2018 4-6月感想(短)まとめ

ちょこまかとtwitterにて書いていた2018年4月から6月にかけての備忘録(一部加筆修正)です。


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【劇 場】
◆1971年、米国の対ベトナム政策を決定的に左右したスクープを巡るワシントン・ポスト紙の攻防を、初の女性社主となったキャサリン・グラハムが直面する同紙の経営問題も絡めつつ描くペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書スティーヴン・スピルバーグ監督、2017)は、単なる実録ドラマに留まらない、現代にも──というか、まさに今日の現実問題に──通ずるテーマを内包した見事な傑作。

メリル・ストリープトム・ハンクスらの繊細な演技、構図や影の濃淡ひとつで状況や感情の機微を切り取るヤヌス・カミンスキーの美しい撮影とリック・カーターの美術セット、かつて自身の健康問題からトーマス・ニューマンが代打した『ブリッジ・オブ・スパイ』(同監督、2015)の音楽性をも取り込んで進化するジョン・ウィリアムズの楽曲などが、見事なアンサンブルを奏でている。企画立案からわずか9ヶ月で本作を完成させたスピルバーグの天才性に驚愕するとともに、なぜ彼がここまで急いだのか、その理由をぜひとも考えてみたい。我々はいつまで「古い時代」に居続けるつもりなのだろうか。まったくもって他人事ではない。


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◆300年に1度、曇天が空を覆うとき復活するとされる伝説のオロチに挑む曇(くもう)兄弟らの闘いを描く曇天に笑う本広克行監督、2018)は冒頭、長回しで映される祭りのファースト・ショットから、画面の太鼓と劇伴のBPMがズレているという気合いの入った導入に驚かされる*1。以降も明らかに脚本と、それ以上に演出の練り不足が目立つ。

曇天の期間が判らないためにオロチがいつ復活するのかといったサスペンスが当然のように成り立っていないのは堂に入ったもので、それどころかギャグも感動も同様にちんちくりんな失笑しか──否、すら──生まず、見せ場のアクション・シーンすらとにかく退屈で、そもそも編集が不恰好極まる事態が平気で頻発する。いや、ずっとそれである。

というのも、本作は必要なシーンどころか必要なショットが決定的に欠けているからだ。本作にはショットが足らなさ過ぎて、切り返しという編集の基本概念すら存在が怪しい。基本的に、ただ半端な構図でダラダラ回してテキトーに繋いだだけであるから1ショットが異様に長いゆえに、キメ画もキメ画たりえていない。ことほど左様に、どんなに集中しても映画の世界に入り込めないず、すがすがしいほどツマラナイ。殺意すら沸く。

本作には無闇やたらとヴァリエーションに富んだ予告編や番宣が用意されていたが、劇場に客を呼んだもん勝ち的な体制は、いいかげん見直していただきたいものだ*2。無論それも大事だが、そればかりではいけない。唯一の救いは、サカナクションによる主題化『陽炎』が、なんとなくゴダイゴがテクノプップやった感があって愉快だったのと、上映時間が短かったことくらいだよ!*3 


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ボードゲームからTVゲームに進化した“ジュマンジ”に吸い込まれた高校生たちが、性格も体格もまったく違う姿となって挑む冒険を描くジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングルジェイク・カスダン監督、2017)は、童貞オタク男子高校生のキョドリ演技を嬉々として披露するドウェイン・ジョンソンを筆頭に、自撮り命の女子高生を演じるジャック・ブラックなど、俳優人のいままで目にすることなかった演技合戦がとにかく楽しい。4人それぞれが心身ともに逆のプレイアブル・キャラクターとなったことで吐露される真のアイデンティティに触れることによって変化・成長する彼/彼女らの姿は感動的だ。

また本作は、主人公たちが挑む冒険を彩るアクション・シーンの構築と見せ方がとてもしっかりしている。TVゲームのなかという設定どおり縦横無尽に展開されるアクションながら、非常に安定したカメラ・ワークと編集によって、近年のハリウッド大作のなかでも抜きん出て見やすいので、安心して映画の世界にのめり込めるだろう。また、本作の日本語吹替え版の出来も、翻訳から演出まで実に素晴らしい完成度だったことを付け加えたい。とても楽しく面白く、ちょっと感動できる本作は、必見の“久々の”続編だ。


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◆思春期の姿のまま永遠の生命を生きる種族“イオルフ”の少女マキアが、大国の侵略によって故郷を追われた先で偶然に拾った、母を亡くした人間の赤ん坊を育ててゆく姿を描いたファンタジー長編アニメーションさよならの朝に約束の花をかざろう岡田麿里監督、2018)は、生命感溢れる精緻な作画、実在感のあるプロダクション・デザインと背景美術の数々は素晴らしく、達者な演者たちによるパフォーマンスと川井憲次による音楽はその画に情感を添え、シーンごとでの演出力はたしかにたいへん高く、見応えがある。

しかし本作は、圧倒的に尺が足りていない。それはラスト・シーンに集約されているだろう──「その思い出を、僕ら観客は共有してないよ」、と。本作のやりたいことはわかるし、その力量はたしかにあるが、いかんせん映画という時間的制約の範疇に収まりきる物語量ではない。だから見せ場だけが足早に過ぎ去り、本来なら画とアクションでみせるべき感情表現が安直な台詞に落とし込まれてしまう。TVシリーズ1クールなりかけて丁寧に物語を紡げていれば、より感動も大きかっただろう。だが、これだけの規模のものが劇場公開という枠組みでなく成立するのかどうか、素人目にはむつかしいところでもあり、なんというか非常にもったいない作品だった。


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  《1ヵ月半ほど入院》

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◆今年1番楽しみにしていたにも関わらず、入院のためずっと劇場に行けず、滑り込みでようやっと観たレディ・プレイヤー1スティーヴン・スピルバーグ監督、2018)が、期待をはるかに超えて面白くて楽しくて、観ているあいだ、ずっと鼻血を吹きそうだった。

未来世界のメガ・ストラクチャー描写や、前半に描かれるデロリアンと金田バイクたちのレースをはじめとした、目のくらみそうな画面の情報量にも関わらず、この観易さたるや! 5年ぶりくらいに3D上映を観たけれど、まったくストレスなく観ることができた。映像や演出もさすがのスピルバーグ印なら、映画やサブカルに対する劇中での落とし前のつけ方も素晴らしい。本作の原作小説が憬れ、また、ここ10年来作られてきた数々のサブカル・リスペクト映画がオマージュやパロディを捧げ続けてきた'80-'90年代──そしていまもなお──カルチャーの最前線を走ってきたスピルバーグだからこそ、彼の作品を観て育った──彼が育ててくれた──僕たちへの温かく優しいメッセージだと受け取りたい。とにもかくにも、本作について現時点で言えるのは、ただ「ありがとう、スピルバーグ、ありがとう」ということだけだ。


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◆のどかな湖水地方を舞台に人間とウサギたちが骨肉の争いを繰り広げる、ビクトリアス・ポター原作の実写映画化ピーターラビットウィル・グラック監督、2018)は、最初に公開された特報の雰囲気など微塵もない、ブラックでバイオレントな笑いを畳みかけてくる快作/怪作。

ピーターたちや、彼らを邪険にする新しいお隣さんのトーマスが互いに容赦なく殺し合う様子を、スピード感あふれるアクション演出を用いて不謹慎が過ぎるくらいにコメディ──しつこな天丼ギャグが効果的──として撮っているため、観ているこちらにも知性と理性を要求するパイソンズ的な毒っ気の効いた1本だ。それにしても、ニワトリのJWルースター2世の日本語吹替え版(演・千葉繁)はズルイよ!


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◆悪徳企業の陰謀によって巨大化・凶暴化した動物たちと、元特殊部隊隊員の動物学者ドウェイン・ジョンソンが骨肉の争いを繰り広げるランペイジ 巨獣大乱闘ブラッド・ペイトン監督、2018)は、キラー・ショット満載の楽しい楽しい怪獣映画だった。巨大なアルビノのゴリラ“ジョージ”とガチンコで対峙するドウェイン・ジョンソンという画だけで100点の作品だが、邦題のサブタイトルに恥じない巨獣たちの暴れっぷりは実に爽快。

彼らの活躍を盛り上げる、あくまでもシンプルなシナリオはテンポがいいし、大都市シカゴを舞台としたクライマックスでのアクションと破壊描写は、バリエーションに富みながら整理整頓されて構築されているので、とても観易い。ジョージをはじめ、巨獣たちのデザインから、本作は“キングコングの息子対バラン対アンギラスドウェイン・ジョンソン”でもあり、そういう意味でも眼福な作品だった。欲をいえば、冒頭のプロローグがやや冗長かな。


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◆2万年後の地球を蹂躙する超巨大怪獣ゴジラと人類とが骨肉の争いを繰り広げる長編アニメ・シリーズ第2部GODZILLA 決戦機動増殖都市静野孔文瀬下寛之監督、2018)は、虚淵玄らによる新怪獣の意外な設定や物語大筋そのものは、こういう解釈や展開もありと思うし、重低音の効いた熱戦や銃撃、初代ゴジラの断末魔をブラッシュアップしたサウンド・エフェクトなどは、かなり聴きごたえがあった。

しかし本作は前作同様、いくらなんでも演出が稚拙すぎる。相変わらず人気声優によるキメ台詞的なものに頼りすぎではないか。それぞれのシーンごとに膨大で説明的な台詞量が用意されるばかりか、本作は前半1時間、同じ台詞内容を直後のシーンで延々オウム返しすることを繰り返す。これでは展開のテンポを悪くする一方だ。

くわえて、その台詞のやりとりとシーンの繋がりに一貫性がないので、さらにモタついた印象を受ける。たとえば、劇中でパワードスーツを改良する際、「すべて機械化するから、操縦者の搭乗を考慮する必要はない」という内容の台詞の直後に、その改良型機を有人で試験運転させてしまう。一応、それから30分ほど経ったクライマックスにおいて台詞内容は回収されるが、これは単に都合の悪いことを都合よく割愛しただけであって、伏線とは呼べない──本作のサスペンスは基本的にこういった後出しジャンケンである──のではないか。だいたい、前作をふくめてなんの脈絡もなかった主人公とヒロインとの2回に渡るラブ・シーンや、肉食植物的なヤツのシーンなど、どう考えても1シーンにまとめられたものを意味もなく分割し過ぎである。話下手か!

