2017年鑑賞映画 感想リスト/11-20

ラ・ラ・ランドデミアン・チャゼル監督、2016)……偶然の出会いと再会を果たした女優志望のミアと、ジャズ・ピアニストのセブ。お互いになかなか芽の出ない厳しい現実のなかで、ふたりはいつしか恋に落ち、互いを励ましながら夢に向かって奮闘するが──現代に蘇った本格的ミュージカル映画

主人公のふたりを演じたライアン・ゴズリングエマ・ストーンや、数多のパフォーマーたちのダンスと音楽、そしてシネマスコープいっぱいに拡がる総天然色が、マジックアワーが、暗く沈んだ影が、この上なく美しい。その大胆で微細な色彩で描かれる人生の甘く、そしてほろ苦い機微に涙する。人生はハリウッド黄金期のミュージカルのようにはいかないかもしれないが、しかしそれもまた人生だと、ラストの大団円で心のすく思いがした。


     ○


アサシン クリードジャスティン・カーゼル監督、2016)……人間の自由意思を支配できるという“エデンの果実”を巡り、“アサシン教団”と“テンプル騎士団”の長きに渡る暗闘に巻き込まれたカラム・リンチ。彼はテンプル騎士団の研究所にて、先祖の記憶をたどる仮想現実で中世スペインで行方知れずとなったエデンの果実を捜索するが──人気ゲームの映画化。

ゲームの実写映画化として久々の当たり作品といっていいだろう。近未来SFと中世スペインという両極端なデザインが同時に観られて実に楽しい。中世スペインのシーンではきちんとスペイン語(英語字幕)となるこだわりもすばらしい。ただ、殺陣とパスクールを活かしたアクションそのものはいいものの、カット割が短か過ぎるのが難点か。もっとじっくり観たかった。


     ○


アイアムアヒーロー佐藤信介監督、2016)……漫画家アシスタントとして最低な日々を送る35歳の鈴木英雄は、異形の姿に変貌した恋人に襲われかける。辛くも逃げ出した英雄は、街全体が異形の者によって変貌し大混乱をきたすさまを目の当たりにする──花沢健吾による同名漫画を実写映画化。

遅ればせながら観たが、もう、見事……というほかないよ。見事。アクション・シーンの面白さ、造型の生々しさ、そしてゾンビ映画としての見せ方など、これだけの質を全方位に保った映画は、このジャンルに限っても久しぶりじゃないかしら。とくに白眉は、前半のゾンビが街に溢れ出すシーンだろう。鬱屈とした日常から、最悪の非日常への転換と展開は何度でも観たくなるだろう。あえて不満をいうなら、主演の大泉洋が役にあまりにハマりすぎていて──もちろん、それはいいことだが──始終どこからともなく『水曜どうでしょう』名物のディレクター陣の笑い声が聞こえてくる気がしてならなかった点くらいだ。必見。


     ○


クリーピー 偽りの隣人』黒沢清監督、2016)……大学で犯罪心理学を教える元刑事の高倉。郊外の一軒家に引っ越し、妻・康子との穏やかな新生活をスタートさせるのだったが、隣人の西野の不可解な言動にやがて振り回されてゆく──前川裕のベストセラーを実写映画化。

引越し先の隣人がなんだかおかしい本作は、タイトルどおり心底気味が悪い。キャストの文字が格子に囚われたかのようなオープニング・クレジットからしてすでに恐ろしい。絶対的な他者として一切のコミュニケーションを拒絶するかのような香川照之のなんとも知れぬ演技の間、超然と移ろう照明、圧迫感のある画面──と、すべてが不穏。同時に『降霊 KOUREI』(同監督、1999)などに通ずる、夫婦についての映画なんですね。


     ○


『ライト/オフ』デヴィッド・F・サンドバーグ監督、2016)……母親との不和がもとで実家を飛び出し、ひとり暮らしをしていたレベッカは、怯える弟から「電気を消すと、なにかが来る」と悩みを打ち明けられる。その“なにか”の影は次第にレベッカたににも忍び寄ってくる──サンドバーグが2013年にネットに投稿した短編映画を長編化したホラー。

電気を消すと、さきほどまでなにもいなかった空間に影法師が立っているという画の見せ方──この画を1ショットで見せるというアイディアの勝利としかいいようがない。そこに影法師が見えるが、電気をつけるとやはりいないと思って再び電気を消すとそこには……という緩急も含めてとにかく怖い。実生活に影響がでてしまいそうである。本作が80分でよかった。これ以上続いていたら、恐怖で死んでた。まあ、もともとは本編の幕切れ直後に続いたはずの未使用エンドを含めて90分の計算だったのだろうけれど、あまりに蛇足感あふれるものだったので、バッサリ切って正解だったね。


     ○


『アナザー』ジョアン・スファール監督、2015)……引っ込み思案な社長秘書ダニーは、社長家族が旅行に出たのをいいことに社長の新車を勝手に拝借、南フランスに“はじめての海”を目指すドライブとしゃれ込んだ。しかし、行く先々で人々は彼女の姿を昨日見たという。困惑する彼女のもとに、謎の影が付きまとう──セバスチアン・ジャプリゾのミステリー『新車の中の女』を映画化。

邦題が邦題だけに、例の呪われた学級崩壊を連想してしまいがちだが、本作はそういう作品ではない。なんというのか、ヒッチコックの『サイコ』と『めまい』の冒頭30分をミックスして80分やったのちに、マカロニ・ウエスタンでラストを締め、『母なる証明』でサンドし、初期タランティーノ風味のケレンをまぶしたたような雰囲気の、なんとも奇妙な映画だった。


     ○


ひるね姫〜知らないワタシの物語〜』神山健治監督、2017)……東京オリンピック目前の2020年、夏の岡山県倉敷市。平凡な女子高生の森川ココネは、自動車修理を営む無口で無愛想な父親と暮らしをしていたが、あるとき父が警察に逮捕されてしまう。なんとか事態を解決しようとするうちに、ココネはその糸口が最近よくみるようになった不思議な夢にあることに気づく──劇場用オリジナル・アニメーション。

故郷である岡山の方言がそれなりに正確だったらいいなァ、くらいのぼんやりとした気持ちで観た本作だったが、いい意味で予告編の印象をことごとく覆してくれる痛快な作品だった。キャラクターの芝居やアクションの作画はどれもたいへん素晴らしいし、“夢と魔法の御伽噺”を今日的でかつ限りなく嘘くさくなく描くアイディアには──クライマックスですこし盛り過ぎて、喩えがうまく機能していない部分もなくはないが──脱帽した。あるいは、孫世代のクリエイターによる宮崎駿的なるもの──作品的、あるいはその創作姿勢──への総括と、これを刷新するであろう次世代への抱負のようにも思え、興味深い。


     ○


『ゴースト・イン・ザ・シェル』ルパート・サンダース監督、2017)……人々の電脳化や義体化が一般化した近未来。ネットを通じた電脳ハックによって、義体製造メーカー大手“ハンカ・ロボティクス”の要人が暗殺される事件が発生。公安9課に所属する“少佐”は事件の謎を追ううち、自身の失われた過去と向き合うことになるが──士郎正宗による漫画『攻殻機動隊』(1991)をハリウッドが実写化。

なんとなくテンションが低めの評判を聞いてそこはかとなく心配していたが、実際に観てみるとなるほど、そういう気持ちもわからないではない、といった感じ。ブロックバスター大作ゆえの弊害か、『攻殻』の魅力のひとつであろう、記憶の外部化による自他の境界が曖昧になるアイデンティティ・クライシスという、やや難解なSF的/哲学的ギミックが後退した感は否めない。

ただ一方で、作り手のモチベーションのひとつであろう、原作や劇場/テレビアニメ版などといった『攻殻』の「あのシーンが好き」「このアクションもやりたい」にはじまって、まるで1980年代から1990年代のSF映画的イメージを総ざらいして放り込んだかのようなゴッタ煮感は、非常に無邪気で憎めない。その天真爛漫なチョイ古SF映画の最新アップデート版として本作を観るなら、けっこう楽しめるのではないかしら。


