『新宿インシデント』など

  • 『新宿インシデント』…ジャッキー・チェン主演。新宿歌舞伎町を舞台に中国から密入国者たちとヤクザたち、そして警察──三つ巴の人間関係の激動を描く。アクション俳優としてのジャッキーは今回はなりを潜めた社会派ドラマという味わい(いかにもアクションしそうな出演者がごろごろ出てくるけれど、いつものジャッキー・アクションを期待してはならない)。けれども“人情”を根幹にもつ悲哀のドラマという点ではいかにもジャッキー映画らしい(強いて、過去作との共通性を見出すなら『炎の大捜査線』が近い)。ジャッキー・チェンと竹中直人のツー・ショットはなかなか味わいがあってよかったが、ダニエル・ウー演じる阿傑(アージェ)の天中殺ぶりに泣いた。
  • 『エンバー/失われた光の物語』トム・ハンクス製作のSFファンタジィ。人類存続のため地上を捨て、人々は地下都市〈エンバー〉に移住してから200年あまり、エンバーの寿命は刻々と迫っていた。エンバー脱出の鍵を得たリーナとドゥーンは、失われた光を求め奔走する……。主演は、ピーター・ジャクソン監督の新作『ラブリーボーン』の公開も待ち遠しいシアーシャ・ローナン。尺を短くしようとしたためか、ところどころに少々抜けがあるけれど、ジュブナイル冒険ものとして爽やかな快作。セットとコンピュータ・グラフィックス、ミニチュアを巧みに用いて描かれる地下世界の描写や、そこかしかこに見られるデザインが素晴らしく、脇を固めるビル・マーレイやティム・ロビンスもいい。これだけの作品が未公開とはもったいない。
  • 『GOEMON』…『CASSHERN』の紀里谷和明監督作品。独自の歴史解釈を用いて、天下の大泥棒・石川五右衛門の活躍を描くアクション。全編に渡ってふんだんに用いられたVFX映像(背景のほとんどがそれ)が、その世界──禍々しい大阪城や華やかな城下町や衣装──デザインと相まって楽しい。しかし、ちょっと使いすぎな感もあって、そのバランスをもう少し考えた方が良かったかもしれない(前半の江口洋介大沢たかおの剣戟シーンや、後半の“走る”シーンなど、見ようによってはなんだかおかしく見えてしまう)。クライマックス手前における大阪城での一大攻防などは、映画の見せ場だったのだろうが、“ごまかし”のためなのか、画面が暗すぎて見づらい難点もある。独自の歴史解釈による人物関係を主軸に据えた脚本も面白いは面白いが、落としどころがなかなか定まらない展開に後半少々くたびれてしまった。単純なショット・ミスもちらほら見られるなど、面白いけれども、全体的にバランスが悪い出来だった。