2014年鑑賞映画 感想リスト/1-10

恋人たちの予感』……ロブ・ライナー監督。学生時代に犬猿の仲だったスーザンとハリーが数年後に再会、「男女は性愛を排して本当の友人同士になれるのか」を命題に過ごすふたりの姿を描く。ふたりが10年間くらい延々「本音」で口ゲンカしつづけるという映画としては無茶な話を、軽妙な台詞回しやプロットで魅せたノーラ・エフロンによる脚本がすごい。ハッピー・エンドで終わるラスト・シーンにいたるまで、双方が互いに本音でいられ続けることをブラさずに着地させているところも感動的だ。また、主人公ふたりを演じたビリー・クリスタルの無表情な目や、いまや伝説となっているサンドウィッチ・ショップ(カッツ・デリカテッセン)でみせる体当たり演技を筆頭としたメグ・ライアンの魅力が満載だ。


『明日に処刑を…』……マーティン・スコセッシ監督。世界恐慌のさなかに父を亡くしてホーボーとなった少女バーサは、放浪の途上で出会った労働運動家ビルらと強盗団を結成して果敢に生きてゆこうとする姿を描く、スコセッシの商業用監督第1作。製作したロジャー・コーマンの要求する見世物的シーンを織り込みつつも、バーサにみられる「少女」性と「娼婦」性とが一体化した女性観、イエス・キリストを多分に思わせるビルのキャラクター造形、力強い暴力描写など、後のスコセッシ映画を思わせるテーマがきちんとすでにあるのが興味深い。どんなに身を落としても生きようとする彼らの青春に勇気付けられ、その前世代への反抗が辛くも敗れ去るラストがえもいわれぬ余韻を胸中に残してゆく。世界恐慌の時代を借りて、当時のカウンター・カルチャーという時代の空気感を切り取った胸を打つ作品だった。


ディアボロス/悪魔の扉』……テイラー・ハックフォード監督。フロリダの若き“無敗”の弁護士ケヴィンは、ニューヨークの弁護士ジョン・ミルトンにその腕を買われ、彼の法律事務所に勤めることになるが、自身の周りで不可解な事件が起こり始める──というスリラー。タイトルをある種の比喩表現かと思って観始めたら、割と直球だったので驚いた。繰り返し画面に映されるキリスト教的なサインや、アル・パチーノが演じる役名が「ジョン・ミルトン」であることからも知れるように、「現代において『失楽園』を再現するならどうするか」という着想が面白い。特殊メイクやCGを用いながら不気味にメタモルフォーゼする異物表現も気持ち悪い(褒め言葉)。“煉獄”感あふれるオチにつけ、西洋諸国──とくにアメリカは「選択」の国なのだなぁ、と痛感させられた。


ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』……ラリー・チャールズ監督。サシャ・バロン・コーエン演じる“カザフスタン”のTVレポーター・ボラットアメリカ全土を取材して回る姿を描くモキュメンタリー型のコメディ。モキュメンタリーといいつつ、多くのシーンがボラットの正体を知らないままに取材を受けてしまった一般の人々なので、彼らのリアクションを見ていると笑えるやら気の毒やら……。しかし、そのようにボラットが“カザフスタン”を過剰にネタにすればするほど、反対にアメリカという国や、われわれ観客自身が知らぬ間に抱えている偏見や差別意識、傲慢や懐疑心といった負の側面が赤裸々に浮かび上がり、それをガツンと突きつけられる。恐ろしい映画であり、いろいろと考えさせられる作品だった。


『フリア よみがえり少女』……アントニオ・チャバリアス監督。不妊に悩むダニエルとラウラ夫妻は、父を自殺で亡くした少女フリアを一時的に預かることになるが、ダニエルが幼少期に事故死させた少女を思い起こさせるフリアの言動に、彼は次第に精神を病んでゆく──というホラー。ホラーというジャンルの枠組みを借りて本作が描くのは、実は夫婦の姿である。補足すれば、お互いに心から愛し合っていながらも、子どもができたことによって図らずも変化してしまった夫婦という関係性だ。「フリアがやってきてからというもの、奥さんがそっけない(ションボリ)」と、ダニエルが覚えるその変化への恐怖が、彼のトラウマ記憶とも重なって文字どおりホラーとして画面に定着させられる。その意味において、本作は『赤い影』(ニコラス・ローグ監督、1973)で描かれた、子どもの死(=欠如)による夫婦関係の変化への恐怖にも通ずるだろう。男ってほんとダメな生き物ですね、すみません。