     ○


夜は短し歩けよ乙女湯浅政明監督、2017)……お酒とオモチロイことに目がない「黒髪の乙女」と、そんな彼女に恋をしながら決定的な1歩を踏み出せない「先輩」は、それぞれの想いを胸に珍妙奇天烈な人々が跋扈する摩訶不思議な永い一夜へと繰り出すが──森見登美彦による同名小説を原作とした劇場用アニメーション。

同じく森見原作の『四畳半神話大系』をものの見事にテレビアニメ化(2010)*1したスタッフが再集結というだけあって、その完成度は推して知るべし、といったところ。森見節を過たず切り取った台詞と語りと御託と屁理屈に耳をあずけ、湯浅節の真骨頂ともいえる色鮮やかで変化自在なアニメーションによるイマジネーションの奔流を大画面から浴びて「あっぷあっぷ」しているだけでも、本作はたいへん楽しい1作だ。あと、個人的には「乙女」の赤い着るワンピースの裾の絶妙機微な作画にも注目したい。

4話連作(春夏秋冬)構成の原作を換骨奪胎して、よくぞ90分に纏め上げたと思われる脚本──映画版オリジナル要素も、茶目っ気と毒が効いていて素晴らしい──ではあるが、同時にすべての出来事を“一夜”にまとめたために奇妙な違和感がそこかしこに見受けられ、であるならば無理矢理に一夜にすることもなかったのではないかとも思われる。ただ、『四畳半〜』にもあった、エピローグ部分でのアニメーションならではの“映像的仕掛け”が本作でも形を変えて登場しており、これを観ると、なんとなく腑に落ちる……かも。なんにせよ、心躍る劇場版だったことに異論を挟むつもりは毛頭ない。なむなむ!


     ○


キングコング: 髑髏島の巨神』ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督、2017)……ベトナム戦争終結直後の1973年。特務研究機関モナークの一員であるランダ博士は、人工衛星ランドサットが発見した未知の島“髑髏島”への調査を決行。かつて英国特殊部隊に所属していた傭兵コンラッドや、ベトナムから帰還予定だったパッカード大佐率いる部隊らをメンバーとして、未開の島へ降り立つが──元祖怪獣映画の新たなリブート作品。

観ているあいだ、頭から終わりまでずっとニコニコしっぱなしになるような、楽しい楽しい映画。こんな作品は久しぶりだ。本作は、やがて合流する「モンスターバース」の前作である『GODZILLA ゴジラ』(ギャレス・エドワーズ監督、2014)*2の溜めに溜めまくる演出とは対照的に、とにかく各種怪獣バトルのつるべ打ちで、冒頭5分ですでに巨大なコングが登場するほどの大盤振る舞いだ。また、内容と同じように画面がパッと明るいのも嬉しい。

時代設定やビル・パクストン演じる傭兵コンラッドの名前からもわかるように、本作が怪獣映画と『地獄の黙示録』(フランシス・フォード・コッポラ監督、1979)を掛け合わせた点は画として非常にフレッシュだし、オリジナル版『キングコング』(メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シェードザック監督、1933)にあった様々なテーマ──コングの象徴性や、土人の描き方など──の刷新も図られている。いっぽうで、コングのアクションの端々にオリジナル版へのオマージュを見事に組み入れていたりと、にやりとする仕掛けも目白押しだ。強いて難点を挙げるなら、ラストに出てくるアイツがそんなにデカく見えなかった点くらいだ。

否が応にも今後の展開が期待される、素晴らしいリブートだった。

*1:僕の当時の感想>>拙ブログ「2011年に観た映画リスト+メモ その3(Last)

*2:公開当時の僕の感想>>拙ブログ「『GODZILLA ゴジラ』(2D字幕版)感想

2017年鑑賞映画 感想リスト/1-10

バイオハザード:ザ・ファイナルポール・W・S・アンダーソン監督、2016)……T-ウィルスによって世界を壊滅させたアンブレラ社とアリスとの最後の闘いを描くシリーズ最終作。

続篇が公開されるたびに劇場に足を運んでは、なんとも知れぬ虚脱感に浸って帰ってくること15年……やっと肩の荷がおりた。ともあれ、終わってくれて、ありがとう。まあ、それはそれとして、物語もそうだが、アクションをこうも判りづらく撮って繋げるものなのかと逆に感心することしきり。3D版を観たけれど、うまくないチャカチャカ編集で全篇貫かれるので、3Dの楽しみは皆無。でも、なんだかんだで微笑ましく観られたのは、このシリーズがきっかけで結婚したミラとポールのおしどり夫婦感に満ちているからかもしれない*1。仲良きことは、善きことかな。


     ○


『ソロモンの偽証/前篇・事件』成島出監督、2015)、『ソロモンの偽証/後篇・裁判』成島出監督、2015)……1990年冬。自殺と断定された同級生の怪死に違和感を拭えない藤野涼子は、真実を明らかにするために通う中学校を巻き込んでの学校裁判を開こうとするが──宮部みゆきによる同名小説の映画化。

事件そのものの顛末ではなく、学校教育やいじめ、家庭や世間体の問題など、もっと根深い暗部が、中学生の裁判によって明らかになってゆく展開は、胸をすくものがある。が、いかんせん尺が長過ぎなのは否めない。せめて現代パートと、それに起因する取ってつけたようなナレーションがなければ、もっと集中して観られたのではないだろうか。


     ○


『ライズ・オブ・シードラゴン/謎の鉄の爪』ツイ・ハーク監督、2014)……水軍艦隊を全滅させたと噂される海神・龍王の怒りを静めるための生贄となった美しき花魁インに何者かの魔の手が迫る。判事ディーはこの事件の謎を解けるのか──唐朝末期を舞台にした武侠ミステリ。

これほど偽りのない邦題も珍しいくらい、そのすべてが文字どおり登場するツイ・ハークらしい過剰なサービスが楽しい。あまりにサービスが直截すぎてミステリとしてはどうかと思わなくもないが、そんな疑念も帳消しにしてくれるだろう。本国では3D公開ということもあって、人が、拳が、武器が、瓦礫や木端がこれでもかと飛び交うアクション・シーンも愉快。それにしても、敵の首領の日本語吹替を演じた若本則夫は、いったいどこからあんな声を出しているというのか……。


     ○


バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生ザック・スナイダー監督、2016)……スーパーマンとゾッド将軍のメトロポリスでの激戦によって多くの社員を失ったブルース・ウェインことバットマンは、スーパーマンを殺すことに執念を燃やしはじめるが──『マン・オブ・スティール』(同監督、2013)の続編。

前作を観ながら辟易した、コラテラル・ダメージを出し過ぎな最終決戦について捉えなおした冒頭の災害映画然としたシークェンスは、なるほどやはりこちらのほうがしっくりくる。しかし後半になるにつれて、脚本を詰め込みすぎたのか、キャラクターの行動や展開がたいへんお粗末になるのはいかがなものか。ただ、多くの人が賞賛するようにワンダーウーマン役のガル・ガドットの画になりっぷりは素晴らしい。また、ジェレミー・アイアンズの演じるアルフレッドもなかなか味がある。


     ○


ミケランジェロ・プロジェクト』ジョージ・クルーニー監督、2014)……ナチスによって略奪される欧州各地の美術品を取り戻すため、ハーバード大学附属美術館館長のフランク・ストークスは知己の専門家たちを集めた特殊部隊“モニュメンツ・メン”を結成し、前線へと向かった──史実を基にした戦争ドラマ。

不勉強ながら、こういった史実があったことを知らなかった身として、そのとっかかりとして本作には大きな意義がある。が、史実であることに足を引っ張られた──大幅に脚色がなされているようではあるが──のか、ものすごく品行方正な『戦略大作戦』(ブライアン・G・ハットン監督、1970)といった感じで、いささか単調に過ぎる感があるのが残念。


