『ターミネーター4』

2018年。スカイネットが引き起こした“審判の日”をかろうじて生き延びた人間たちは抵抗軍を組織し、大人になったジョン・コナーもその一員としてスカイネット率いる機械軍との死闘に身を投じていた。そんなある日、ジョンはマーカス・ライトと名乗る謎の男と出会う。彼は過去の記憶をなくしており、脳と心臓以外すべて機械化されていた。それでも自分は人間だと主張するマーカスに対し、敵か味方か判断しかねるジョン。しかし、将来彼の父となる少年カイル・リースに身の危険が差し迫っていることをマーカスから知らされ、ジョンはある決意を固めるのだが……。



シリーズ復活
ブルース・ウィリス主演の『ダイハード』シリーズや、シルヴェスター・スタローンの『ランボー』そして『ロッキー』シリーズ、さらにはスティーヴン・スピルバーグ監督のあの冒険活劇『インディ・ジョーンズ』も(実に十九年ぶりの新作が)、近年〈久々の続編〉として、次々に復活を遂げている。
そんな往年のシリーズ復活ブームとでもいうべき昨今、ついに昨年/二〇〇九年にはかのシリーズも大々的に復活を遂げた。監督/ジェームズ・キャメロンの名を世界に馳せ、そしてアーノルド・シュワルツェネッガーを一気にスターダムへと押し上げた『ターミネーター』シリーズ。その実に6年ぶりの続編が誕生した。『ターミネーター4』である。

これまでの三作では本格的に描かれなかった未来世界の戦争――すなわちスカイネット(機械(マシン))とレジスタンス(人類)の攻防戦を主軸に据えたストーリー展開が新鮮な一本だ。

今回、人類の未来の存亡を背負うシリーズ中一番のキー・パーソン、ジョン・コナーを演じたのは、前作のニック・スタールから代わってクリスチャン・ベイル。ここ数年、『バットマン・ビギンズ』『ダークナイト』のブルース・ウェインバットマン役を筆頭に、『プレステージ』『リベリオン』等、ここ数年SF映画に引っ張りだこな彼だが、さすがに演技派俳優の実力で、亡き母サラ・コナーから語られた〈自分の未来〉から徐々にずれ始めた〈現実〉に苦悩するレジスタンス・リーダーを見事に演じている。



また今作ではついに、将来(あるいは過去)ジョンの父となるカイル・リース(少年時代)が登場。キャラクターとしては『ターミネーター2/特別編』以来の登場で、演じたのはマイケル・ビーンに代わり、アントン・イェルチェン――若き日のマイケル・J・フォックスを思わせる雰囲気を持つ俳優だ。

さらに、今回新たなターミネーター/マーカス・ライト役として、サム・ワーシントンが登板。サイボーグ・コンプレックスに悩み自らの生存意義を模索するマーカスを熱演した。

そして、監督としてメガホンを取ったのは、『チャーリーズ・エンジェルキャメロン・ディアスら主演)』シリーズのマックG。アクションをふんだんに盛り込んだスピード感ある演出を得意とする監督だ。




顔なき新作?
さて、賛否両論を巻き起こした前作『ターミネーター3』をなかったことにする、『4』の映像を見、気に入ったジェームズ・キャメロンが脚本についてマックGにアドヴァイスを贈った、などのデマや憶測が飛び交いつつも、アメリカ本国から遅れること約一ヶ月後に日本でも公開された『ターミネーター4』であるが、その他多くのシリーズ作品と比べてみると、非常に特異な作品となっていることがわかるだろう。というもの、一般的な観客において目に入ってくるメイン・キャストそしてスタッフの続投がほとんど見られないからである。

前述したジョン・コナーやカイル・リースといった過去作品にも登場したキャラクターの俳優然り、そもそも、このシリーズの代名詞/顔ともいえるターミネーターアーノルド・シュワルツェネッガーも本人はいっさい出演していないのだ(本論の最初にも書いた『ダイハード』等の新作も、過去作品と同じ俳優が主人公を演じている)。実際には、驚きの方法で登場するのだが。余談だが、ドクター・シルバーマン役としてこれまですべての作品に出演したアール・ボーエンも今作には出演していない。

また、『ターミネーター』の生みの親であるジェームズ・キャメロンもやはり、『3』から引き続き、シリーズには関わっていない(これはキャメロン本人が『ターミネーター』シリーズを、物語は『ターミネーター2』で完結していると考え、続編を作るべきではないとしており、『3』以降の続編制作に関して否定的であるからといわれる。事実、『3』制作にもいっさい関わっていない)。

もうほとんど『ターミネーター』というタイトルがなければ、それと判別がつかなくなってもおかしくないような感じである――そういう意味では、『インディ・ジョーンズ』の新作『クリスタル・スカルの王国』はかなり恵まれた作品ということになろうか(監督/スティーヴン・スピルバーグ、製作/ジョージ・ルーカス、音楽/ジョン・ウィリアムズ、主演/ハリソン・フォード、さらに第一作のヒロイン役カレン・アレンの同役登板など、かつての面子がほとんど集結している)。


