と出会うが──「予告編がカッコよすぎる」と話題になったらしいスペイン産SF映画。予告編だけでなく、本編も見事な出来だった。まずとくに、この世界がちょっとだけ未来であることを見事に表現せしめている小物やロボットのデザインと画作りが素晴らしい。深い雪に覆われた懐かしさを醸す町並みのなかに表現された未来世界の存在感が見事で、監督いわく「'70年代風」らしいその世界観は、レトロ・フューチャー描写としても非常に新鮮だ。本作を観ていて思い出したのは、僕の大好きな小説であるハインラインの『夏への扉』だ('70年代というのにも実は通じる)。失恋の思い出を引きずる科学者で、猫を友とし、そして若干のロリコン気味な『夏への扉』の主人公ダンを思わせるアレックスは、すなわち成長しきれていない“子ども”である。本作は、そんな彼が自らの手で「子ども時代」にさよならするという、ほろ苦い成長物語を紡ぎだす。ロボットSFの姿を借りつつも普遍的なテーマを扱ってみせた本作は、3000人のなかから選ばれたというエヴァ役のクラウディア・ベガの名演も相まってホロリと涙させられる、素敵な映画だった。

大陸横断超特急』……アーサー・ヒラー監督。ヒッチコック的なサスペンス映画から、みんな大好き乗り物パニック映画へとシフトしてゆく脚本が見事。主人公が劇中に幾度も途中下車する(本人の意思はともかくとして)という展開が、寡聞な僕にはとても新鮮に映った。大団円に至るまでの道程、ラストの大爆発まで目が離せない。ヘンリー・マンシーニによるスコアもよかった。おすすめ。

『ジョニー・イングリッシュ/気休めの報酬』……オリヴァー・パーカー監督。英国諜報部“MI7”の諜報員が活躍する、Mr.ビーンことローワン・アトキンソン主演のスパイ・アクション・コメディの2作目。007映画オマージュであるオープニング映像(アバン・シークェンスを除く)からその後30分くらいにかけて、別の映画を観たんじゃないかと思うくらいにジョニー・イングリッシュが格好良くて大いに笑った。アバンの非常にしょーもない修行シーンでの付箋を、クライマックスできちんと回収するという脚本も良かった。コメディ俳優やめたい宣言しちゃったアトキンソンだけど、そんなこと言わずにせめてあと1作、このシリーズをやってほしいなあ。

『ミルク』……ガス・ヴァン・サント監督。自らゲイであることを公言して政治活動をおこなったハーヴェイ・ミルク(Harvey Bernard Milk, 1930-1978)の半生を描く。70年代サンフランシスコの世相と、ミルクの政治的活動、そして死までを実にスムーズに整理して語ってみせるプロットが見事(脚本は、後にイーストウッド監督『J・エドガー』も担当するダスティン・ランス・ブラック)だし、社会的「負け犬」が勝ち目のない勝負に挑み勝利するというひとつの物語映画としても面白いのが本当に凄い。当時の記録映像を実際に使用したり、その直後に映画用に撮影した映像を'70年代風に荒くして繋げたりと、映画としての語り口も面白い。本作でミルクを演じ、第81回アカデミー賞で主演男優賞を受賞したショーン・ペンの演技が素晴らしい。容姿も似ていなければガラも対極のミルクをペンが見事に演じてみせる、その技量に感服。ミルクが我々に語ってみせる彼の思想/政治的スタンスは未だに有効だ。'84年に製作されたドキュメンタリー映画ハーヴェイ・ミルク』もおいおい観たい。

孫文の義士団』……テディ・チャン監督。ドニー・イェンニコラス・ツェー、ファン・ビン・ビンら主演。「孫文、香港くるってよ」ということで、彼の命を清朝の刺客団から守るべく、様々な葛藤を胸のうちに秘めたつわもの達が集い始めるというアクション群像劇で、それぞれのキャラクターにきちんとドラマが作り込まれていて見応えがある。そのくだりが若干鈍重な感じがしないでもないが、そのぶんクライマックスの長い長いアクション・シーンでの怒涛の殉死ラッシュが活きてくる。もうね、観ていて気の毒になってくるくらい誰も彼もエゲツナイやられかたで死んでゆくのだ。綺麗な死に方なんて誰もしない、地獄絵図のごとき光景が延々1時間くらい続くのが凄い。ただ、それまで後姿くらいしか見せなかった孫文の顔をラストで見せてしまうのはどうかなァ。孫文という存在をある種マクガフィン/不在の中心に留めておけば、より冷静な作品になっただろうし、観客がより登場人物たちに寄り添える演出になっただろうにと思う。
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