それと同様に、空間の見せ方がデタラメ過ぎて、どこに誰がいて、なにがあって、どれくらいの大きさなのかといったことが非常に判りづらい。したがって、せっかくの見せ場であるクライマックスにおいてさえ“ゴジラ・アース”や“機動増殖都市”がどれだけ巨大で広大なのか──台詞ではひたすら「デカイ広いスゴイ」とおだてあげられるが──実感もわかず、アクションも乗り切れない。そして、やはりそこにいるはずなのにいては都合の悪い“その他大勢”の人たちは、都合よく画面から消えるばかりである。

ことほど左様に本作は前作同様、非常に鈍重な作品となった。いっそ40分くらいのほが、まだよい。残念。最終部である次回作において完成度的な巻き返しがあるのかどうか、今冬を期待して待ちたい。


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◆6つ集めれば世界を思いのままにできるといわれる“インフィニティ・ストーン”を求めて地球を狙う最強の敵サノスとアベンジャーズとの闘いを描いたアベンジャーズ/インフィニティ・ウォーアンソニー・ルッソジョー・ルッソ監督、2018)は、MCUシリーズのうち何本かを未見のまま鑑賞した身であっても、キャプテン・アメリカをはじめ何人ものヒーローたちに過たず見せ場を与えつつ適確にストーリーを進め、かつルッソ兄弟演出の真骨頂ともいうべきソリッドな、しかし整理されて非常に観易いアクション演出、そして神の道を歩まんとする悪役サノスのキャラクター性の新鮮さ、そして予想だにしなかったラストの展開など、非常に見応えがあった。欲をいえば、ちょっと各ヒーロー同士のジャレ合い(ユーモア)シーンに尺を取りすぎな点と、も少し一般の人々が世界の危機に翻弄されるさまを描いたほうがよかったのではないかしら。それにしても、今後どのようにMCUを展開してゆくのかが俄然楽しみになる1作だった。


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◆みんな大好き俺ちゃん映画の続編デッドプール2デヴィッド・リーチ監督、2018)は、見応えのあるアクションと、露悪に自虐からパロディまで、これでもかと小ネタに小ネタを──もはやハッキリいって冗長ではないかというくらい──パンパンに詰め込んでおきながら、それでもなお、いま現在あり得べき正義のヒーロー譚として昇華してしまっている最高の続編となっていた。

それにしても、冒頭のツカミとモノローグに始まって、感涙のクライマックスに劇伴までシレッと流用するなんて、デップーどんだけ『LOGAN/ローガン』(ジェームズ・マンゴールド監督、2017)好きなんだよ! 俺も大好きだけどな!


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【ソフト】
◆自らの孤独とセクシャリティに悩みながら、居場所とアイデンティティを求め続けるシャロンの姿を描く『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス監督、2016)は、彼の魂の彷徨を映す映像が本当に美しい。撮影後のデジタル処理によって、さりげなく、しかし徹底的に調整された画面の色彩は、本作のドラマをよりいっそう詩的で、情緒溢れるものにしている。本作を構成する3章それぞれに別々のフィルムの感触を擬似再現していることからも、そのこだわりぶりが伺える。シャロンの内面にそっと触れるような音楽演出も見事な、傑作だった。


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◆伝統ある百人一首の団体「皐月会」を巡る連続爆破殺人事件に挑む名探偵コナン から紅の恋歌静野孔文監督、2017)は、なるほど公開時twitterのTLが「せやかてせやかて」と盛り上がっていたのも頷ける服部平次遠山和葉の活躍ぶりと、開き直ったかのように爆発し続ける劇場版的展開が思う存分楽しめる。そのいっぽう、謎解きの要素──とくトリックの部分──がちょっと弱かったのが残念。あるいは、クライマックスの舞台となる“ある建物”の特性について、事前の検分シーンを挿入するなど、もうすこし丁寧な前振りがあれば、展開がよりサスペンスフルになったのではないかしらん。


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◆ファッション・モデルとしてのし上がるヒロインを襲う業界の闇を描いたネオン・デーモンニコラス・ウィンディング・レフン監督、2016)は、思いがけず抽象性の高い御伽噺のようなホラー。レフン監督らしい彩度の強い映像美と、見た目だけが勝負のモデル業界よろしく画面の表層だけを汲み取るかのような演出──キャラクターの内面描写をメイクの変化だけで描いてみせたり、など──が独特の余韻を残す。


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ジャッキー・チェン演じる刑事が麻薬王逮捕のために、詐欺師を相棒にユーラシア大陸を縦断する羽目になるスキップ・トレースレニー・ハーリン監督、2016)は、アクションをはじめとするジャッキーのパフォーマンスは楽しくて見事というほかないが、いわゆる観光映画的にねじ込まれたモンゴルと中国を縦断して香港に(基本)歩いて帰るという「水曜どうでしょう」ばりの脚本には無理がある。だって、いくらなんでもタイム・サスペンスとして成立してないんだもの! なんとも残念だ。


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◆カナダの山岳地帯にある別荘に出かけたマットたち6人が遭遇する未知の恐怖を描いたPOVホラー『グレースフィールド・インシデント』(マチュー・ラザ監督、2017)は、登場人物の全員が清々しいほどバカばっかりなので、恐怖演出を頑張っているわりに緊張感に欠けるのが残念といおうか微笑ましいといおうか。けれど、事故で失った片目の義眼に超小型カメラを仕込んだ主人公という設定を活かしたシームレスなシーン転換の編集──観客の観ている映像(直前のシーンの末尾)、実は録画映像を主人公が“いま”観ている主観映像だったことが判る──など、ところどころは見所もある。まあ、まばたきが録画されていないのはご愛嬌か。それにしても、クリーチャー・デザインせよ物語のオチにせよ、妙に見覚えがあるなァと思っていたが、『リターナー』(山崎貴監督、2002)だ、コレ。


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◆ソウル駅を中心にゾンビ災害が巻き起こる『ソウル・ステーション/パンデミックヨン・サンホ監督、2016)は、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(同監督、2016)へ続く前日譚的長編アニメーションで、同じくたいへん面白かったが、まったくの真逆ともいえる味わい。冒頭から幕切れにいたるまで、シビアで無惨で、なにより厭なイヤァな展開がこれでもかと繰り広げられる地獄のような本作は、人間や社会の持つダークサイドを徹底的にあぶりだしてみせる。


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◆ネット・ミームとして広まった“スレンダーマン”を、あのダグ・ジョーンズが演じたPOVホラー『都市伝説: 長身の怪人』(ジェームズ・モラン監督、2015)は、洋画ホラーとしては意外にも静謐な恐ろしさに溢れた作品だ。ミームのもととなった加工画像がそうであるように、ちょっとした予兆を経たのち、画面の奥に、はたまたフレームの端に、ふいに映りこんでいるスレンダーマンの姿を見つけてしまったときは、なかなか怖い。いうなれば本作では、カメラを通してしか見えないという独自の設定を活かした、Jホラー的実録心霊動画スタイルが貫かれており、カメラのデジタル・ノイズを巧みに使った恐怖演出も効果的。日本初公開時のタイトルは『スレンダー 長身の怪人』。


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◆タイトルどおりの内容であった『燃えよ! じじぃドラゴン 龍虎激闘』デレク・クォック、クレメント・チェン監督、2010)は、脚本がヘンテコ──主人公の青年への感情移入のできなさは異常──だとか、変なエフェクト入れなきゃいいのにとか、雑で微妙な部分もたしかに多い。けれど、知らず知らずのうちに出会っていた往年の顔ぶれと一同に再会できて懐かしい。ラスト・バトルはちょっと泣いた。


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妖怪ハンターとして食うや食わずの旅路を行く三蔵法師たちの冒険を描いた西遊記2〜妖怪の逆襲〜ツイ・ハーク監督、2017)は、チャウ・シンチーツイ・ハークとが持つそれぞれの奇想天外さがいい具合にマッチングしており、ギャグもアクションも特撮もブッ飛んでいて面白い。スー・チー以外のメイン・キャストをまるっと変更して──孫悟空をホアン・ボーからケニー・リンへという似ても似つかないリ・キャスティングも逆に笑える──も、それなりに成立してしまうのは、題材の持つ強固さか。それにしても、前作に続いて日本語吹替え版の出来のいいこと!


