『大脱出』感想

ミカエル・ハフストローム監督。レイ・ブレスリンシルヴェスター・スタローン)は、自ら囚人として刑務所に潜入し、様々な手段で脱獄しては警備の弱点を指摘するセキュリティ・コンサルタントの第一人者。そんな彼のもとにCIAから民間の極秘刑務所を調べるための脱獄依頼が舞い込む。絶対に脱出不可能な“墓場”の異名をとる刑務所にいつものように収監されるレイだったが、それは何者かが彼を陥れるための罠だったのだ。万事休すかと思われたとき、“墓場”の囚人たちを束ねる屈強な男エミル・ロットマイヤー(アーノルド・シュワルツェネッガー)が近づいてきた。「お前さん、本当は何者だ?」と問うエミルにレイは正体を明かし、ふたりは“墓場”から脱獄するべくタッグを組んだ……。


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シルヴェスター・スタローン
アーノルド・シュワルツェネッガー
ダブル主演──いままでありそうでなかった、'80〜'90年代ハリウッドを代表する筋肉もりもりマッチョマン2人が揃いぶみとなれば、否が応でもテンションが上がろうというもの。まぁ、実際には『エクスペンダブルズ』シリーズ(2010〜)という、その世代の筋肉オール・スター・キャストという暑苦しいことこの上ない既に企画があるので、見劣りしないでもないのだけれど、それでもなお、かつて『ドラゴン・キングダム』(ロブ・ミンコフ監督、2008)においてジャッキー・チェンジェット・リーがダブル主演を果たしたときの興奮が蘇る好企画だ。

で、本編はといえば、良くも悪くも大味アクション大作として、そこそこ楽しめる──といったところ。スタローン、シュワルツェネッガーの持ち味を存分に活かしたアクション・シーンの数々や、彼らのキャラだからできるしごく大袈裟な“見栄切り”ショットやギャグ*1など楽しい場面がいっぱいだ。

スタローン演じるプロの脱獄屋レイがその経験から書いた指南書を元に作られたとされる、絶対に脱獄不可能な監獄“墓場”のデザインや、看守が真っ黒い能面のようなマスクで顔を覆っているといった設定など、ひと昔前のSF映画を観ているようでこちらも楽しい要素だ。


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ただ、脱獄ものとしての側面が若干弱かったのは否めない。原題が“Escape Plan(脱出計画)”だけに、いったいどんな手段でこの難攻不落の監獄“墓場”から抜け出すのか──と期待を膨らませていた。しかし、それが1番の見せ場であるはずのクライマックスでは、けっこうゴリ押しというか力ずくというか……そりゃ筋肉映画だから仕方がないんだけれどさ!
それでも中盤までは、ある要素が「A」故にそれを利用することで要素「B」が使用できて脱出できるんだ云々という部分が、わりと丁寧に描かれていた*2だけに、クライマックスにももう1ロジック欲しかった。

また、劇中でレイを陥れようとする人物がひとり登場するが、その理由がイマイチ弱かったり、360度強化ガラス張りで透明で中が筒抜けという“墓場”のデザインもぜんぜん活かされないどころか「それお前バレとるやんけ!」という部分──しかも、よくよく考えれば独房内が見えていることとそんなに関係ないレイの「ある」行動──でしか見せ場がないというのもいささか問題だろう。ある出来事の省略表現*3など、するどい演出も時おりあっただけにもったいない。

とはいえ、このテの映画だから粗を挙げればキリがないので、それはひとまず捨て置いて、スクリーンの中で暴れまわる2大“筋肉”アクション・スターの雄姿を、ぜひ劇場でご覧ください。

*1:クライマックスでは、スタローン、シュワちゃん、そしてファラン・タヒールの強面3人組がタッグを組んで脱獄を図るが、監視カメラの接続を切る瞬間、スタローンが「(監視カメラに向かって)ほれ、チーズしな」と仏頂面で言うと、あとのふたりが突然「ニカッ!」と表情をわざとらしく崩す場面など最高。

*2:ただ、オープニングの見せ方はどうだろう。まず、オープニングでは観客にまだ正体を明かしていないレイが投獄された刑務所から脱獄した後、会社の人間と刑務所長にタネ明かしするというながれなのだが、この脱獄シーンにおいて、観客にはロジック──レイが脱獄するまでの動き──をほとんど明かさず、タネ明かしのシーンで詳細な解説台詞をかぶせたフラッシュ・バックで描いている。しかし、これだと解説シーンで物語の進行がストップしてしまうので、あまりスマートではないんじゃないかしら。むしろ最初からレイに焦点を当てて彼の動き──彼の思考を示すモノローグも含めて──を余さず観客に見せておいて、「こんな脱獄の腕を持つ男とはいったい何者なんだ?」と興味をひきつけておいてから、じつは「プロの脱獄屋でした」としたほうが、よりサスペンスフルに思えるけれど、いかが?

*3:たとえば、レイが食堂でエミルに「お前の後ろに座っている囚人がかけているメガネが欲しい」と依頼する一連の場面。翌日の食堂では、目の下にアザができたその囚人がメガネなしで食事をしている。カメラが引いてゆくと「どうだ」という表情のエミルが映る。