『ラストコンサート』『小森生活向上クラブ』など

  • ザ・フライ2-二世誕生』…前作、自らの実験ミスでハエ男になってしまい、悲劇の最後を遂げたブランドル博士の死後誕生した息子マーティン──彼はその血だけでなく、ハエ男の遺伝子さえも受け継いでいたのだった……。彼を主人公にした2作目は、1作目とはずいぶん印象の異なる出来であった。マーティンは、その染色体異常によってわずか5年で成人の身体へと成長し、保護された──その実、彼の観察と利用のための軟禁なのだが──巨大企業の研究室で父の残した《テレポッド》の完成にいそしむ。5歳にして初めて自室を与えられ、女性社員ベスとも恋仲になるなど、実にジュブナイルSF的な味わいが強い。かと思えば、企業の陰謀を知ったうえ、その身がハエ男へと変貌したマーティンの復讐劇は実に陰惨でかつ残虐──グロ描写も不条理さも一層アップ──である。フランク・ダラボンが脚本に参加しているので、その影響かしら。良い意味で第1作の轍を外しており、単なる二番煎じにとどまらない見どころの多い作品だった。
  • 『ラストコンサート』…余命3カ月の少女が恋をしたのは、頑固で臆病な中年作曲家であった。'70年代の“セカチュー”か『恋空』か、いつの世も変わらんですなぁ。シチュエーション至上主義でどんどん進むので、粗なんて見つけないほうが難しいのだが、それでも観られたのは、『恋空』のように妙なドギツさをかもすそれでなくて、ロマンティシズムに貫かれているからか。キャスティングのセンスの良さと、ステルヴィオ・チプリアーニによる楽曲の良さ──とくにメイン・テーマ──にも支えられた一本だった。
  • 『ザ・ラットルズ-金こそすべて』モンティ・パイソンのメンバーのひとりであるエリック・アイドルが仕掛けたウソ・ドキュメンタリィ。一世を風靡したザ・ビートルズの軌跡をパロディ、ザ・ラットルズの軌跡として描く。とにかく何もかも──容姿や歴史はもちろん、ビートルズが出演した映画やテレビの映像やレコードのパッケージ、極めつけはその音楽──ソックリ、それこそ完膚なきまでにパロディにしている。そんじょそこらの再現ドラマとはわけが違う。と思えば、ウソ・インタヴューでミック・ジャガーやらが出てくるし、ジョージ・ハリソンがチョイ役で出てきたりなどもして楽しい。傑作。
  • 小森生活向上クラブ…さえないリーマン課長・小森はある日、満員電車の中で何度も無関係の他人に痴漢の罪をひっかぶせる女と出会ってプッツン。後日、思いがけずホームから蹴っ飛ばして殺してしまう。これを機に、彼は「小さな不幸を振りまく人間ども」に制裁を下すため銃を購入し、悪を見つけりゃ精魂一撃、家族円満気分は上々、仕事もウハウハ、ウハウハついでに女房と寝る。しかし起きてみると、コトは彼の範疇を超えて微妙に巨大化していって……というブラック・コメディ。小森を演じた古田新太の存在感が絶妙で、その奇妙な倦怠感と、どんどん高揚してゆく小森課長のテンションとのギャップがなんともシュール。安い合成と、軽くポカーンと響くスコアも拍車をかける。この手の映画のパターンを、ある意味突き抜けてみせたラストもよかった。それにしてもこの映画、役者を正面から捉えたショットが非常に多いけれど──目が逢うこと逢うこと──、監督の作風だろうか。