     ○


エンド・オブ・キングダム(ババク・ナジャフィ監督、2016)……英国首相の急逝にともなって、その葬儀のため各国代表がロンドンへ集結した。アッシャー合衆国大統領もまた、シークレット・サービスのバニングを連れて渡英するが、彼らは再び大規模なテロに瀕することになる──『エンド・オブ・ホワイトハウス』(アントワーン・フークア監督、2013)の続編。

集団自爆テロの恐怖を大々的に再現した前作から変わって、本作では米国がすすめるドローン戦争に対する報復への恐怖をフィーチャーしたあたりに、時代の移ろいを感じる。それはそれとして、全篇に渡るあまりに粗雑な造りと、ジェラルド・バトラー扮するバニングの残虐さに、ちょっと笑ってしまった。それを象徴するかのような「おどれら、わしらン国は1000年安泰じゃけえのう!(意訳)」というバニングの台詞……けだし名言かな。


     ○


劇場霊中田秀夫監督、2015)……いまだ芽の出ない若手女優・水機沙羅は、女貴族エリザベートの生涯を描く新作舞台に端役で出演することになった。しかし、無気味な球体関節人形が小道具として鎮座する劇場で、次々に不可解な死亡事故が発生する──AKB48島崎遥香主演のホラー。

ホラー映画ということになってますが、同監督の『クロユリ団地』(2013)がそうだったように、本作はどちらかといえば怪奇映画寄りの作品だ。球体関節人形の無気味な容姿と動き、死蝋となった被害者の無残な姿、極彩色の照明などが、その雰囲気を盛り上げる。が、いかんせん脚本の整理不足が否めず、登場人物がいくらなんでも無理のある行動をとることもしばしばで、恐怖よりも先にそちらが気になってしまう。また、日常空間と演劇空間という相反する舞台がありながら、演出のテンションが同じなのでもったいない。役者陣はよかったけれど。


     ○


『ミッドナイト・アフター』フルーツ・チャン監督、2014)……深深夜の路線バスに偶然乗り合わせた17人は、終着駅で異変に気付く。いつの間にか彼らは、誰もいない世界に迷い込んでいたのだ。無人と化した香港で、なんとか真実をつかもうとする彼らだったが──終末型SFスリラー。

謎がさらに謎を呼び、別の謎がどんどん追加されてゆき、そしてそのすべてが潔いほど──文字どおり──なにひとつ解決されない。これはなかなかの番狂わせであって、ジャンル映画的に観れば間違いなく憤怒する人が多いだろう。ただ、個々に描かれるシーンごとのブラック・コメディめいた笑うに笑えない展開や、多くの登場人物たちをきっちり描き分けているのが見事だ。また、本作が“雨傘運動”に代表されるような昨今の香港における政治的状況の暗喩であるとする指摘もあり、なるほど、であるならば諸々の謎の寓意性や未解決性が腑に落ちる。


     ○


死霊館 エンフィールド事件』ジェームズ・ワン監督、2016)……アメリカ人超常現象研究家エドとローレン夫妻は、ロンドンのエンフィールドで発生した怪奇現象の調査に赴くが──1977年に実際に起こったポルターガイスト現象を題材としたホラー。

ずっしりと重い影を落とした風景を、じっくりと追う長回し撮影と絶妙な編集の緩急によって、じわりじわりと現象の発露までの段取りを踏んでみせる前半1時間の恐怖シーンが見事でスケアリング。また、後半1時間の、脚本に散りばめられた謎や象徴性がパズルのように組み合わさりながらクライマックスへと雪崩れ込んでゆく展開は、『エクソシスト』(ウィリアム・フリードキン監督、1973)もかくやのスリリングさ。たいへん面白かった!

*1:だって、映画のラストで奥さんに「君は完璧なひとだ」って言ってるのだもの。これはなかなか言えることじゃないよ。

2016年鑑賞映画作品ベスト3+α(劇場、ソフト)、鑑賞作品リスト

皆さま、年の瀬をいかがお過ごしでしょうか。

というわけで、いろんなところで実施されている行事にあやかりまして、いま去らんとする2016年に鑑賞した映画作品(劇場・ソフト)のベスト3+ワースト作品を記してみました。今年は映画に関する文章をほとんど残せなかったので、甚だ説得力に欠ける感は否めませんが、そこはそれ、気は心ということでご容赦ください。また、劇場鑑賞作品に関しましては、地方在住者という限られた条件の中での選定ですので、かなりの偏りがあることをご了承ください。

それでは皆さま、よいお年を。


      ○


【劇場で観た映画ランキング】

_第1位:ズートピア(リッチ・ムーア、バイロン・ハワード監督、ジャレド・ブッシュ共同監督、2016)


_第2位:シン・ゴジラ庵野秀明総監督、2016)
_第3位:この世界の片隅に(片淵須直監督、2016)
  ▼
_次 点:ゴーストバスターズポール・フェイグ監督、2016)


_ワースト:インデペンデンス・デイ: リサージェンス』(ローランド・エメリッヒ監督、2016)


     ○


【遅ればせながらソフトで観た映画ランキング】

_第1位:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密モルテン・ティルドゥム監督、2014)


_第2位:狼たちの午後シドニー・ルメット監督、1975)
_第3位:『キャロル』トッド・ヘインズ監督、2015)
  ▼
_次 点:『ゼロの未来』テリー・ギリアム監督、2013)


_ワースト:『レフト・ビハインド』(ヴィク・アームストロング監督、2014)


    ○


【番外編】
_最も感動したリマスター化:Blu-Ray*1ザ・ビートルズ/イエロー・サブマリン』ジョージ・ダニング、ジャック・ストークス監督、1968)


    ※


▼2016年鑑賞映画リスト

─────


◎……劇場で鑑賞した作品。


太陽を盗んだ男』(長谷川和彦監督、1979)
メタルヘッド』(スペンサー・サッサー監督、2011)
『ジュラシック・アイランド』(マット・ドラモンド監督、2014)
『プリディステネーション』(マイケル・スピエリッグピーター・スピエリッグ監督)
『嗤う分身』(リチャード・アイオアディ監督、2013)

『終わりで始まりの4日間』(ザック・ブラフ監督、2014)
『モンスター 変身する美女』(ジャスティン・ベンソン、 アーロン・スコット・ムアヘッド監督、2014)
マッハ! 無限大』(プラッチャヤー・ピンゲーオ監督、2013)
スター・ウォーズ フォースの覚醒』(J・J・エイブラムス監督、2015)◎
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、2014)

【10】


 
ガールズ&パンツァー 劇場版』(水島努監督、2015)◎
『モンキー・マジック/孫悟空誕生』(ソイ・チェン監督、2014)
遊星からの物体X/ファースト・コンタクト』(マティス・ヴァン・ヘイニンゲンJr. 監督、2011)
ブロブ/宇宙からの不明物体』(チャック・ラッセル監督、1988)
『映画 ひつじのショーン/バック・トゥ・ザ・ホーム』(マーク・バートン、リチャード・スターザック監督、2015)

『見えない恐怖』(リチャード・フライシャー監督、1971)
『闇のバイブル/聖少女の詩』(ヤロミール・イレシュ監督、1969)
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(モルテン・ティルドゥム監督、2014)
『ぼくを探しに』(シルヴァン・ショメ監督、2013)
ぼくらの七日間戦争』(菅原比呂志監督、1988)

【20】



『シェーン』(ジョージ・スティーヴンス監督、1953)
ウォレスとグルミット/ベーカリー街の悪夢』(ニック・パーク監督、2008)
『恐怖分子』(エドワード・ヤン監督、1986)
『10番街の殺人』(リチャード・フライシャー監督、1971)
『ラ・ワン』(アヌバウ・シンハー監督、2011)

『アーロと少年』(ピーター・ソーン監督、2015)◎
『幕末純情伝』(薬師寺光幸監督、1991)
『東京無国籍少女』(押井守監督、2015)
『ターボキッド』(エリック・ポワティエ監督、2015)
攻殻機動隊 新劇場版』 (黄瀬和哉総監督、野村和也監督、2015)