デ・ジャヴ溢れる映画
さて、二億ドルという潤沢な製作費を感じさせるその映像は圧巻である。先にも書いたが、シリーズでははじめて本格的に未来世界を舞台とした作品とだけあって、その荒廃した世界観――瓦礫の山と化した都市やスカイネットターミネーター生産工場などなど――の描写が素晴らしい。そこで繰り広げられるアクション・シーンは手に汗握る出来だ。最近流行(はや)っている、とかくカメラを揺らしまくり、短いショットを目まぐるしく重ねていく手法(あの画面内の出来事がよくわからないアレ)ではなく、かなり堅実な(第一作が撮られた八十年代を思わせるような)撮影・編集が用いられていて、無理なく観ることができた。ハリウッド最新のVFX技術をふんだんに用いた映像も、観客の目を楽しませてくれる。脚本にしても、きちんとしたまとまりをもった安定した出来であったと思う。

この映画を一言で言うならば、「非常によく出来た映画」ということができよう。さすがに人気シリーズの冠をかぶっているだけのことはある。

しかし、この『4』を観終わったとき、小生は、かつてキャメロン自身が撮った『1』や『2』を観たときの衝撃は覚えなかった。というのも、この映画には〈どこかで見たことのある〉要素が散在しているからだ。それがどこでだったかといえば、かつてのキャメロン映画である。



とにかく、この『ターミネーター4』には、かつてジェームズ・キャメロンが関わった映画作品に見られる要素がごったがえしている。いわゆる〈引用〉が数多く見られるように思えるのだ。

ターミネーター』シリーズからのそれは言わずもがな、例えば、中盤に登場する巨大ターミネーターの無骨なデザインは、『エイリアン2(監督・脚本)』に登場するパワーローダーを髣髴(ほうふつ)とさせるし、クライマックスのジョン・コナーのターミネーター生産工場からのエアロプレーンによる脱出シーンなどは、同じく『エイリアン2』のクライマックス――惑星LV-426の環境プラントからの脱出シーンと瓜二つである(とあるキャラクター(子供)の救出のために主人公が単身敵地に乗り込み、そこで最強の敵に出会うというプロットもそのままである)。

また、本作におけるマーカス。彼の旅路――軍人であるヒロインの手を借りての――や密林での戦闘、また彼が最終的に本来の所属組織に牙を剥くという展開は、キャメロンが脚本を手がけた『ランボー/怒りの脱出』のランボーを思い出さずにはおれないし、マーカスがエンディングにおいて負傷したジョンを救うため、自身の心臓をジョンに提供することを決意するシークェンス(ここで実は、脚本が破綻していると思われるのだが)はキャメロンが製作総指揮を務めたテレビ・ドラマ『ダーク・エンジェルジェシカ・アルバ主演)』の第一期最終回とまんまである。



その他にも、『アビス』や『トゥルーライズ』、『タイタニック』などであったような場面や要素が多数見受けられる。おそらく、その半分は意識したオマージュであろうし、半分は偶然そうなったというのが本当だろう。そして、そのネームバリューからキャメロンの影がちらつくのは当然だろう。

しかし、それがあまりに多かった。そのため、この『4』における独自性というものが覆い隠しにされているような印象を受けてしまったのだ。たしかに、マーカス・ライトという人間と機械の相の子というサイボーグ・コンプレックスを劇中抱えてしまうキャラクターも登場しているが(予告編では、このあたりが主軸に据えられていた)、この設定上の売りも案外あっさりちと流されてしまい、いまいち印象に昇らない。そういう意味では、シリーズのそれまでのテーマ――運命などなく、未来は変えられる――を根本的にひっくり返すという〈転向〉をやってのけた『3』のほうが(好きか嫌いかはともかく)まだ独自性があって面白かった。



では、なぜこのようなことになったのであろうか。実は、監督であるマックGによれば、この『4』は一作完結でするものではなく、新たに始まる〈新三部作〉の序章であるという。つまりこの映画を起点として新しいターミネーター・サーガを構築する予定があるらしいのである。そして、そのスタート地点である本作において、マックGはこれまでの「総復習」とでもいうべき作業を行おうとしたのではないか。

つまり、この『4』は、マックGというキャメロン・ファンによる、そして映画を観に来るであろうキャメロン・ファンへ向けた「キャメロン映画総復習」――『ターミネーター』やその他の作品におけるキャメロン・ワールドをひっくるめたその世界観の再構築――ではなかったか。あるいは言い換えれば、「キャメロン映画の二次創作作品(これは、小生と一緒に鑑賞した友人の言なのだが、非常に的を射た指摘だと考えるので、ここで引用させていただく)」としての性質が色濃く垣間見えるのである。映画クライマックスにおいて、ジョン・コナーが対峙する脅威として〈かつてのまま〉のターミネーター(T-800)を登場させるあたり、その証明ではないだろうか。

2011年に公開予定だという『ターミネーター5』。この『4』を次いでいかなる展開を見せてくれるのか。その進化とかつて得られた「衝撃」の復活を、一観客としてただただ願うばかりである。




詳細『ターミネーター4』
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=331380