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【ソフト(TVドラマ)】
テレビ東京旧社屋に残された大量の未確認素材をチェックする部署に配属されたAD常田大陸らが見舞われる怪奇現象を描いた深夜テレビドラマ『デッドストック〜未知への挑戦〜(全11話)』(権野元、三宅隆太、森達也監督、2017)は、毎話冒頭に挿入される“いわくつきの恐怖映像”を、かつてのVHS時代の映像的質感で再現することをアリにした物語的仕掛けがまず面白い。そしてなにより、その揺らめき濁った映像と、その後に展開されるHD映像によるホラー演出が怖い、でも怖すぎない、だがしかし怖い絶妙な按配でグイグイ引き込んでくれる。深夜、なにも知らずにチャンネルをまわして本作に当たったら、よほど思い出深い出来事になったろう。基本的に1話(30分)完結形式でとっつきやすいうえ、全体を貫くクリフハンガーもあって一気に観てしまった。


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*1:この、空撮からの逃走犯の背後を追尾する長い長いショットの最初に映る橋の中央に、よく観ると曇天下の後ろ姿が小さく映っている。おそらく作り手としては、やがて追走劇のすったもんだののちに、待ち構えていたかのような天下に犯人が御用となることの伏線のつもり──実際、この追走シーンはそういった顛末を辿る──なのだろう。しかし、天下が祭りを楽しんでいるようで実は周囲の気配を機敏に察しているかのようなショットがその後カットバックされるでもなく、位置関係もへったくれもなく適当な祭りの群集が挿入されるだけで唐突に天下が登場するので、そのようには作用していない。いや、多分『007 スペクター』(サム・メンデス監督、2015)の冒頭的なことをやりたかったんだろうけどさ、こっちはちゃんとバンドと劇伴のBPMをきちんとマッチさせるところからちゃんとやってるからね!

*2:アメリカのトーク・ショーを思わせる白人女性と黒人男性の軽妙な──つもりらしい──やりとりによって映画を宣伝するシリーズがあったが、これを面白いと思っている作り手たちの感性とか品性とか正気を疑いたくなるほど、ゲッソリするほどクソつまらない。この手の予告編を半年近く継続して見せられた挙句にこの本編であって、実際に心身に支障をきたすほどの健康被害を被った。

*3:【初出の暗号ツイート全文】300年に1度、寒天が食卓を覆うとき醗酵するとされる伝説のモロミに挑む相撲協会らの闘いを描く『寒天に習う』(マイケル・ベイ監督、2018)は冒頭、長回しで映される舞踏会のファースト・ショットから、画面のタンゴと劇判のBPMがズレているという気合いの入った導入に驚かされる。以降も明らかに脚本と、それ以上に演出の練り不足が目立つ。というのも、本作は必要なシーンどころか必要なショットが決定的に欠けている。寒天の賞味期限が判らないためにモロミがいつ醗酵するのかといったサスペンスも成り立たず、ギャグも感動も同様に失笑しか生まず、見せ場のアクション・シーンすらとにかく退屈で、そもそも編集が不恰好極まる。ことほど左様に、どんなに集中しても映画の世界に入り込めないのである。本作において、無闇やたらとヴァリエーションに富んだ予告編や番宣が用意されていたが、劇場に客を呼んだもん勝ち的な体制は、いいかげん見直していただきたいものだ。唯一の救いは、上映時間が短かったことくらいだよ! 【以上、暗号ツイート終わり】

2018 1-3月感想(短)まとめ

ちょこまかとtwitterにて書いていた2018年1月から3月の備忘録(一部加筆修正)です。


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【劇 場】
◆奇抜なアイディアとケレン味、そして行き過ぎたユーモアに溢れるアクションを前作から十二分に引き継いだキングスマン: ゴールデン・サークル』(マシュー・ヴォーン監督、2017)は、しかし一方で展開をあれもこれもと盛り込みすぎの嫌いがあって、いささか感情のやり場に困った作品であった。


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◆劇場公開“も”するOVAガールズ&パンツァー 最終章 第1話』水島努監督、2017)は、そのメディアの性質上「えっ、そこで終わるの?」という物足りなさはあるが、それなりにいいぞ……てな印象。戦車ばかりでなく、キャラのアクションも豊富で楽しい。そうとも、戦車の砲弾とは、よけるものなのだ。


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スティーヴン・キングによる大長編小説の映画化ダークタワーニコライ・アーセル監督、2017)は、小説の壮大さにはもちろん欠けるが、精緻に描かれた画面とケレンのあるアクション・シーン、95分の尺にテンポ良くまとまった構成など、SFアクションというジャンルものとして十二分の出来映えだ。


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◆近未来、気象の完全掌握を可能にした衛星システムが、謎の暴走にみまわれて世界が大変なことになる超ディザスター映画ジオストームディーン・デヴリン監督、2017)の良かった点は、上映時間が2時間以内であることと、都市破壊シーンが夜間でも適度に明るくて観やすかったことの2点、以上です。


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◆紳士なフレンズ、もといクマが活躍するパディントン2ポール・キング監督、2017)は、絶妙な存在感のパディントンが魅せるスラップスティックさに抱腹絶倒しながらも心温まる見事なコメディ。往年のチャップリンキートンへのオマージュにくわえ、ウェス・アンダーソンからの影響も興味深い。


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◆鳩と二挺拳銃のマエストロ翁が一大日本ロケを敢行したマンハントジョン・ウー監督、2018)は、なんていうか、変わらねえなあこの爺さんはというか、遅れてきた’90年代アクション映画というか、絶妙にたまらんものがあるですな。


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◆唐の都・長安を舞台に、若き空海と詩人・白楽天が妖猫の呪いの謎に挑む夢枕獏の小説『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』の映画化空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』チェン・カイコー監督、2017)は、絢爛な巨大セットが持つ力み加減と、あいだの演出における絶妙な緩み加減の按配が、どこか’80年代角川超大作を思い出す感触。角川映画らしいといえばらしい。


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◆タリス銃乱射事件(2015)を映画化した15時17分、パリ行きクリント・イーストウッド監督、2018)の、けっして“劇映画”向きとはいい難い実話ベースの脚本──しかも本人ら主演──を、たしかに不思議な感触だが、かくもソリッドにまとめ上げてしまうイーストウッドの手腕の凄まじさよ! 感嘆。



◆音楽を憎む一家のなかでただひとり音楽を愛する少年が黄泉の国を彷徨うリメンバー・ミー(リー・アンクリッチ、エイドリアン・モリーナ監督、2017)は、スリリングで面白く、黄泉の国を彩るなんとも知れぬ総天然色が美しく、そして本当にいい映画だった。邦題が原題を超えた久々の例ともなった。


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◆謎多きアフリカの小国“ワカンダ”の国王が活躍するMCU作品ブラックパンサーライアン・クーグラー監督、2018)は、アフロ・フューチャリズムを徹底的に具現化した意匠や美術が美しく新鮮。また、思いのほか暴力描写が容赦ないところもよかった。主人公たちのルーツを巡る旅路と葛藤が胸を打つ。


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◆人気ゲーム・シリーズの実写リブート版トゥームレイダー ファースト・ミッションローアル・ユートハウグ監督、2018)は、アクションの見せ方や謎解きの面など惜しいところ──それがどうしてそうなったのか、その仕掛けがどうして解けたのか、のロジックと段取りがあまりに乏しい!──がそこかしこにあるし、画面がもうちょっと明るければなと思う部分もあるけど、 トレーニングによって肉体改造を経たアリシア・ヴィキャンデルの熱演と、敵味方が怪我を負いながらジタバタ戦うという割と泥臭いアクション演出の感じもあって、かなり「好き!」な作品だった。3作くらいは、ぜひ続けてほしい。原作ゲーム(2013年のリブート作)でララ・クロフトを演じた甲斐田裕子を登用した日本語吹替版もイイ出来。


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◆サーカスの創始者P.T.バーナムの半生を描くミュージカルグレイテスト・ショーマンマイケル・グレイシー監督、2017)は、古色蒼然たる総天然色と意匠による往年の黄金期ミュージカル映画的な画面の手触りと、今日ならではのビートやテーマ性とが融合した、ジャンルを刷新する意欲作だった。


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【ソフト】
◆恥ずかしながら、続編の存在すら知らなかったクリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち』オリヴィエ・ダアン監督、2004)は、たしかにリュック・ベッソンによるオリジナル脚本には細かいツッコミが多々あるが、しかし演出がかなり巧みで最後まで楽しく観られるオツな1本だった。


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◆かつて悔恨を残した遺跡に再び挑む羽目になったトレジャー・ハンターたちの冒険を描く『ロスト・レジェンド 失われた棺の謎』(ウー・アールシャン監督、2015)は、実に“ちょうどイイ”按配。少年時代に木曜洋画劇場とかで偶然観たらドハマリしそうな感じって伝わりますかね。近頃流行のI-MAX撮影のシーンのみ縦横比が変わるのを、シネマ・スコープとアメリカン・ビスタを使いわけて廉価に再現しているのが泣ける。吹替えも贅沢なつくり。


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◆全篇主人公主観のアクションSF『ハードコア』イリヤ・ナイシュラー監督、2015)は、主観カメラのみで進行する映画ながら、豊富なアクションのアイディアと見せ方の工夫、劇中の設定を用いた自然な編集も相まって、かなり観易く面白い。ただし作品の性質上、僕含め弱い人は酔うので休み休み観よう。


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◆清掃局と思われたバイト先が実はキョンシー退治の専門業者だった霊幻道士/こちらキョンシー退治局』(ヤン・パクウィン、チウ・シンハン監督、2016)は、キョンシーものに『ゴーストバスターズ』と『ベスト・キッド』、そしてなにより『ヒックとドラゴン』を見事にブレンドし、スマホの使い方など、そこかしこに新鮮なアイディアを盛り込んだなかなかの一品だ。いやほんと、翻案のお手本みたいな映画だった。見事なり。