【30】



カリフォルニア・ダウン』(ブラッド・ペイトン監督、2015)
『画皮 あやかしの恋』(ゴードン・チャン監督、2008)
『オデッセイ』(リドリー・スコット監督、2015)◎
サウルの息子』(ネメシュ・ラースロー監督、2015)◎
『エクストラ テレストリアル』(コリン・ミニハン監督、2014)

『ウェイバック/脱出6500km』(ピーター・ウィアー監督、2010)
ロスト・リバー』(ライアン・ゴズリング監督、2014)
ユージュアル・サスペクツ』(ブライアン・シンガー監督、1995)
ターミネーター:新起動/ジェニシス』(アラン・テイラー監督、2015)
天河伝説殺人事件』(市川崑監督、1991)

【40】



『ネスト』(エステバン・ロエル、フアンフェル・アンドレス監督、2014)
エクソダス: 神と王』(リドリー・スコット監督、2014)
コップランド』(ジェームズ・マンゴールド監督、1997)
『奇跡の2000マイル』(ジョン・カラン監督、2014)
『ルック・オブ・サイレンス』(ジョシュア・オッペンハイマー監督、2014)

名探偵コナン 世紀末の魔術師』(こだま兼嗣監督、1999)
名探偵コナン 銀翼の奇術師』(こだま兼嗣監督、2000)
名探偵コナンイカー街の亡霊』(こだま兼嗣監督、2002)
名探偵コナン 水平線上の陰謀』(山本泰一郎監督、2005)
名探偵コナン 紺碧の棺』(山本泰一郎監督、2007)

【50】



名探偵コナン 戦慄の楽譜』(山本泰一郎監督、2008)
名探偵コナン 漆黒の追跡者』(山本泰一郎監督、2009)
名探偵コナン 天空の難破船』(山本泰一郎監督、2010)
名探偵コナン 沈黙の15分』(静野孔文監督、2011)
名探偵コナン 11人目のストライカー』(静野孔文監督、2012)

名探偵コナン 絶海の探偵』(静野孔文監督、2013)
名探偵コナン 異次元の狙撃手』(静野孔文監督、2014)
名探偵コナン 業火の向日葵』(静野孔文、2015)
キラー・エリート』(ゲイリー・マッケンドリー監督、2011)
ポルターガイスト』(トビー・フーパー監督、1982)

【60】



トゥモローランド』(ブラッド・バード監督、2015)
スノーホワイト』(ルパート・サンダース監督、2012)
フォックスキャッチャー』(ベネット・ミラー監督、2014)
『テッド2』(セス・マクファーレン監督、2015)
『誘拐の掟』(スコット・フランク監督、2014)

ブラック・ダリア』(ブライアン・デ・パルマ監督、2006)
アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(ジョス・ウェドン監督、2015)
復讐捜査線』(マーティン・キャンベル監督、2010)
GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊 2.0』(押井守監督、2008)
ズートピア』(リッチ・ムーア、バイロン・ハワード監督、ジャレド・ブッシュ共同監督、2016)◎

【70】



『レフト・ビハインド』(ヴィク・アームストロング監督、2014)
大統領の執事の涙』(リー・ダニエルズ監督、2014)
アドベンチャーランドへようこそ』(グレッグ・モットーラ監督、2009)
『ハーモニー 』(なかむらたかしマイケル・アリアス監督、2015)
『コングレス未来学会議』(アリ・フォルマン監督、2013)

『カムバック!』(ジェームズ・グリフィス監督、2014)
『CURE』(黒沢清監督、1997)
『カリスマ』(黒沢清監督、1999)
呪怨』(清水崇監督、2000)*1
呪怨2』(清水崇監督、2000)*2

【80】



呪怨(劇場版)』(清水崇監督、2003)
呪怨2(劇場版)』(清水崇監督、2003)
THE JUON/呪怨』(清水崇監督、2004)
呪怨 パンデミック』(清水崇監督、2006)
呪怨 ザ・グラッジ3』(トビー・ウィルキンス監督、2009)

呪怨 白い老女』(三宅隆太監督、2009)
呪怨 黒い少女』(安里麻里監督、2009)
呪怨 終わりの始まり』(落合正幸監督、2014)
呪怨 -ザ・ファイナル-』(落合正幸監督、2015)
コードネーム U.N.C.L.E.』(ガイ・リッチー監督、2015)

【90】



『処女の泉』(イングマール・ベルイマン監督、1960)
『ヒート』(マイケル・マン監督、1995)
『鏡』(アンドレイ・タルコフスキー監督、1975)
コラテラル』(マイケル・マン監督、2004)
メリダとおそろしの森』(マーク・アンドリュース、ブレンダ・チャップマン監督、2012)

大巨獣ガッパ』(野口晴康監督、1967)
ヤコペッティの大残酷』(グァルティエロ・ヤコペッティ監督、1975)
タイタンの逆襲』(ジョナサン・リーベスマン監督、2012)
『ゼロの未来』(テリー・ギリアム監督、2013)
ブリッジ・オブ・スパイ』(スティーヴン・スピルバーグ監督、2015)

【100】



『ケース39』(クリスチャン・アルバート監督、2009)
『ユニバーサル・ソルジャー』(ローランド・エメリッヒ監督、1992)
狼たちの午後』(シドニー・ルメット監督、1975)
脳内ニューヨーク』(チャーリー・カウフマン監督、2008)
インデペンデンス・デイ: リサージェンス』(ローランド・エメリッヒ監督、2016)◎

シン・ゴジラ』(庵野秀明総監督、2016)◎
『呪われたジェシカ』(ジョン・ハンコック監督、1971)
『クロノス』(ギレルモ・デル・トロ監督、1993)
『モンスターズ/新種襲来』(トム・グリーン監督、2014)
残穢-住んではいけない部屋-』(中村義洋監督、2016)

【110】



ザ・ウォーク』(ロバート・ゼメキス監督、2015)
ビッグ・アイズ』(ティム・バートン監督、2014)
『カンフー・ジャングル』(テディ・チャン監督、2014)
『天使が消えた街』(マイケル・ウィンターボトム監督、2014)
ゴーストバスターズ』(ポール・フェイグ監督、2016)◎

『リメイニング』(ケイシー・ラ・スカラ監督、2014)
『カイト/KITE』(ラルフ・ジマン監督、2014)
ピクセル』(クリス・コロンバス監督、2015)
『私はゴースト』(H・P・メンドーサ監督、2013)
『サバイバー』(ジェームズ・マクティーグ監督、2015)

【120】



グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』(ポール・ヴァーホーヴェン監督、1985)
『クレムゾン・ピーク』(ギレルモ・デル・トロ監督、2015)
少林寺三十六房』(ラウ・カーリョン監督、1978)
『続・少林寺三十六房』(ラウ・カーリョン監督、1980)
『BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(スティーヴン・スピルバーグ監督、2016)◎

ラン・オールナイト』(ジャウマ・コレット=セラ監督、2015)
『ディセント』(ニール・マーシャル監督、2005)
『ディセント2』(ジョン・ハリス監督、2009)
『ピラミッド 5000年の嘘』(パトリス・プーヤール監督、2012)
ハドソン川の奇跡』(クリント・イーストウッド監督、2016)◎

【130】



ヒットマン』(トン・ワイ監督、1998)
『ヴィジット』(M・ナイト・シャマラン監督、2015)
『ラスト・サバイバーズ』(トーマス・S・ハモック監督、2014)
リンカーン/秘密の書』(ティムール・ベクマンベトフ監督、2014)
『ゴースト・ハウス』(パン兄弟監督、2007)

『モンキーフィスト/猿拳』(サモ・ハン・キンポー監督、1979)
『天使と悪魔』(ロン・ハワード監督、2009)
ツーフィンガー鷹』(ユエン・ウーピン監督、1979)
『女子大生 恐怖のサイクリングバカンス』(ロバート・フュースト監督、1970)
『ドラゴン・ブレイド』(ダニエル・リー監督、2015)

【140】



『イット・フォローズ』(デビッド・ロバート・ミッチェル監督、2014)
『チャンピオン鷹』(ユン・シャンチャン監督、1983)
『龍拳』(ロー・ウェイ監督、1979)
少林寺木人拳』(チェン・チーホワ、ロー・ウェイ監督、1976)
君の名は。』(新海誠監督、2016)◎