『ダイヤモンドの犬たち』……ヴァル・ゲスト監督。砂漠の真っ只中にあるダイヤモンド採掘会社の警備主任マイクは、地下金庫を狙う傭兵たちの計画をおとりとなって防ぐよう命じられるが──という'70年代アクション。じっくりと設定や登場人物をみせてゆく前半戦から怒涛のケイパー・アクションへなだれ込んでゆく緩急の妙や、中盤に明かされるドンデン返しなどストーリーにも見どころ所満載だ。なぜ砂漠なのにすでにタイヤ痕があるのかとか、いくらなんでも簡単にヘリが爆発しすぎだろうとかいう細かいツッコミどころはあるが、全体的にとても楽しいエンタテインメント作品だった。DVDには特典として別エンディングが収録されているが、どちらかといえばこちらのほうが好み。また、ジョルジュ・カルヴァランツによるテーマ曲がカッコいいんだ!


『大脱出』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20140114/1389700855


『21ジャンプストリート』…… フィル・ロードクリストファー・ミラー共同監督。新人警官のモートンとグレッグは童顔ゆえに、新種のドラッグが出回りだした高校に「生徒」として潜入捜査を命じられるが──ジョニー・デップがかつて主演したTVドラマ・シリーズをジョナ・ヒル脚本、主演でリメイクしたアクション・コメディ。まったくタイプの違うふたり──いわゆるナードのモートンとジョックスのグレッグ──がコンビを組んだために生じるシッチャカメッチャカが楽しい。とくに、何年か経って“いまどき”の高校に入ってみると“勝ち組”と“負け組”が逆転していて、グレッグが「そんな馬鹿な」とへこむ一方で、モートンが「高校生活をやり直せるかも」とルンルン気分で入れ込んでいく(=調子に乗る)という展開がめちゃくちゃ面白かった。そのせいで一時は反発しあいながらも、事件を通して互いに成長して「相棒」となってゆくラストも感動的だ。監督コンビが前作『くもりときどきミートボール』(2009)でもみせたキレのあるスピーディなギャグ回しも『くもり〜』以上に健在。オープニングからさんざん繰り返された天丼ギャグをラストのカタルシスにつなげていくなど、ギャグの使い方や入れどころが見事だった。ビデオスルーだなんてもったいなさ過ぎる1作。


『さよならドビュッシー』……利重剛監督。従姉妹同士で幼い頃からピアニストを目指していた遥とルシアは、暮らしている祖父の邸宅の火事に巻き込まれ、遥だけが生還。リハビリに耐えつつピアニストへの道を歩もうとする遥だったが、あるときから不審な事故が身の回りに起きはじめる──第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した中山七里による同名小説の映画化。謎解きのプロセスや物語上での位置を原作から細かく変更し、遥のクライマックスでのピアノ演奏──そして、それが達成されるかどうか──に集約させる形で再編された脚本のプロットが、映画的に活かされていてよかった。しかし、それ故になぜラストの演奏シーンを音楽と映像だけ──回想シーンはともかくも、そこに台詞をかぶせては台無しだ──で表現してくれなかったのか疑問。また、全体的に各シーンの演出が間延びしていて、鈍重になっている感は否めない。もうちょっと尺を切って、どのシーンに重点を置くかの緩急を整理すれば、より見応えのある作品になったのではないだろうか。


『バレット』……ウォルター・ヒル監督、シルヴェスター・スタローン主演。裏切りで相棒を殺されたプロの殺し屋ジミーが、同じく事件を追っていた刑事テイラーとともに黒幕を探ってゆく姿を描くアクション。暗い闇に沈む画面で描かれる重い暴力描写が格好いい。最近の映画には珍しく、事件の関係者(=悪者)が登場するそばからジミーや最強の敵キーガンによって次から次にブチ殺されていく勢いのいいガサツなストーリーが、逆に清々しい。そういう'80年代アクション物語運びとイマ風のチャカチャカ編集の組み合わせは、功を奏しているかどうかはともかく、興味深いし、なによりスタローンの肉体の相変わらずのものすごさが印象に残る作品だった。

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