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◆本当は劇場で観たかった三島由紀夫原作の『美しい星』(吉田大八監督、2017)を遅ればせながら観た。ハッキリ言って、たしかに本作はパッと見トンデモ映画に属することは間違いないかもしれないが、しかし、本作もまたこれまでの吉田監督作同様に、客観的には常軌を逸したようにも思える虚構にすがることが、当人のささやかな、しかし切実な救いになることを複眼的にまざまざと見せ付けられるような作品だった。上映開始40分を境に激変する本編のテンションや編集、音楽使いなど、面白くって胸をグサグサ突かれるところ目白押しで最高だ。本当に吉田監督の映画は観るのに体力が要るなあ。


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◆死亡事故が起きた演劇の再演前夜に巻き起こる恐怖をPOVで描いた『死霊高校』(クリス・ロフィング、トラヴィス・クラフ監督、2015)は、米本国では低評価らしいが、これがなかなか面白い。件の演劇を巡る因縁が呼び込む物語的円環構造、静かに忍び寄る死霊など洋画ホラーとしては地味、だがそこがいい。


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◆爆発が過剰なシリーズの第5作トランスフォーマー/最後の騎士王マイケル・ベイ監督、2017)は、実写とCG入り乱れる目を見張るような画の情報量にくわえて脚本があまりに支離滅裂なので、ついていくだけでも疲労困ぱい。なにを思って3種の縦横比をショットごとに混在させたのかも、謎を残す。


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◆人気海賊シリーズ第5作パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊(ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ監督、2017)は、まずまず面白いが、アクションの見せ方が絶妙に下手で、痒いところに手が届かないもどかしさ。やっぱり、ヴァービンスキー(1〜3監督)はアクション演出が巧いね。


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◆宇宙ステーション版“ニューヨーク1997”映画ロックアウト(スティーヴン・セイント・レジャー、ジェームズ・マザー監督、2012)は、良くも悪くもヨーロッパ・コープ製らしい雑多な面白さとユルさの混在している作品だが、本作はとにかく日本語吹替え版の出来が最高なので、一聴の価値あり。


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◆モスクワ郊外に巨大宇宙船が墜落する『アトラクション 制圧』(フョードル・ボンダルチュク監督、2017)は、ID4かと思いきやスターマンでトワイライトで、ちょい第9地区という、なんともヘンテコな作品だった。ただ、冒頭の宇宙船墜落シーンと、それによって半廃墟と化す街の美術は見事な出来栄え。


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◆江戸時代、師の行方を辿り日本に潜入した宣教師が、増勢する切支丹弾圧の現実に“転ぶ”までを描く遠藤周作の小説の映画化沈黙 -サイレンス-マーティン・スコセッシ監督、2016)は、素っ気ないほどの演出のなかに発露する暴力の空気が恐ろしく、ある種の潜入捜査モノとしてもソリッドで面白い。


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◆張込捜査のために痴呆気味の老婆の部屋を間借りした刑事コンビのもとに、家出少女が転がり込む『OVER SUMMER 爆裂刑事』(ウィルソン・イップ監督、1999)は、やがて擬似家族となる4人をほがらかに映す人情喜劇の側面が味わい深い。後半、映画史上でもトップクラスに緊張感溢れる晩飯シーンは必見。


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【TVアニメ】
◆すっごーいと評判だったTVアニメけものフレンズたつき監督、2017)をようやっと観た。ほんわかとしたキャラクターデザインや「狩りごっこ」という台詞が示すように、基本的にはお遊戯のようなユルさで進むにも関わらず、展開や画面のそこかしこに絶対的な虚無や死の香りがにおい立っていて、観ていると、楽しさのなかになんとも知れぬ不穏な感覚が立ち上ってくる。本作について「実質、飛浩隆『グラン・ヴァカンス』(早川書房、2002)のアニメ化ともいえまいか」という声を伝え聞いていたけれど、それも納得だ。正直、こんなに夢中になって観られるとは思ってもみなかった。たいへん面白かったです。


     ○


◆先日読んだ原作漫画(コトヤマ小学館、2014-)が面白かったので、TVアニメ第1期『だがしかし』高柳滋仁監督、2016)を観た。原作の精緻な作画を継承しつつ、1話8頁という作話を丹念に解きほぐし再構成した見応えのあるアニメ化だった。ただ、原理的に終われないのは、昨今のアニメ事情的にやむなしか。

2017年映画ランキング(映画館鑑賞作品) + 鑑賞作品リスト

すっかり開店休業状態なので恐縮ですが、今年僕が映画館で観た映画(39本)を備忘録としてゆるやかなランキング形式──“○”で区切られたなかは、ほぼ順不同くらいの気持ち──で並べております。なお、地方在住者であることに加えて、筆者の偏食具合から、かなり偏った作品リストになっていることをご容赦ください。それでは皆様、"Have yourself a merry little Christmas"

※気まぐれになんらかのコメントを書いた作品は、タイトルの後ろに記事へのリンクを貼っています。


     ▼



LOGAN/ローガンジェームズ・マンゴールド監督、2017)……記事参照
ブレードランナー 2049ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2017)……記事参照
新感染 ファイナル・エクスプレスヨン・サンホ監督、2016)……記事参照



     ○



猿の惑星: 聖戦記』マット・リーヴス監督、2017)……記事参照
『エイリアン: コヴェナント』リドリー・スコット監督、2017)……記事参照
『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』新房昭之総監督、武内宣之監督、2017)……記事参照
スター・ウォーズ/最後のジェダイライアン・ジョンソン監督、2017)……記事参照
ダンケルククリストファー・ノーラン監督、2017)……記事参照


夜は短し歩けよ乙女湯浅政明監督、2017)……記事参照
IT/イット “それ”が見えたら、終わり。アンディ・ムスキエティ監督、2017)……記事参照
ラ・ラ・ランドデミアン・チャゼル監督、2016)……記事参照
『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(ロジャー・スポティスウッド監督、2016)……記事参照
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』ジェームズ・ガン監督、2017)



     ○



『フェリシーと夢のトウシューズ(エリック・サマー、エリック・ワリン監督、2016)
ハクソー・リッジメル・ギブソン監督、2016)
オリエント急行殺人事件ケネス・ブラナー監督、2017)……記事参照
ひるね姫〜知らないワタシの物語〜』神山健治監督、2017)……記事参照
ワンダーウーマンパティ・ジェンキンス監督、2017)


散歩する侵略者黒沢清監督、2017)
キングコング: 髑髏島の巨神』ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督、2017)……記事参照
『22年目の告白─私が殺人犯です─』入江悠監督、2017)
『ライフ』(ダニエル・エスピゾーサ監督、2017)
『DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団』FROGMAN監督、2017)……記事参照



     ○



ローガン・ラッキースティーブン・ソダーバーグ監督、2017)
『バリー・シール/アメリカをはめた男』ダグ・リーマン監督、2017)
『T2 トレインスポッティングダニー・ボイル監督、2017)……記事参照
ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたちティム・バートン監督、2016)
ワイルド・スピード ICE BREAK(F・ゲイリー・グレイ監督、2017)


アサシン クリードジャスティン・カーゼル監督、2016)……記事参照
ザ・コンサルタント(ギャビン・オコナー監督、2016)
ジャスティス・リーグザック・スナイダー監督、2017)
怪盗グルーのミニオン大脱走カイル・バルダピエール・コフィン監督、2017)……記事参照
『ゴースト・イン・ザ・シェル』ルパート・サンダース監督、2017)……記事参照



     ○



バイオハザード: ザ・ファイナル』ポール・W・S・アンダーソン監督、2016)……記事参照
キング・アーサーガイ・リッチー監督、2017)
バイオハザード: ヴェンデッタ(辻本貴則監督、2017)……記事参照
メアリと魔女の花米林宏昌、2017)
ザ・マミー/呪われた砂漠の王女アレックス・カーツマン監督、2017)


GODZILLA 怪獣惑星静野孔文瀬下寛之監督、2017)……記事参照



     ○



【以上39作品】



     ○



▼2017年鑑賞映画リスト

f:id:MasakiTSU:20181207023251p:plain

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【◎……劇場にて鑑賞】

◆『バイオハザード: ザ・ファイナル』(ポール・W・S・アンダーソン監督、2016)◎
◆『ソロモンの偽証/前篇・事件』(成島出監督、2015)
◆『ソロモンの偽証/後篇・裁判』(成島出監督、2015)
◆『ライズ・オブ・シードラゴン/謎の鉄の爪』(ツイ・ハーク監督、2014)
◆『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(ザック・スナイダー監督、2016)

◆『ミケランジェロ・プロジェクト』(ジョージ・クルーニー監督、2014)
◆『エンド・オブ・キングダム』(ババク・ナジャフィ監督、2016)
◆『劇場霊』(中田秀夫監督、2015)
◆『ミッドナイト・アフター』(フルーツ・チャン監督、2014)
◆『リリーのすべて』(トム・フーパー監督、2015)

10


◆『マギー』(ヘンリー・ホプソン監督、2015)
◆『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』(ツイ・ハーク監督、2010)
◆『ザ・コンサルタント』(ギャビン・オコナー監督、2016)◎
◆『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー』(ユエン・ウーピン監督、1993)
◆『地球に落ちて来た男』(ニコラス・ローグ監督、1976)

◆『PERSONA3 THE MOVIE ─#1 Spring of Birth─』(秋田谷典昭監督、2013)
◆『PERSONA3 THE MOVIE ─#2 Midsummer Knight's Dream─』(田口智久監督、2014)
◆『PERSONA3 THE MOVIE ─#3 Falling Down─』(元永慶太郎監督、2015)
◆『PERSONA3 THE MOVIE ─#4 Winter of Rebirth─』(田口智久監督、2016)
◆『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(ジェームズ・ボビン監督、2016)