『D-TOX』(ジム・ギレスピー監督、2002)
インサイド・ヘッド』(ピート・ドクター監督)
スター・トレック BEYOND』(ジャスティン・リン監督、2016)◎
『エイリアン/ディレクターズ・カット版』(リドリー・スコット監督、2003)
エイリアン3/完全版』(デヴィッド・フィンチャー監督、2003)

【150】



エイリアン4/完全版』(ジャン=ピエール・ジュネ監督、2003)
『サムライ』(ジャン=ピエール・メルヴィル監督、1967)
インフェルノ』(ロン・ハワード監督、2016)◎
『悪党に粛清を』(クリスチャン・レヴリング監督、2014)
ファンタスティック・プラネット』(ルネ・ラルー監督、1973)

『かたつむり』(ルネ・ラルー監督、1963)
パディントン』(ポール・キング監督、2014)
ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』(エドワード・ズウィック監督、2016)◎
この世界の片隅に』(片淵須直監督、2016)◎
『キャロル』(トッド・ヘインズ監督、2015)

【160】



『ホワイト・ゴッド/少女と犬の狂詩曲』(コーネル・ムンドルッツォ監督、2014)
『レヴェナント 蘇えりし者』(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、2014)
10 クローバーフィールド・レーン』(ダン・トラクテンバーグ監督、2016)
『ミラクル・ニール!』(テリー・ジョーンズ監督、2015)
ヘイトフル・エイト』(クエンティン・タランティーノ監督、2015)

『デッド・プール』(ティム・ミラー監督、2016)
スポットライト 世紀のスクープ』(トム・マッカーシー監督、2015)
スペシャルID 特殊身分』(クラレンス・フォク監、2013)
フライトナイト』(トム・ホランド監督、1985)
ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(ギャレス・エドワーズ監督、2016)◎

【170】



『サプライズ』(アダム・ウィンガード監督、2011)
『顔のないヒトラーたち』(ジュリオ・リッチャレッリ監督、2014)
『ボーダーライン』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2015)
エージェント・ウルトラ』(ニマ・ヌリザデ監督、2015)
『SPL/狼よ静かに死ね』(ウィルソン・イップ監督、2005)

SPY/スパイ』(ポール・フェイグ監督、2015)


 ※


ルパン三世 イタリアン・ゲーム』(友永和秀総監督、矢野雄一郎監督、2016)*3
ガールズ&パンツァー』(水島努監督、2012-2013)*4
ガールズ&パンツァー/これが本当のアンツィオ戦です!』(水島努監督、2014)*5
攻殻機動隊 ARISE/PYROPHORIC CULT』(黄瀬和哉総監督、2015)*6 
名探偵コナン 江戸川コナン失踪事件 ~史上最悪の2日間~』(山本泰一郎監督、2014)*7

ウルトラセブン』(円谷一ほか監督、1967-1968)*8
バーナード嬢曰く。』(ひらさわひさよし監督、2016)*9




【註】
1:OV
2:OV
3:TVM
4:TVアニメ
5:OVA
6:劇場公開された『攻殻機動隊 ARISE』シリーズ4作(黄瀬和哉総監督、2013-2014)をTVアニメ用に再編集して放送された『攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』(黄瀬和哉総監督、2015)内で新たに制作された2エピソードをまとめたもの。
7:TVM
8:TVシリーズ
9:TVアニメ

*1:2012年6月6日発売。

映画雑記-2016-

相も変わらずいろいろ映画を観ながらも、今年はまとまった感想をあまり書けなかったのですが、時折Twitterにて偶発的に、長さもバラバラに呟いていた感想を、一部加筆修正のうえ、備忘録として残します。


     ※


ルパン三世 イタリアン・ゲーム』友永和秀総監督、矢野雄一郎監督、2016*1)は昨年のTV版(未見)の再編集+新規カットという構成の影響もあるのだろうが、それにしてもストーリーとアクションとギャグのパートが分裂しすぎじゃないかしら。それぞれで進展を一時停止しているような愚鈍さが否めない。テレコムだから画作りと動きは安定して楽しいのだけどなあ。


     ○


Blu-rayザ・ビートルズ/イエロー・サブマリン』ジョージ・ダニング、ジャック・ストークス監督、1968)を観る。4Kスキャニングのうえ、1コマごとに手作業でレストアされたという画質の見事な出来栄えに驚嘆した。セルに背景画、写真など映画に使用された素材ごとの質感、ともすればセルの塗りムラさえ再現してみせる微細で精緻な色彩再現はもちろんのこと、DVD版までには見られた、フィルムの状態やデジタル化に起因する、作り手の意図しない画面のノイズやチラつきがごく最小にまで抑えられており、ストレスなく映画の世界にのめり込めるのが嬉しい。「無地」の背景の美しさよ! 見事なレストア版だった。


     ○


◆1カット毎ふんだんにまぶされたユーモアで全編お腹がよじれるほど笑えながら、なおかつ豊潤に物語を展開してくれる『映画 ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』(マーク・バートン、リチャード・スターザック監督、2015)の見事さよ! さすがのアードマン・スタジオ品質。


     ○


◆劇場版名探偵コナン 業火の向日葵』静野孔文監督、2015)は、キッドが中盤の時点で的確に本作の犯人を縛り上げていたりなど、前半までは比較的丁寧なつくりだったのに、後半はかなり雑な展開になったのが残念だなぁと思ってwikipedia等の記事を覗くと、なるほど後半の脚本が尺の都合によってコンテ段階で1時間近く切られていたのか。名探偵コナンのアニメ版作品を観るのは、『ルパン三世VS〜』シリーズを除けば劇場版第10作目の『探偵たちの鎮魂歌』以来であって、さすがに埋めがたいなにかを感じたりもしたのでした。クライマックスの大スペクタクルと謎解きシーンがもっと有機的に絡んでいればよかったのになぁ。あるいは、敷地内に取り残されるのが蘭ではなくあの老婆であったなら、物語的により感情に訴えるものになったろうに。それ以外は、けっこう楽しかったです。


     ○


◆いまさらのようにビデオ版呪怨清水崇監督、2000)、呪怨2清水崇監督、2000)の2作を観た。なんだ怖いじゃないか。件の伽椰子の階段降りは、それまでぶつ切りによって抑えられていた恐怖演出が、いっぺんに直接的にしつこく襲い来るのもあって、虚を突かれて心底怖かった。ただ、とりあえずいちばんの収穫はOV『怨滅のビデオレター』(永井裕監督、2010)のネタ元がひとつ知れた(たぶん)こと……ってなんだそりゃ( ゚д゚)、 ペッ


     ○


◆いまさらのように劇場版呪怨清水崇監督、2003)、呪怨2清水崇監督、2003)の2作を観た。やっぱり怖いじゃないか。とりあえずいちばんの収穫は、3D版の貞子のキャラクター的文脈がつかめたことかしら。それにしても、伽椰子ってけっこう伊藤潤二の漫画『富江』の流れを汲んでるのだなぁ。


     ○


◆やっと米国版“呪怨THE JUON/呪怨清水崇監督、2004)、呪怨 パンデミック清水崇監督、2006)、そして呪怨 ザ・グラッジ3』(トビー・ウィルキンス監督、2009)の3作を観る。んもう恐いじゃないか。『2』まではオリジナルと同じく清水崇監督なので、恐怖の感覚はそのままだが、暗転による断章演出がないなどの要素から、よりふつうに映画的に見えるのが興味深い。『3』は、劇場未公開もやむなしなくらいに“呪怨らしさ”は激減したものの、これまで描いてはいないが「ない」とも言っていない物語の空隙から新設定を作り出して脚本に仕立て上げるというアクロバティックさが、洋物感に溢れていておもしろい。その破天荒さゆえに、クライマックスあたりで空中分解するのがじつに惜しまれる。それにしても、7月4日に宇宙人を撃退した大統領ことビル・プルマンも、伽椰子の呪いには敵わないのね……。


