『チョコレート・ファイター』『鴨川ホルモー』など

  • チョコレート・ファイタートニー・ジャー主演『マッハ!』にて世間を席巻したプラッチャヤー・ピンゲーオ監督が放つ、今度は主役に可憐なヒロイン──ジージャーことヤーニン・ウィサミタナンを据えたアクション。『マッハ!』のときにもその迫力とスタントの激しさと痛快(まさに痛い!)に驚かされたが、今回はさらに驚かされた。殴る、蹴る、関節技はもちろん、ジージャー演じるゼンの縦横無尽、上へ下へのアクションはまことに痛快極まる。面白いのはゼンの設定。彼女は自閉症患者であり、それゆえ、自分の眼で見たアクションを完璧にコピィできる能力の持ち主であるというのももちろん面白いのだが、特筆すべきは彼女が自閉症であるが故に非常に純真無垢なキャラクタ性を獲得していることだろう。純真無垢であるが故の凶暴性──このギャップこそ、この映画がもつ痛快さの根源ではなかろうか。ブルース・リー的アクションから、ジャッキー・チェン的アクション、阿部寛のチャンバラもまじえ、クライマックスではさらに激しいアクション・シーンがこれでもかと展開される──もう満腹である*1。余談だが「さぁ飛び立て!(Fly!)」と連呼するスーパー・カー的サウンドの主題歌の使い方には、腹がよじれる。
  • ヴァンガードテレビ東京配給の未公開作品。世界設定も面白いし、映像センスも買うし、黒澤明の『椿三十郎』をおそらくはオマージュしたのであろうラストバトルも受け取るがが、あまりにその世界について語らなさすぎ。さっぱりわけがわからん。予算の関係だろうけれど、さすがに荒廃した未来世界をほとんど森と平原だけで描写するには無理があったか。にしても、DVDパッケージでカマをかけすぎ。誇大広告にもほどがあるぜよ。
  • フィラデルフィア・エクスペリメントジョン・カーペンター製作総指揮。〈フィラデルフィア計画〉をモティーフにとったタイムトラベルSF。第二次世界大戦時、戦艦を敵レーダーから消滅させるための極秘実験が行われ、実験の影響からデヴィッドとジムのふたりは現在(1984年)へとタイムスリップしてしまったと思ったら今度はこっちも科学の暴走で世界滅亡の危機、40年の時差、カーチェイスと『風と共に去りぬ』ばりの大火災シーン、そしてロマンスまで織り込んだ、サービス精神満載の作品であった。実験中の様子やふたりが飲み込まれる時空の渦の描写も面白く、プロットもきれいにまとまっており、タイムトラベルものとしてはよい出来だと思う。が、テンポが若干中盤で失速気味。もう10分短く作っていればバシッと決まったのではなかろうか。
  • Mr.インクレディブルPIXARとDISNEY製作の長編アニメーション。スーパー・ヒーローが違法化された世界での元スーパー・ヒーロー家インクレディブル家の日常と、世界の危機へと立ち上がる姿を描く。コミカルでユーモラス、ハートフルなピクサーお家芸と、それぞれのヒーローたちの特殊能力をまじえたスピーディなアクションが楽しい。ストーリィの出来も上々で、ヒーロー活動禁止の後鬱屈した生活を送るMr.インクレディブルの日常から、徐々にかつての007を思わせる世界征服の危機へとシフトしてゆくリズムもいい。特筆すべきはマイケル・ジアッキノによる楽曲だろう。映画の世界観とストーリィに見事にマッチした〈あの〉感じ──ヒーローものやジョン・バリー時代の007を思わせる──のスコアがたいへん素晴らしい(『レミーのおいしいレストラン』といい『カールじいさんの空飛ぶ家』といいピクサーでの彼は本当にいい仕事をしている)*2。全体としてかなり完成度高し。
  • ザ・フライ…クローネンバーグ監督作品。ブランドル博士が発明した物体を瞬時に転送するマシン“テレポッド”。博士自身が人体実験に臨むも、そのときポッドの中に1匹のハエが紛れ込んでいた。この些細なミス(この些細さが実にリアルだが)によってハエ人間へと徐々にミューテイションしてしまう男の顛末を描くSF作品。テレポッドたるSFギミックやクローネンバーグ印のリアルでグロテスクな映像描写やアニマトロニクスももちろん楽しいが(どうやって撮ったのだろう…溶けるところとか)、ジェフ・ゴールドブラム演じるブランドルの描写がなかなか一品である。彼が人外の存在へとゆっくりと変容してゆく様を丁寧に丁寧に──身体的そして精神的変化を──追っており、ある種の心理サスペンスとしての見応えが大。
  • 鴨川ホルモー…予告編の「鴨川ホルモ──────ッ!」という千葉繁の絶叫ナレーションに心魅かれて鑑賞。京都4大学にある“フツー”のサークルが、神々を酔狂によって奉るために式神“オニ”を用いた合戦を行っている世界で繰り広げられる青春劇。なかなかにありえない設定ながら、京都の風情溢れる──ある意味現実離れしたロケーションと、大学1回生の主人公たちの視線に立った丁寧な描写と説明によってすんなりとその世界観に入り込めた。「くぉんくぉんくぉんくぉん」「ゲロンチョリー」等のオニ語を珍妙なボディ・ランゲージとともに駆使してオニを操り、酔狂な合戦を繰り広げるさまは、実に阿呆で楽しげ。青春劇としてもツボをしっかりと押さえた展開でよく出来ていたし、コミック的な演出も浮くこともなく自然(キャスティングの力だろう。凡ちゃん眼鏡の栗山千明が可愛い)。2、3いたってどうでもいいシーンが差し挟まれていていたり、回収されない布石があったりする以外は適度な完成度を保っている。千葉繁も実際に出てくれりゃもっと良かったけど。最近、森見登美彦の小説にたぶらかされている小生には、なんとなく作中の雰囲気も似ていたことから、なかなか楽しめる1本だった。つうか、ジェリー・ザッカーがリメイク権取得ってホンマかいな!

*1:ただ、ビスタではなくシネスコで撮るべきだったと思う。画面に少々余裕がなく、いい具合に収まっていないショットが散見される

*2:ベース・ラインがしごくイイのである。