20


◆『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(ティム・バートン監督、2016)◎
◆『青春のマンハッタン』(ブライアン・デ・パルマ監督、1968)
◆『黒いチューリップ』(クリスチャン・ジャック監督、1964)
◆『ザ・ボーイ~人形少年の館~』(ウィリアム・ブレント・ベル監督、2016)
◆『ラ・ラ・ランド』(デミアン・チャゼル監督、2016)◎

◆『死霊館』(ジェームズ・ワン監督、2013)
◆『死霊館 エンフィールド事件』(ジェームズ・ワン監督、2016)
◆『アナベル 死霊館の人形』(ジョン・R・レオネッティ監督、2014)
◆『処刑剣 14 BLADES』(ダニエル・リー監督、2010)
◆『アサシン クリード』(ジャスティン・カーゼル監督、2016)◎

30


◆『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールズ・エンド』(ゴア・ヴァービンスキー監督、2007)
◆『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(ロブ・マーシャル監督、2011)
◆『ニューヨーク・ニューヨーク』(マーティン・スコセッシ監督、1977)
◆『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』(ジョン・マルーフ監督、2014)
◆『アイアムアヒーロー』(佐藤信介監督、2016)

◆『クリーピー 偽りの隣人』(黒沢清監督、2016)
◆『メカニック: ワールドミッション』(デニス・ガンゼル監督、2016)
◆『ライト/オフ』(デヴィッド・F・サンドバーグ監督、2016)
◆『アナザー』(ジョアン・スファール監督、2015)
◆『ビッグ・ガン』(ドゥッチオ・テッサリ監督、1972)

40


◆『ロスト・バケーション』(ジャウム・コレット=セラ監督、2016)
◆『三国志英傑伝 関羽(ソフト邦題: KAN-WOO/関羽 三国志英傑伝)』(フェリックス・チョンアラン・マック監督、2011)
◆『サクラメント 死の楽園』(タイ・ウェスト監督、2013)
◆『貞子vs伽椰子』(白石晃士監督、2016)
◆『エクス・マキナ』(アレックス・アーランド監督、2015)

◆『火の鳥 鳳凰篇』(りんたろう監督、1986)
◆『ひるね姫~知らないワタシの物語~』(神山健治監督、2017)◎
◆『ジュピター』(ラナ&アンディ・ウォシャウスキー監督、2015)
◆『教授のおかしな妄想殺人』(ウディ・アレン監督、2016)
◆『キング・オブ・エジプト』(アレックス・プロヤス監督、2016)

50


◆『ゴースト・イン・ザ・シェル』(ルパート・サンダース監督、2017)◎
◆『夜は短し歩けよ乙女』(湯浅正明監督、2017)◎
◆『キングコング: 髑髏島の巨神』(ジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督、2017)◎
◆『コロニア』(フローリアン・ガレンベルガー監督、2016)
◆『スーサイド・スクワッド』(デヴィッド・エアー監督、2016)

◆『不思議惑星キン・ザ・ザ』(ゲオルギー・ダネリヤ監督、1986)
◆『リオの男』(フィリップ・ド・ブロカ監督、1964)
◆『ウォークラフト』(ダンカン・ジョーンズ監督、2016)
◆『T2 トレインスポッティング』(ダニー・ボイル監督、2017)◎
◆『ズーランダー NO.2』(ベン・スティラー監督、2016)

60


◆『名探偵コナン 純黒の悪夢』(静野孔文監督、2016)
◆『ダークスカイズ』(スコット・スチュワート監督、2013)
◆『ゴシカ』(マチュー・カソヴィッツ監督、2003)
◆『ターザン: REBORN』(デヴィッド・イェーツ監督、2016)
◆『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK ‐The Touring Years』(ロン・ハワード監督、2016)

◆『ワイルド・スピード ICE BREAK』(F・ゲイリー・グレイ監督、2017)◎
◆『ヘイル、シーザー!』(ジョエル&イーサン・コーエン監督、2016)
◆『マネーモンスター』(ジョディ・フォスター監督、2016)
◆『獣は月夜に夢を見る』(ヨナス・アレクサンダー・アーンビー監督、2014)
◆『完全なるチェックメイト』(エドワード・ズウィック監督、2014)

70


◆『ガルム・ウォーズ』(押井守監督、2014)
◆『マジカル・ガール』(カルロス・ベルムト監督、2014)
◆『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(マイケル・ベイ監督、2016)
◆『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』(ジェームズ・ガン監督、2017)◎
◆『バイオハザード: ヴェンデッタ』(辻本貴則監督、2017)◎

◆『アングリーバード』(ファーガル・ライリー、クレイ・ケイティス監督、2016)
◆『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(ウェス・アンダーソン監督、2001)
◆『LOGAN/ローガン』(ジェームズ・マンゴールド監督、2017)◎
◆『殺人の告白』(チョン・ビョンギル監督、2012)
◆『殺人論文/次に私が殺される(テシス)』(アレハンドロ・アメナーバル監督、1995)

80


◆『帰ってきたヒトラー』(デヴィット・ヴェント監督、2015)
◆『キング・アーサー』(ガイ・リッチー監督、2017)◎
◆『マクロスプラス MOVIE EDITION』(河森正治総監督、渡辺信一郎監督、1995)
◆『ハクソー・リッジ』(メル・ギブソン監督、2016)◎
◆『ザ・ファーム 法律事務所』(シドニー・ルメット監督、1993)

◆『屍憶 SHIOKU』(リンゴ・シエ監督、2015)
◆『オリエント急行殺人事件』(シドニー・ルメット監督、1974)
◆『ある会社員』(イム・サンユン監督、2012)
◆『怪盗グルーの月泥棒 3D』(ピエール・コフィン、クリス・ルノー監督、2010)
◆『怪盗グルーのミニオン危機一発』(ピエール・コフィン、クリス・ルノー監督、2013)

90


◆『22年目の告白─私が殺人犯です─』(入江悠監督、2017)◎
◆『ミニオンズ』(ピエール・コフィンカイル・バルダ監督、2015)
◆『ライフ』(ダニエル・エスピゾーサ監督、2017)◎
◆『メアリと魔女の花』(米林宏昌、2017)◎
◆『ザ・ギフト』(ジョエル・エドガートン監督、2015)

◆『裸足の季節』(デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督、2015)
◆『ドント・ブリーズ』(フェデ・アルバデス監督、2016)
◆『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』(アレックス・カーツマン監督、2017)◎
◆『トランスフォーマー/ロストエイジ』(マイケル・ベイ監督、2014)
◆『怪盗グルーのミニオン大脱走』(カイル・バルダピエール・コフィン監督、2017)◎

100


◆『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(トム・ムーア監督、2014)
◆『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(ジョン・M・チュウ監督、2016)
◆『シチズンフォー スノーデンの暴露』(ローラ・ポイトラス監督、2014)
◆『ターミナル・ベロシティ』(デラン・サラフィアン監督、1994)
◆『グッドナイト&グッドラック』(ジョージ・クルーニー監督、2005)

◆『ブレア・ウィッチ』(アダム・ヴィンガード監督、2016)
◆『白い家の少女』(ニコラス・ジェスネール監督、1976)
◆『フェリシーと夢のトウシューズ』(エリック・サマー、エリック・ワリン監督、2016)◎
◆『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(新房昭之総監督、武内宣之監督、2017)◎
◆『NERVE/ナーヴ 世界で一番危険なゲーム』(アリエル・シュルマン、 ヘンリー・ジュースト監督、2016)

110


◆『ブルックリン』(ジョン・クローリー監督、2015)
◆『ワンダーウーマン』(パティ・ジェンキンス監督、2017)◎
◆『ひつじのショーン スペシャル いたずらラマがやってきた!』(ジェイ・グレイス監督、2015)
◆『トレジャーハンター・クミコ』(デビッド・ゼルナー監督、2014)
◆『新感染 ファイナル・エクスプレス』(ヨン・サンホ監督、2016)◎

◆『ジェーン』(ギャビン・オコナー監督、2016)
◆『高慢と偏見とゾンビ』(バー・スティアーズ監督、2016)
◆『ダンケルク』(クリストファー・ノーラン監督、2017)◎
◆『レッドタートル ある島の物語』(マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督、2016)
◆『エイリアン: コヴェナント』(リドリー・スコット監督、2017)◎

120


◆『モーガン プロトタイプL-9』(ルーク・スコット監督、2016)
◆『ブレードランナー ブラックアウト2022』(渡辺信一郎監督、2017)
◆『2039: ネクサス: ドーン』(ルーク・スコット監督、2017)
◆『2048: ノーウェア・トゥ・ラン』(ルーク・スコット監督、2017)
◆『マグニフィセント・セブン』(アントワーン・フークア監督、2016)

◆『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(ロジャー・スポティスウッド監督、2016)◎
◆『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(ジェイ・ローチ監督、2015)
◆『神様メール』(ジャコ・ヴァン・ドルマル監督、2015)
◆『散歩する侵略者』(黒沢清監督、2017)◎
◆『猿の惑星: 聖戦記』(マット・リーヴス監督、2017)◎

130


◆『ヘッド・ショット』(ティモ・ジャヤント、キモ・スタンボエル監督、2016)
◆『トリプルX: 再起動』(D・J・カルーソー監督、2017)
◆『ナイト ミュージアム/エジプト王の秘密』(ショーン・レヴィ監督、2014)
◆『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』(マイケル・アルメレイダ監督、2015)
◆『西遊記 孫悟空vs白骨夫人』(ソイ・チェン監督、2016)