     ○


◆本来の売りであろう侵略SFとしてのスペクタクル的見せ場のどれもにまったく目新しさがなく、既視感と退屈さし溢れているインデペンデンス・デイ: リサージェンス』(ローランド・エメリッヒ監督、2016)におけるエメリッヒの演出は、もはや破れかぶれな様相さえ呈しているが、一方で彼が本当に描きたかったであろう男同士の色とりどりの友愛シーンについては、地球存亡なぞもう飽きたといわんばかりに、とても誠実かつ丁寧に情熱を持って撮られていて感動的だ。キャストにコンティやボウイ、たけしや教授がいないのが不思議なくらいだ。いっそ舞台もクリスマスにすればよかったのにと思わせるような、風通しのよさは魅力だ。


     ○


◆原作小説の映画化で、地の文をモノローグやナレーションとして映画のあちこちに安易に貼りたくって「原作再現だ」っていうのは、もうやめようよ。選ぶ映画が悪いのか、最近観たこの手の邦画がだいたいそうで、なんとなくゲンナリしている。べつに地の文をモノローグやナレーション処理することが悪いのではなくて、使いどころをもっと考えて選んだうえで使ってほしいだけであって……。

たとえば、小野不由美原作の映画残穢-住んではいけない部屋-』中村義洋監督、2016)も顕著。脚色や恐怖映像は──そりゃ、元祖“ほん呪”のスタッフが関わっているのだもの──全然悪くはなかった本作においてしかし、主人公の作家「私」はのべつまくなしに地の文を読み上げるのは、いかがなものか。このために、原作の構造ゆえのホラー映画的緊張感の欠如──物語の基本構造が怪奇現象の事後取材であるため、その時点において「私」たちは安全圏にあるため、あまり怖くない──がり際立つし、それよりも、そんなこと映像や2言3言の台詞を交えれば事足りるキャラや状況の説明もとにかく「私」のナレーションで処理されるため、単にすこしでも描写に面倒なことは全部そうしているふうにしか見えなくなっている。 

せっかく本作が原作から改変を施したラストにおいて、映画文法として「ぜったいに安心安全なナレーションと劇判」に「ぜったいに安心安全ではない映像と音声」をぶつけるという対位法的な手法で、モキュメンタリーだからこそ読者に与えた原作の不穏な読後感を、フィクションである映画として再現することに成功しているのに、その効果が半減していないだろうか。たとえば、「私」のナレーションは冒頭のつかみに限定し、本筋の怪奇と恐怖の物語が映画としてきちんと緊張感をもって提示すれば、ラストの安心感に不意に差し挟まれる悪意ある作為に観客としてより「ゾッ」とできたのではないかしら(余談として加えれば、前述のラストの改変こそがたしかに本作の見所であるものの、それ以降がいささか盛り過ぎで蛇足な嫌いもある。あるいは登場する順序が悪いのじゃないかしらん)。


     ○


◆長年に渡る続編制作の紆余曲折や女性キャストへの変更、役者に対するヘイト攻撃騒動などで、公開前から作品の外で大いに炎上したリブート版ゴーストバスターズポール・フェイグ監督、2016)はしかし、明るく笑えて、カラフルで、アクション満載で、ピリッと風刺の精神にも満ちたコメディ映画の快作だよ!

思うに本作の好ましさとは、多く語られるような思想的/政治的な鋭さもさることながら、もっとシンプルで普遍的なことを全体として語っているからではないかしら、ということだ。描かれる幽霊騒動の発端や、主人公たちに降りかかるトラブルや障害の原因は、大なり小なりどれも「お前は○○だからダメなんだ」とか「○○なことを言うアイツは絶対認めない」といって、他人に対して拒絶や抑圧をしたいという欲求──唯我独尊ともいえるかもしれない──だ。そうすることで自分の優位性を保って愉悦に浸ろうとする人々は多い。

エリンたちが乗り越えるべき葛藤は、他に対する/自身が受けるその欲求であり、やがて彼女たちは「そうではなく、お互いに他人をある程度は認め合おうよ」と、他者への寛容を謳うのだ。だからこそ、アビーの「ケヴィンは底抜けのバカだけど、それがケヴィンで私たちの仲間なんだ」という台詞や、ラストでのホルツマンのスピーチが単なる文意以上に感動的に響くのではないだろうか。

あたりまえのようでいて、そのように振舞うのが難しい「みんなちがって、みんないい」というスタンスが、彼女たちの活躍によってほんの少し物語世界に広まったとき、それがスクリーンを越えて染み渡ってくれたら、どんなにいいだろうか。


     ○


Blu-rayズートピア(リッチ・ムーア、バイロン・ハワード監督、ジャレド・ブッシュ共同監督、2016)収録の特典映像で1番驚いたのは、劇中のスコアで聞こえるユニークな打楽器音の正体。てっきりシンセサイザーによる合成音の打ち込みだとばかり思っていたら、じつは生音であり、その奏法がとある既成楽器を合体させて鳴らすというのには意表をつかれた。

また、Blu-rayにて本編の字幕版をはじめて見聴きしたけれど、本作に多く登場する駄洒落をはじめ、原文をほとんど損なわずに翻訳しきった吹替え版のキレを確認した。たしかに吹替え版では劇中で提起される問題の論点を敢えてズラしているものの、殊に著作権にうるさいディズニーが“正確”な翻訳よりもローカライゼーションを優先して“超意訳”を──他社の映画にも増して──率先して用いる昨今の戦略が興味深い(『シュガー・ラッシュ』など、キャラクター設定をすら大幅に変えるような、台詞の改定が行なわれていたほどだし)。


     ○


TVシリーズウルトラセブン円谷一ほか監督、1967-1968)を遅まきながら全話鑑賞した(ただし、現在欠番の第12話を除く)。いわゆる本編と特撮のショットの編集/繋ぎ方が実にシームレスで驚いたし、着ぎるみアクションも舞台の高低差やキャラクターの大きさの差を活かした縦の動きも取り入れられていて面白い。また、 金城哲夫らによる脚本も、正統派侵略モノからどこか苦みばしったオチのもの、果ては番組内の正義をあえて揺さぶりにかけるようなものまで1話ごとバリエーションに富んでいて、観ていて飽きるところを知らない。とくに好きだったエピソードを3篇挙げるなら、第8話「狙われた街」(実相寺昭雄監督、大木淳特殊技術、金城哲夫脚本)、第37話「盗まれたウルトラ・アイ」(鈴木俊継監督、高野宏一特殊技術、市川森一脚本)、第42話「ノンマルトの使者」(満田かずほ監督、高野宏一特殊技術、金城哲夫脚本)かしら。人気も名作の誉れも高い本作だが、その質の高さをしっかり確認できた。


     ○


◆とある家に囚われた呪縛霊の視点から描かれる除霊という新鮮な観点の『私はゴースト』(H・P・メンドーサ監督、2012)は、無気味で静謐で、物語のために精緻に組まれたセットを映すカメラと編集が美しく、すごく’70年代風なオカルティシズムに溢れていて──こういう映画が観たかったんだ! 全篇に流れる主観と客観の不一致──という、至極あたりまえのこと──によって生じる恐怖感が素晴らしい。


     ○


功夫の極意を修得して武芸の達人を次々と襲う猟奇殺人者をドニー・イェンが追う『カンフー・ジャングル』(テディ・チャン監督、2014)は、全編功夫&武侠アクション山盛りな『セブン』(デヴィッド・フィンチャー監督、1997)的サイコ・サスペンスでかつ、ドニー兄貴への功夫映画継承事業も大団円を迎えた感があって、最高か、となる。


     ○


マイケル・ベイ製作の実写版第2弾『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影〈シャドウズ〉』デイヴ・グリーン監督、2016)は、クライマックスのカタルシスに若干欠けるものの、適度に馬鹿馬鹿しく、適度にグロテスクで、アクションも面白い。前作よりもピザとコーラがすすむ感じが良い按配。中盤の見せ場である激流下りのシーンでの、ビーバップたちが逃げるタートルズ戦車砲で撃ち、さらにそれをアクロバティックにかわす亀を超スローモーションで正面から捉えた1ショットが本作の極点。


