『ヒックとドラゴン2』(2D日本語吹替え版・Blu-Ray試写)感想

ディーン・デュボア監督、脚本。世界的に高い評価を受けたドリームワークス制作の長編アニメーション『ヒックとドラゴン』(2010)の続編。

前作から5年、成人を迎えたヒックは、バーク島の族長を継いでほしいという父ストイックの願いに思い悩んでいた。そんななか、いつものように相棒のドラゴン・トゥースにまたがって空を駆け、まだ見ぬ海の向こうの島々を巡っていたヒックは、超巨大ドラゴンを操ってドラゴン軍団を作るドラゴの命に従ってドラゴンを納品しているというドラゴン・ハンターの船団に出会う。ドラゴの非道な振る舞いを正そうと、ヒックは彼の元へ向かうが、その道中でもうひとりの謎のドラゴン使いが現れる……。


     ○


【脚注にてネタバレありますのでご注意ください】

去る2014年、アメリカ本国等では劇場公開されたものの、どういうわけだか日本では一部映画祭などを除いて劇場未公開/DVDスルー*1という扱いとなっていたが、先ごろガイナックス・シアターで催された試写会*2で、ひと足先に鑑賞した。作品の性質上、試写会にやってきたのは家族連れの方がほとんど──僕はひとり──で、子どもたちのリアクションがつぶさに観察できたのが、なかなか興味深い収穫だった。

閑話休題──人物やドラゴンの肌の質感、植物や岩や氷といった風景など前作にも増して微細に描かれた映像は、手を伸ばせば触れられそうなほどの実在感。とくにドラゴンが羽ばたいたときに起こる気流でうねる雲の動きの美しさには驚いた。また、本作では前作のラスボスだった巨大ドラゴンをはるかに凌ぐ超巨大なドラゴンの王が登場。『指輪物語』でいうところのオリファント(じゅう)のような風格を持ち、シネマスコープ画面を埋め尽くすその巨大感表現はえもいわれない大迫力だ。

そして、前作でもっとも新鮮だった実写的な撮影──フレーミングや照明──の美しさは本作も健在で、闇から光、凍て付いた氷の世界から陽光降り注ぐ深緑の世界まで、色とりどりの世界を見事に切り取っている。ジョン・パウエルの見事なスコアに乗って駆け巡る飛行シーンの臨場感はいわずもがなだが、必見。トゥースをはじめ、ドラゴンたちの挙動はいちいち可愛くカッコいいし、世界観を形作る様々なコンセプト・デザインも相変わらず見事だ。


     ○


本作では、バーク島だけの話だった前作からグッと世界が広がり、ヒックたちとは異なる価値観の人物たちが登場する。そのなかで、彼とトゥースが民を率いるリーダーになるまでの成長と葛藤を描いてゆく。前作同様、細かに張られた伏線に豊かなユーモア──“ショーン”ライクな羊たちのギャグや、鍛冶屋ゲップの相変わらずのノリ突っ込み、そして近年稀に見る長尺スローモーション・ギャグ(場内の子どもたちバカ受け!)などなど──に彩られて語られる脚本の出来はもちろん上々だ。

けれど、同時にちょっと要素を詰め込みすぎて散漫な印象になっている感は否めない。なんというのか、本来であれば2本別々に語られる物語を1作に押し込んだ感じとでもいおうか*3

おそらくその原因は、あらすじでも少し触れたように、本作は正体不明のキー・パーソンが“ふたり”いることだ。もちろん彼らが、ヒックが葛藤することになる価値観の対立項──いわば天使と悪魔──であることは間違いないし、機能しているのだけど、とくに“もうひとり”の人物がヒックの前に登場してからというもの、その設定の性質から映画が真っ二つに分断され、かつヒックがドラマの後方へと押しやられがちになってしまう(このあたりで子どもたちがソワソワしだしていた)*4

しかも102分の上映時間に、物語的にも映像的にもクライマックス級の出来事が後半30分で2回立て続けに描かれることが、余計に本作の筋をあいまいにしているし、ちょっと息切れする。ファミリー向け映画としては、ちょっと込み入りすぎじゃないかしら。


     ○


ともあれ、ヒックとトゥースが、それぞれ名実ともに人々とドラゴンたちのリーダーとして目覚めるラスト・シーンは非常にアツく感動的だ。「ふたりとも立派に大きくなったねえ!」と、前作に興奮し涙した方ならきっと本作を楽しめるだろう。すでに決定されたという『3』の公開(重要!)がいまから待ち遠しい。

*1:明日、2015年7月3日発売。

*2:2015年6月28日開催。

*3:そう、たとえば『アメイジングスパイダーマン2』(マーク・ウェブ監督、2014)のように。

*4:その人物とは、死んだと思われていたヒックの母ヴァルカである。彼女は人知れずドラゴンの王と共存関係を結び、王が作ったドラゴンの楽園の守護者として暮らしてきていたのだった。ヒックがドラゴに囚われたと思って救出に向かったストイックもまた、愛する妻と再会するが、そこに来てどちらかというとストイック主体のドラマになってしまう。同時に、まずもって謎の人物として登場したはずのドラゴに割かれる時間はどんどん減り、その描写は若干おざなりになっている感は拭えない(そういえば、ドラゴンとともに、多くの人間の傭兵を従えていたはずなのに、クライマックスでは傭兵たちはなぜか登場しない)。▼また、加えるなら、ヒックが前作で打ち立てたドラゴンとの共存関係と、母ヴァルカが打ち立てたドラゴンとの共存関係は、果たして本作のようになんの葛藤もなくすり合うものなのかは疑問が残る。なまじ「共存」が共通項なだけに、そこにある微妙な差異──あえて分けるなら愛護と保護──は、けっこう深い溝な気がするけれど……。まあ、ファミリー向け映画において、さすがに母を敵対者にできない事情もあるのだろうけどね。