◆『DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団』(FROGMAN監督、2017)◎
◆『少女は悪魔を待ちわびて』(モ・ホンジン監督、2016)
◆『ドライブ・アングリー3D』(パトリック・ルシエ監督、2011)
◆『死刑台のエレベーター』(ルイ・マル監督、1958)
◆『ブレードランナー 2049』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2017)◎

140


◆『ドラゴン×マッハ!』(ソイ・チェン監督、2015)
◆『SING/シング』(ガース・ジェニングス監督、2016)
◆『グレートウォール』(チャン・イーモウ監督、2016)
◆『イップ・マン 継承』(ウィルソン・イップ監督、2015)
◆『バリー・シール/アメリカをはめた男』(ダグ・リーマン監督、2017)◎

◆『メッセージ』(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2017)
◆『おじいちゃんはデブゴン』(サモ・ハン・キンポー監督、2016)
◆『ローガン・ラッキー』(スティーブン・ソダーバーグ監督、2017)◎
◆『ジャスティス・リーグ』(ザック・スナイダー監督、2017)◎
◆『GODZILLA 怪獣惑星』(静野孔文瀬下寛之監督、2017)◎

150


◆『サスペクト 哀しき容疑者』(ウォン・シニョン監督、2013)
◆『TAICHI/太極 ゼロ』(スティーブン・フォン監督、2012)
◆『TAICHI/太極 ヒーロー』(スティーブン・フォン監督、2012)
◆『テスター・ルーム』(ジョン・プージェ監督、2014)
◆『バーフバリ 伝説誕生』(S・S・ラージャマウリ監督、2015)

◆『ナイスガイズ!』(シェーン・ブラック監督、2016)
◆『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(アンディ・ムスキエティ監督、2017)◎
◆『狼の血族』(ニール・ジョーダン監督、1984
◆『オリエント急行殺人事件』(ケネス・ブラナー監督、2017)◎
◆『哭声/コクソン』(ナ・ホン・ジン監督、2016)

160


◆『ハーバー・クライシス〈湾岸危機〉 Black&White Episode 1』(ツァイ・ユエシュン監督、2011)
◆『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(ライアン・ジョンソン監督、2017)◎
◆『ナイル殺人事件』(ジョン・ギラーイン監督、1978)
◆『ドクター・ストレンジ』(スコット・デリクソン監督、2016)
◆『その女諜報員 アレックス』(スティーブン・カンパネッリ監督、2015)

◆『レイルロード・タイガー』(ディン・シェン監督、2016)

161

2017年残りの雑記。

ちょこまかとtwitterにて書いていた備忘録(一部加筆修正)です。


     ○


◆陸・海・空の3視点が交錯するダンケルククリストファー・ノーラン監督、2017)は、古くは『イントレランス』(D・W・グリフィス監督、1916)、最近では『クラウド アトラス』(ラナ・ウォシャウスキートム・ティクヴァ、アンディ・ウォシャウスキー監督、2012)にあったような時空変形圧縮型の編集と凄まじい撮影の美しさで、まさに観客自身が戦争状態にあることを複眼的に楽しめる(怖がれる)戦争映画の新たな傑作。ハッとさせられるラストの音響演出にも注目。


     ○


◆シリーズ最新作『エイリアン: コヴェナント』リドリー・スコット監督、2017)は、エイリアン×失楽園×ギリシア神話×北欧神話×創世記×新約聖書×シェリー夫妻×クラーク等々という様々なサブ・テクストとコンテクストが乱交する、諸星大二郎的四方山SF大作として超愉快だった。


     ○


◆実話をベースにした猫映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(ロジャー・スポティスウッド監督、2016)は、いかにも感動ドラマ然とした大仰な演出を徹底的に廃した淡白でアッサリとした風味なのが実によかった。画面内のちょっとした変化が、押し付けがましくなく、じんわりと身に染みる。


     ○


◆もはや実写としか思えない毛並と皮膚の質感と存在感に戦争映画史への愛をヤマと詰め込んで、現実世界への痛烈な風刺とオリジナル・シリーズからの小ネタをまぶしたシリーズ第3作猿の惑星: 聖戦記』マット・リーヴス監督、2017)は、シーザーの辿る旅路として、見事な大団円を迎えていた。


     ○


◆劇場で見逃していたトリプルX: 再起動』D・J・カルーソー監督、2017)は、なんつうか、もうね、やったァ─────────ッ!!!! Fuuuuuuuuu ((((.˙∠)))) F*ckin' yeah!!!! みたいな、たのしいたのしいえいが。ドニー・イェントニー・ジャールビー・ローズなど人種性別を問わずワールド・ワイドに起用しつつ、正直に真っ向から「B」 a.k.a. バカ級アクション映画として振り切った実にマジメな造りで、ついでに世界の危機も救っちゃうとか、よくわからんが心は洗われるぞ。


     ○


◆人気flashアニメ『秘密結社鷹の爪』シリーズの劇場版新作『DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団』FROGMAN監督、2017)は、毒っけの効いたギャグが盛りだくさんで楽しい作品だった。安田顕が声をあてたジョーカーもよかったなぁ(力むと素が出るところも含めて)。


     ○


◆ただひたすらブレードランナー 2049ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、2017)は美しかった……。嘆息。


     ○


◆遠未来の地球を舞台にしたパワード・スーツもので、かつアニメでゴジラをやるというコンセプトはすごくいいGODZILLA 怪獣惑星静野孔文瀬下寛之監督、2017)だったが、その他諸々が雑過ぎやしまいか。音量や設定をデカくして、人気声優にキメ台詞を連発させとけばいいってもんじゃないよ。


     ○


スティーブン・キング原作のホラーIT/イット “それ”が見えたら、終わり。アンディ・ムスキエティ監督、2017)は、劇中に映るポスターや看板が示すように、超凶悪なティム・バートン映画──そのほか、あの悪夢怪人が跋扈する作品など、舞台となる1980年代の映画がこっそり映っている──といった趣で面白い。なかでも、最初に画面に登場するポスターや印象的なロケーションから、とくに『ビートルジュース』(1988)を髣髴とさせる(きっとダニー・エルフマンのブンチャカと騒がしい音楽と差し替えても、ある意味イケるのではないか=暴論)。それにしても、ムスキエティ監督の演出は、じつに腰の据わっていて上品。瑞々しいジュブナイル要素と、計算しつくされた画と間で展開する恐怖シーンが見事にマッチした傑作だ。怖いよ。楽しいよ。


     ○


功夫武侠スチームパンクでコミック調の『TAICHI/太極 ゼロ』『TAICHI/太極 ヒーロー』(共にスティーブン・フォン監督、2012)は、サモ・ハン・キンポー演出による殺陣、日本語吹替え版の遊び心、ヒロイン玉娘(ユーニャン)役のアンジェラベイビーの美しさが格別で、とってもキュートなり。


     ○


オリエント急行殺人事件ケネス・ブラナー監督、2017)は、画作りや演出、施されたアレンジまで、まさに“いま”作られ、観られる作品として見事な再映画化だ。またラスト、ブラナー自身が作詞した本作の主題歌「Never Forget」(ミシェル・ファイファー)には、やられた。あんなん涙腺決壊するやろ。例によって字幕がない*1のが悔やまれる。


     ○


哭声/コクソン(ナ・ホンジン監督、2016)は、これでもかとツイストにツイストを重ねて、あの『セブン』(デヴィッド・フィンチャー監督、1995)の文字どおり7倍以上の観念世界へ突入するあたり、奇妙奇天烈摩訶不思議奇想天外四捨五入出前迅速落書無用な趣でタハーッとなるので、マジ必見だ。


     ○


スター・ウォーズ/最後のジェダイライアン・ジョンソン監督、2017)は、とにかく「よくやった!」ということに尽きる。ジョンソン監督の作家性が色濃い本作は、たしかに破戒的ではあるが、だからこそ「スター・ウォーズ」への原点回帰と同時に次世代への継承とが完全に果たされた、じつに解放的な一作となった。

*1:ので、なんとなく和訳してみた(検索しても出なかったし):  お家に、私のそばに帰ってらっしゃい。さあ笑って。「うん」と頷いて。一緒にダンスを踊りましょう。  とっておきのニコニコ顔をもって見せて。そして、優しく抱きしめてちょうだい。  お家に帰ってきてくれる? 私のもとに戻ってきてくれる? 愛しいあなた。  私たちは忘れない。私たちの心の中に、あなたはずっと生き続ける。だから安心して。  太陽がまぶしく照らす夏の毎日は、きっと一生の思い出。凍える冬を待つ暗い11月には、ぎゅっと私を抱きしめて。  ほしいものや願い事、将来の夢を、全部私に聞かせてくれる?   いつかお家に帰ってきたときに。私のもとに戻ってきたときに。愛しいあなた。  悲しいことがあったって、明日には忘れられる。困ったときには助けてあげる。愛と優しさを胸に、みんな、あなたを待ってるからね。私たちはずっと忘れない。お帰りなさい、愛しいあなた。

2017年鑑賞映画 感想リスト/21-30

不思議惑星キン・ザ・ザゲオルギー・ダネリヤ監督、1986)……1980年代モスクワ。異星人と名乗る男に声をかけたマシコフとゲデバンは、その男が持っていた移動装置によって宇宙の彼方にある砂漠の惑星へと転送されてしまう。通りかかった小型船から降りてきた現地人たちは人間とそっくりだったが、彼らは「クー」としか喋らないのであった。果たしてマシコフたちは地球へ戻れるのか──崩壊間際のソ連製コメディSF。

なんとも不思議な映画だった。基本的なプロットは見知らぬ惑星からの脱出劇なので、状況としてはたいへん緊迫しているはずなのだが、そのリズムと展開は非常にまったりとしたオフビートな笑いを醸しつつ、なんとも心地よく進む。それでいて本作が決して退屈ではなく、なにより公開当時ソ連で大ヒットしたのは、やはりSFという物語設定のそこかしこに、国内外に向けた様々な寓意や皮肉が暗に込められているにほかならない。ともすれば、よく本国で公開できたものだと思う。すべての冒険の果てに主人公たちに残された、ほんのちょっとしたものを観たとき、なにを思うだろうか。クー!