     ○


◆互いのコミュニティでつまはじきにされている少女ソフィーと巨人BFGのふれあいと冒険を描いたロアルド・ダールの児童書『オ・ヤサシ巨人BGF』を実写化した『BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』スティーヴン・スピルバーグ監督、2016)は、監督作としては久々にライド感満載の映像が楽しめるのと、なにより、これもスピルバーグ印のひとつである“光と影”演出が全篇に満ちていて、まるで祭典のようだ。色鮮やかにスクリーンを跳ねては染め上げる極彩色の光と、反対にグッと深く沈みこんだ影/闇とが織り成すコントラストの素敵な美しさは、ぜひとも劇場で体験したい。まるで童話を読み聞かされているような映画のテンポも心地よい。巨人の巨大さ表現も見事で、ロンドンの闇夜に紛れるBFGの佇まいや、クライマックスで4種類の大きさの人物たちが一同に入り乱れる長回しアクションの見せ方は流石のひと言だ。そのクライマックスの見せ場も、昨今のダラダラと長引きがちなVFX満載映画としては珍しいくらいにストンと──しかし高密度に──落ちるのが良い。そろそろ肌寒くなってくる季節に、ほっこりと心あたたまる作品だった。


     ○


◆なかよし洞窟探検映画『ディセント』ニール・マーシャル監督、2005)は、照明の使い分けのうまさ、ジョン・ハリスによる編集の巧みさ、そして見事に閉じられるラスト・ショットが美しさも相まって、あんまりにも面白かったので、ひとり悔しがっている。それに続く『ディセント2』(ジョン・ハリス監督、2009)は、脚本にあまりに無理のあるアレな続編だったけど、前作から引き続いて編集(と本作では監督)を担当したジョン・ハリスの繋ぎの緩急は見事。前作からの天丼ネタで、同じように「ぎゃッ!」と驚かされて、ひとり悔しがっている。


     ○


◆ピラミッドをはじめとする世界中の巨石遺跡の謎を暴こうとするドキュメンタリー(?)映画『ピラミッド 5000年の嘘』(パトリス・プーヤール監督、2012)は、明らかに問題提起とそれへの解答とのあいだに論旨のすり替えがあったり、比較検討するデータの総量や内容などに意図的な無視や歪曲がみられたりして、ドキュメンタリーとしての出来は問題が多分にある。いっぽう、それはそれとして本編で開示される様々なデータ群は、なるほど知的好奇心をくすぐる面白さがあることも確かであって、むしろダン・ブラウン諸星大二郎的な意味合いでの歴史/伝奇浪漫としてみるなら、ほがらかに楽しめるのじゃないかしらん。


     ○


◆“午前十時の映画祭7”のラインナップのなかで、こればっかりはぜひとも劇場で観たいと思っていた続・夕陽のガンマン/地獄の決斗セルジオ・レオーネ監督、1966)に出かけてきた。4Kレストアによる高画質と大画面によって、遠景はよりダイナミックに、役者の顔面のどアップはより濃くなって、それらを並立する編集での対比がより際立つし、「黄金のエクスタシー」が流れ出すシーンの興奮も深まろうというものだ。それにしても、イーライ・ウォーラックは本当にいい顔/表情をしている。その機微が如実にみられただけでも、劇場に出かけた甲斐があった。


     ○


◆ヘタレ役のユン・ピョウが主演したツーフィンガー鷹』ユエン・ウーピン監督、1979)は、構成もハチャメチャだし、シーンごとにジャンルそのものがコロコロ変わるけど、そのそれぞれがツボをきちんと突いてきて、とっても楽しい映画だった。もちろんアクション・シーンはどれも素晴らしい。


     ○


◆もう何年も前に観た、底抜けのバカたちがバカを貫き通してバカバカしく活躍する『ズーランダー』ベン・スティラー監督、2001)とかジム・キャリーはMr.ダマー』ファレリー兄弟監督、1994)のことを思い出していれば多少幸せになれるので、なんとも安普請な頭をしているなァと思う。


     ○


◆ラングドン教授が持ち前の宗教象徴学知識で、意味もなく持ってまわった証拠を残して悦にいる犯人を追うミステリ・シリーズ第3作インフェルノロン・ハワード監督、2016)は、諸星大二郎的な四方山話として相変わらず楽しい。まあ、それだけ重層的に犯罪計画をしておいて、その鍵となるマクガフィンを隠すのがそんな人目につきそうなところに工夫もなくぶら下げているだけかい、というツッコミは免れまいが、ラングドンが冒頭からしばしば垣間見るボッティチェリの《地獄の見取り図》の幻覚は、その悪夢的ビジュアルが素晴らしい(これをもっと観たかった気もする)。


     ○


マイケル・ボンドの『くまのパディントン』を実写映画化したパディントンポール・キング監督、2014)は、絶妙なテンポで繰り出される軽妙なギャグとちょっとスリリングな冒険譚が交わった明るく楽しい90分であり、ファミリー映画として申し分ない完成度だった。自らも原作ファンというニコール・キッドマンがノリノリで悪役を演じている姿がそれだけで幸せそうだし、パディントンの声を演じたベン・ウィショーのなんとも知れぬナヨッとしたイケメン・ボイスぶりがよく似合っている。パディントンの毛並み表現も見事なり。


     ○


パトリシア・ハイスミス原作の『キャロル』トッド・ヘインズ監督、2015)は、撮影から制御された色調設定、脚本、編集から演出まで、完璧な映画だった。単にLGBT映画という文脈だけに留まらない、人が恋に落ちて誰かを愛してゆく過程をこれ以上ないほど上質さで描き切った、普遍的な1本だ。


     ○


◆トム・クルーズ主演のアクション・シリーズ第2作ジャック・リーチャー NEVER GO BACKエドワード・ズウィック監督、2016)は、おもしろくて満足したけれど、前作『アウトロー』(クリストファー・マッカリー監督、2012)にあった'70年代風味が抜けて、良くも悪くもイマ風な作品だった。良くも悪くも、ね。


     ○


この世界の片隅に片渕須直監督、2016)を観た。あまりに強烈な映画体験であって、いまは言葉を失っている。絶句。ただ、本作がいま、きちんと全国で観られることは、素敵なことだと思う。


     ○


◆平凡で奥手な男に、もし突然宇宙人によって万能の力が備わったら──というコメディ『ミラクル・ニール!』テリー・ジョーンズ監督、2015)は、モンティ・パイソン勢ぞろいなうえにサイモン・ペッグが主演で、さらに故ロビン・ウィリアムズまでもが出演し、それぞれが絶妙なパフォーマンスを魅せてくれるし、皮肉と風刺が効いた物語とスケッチ(ギャグ)はしかし、どこか藤子・F・不二雄の漫画を思わせる優しげなSF(すこし不思議)的展開をみせるのであって、僕にとってはまるで大好きなものでいっぱいの宝箱を開けたような作品だった。


     ○


◆俺ちゃん a.k.a.デッドプールティム・ミラー監督、2016)の吹替え翻訳キレッキレでマジ最高なヤツやん!