     ○


『T2 トレインスポッティングダニー・ボイル監督、2017)……仲間たちを裏切って1万2000ポンドを持ち逃げしたマーク・レントンは、逃亡先のオランダから20年ぶりに故郷エディンバラに戻ってきたが、すでに母は他界し、実家には年老いた父がひとりで暮らしていた。一方、かつて仲間だったスパッド、サイモン、そしてベグビーは、未だに悲惨な人生を送り続けていた──1996年から21年を経て登場した、まさかの続編。

爽快さと陰鬱さに揺れ動くカラフルでフィルムグレインにざらついた画をつなぐテンポのいい編集で、年を取ったオリジナル・キャストが例のなまりのキツい英語でまくし立てるあの感じが、なんとも懐かしいなぁと郷愁に浸っていたら──前作を実際に観たのは、およそ10年前だった──映画が進むにしたがって、胸を掻きむしりたくなるような感情が溢れてきて止まらない。エンドロールへいたる1ショットに集約される、そのあまりの苦々しさに「ぎゃああっ」と叫びそうになるのを、いまは紳士的に耐えている。かろうじて。

唯一の救いは本作が、前作でも聖愚者としての役割を大いに担っていたスパッドの成長譚としての性格を持っていたこと。スパッド、おまえ本当にいいやつだもんな!


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名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』静野孔文監督、2016)……ある夜、警視庁の極秘データを閲覧していた何者かが逃亡し、その行方をくらましてしまう。翌日、リニューアル・オープンした東都水族館にやって来た江戸川コナンたち少年探偵団の一行は、何らかの原因で記憶喪失になったらしいオッドアイの女性と出会う。彼女の所作の端々に感じられる“黒の組織”の気配に灰原哀は感づくが──劇場版シリーズの第20作目。

昨年なんとなく「劇場版だけでも観ておけばなんとかなるだろう」と安易に思い立って、19作目までの未見作品を全部観たのけれど、所詮は付け焼刃だったことをひしひしと思い知ったような気がしないでもない。アバンの格闘アクションからカー・アクションは『ワイルド・スピード』シリーズもかくやでぶっ飛んでるし、『名探偵コナン』を観ているかと思ったらジェット・リーとユン・ピョウが観覧車の上でカンフーを始める(錯乱)し、阿笠博士の発明品は万能過ぎるしで、なにがなにやらを通り越して愉快千万。無理にでもレギュラー陣は登場させようという努力はじつに涙ぐましい。

本作の唯一の欠点は、舞台が水族館である必然性がまったくなかったこと。水によるディザスターが巻き起こるでもなく、イルカに乗って犯人を追うでもなく──って、これならトロピカルランドでよかったんじゃないかしらん。


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『ターザン: REBORN』デヴィッド・イェーツ監督、2016)……19世紀末。ジャングルのゴリラに育てられた野生児“ターザン”として伝説化していたジョン・クレイトン卿と彼の妻ジェーンは、米国特使であるウィリアム博士とともに、ベルギー国王レオポルド2世から領国であるコンゴ自由国への視察に招聘される。しかし、その裏ではコンゴとジョンをおとしめんとする陰謀がうごめいていた──エドガー・ライス・バローズによる『ターザン』シリーズの後日譚的作品。

本作は、前半が妙にもたついていたり、アクションにおける決定的なショット(キメの画)がどういうわけかことごとく抜け落ちていたり、クライマックスにおけるターザンと野生動物連合軍との共闘も各種動物にもうちょっと個性的な見せ場──そも、ゴリラたちの印象がここでもっとも薄いのは致命的だろう──があってもよかったんじゃないかしらんと思ったり……など、昨今の大作アクション映画としては絶妙に煮え切らない部分も多い。

しかし一方で、本作の物語は、かつての列強国(白人)による第三世界(黒人等人種的マイノリティ)への差別と搾取に対する落とし前を、フィクションだから可能な誠実さを持って描き出そうといるのが興味深い。アレクサンダー・スカルスガルド演じる高貴で野蛮な白人ターザンとサミュエル・L・ジャクソン演じる先進的で文明的な黒人ウィリアム博士──まあ正直、ウィリアム博士の正義感あふれるキャラクターによって、米国における黒人搾取の歴史がなんとなく不問にふされている感がなくはないが、その彼ですらインディアンの殺戮には加担した過去を悔いる発言をさせていたりと、なるべく公正なバランスを保とうと重層的にコンテクストをめぐらせているとは思う──が、相棒となってゆく展開が象徴的だ。


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『ダークスカイズ』(スコット・スチュワート監督、2013)……郊外の住宅地に暮らすバレット一家。レイシーは転職活動中の夫ダニエルと、ふたりの幼い息子ジャシーとサムを支えながら、仲睦まじく暮らしていた。ところがある夜から家のなかで不可解な現象が頻発し、末っ子のサムにも異変が起こりはじめる。「サンドマンがやって来るんだ」と言って怯えるサムに、不安を募らせるレイシーだったが──監視カメラ設置型ホラー・サスペンス。

パッケージとコピーだけを見て、勝手に幽霊屋敷系ホラーと思っていたら、巻頭言がまさか亡くなるとは思いもしなかった作家の筆頭であるSFの巨匠アーサー・C・クラークのものであり、なにを隠そう本作は、ちょっとスレンダーマン風味のグレイの造型もな無気味なエイリアン・アブダクションものなのでした。開幕早々、「あら! そっちなのね」と巻頭言で驚かされるというは新鮮な体験だった。

ジャンル的ツイストでの驚きを巻頭言によって自ら排しながらも、本作は予兆から発現、対峙するクライマックスから最高に後味の悪いラストに至るまで、その恐怖演出積み重ねが堅実で、見応え充分。とくに後半、家族がどんどん地域社会から孤立してしまう展開がヒリヒリとした緊張感を煽りつつ、クライマックス直前での家族の幸せな会話に繋げるという展開が素晴らしい。監視カメラ設置のくだりも適材適所といった使われかたで、決してダレることはない。かつて中2病がゆき過ぎてしっちゃかめっちゃかになってしまったかのような映画を撮っていたスチュワート監督とは思えない手腕に驚かされる。欲をいえば、ラストのJ・K・シモンズの表情に、もう少し含みがあってもよかったのじゃないかしら。


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バイオハザード: ヴェンデッタ(辻本貴則監督、2017)……対バイオテロ組織“BSAA”のクリス・レッドフィールドは、自らの復讐のために大規模なバイオテロを画策する国際指名手配犯グレン・アリアスを寸でのところで逃してしまう。クリスはかつてのS.T.A.R.S.の仲間であるレベッカ・チェンバース教授と合流し、アリアスの陰謀を砕くべくレオン・ケネディに協力を求めるのだが──ゲームの設定を継承したフルCGアニメーション映画シリーズ最新作。

制作スタジオの変更や、製作総指揮に清水崇を置いたこともあってか、前2作よりもゴア表現が格段に増加。画面を舞う血飛沫、欠損する身体など、おためぼかしなしで大盤振る舞いである。また、辻本監督お得意のコンバット・アクションを駆使した殺陣も満載で、全篇にもりこまれた種々のアクション・シーンは、そのゴア描写ともあいまって演出がノリにノッていて楽しい。

しかし本作でも前2作と同様にその他のドラマ部分への甘さが健在で、絶妙につまらない。全体的にテンポが奇妙に悪く、なにより展開の──物語の筋そのものはともかく──積み重ね方に脈絡が足りていないため、楽しいはずの恐怖&アクション・シーンにもノイズを残してしまっているのが残念。プロット構成や編集をもっと精査すべきだった感は否めない。もったいないなあ。


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LOGAN/ローガンジェームズ・マンゴールド監督、2017)……謎の原因によってミュータントが絶滅寸前となった2029年。かつて不死身の“ウルヴァリン”として知られたローガンもまた日に日に衰弱し、いまは乗り合いリムの運転手として糊口を凌ぎつつ、キャリバンとともに“プロフェッサーX”ことチャールズを介護しながらメキシコ国境に程近い廃墟に身を隠していた。ある日、見知らぬ女性から「とある少女をカナダ国境まで乗せてほしい」という依頼が舞い込んでくる。その少女ローラこそ、絶えて久しいと思われていたミュータントの新世代だという。いぶかしむローガンのもとに、謎の武装集団の影が迫っていた──『X-MEN』シリーズ最新作。

数あるアメコミ・ヒーローの実写映画化と一線を隔するような本作の予告編をはじめて観たときから楽しみにしていた。たしかに、シリーズものゆえの取っつきにくさがあるし、語り口が妙にまごついたり、明らかにサスペンスのためのサスペンスにしかなっていないシーンもあるし、処理しきれていない登場人物たちも多かったりと、全体的にみたときマズい部分も少なくない。あまりに出来すぎの動画メッセージには、その内容はともかくちょっと苦笑してしまった。