     ○



◆久しぶりにカウボーイビバップ 天国の扉』渡辺信一郎監督、2001)を見返した。面白い。しかし、すっかりヴィランのヴィンセントに感情移入するようになってしまったなぁ……。聖者のような悪魔……いい悪役だ。


     ○


ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』クリストファー・マッカリー監督、2015)の日本語吹替え版は、悪役ソロモン・レーンを演じた中尾隆聖のゆるやかで、かつ低くドスのきいた演技がたまらなくシビれるぞ。


     ○


施川ユウキによる漫画をテレビアニメ化したバーナード嬢曰く。(ひらさわひさよし監督、2016、全12話)は、大胆にキャラクター・デザインをアレンジしたことの面白さや、“読書”という題材が題材なだけに見え隠れする版権の壁が興味深かったのだが、いかんせん3分アニメという形態が難点ではなかったか。この極端に短い尺のために始終キャラクターたちが早口で台詞捲くし立てるばかりで、その台詞のおかしみやペーソスよりも騒がしさが目立つ。脚色はよかったので、同じ脚本で尺をせめて1話につき10分は費やして、もっと緩やかな間を持たせたほうが、より原作の持ち味を活かせたのじゃないかしら。


     ※

*1:2016年1月8日、日本テレビ系列『金曜ロードSHOW!』放送。

『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2D日本語字幕版)感想

ギャレス・エドワーズ監督。かつて帝国によって家族を奪われ、天涯孤独のアウトローとなっていたジン・アーソ。あるとき彼女は、いままさに完成しようとする帝国軍の究極兵器の設計に父ゲイレンが関わっていたことを、反乱軍将校キャシアン・アンドーから聞かされる。ジンはその真相を確かめるため、兵器の設計図を奪取するミッションに身を投じてゆくが……。


     ○


デス・スターの設計図を巡る名もなき戦士たちの攻防を描いた『スター・ウォーズ』シリーズの番外編である本作は、4割撮り直しとなるような制作のゴタゴタもあってか、全体としての完成度──とくに、キャラクターの描き込みにはかなり粗がある。ジンをはじめ、設定的には魅力いっぱいのパーティ*1が揃ってはいるものの、いささか動機付けがわかりづらい点は否めない。それに、完全に既存ファン向けに作られているので、初見さんにはオススメできないのはたしかだ。



しかし『スター・ウォーズ』の世界で、いわゆる戦争モノ──とくに独立愚連隊が活躍するような──的な画作りや話運びはとても新鮮だ。とくに、美しいビーチが拡がる惑星スカリフの帝国軍基地で展開される白兵戦の様子は、レーザーの世界観だのに機関銃やらロケット砲やらが登場して面白い。圧倒的な兵士の数と、巨大なAT-AT連体で進軍してくる帝国軍に、勝機のない戦いを挑んでいく独立愚連隊“ローグ・ワン”という構図は、ベタとはいえたいへん盛り上がる。

また、『スター・ウォーズ』シリーズにおけるクライマックスのお約束となった、数箇所で同時に展開される複数の戦闘もそれぞれ素晴らしい。前述の白兵戦に加え、ジンとキャシアン、K-2SOによる機密庫侵入作戦、スカリフ軌道上での空中戦が、本作では描かれる。白兵戦が横移動に展開されるなら、ジンらの侵入作戦は徹底して縦移動として描いて画的なメリハリをつけているし、敵味方入り乱れて飛び回る空中戦のスピード感と臨場感には息を呑んだ。そして、これらをクロスカットで畳み掛ける編集も見事だ*2


     ○


そして、本作の魅力はなによりも、限りなく『スター・ウォーズ』でありながら『スター・ウォーズ』になりきらない点だろう。

映画開幕から、それは徹底されている。これまたお約束であったオープニング・ロール(これまでのあらすじ)は排除され、場所を字幕でポンと出す演出を採用し、劇判を担当したマイケル・ジアッキノ*3によるメイン・テーマは、“あの”メロディになる1歩手前できびすを返す。

なぜなら、本作は歴史の教科書には決して載らない、名もなき人々の物語だからだ。シリーズ正伝を映すシネスコ画面の隅で誰にも知られることなく死んでゆく人々の物語だからだ。

たしかに粗の多い本作が、しかし否応なく胸を打つのは、フォースも持たず、スカイウォーカー家の血筋でもない極普通の人々でも、強大で圧倒的な絶望に立ち向かい、そして“希望”を次の手に託してゆくことができるという物語*4を、力強く描いているからではないだろうか*5

翻ってそれは、なにも持たざる僕らの物語でもあるのだ。


     ※


【追記】 2016.12.282016年12月27日、レイア・オーガナ姫を演じたキャリー・フィッシャー氏が亡くなりました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


     ※


【追記2】 2017.1.17
2回目を今度は吹替版で鑑賞。各所で指摘されるように、落ち着いて考えれば大小様々にツッコミは入れられるが、画の良さと情感の豊かさですっかり心つかまれてしまう。全篇に渡って──その舞台設定的な整合性*6を無視してでも──「上へ、上へ」と一生懸命に這い上がり、よじ登り、最後の最後でしみじみと下へ降りる姿を見たら、そりゃあ感涙ですよ。粗さも含めて、やはり大好きな作品だ。

フォースは我と共にあり、我はフォースと共にある……。

*1:宇宙最強の男、ドニー・イェンもいるよ! 思ったとおりパワーバランスが完全におかしなキャラクターだったけれど、それも仕方なし!

*2:編集は、『ロード・オブ・ザ・リング二つの塔』(ピータ・ジャクソン監督、2002)以降、ジャクソン作品で手腕を振るっているジャベス・オルセン

*3:ジアッキノのキャリアは、往年の映画音楽の復元をさせたいならこの人、みたいになっている。それはそれとして、そこはかとなく悲劇を予感させる本作のメインテーマは名曲。

*4:そして、もちろん、それが大なり小なり、歴史に繋がってゆく点もだ。

*5:デス・スターの設計データをかろうじて反乱軍に送信したジンとキャシアンが、やがて訪れる最期の光景を眺めながら喋る「ちゃんと届いたかな?」「誰かには届いてる」というやりとりは、その情景の哀しい美しさとも相まって、とても感動的だ。 ▼まあ、だからこそ、その後の展開は現行のようにエピローグ的に見せるのではなくて、ジンとキャシアンの大団円を終着としてクロスカットで編集したほうがよいのではないか、という不満はある。

*6:たとえば、なぜそんなところに梯子を作ったのか、など

コミックマーケット91に出展します【1日目(12.29)東地区v-37b】

ふたたび更新が滞って、すっかりご無沙汰してしまいました。唐突ではありますが、お知らせがございます。


     ○


このたび、コミックマーケット91(冬コミ2016)初日の12月29日(木)
東地区v-37b“かげふみ同好会” にて無料配布される、

CD-ROM式合同小説誌『久北さやの辻斬』
に、小説、一部デザイン担当として、“津 雅樹”名義で参加させていただいています。


     ○


同好会メンバーの筆によるバラエティ豊かなオリジナル小説作品群、美麗イラストレーションにまじって、短篇SF小説「瑛斗という実像、トオルという虚像」を収録させていただいたほか、ライナーや小説カバーなどの一部デザイン・ワークス等も担当させていただきました。

CD-ROM収録予定内容は、以下のとおりです(順不同)。

【小説】
 ・It's All Over (高柳総一郎)
 ・厄年に刀をかう (日向 敏)
 ・フィリピンパブにて (佐賀 通)
 ・ブレイン・イン・ザ・アクアリウム (岸辺露華)
 ・瑛斗という実像、トオルという虚像 (津 雅樹)

○○○○○○○○○○

○○▲担当したカバーデザイン


旅行記
 ・沼津漫遊記 (岸辺露華・佐賀 通)


【イラストレーション】

 ・看板娘“久北さや”ピンナップ壁紙 (山田しろすけ)*1

また、さらに詳しい内容や収録物サンプルは、以下の引用ツイート、ないし画像をご参照ください。


     ○




▲クリックして拡大(さらに「オリジナルサイズを表示」ボタンをクリックすると、よりお読み易くなります)。


     ○


読んでよし、眺めてよし……と内容盛り沢山の、
かげふみ同好会・刊、CD-ROM式合同小説誌『久北さやの辻斬』
会場にお立ち寄りの際は、ぜひお手に取りくださいませ。


     ○


なお、かげふみ同好会が刊行した過去2作の小説集は、以下のwebページにて無料公開されております。こちらも併せてお楽しみいただければ幸いです。
『フィリピンパブ vs 峠の走り屋 with スクリュードライバー』
『久北さやの呟き』

*1:各種データ形式(予定)一覧……小説:pdf (縦書き、文庫本サイズ)/イラストレーション:jpg (1080p High-Definition 16x9, 2160p Ultra High-Definition 16x9)