しかし、本作を形作る様々な素材の見事な素晴らしさが、それらを補って余り得る。長年にわたってウルヴァリンとプロフェッサーXを演じたヒュー・ジャックマンパトリック・スチュアートの老いさらばえた演技、ミュータントの少女ローラを演じたダフネ・キーンの眼差しひとつで画面をさらうソリッドな魅力、本作と同じく20世紀フォックス制作でR15指定を受けたマーベル・フランチャイズデッドプール』(ティム・ミラー監督、2016)の成功なくしてはあり得なかったであろう重く凄惨な暴力描写、西部劇の傑作『シェーン』(ジョージ・スティーヴンス監督、1953)と聖書的骨子を援用しつつ語られる『X-メン』そのものへの内省と昇華の物語、そして映画的としかいいようのないラストショットの美しさ……と、枚挙に暇がない。エモーショナルで力強い魅力に満ちた本作を、ぜひ見届けたい。


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怪盗グルーのミニオン大脱走カイル・バルダピエール・コフィン監督、2017)……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20170810/1502325511


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『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』新房昭之総監督、武内宣之監督、2017)……夏休み真っ最中のとある海辺の町。中学1年生の典道と祐介は親友同士だったが、それぞれが想いを寄せる同級生のなずなが2学期から転校することなど知る由もなかった。折りしも町の花火大会の日、学校のプールで競争する典道と祐介を見かけたなずなは、親への反発から、勝ったほうと駆け落ちしようと、密かに賭けをする──岩井俊二による同名ドラマ(1993)を長編アニメ化。

原作のTVドラマもおろか、まったくの予備知識なしで観たけれど、興味深い作品だった。コントラストの強めな美しい色合いの映像に表れる広角レンズの多用による丸く歪んだ画面や、校舎や風車といった円形の意匠と運動、明らかにスティーヴ・ライヒミニマル・ミュージックを模した劇伴などなど映画全体に施された円環構造的な仕掛けが、繰り返す1日の物語を駆動させていて面白い。ただ、キャラクターの外部に強迫観念的に施される意匠ゆえに、そうとなれば彼/彼女たちの着る制服は、もっと没個性的なものでもよかったのではないかと、思わなくもない。

しかし、本作が僕の心をとらえて放さないのは何故なのだろうか? それは、本作に不思議な開放感に溢れているからではないか。本作が一種のタイムトラベルSFであることから早速引き合いに出されているらしい昨年公開の『君の名は。』(新海誠監督、2016)と本作をあえて比較したとき、前者が収束する物語、後者は拡散する──「どっちだっていい」──物語という区分けが可能であろう。ラストの花火とは、誰もが必ずや被る収束そのものからの解放にほかならない。なんとなれば、おそろしく純情でリリカルな『8 1/2』(フェデリコ・フェリーニ監督、1963)をみせつけられたようで、ちょっとした感動を覚えている。


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新感染 ファイナル・エクスプレスヨン・サンホ監督、2016)……ファンドマネージャーのソグは、妻と別居し、年老いた母と、娘スアンとともにソウルに暮らしていた。仕事ばかりでスアンをまったく省みていなかったソグは、娘が誕生日になにを欲しがっているのかもわからない。「釜山のお母さんに会いに行きたい」というスアンの願いに、一度は「仕事があるから」と渋るソグだったが、翌朝ふたりの姿は高速鉄道KTX101列車にあったのだった。出発の時間が迫るなか、不穏な影がソウル駅構内を駆け巡っていたとも知らず──世界的に高い評価を得た韓国産ゾンビ映画

観終わったあと、思わず「完璧か」と呟いてしまった。完璧。やがて韓国を覆うゾンビ・パンデミックが走り出した列車の窓の外でフッと現実になる序盤のシーンからはじまって、フレッシュでかつ豊富なアイディアをこれでもかと詰め込んだゾンビがらみのシーンは、どこをとっても素晴らしい。KTX車内という閉所と、駅舎やその敷地といった開けた空間のどちらにもゾンビがらみの見せ場を用意した横移動あり、縦移動ありのメリハリの効いた展開は、観る者を飽きさせず、スクリーンに釘付けにして放さないだろう。

同時に、このゾンビ・パンデミックをとおして描かれる物語もまた素晴らしい。仕事と金のことばかりで娘だけでなく他人をまったく省みなかったダメ人間ソグが、ゾンビたちの襲撃や生存者たちとのやり取り、そして、すがすがしいほどのクズ人間との対決を経るなかで、すこしずつ父として、人間として成長してゆく姿は感動的だ*1。彼だけではない。このKTXに乗り合わせたすべての乗客が、この災厄のなかでそれぞれに成長し、あるいは退行してゆく。本作におけるKTXは、人生の縮図そのものにほかならない。まさに「人生という名のSL」である。

ゾンビものとして、乗り物パニックものとして、この上ない大傑作だった。

*1:演じたのは、『トガニ 幼き瞳の告発』(ファン・ドンヒョク監督、2011)で、どんな状況でも誇りと正義の心を失わない教師を演じたコン・ユ。

『怪盗グルーのミニオン大脱走』(2D日本語吹替え版)感想

カイル・バルダピエール・コフィン監督。晴れて結婚したグルーとルーシーの前に、新たな敵バルタザール・ブラットが現れる。1980年代ファッションに身を包んで奇抜な犯罪を繰り返すバルタザールを取り逃してしまったグルーとルーシーは、新たに“反悪党同名”局長となったヴァレリーから解雇されてしまう。そんなとき、グルーに生き別れた双子の兄ドルーがいることが発覚。ドルーは父の志を継ぎ、天下の大悪党になることを夢見ており、グルーに手ほどきを求めてきたのだった。一方、グルーの相棒であるミニオンたちは、いよいよ甲斐性なしとなったグルーに愛想を尽かし、家出をしてしまう……。イルミネーション・エンターテインメントによる人気シリーズ第3作。


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今年観た100本目(ソフト含む)は、本作でありました。それはそれとして……

中身は子供のまま中年になってしまった悪党のグルーが、ひょんなことから3姉妹を養女にもらったり、最愛のパートナーとの出会うことで大人へと少しずつステップアップする姿*1を、スラップスティックなギャグや細かすぎて伝わらないパロディをまぶしながら描いた前2作──『怪盗グルーの月泥棒3D』(ピエール・コフィン、クリス・ルノー監督、2010)、『怪盗グルーのミニオン危機一発』(ピエール・コフィン、クリス・ルノー監督、2013)──は、まさに笑いと感動のエンタテインメントと呼ぶべき上質な傑作群であった。

本作はそれらに続くパート3だったわけだが、残念ながら前2作と比べると見劣りする出来となってしまった。もちろん、キャラクターや小物、背景に至るまで整地に描き分けられたCGアニメーションの質感や荒唐無稽で楽しいアクション、次から次に出される笑いの要素、グルーたちの辿る顛末……どれも素晴らしい。少なくとも観ていて飽きないし、笑えるし、しんみりもする。ただし、シーンごとでは。

そう、本作はシーンごとの出来はたしかによいのだが、それが文字どおり“その場凌ぎ”に留まっており、それぞれのピースが有機的に噛み合わずにバラけたまま、映画が終わってしまうのだ。おそらく本作の問題とは、あまりにサブ・プロットの枝を生やしすぎたことにある。一応の物語の根幹である「グルーとルーシーがいかに復職するか」という件に、「グルーの分身(=ドルー)との対峙」、「グルーの次世代(=バルタザール)との対峙」、「ルーシーの新米ママとしての葛藤」、「3姉妹のちょっとした成長葛藤」、そして「ミニオンの脱走」などなど盛りに盛っている。これらで描かれた要素を、もっと取捨選択し整理する過程が、もう1歩必要だったのではないか。


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もっとも手っ取り早いのは、登場人物の統合であろう。

前2作、そしてスピンオフの『ミニオンズ』(カイル・バルダピエール・コフィン監督、2015)で描かれたとおり、グルーやミニオンは1960〜1970年代(カウンター・カルチャー)的価値観の体現者であり、本作においては、その仮想敵として“1980年代なるもの”が想定されている。反悪党同名の新局長ヴァレリーのボティコン姿、物質主義的なドルー、そしてマイケル・ジャクソンら’80年代ポップスをBGMに盗みを働くバルタザールと、グルーと対峙することになる人物は皆、彼の次世代的価値観に生きる人物たちだ。

極論すれば、ヴァレリーの役割は前作から登場するラムズボトム局長となにひとつ変わっていないので不要であるし、ドルーとバルタザールについては、いっそ彼らを統合した“ひとり”の敵キャラを立てたほうがよかったのではないだろうか。こうすれば、グルーたちの主たる対峙者は、これまでどおりひとりになるので、だいぶスッキリして、物語のまとまりも出るのじゃないかしら。


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もちろん本作は、前述のとおりシーンごとでは、どれも高いクオリティを有しており、一概にダメな映画というつもりはない。日本語吹替え版における、近年のディズニーとは比べる由もない映像の徹底的なローカライゼーションも見所だ。暑い日の続く夏、いっときの清涼剤として、映画館に出かけてみてはいかがだろうか。

*1:その意味において、オリジナル版を演じたスティーヴ・カレル──なんてたって『40歳の童貞男』(ジャド・アパトー監督、2005)だし!──は、これ以上ないキャスティングの妙だ。キャラクター・デザインにおそらくはドイツ版ドラキュラである「ノスフェラトゥ」を模したであろうグルーに訛り演技を加えた声は非常に合っている。 ▼もちろん、笑福亭鶴瓶らによる日本語吹替え版の出来も全然悪くないよ。“欽ちゃん”こと萩本欽一がウォレスをアテたときのようなミラクルがある。