2013年鑑賞映画作品/11-20 感想リスト

ホビット/思いがけない冒険』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20130128/1359389868

『ザ・タウン(スペシャル・エクステンデッド・エディション)』……ベン・アフレック監督。停滞し、銀行強盗に手を染めるしかない街“タウン”からの脱出をはかろうと模索する男の物語を描く。今日日の映画というよりも'70年代のクライム映画を観るような、序盤から中盤までの非常にじっくりと進むテンポには、すこし驚かされた(よい意味で)。とはいえ、見せ場となる強盗シーンや、それに伴うアクション、暴力描写はきちんと刷新されたもので、とくに着弾の描き方のある種の冷徹さは新鮮で、画の緊張感をグッと高めている。とはいえ、長尺版(約30分増の2時間半)は流石に長すぎたか。

ハスラー』……ロバート・ロッセン監督。ポール・ニューマンの当たり役となった作品。劇中の見せ場であるハスリングのシーンの演出は巧みで、とくにアバンからオープニングタイトルにいたる“省略”描写はたいへん格好いい。その大部分を吹き替えなしで役者陣が演じたというのだから驚かされる。ただ、いまの感覚で観るとちょっと長過ぎる嫌いがあり、とくに中盤のある種の停滞感は、観ていて少々しんどかった(とはいえ、このしんどさは無論意図されたものだろう)。

『青春残酷物語』……大島渚監督。若さゆえの奔放さの暴走とその破局を描く。いわゆる松竹ヌーヴェルヴァーグとされた最初の作品であり、なるほど野外ゲリラ撮影を多用した映像に荒い編集が施され、ときに象徴的な画面──たとえば電話の色──が配置され、またアコギな若者を主眼に置かれているなど、なるほどそう呼称されるのもさもありなん、といった感じ。興味深いのは、映画内で3種類の青春が対比されることだ。ひとつは1960年当時(高度経済成長期)にある主人公たちの青春。ふたつは終戦直後にあったヒロインの姉世代の青春。そして、戦前にあった親世代の青春。これらそのどれもがいったんは輝きつつやがては荒廃してゆく様が苦々しく描かれてゆく。

メン・イン・ブラック3』……バリー・ソネンフェルド監督。出来栄えにはまったく期待をしていなかったのもあるが、意外にもタイムトラベルSFの傑作となっていて驚いた。劇中に置かれた布石をテンポよく回収しつつ、“J”と“K”の関係性を改めて語りなおしてみせた脚本が素晴らしい。また、タイムトラベルもといタイムジャンプの描写──高所から飛び降りつつマシンを起動すると、その場所の地理的な歴史が太古から行き先の時間まで再現/再構築される──も、そうくるか、といった面白さがあった。舞台となる過去が1969年のニューヨークということで、当時のポップ・アート界隈の様子も戯画的に描かれていて楽しい(あのアーティストが捜査官とは!)。3D効果を狙ったと思われる、遠近感を必要以上に強調する画面構成に多少の違和感を感じる以外は、楽しんで観られた。僕としてはシリーズのなかで一番好きかもしれない。

『マドモアゼル』……トニー・リチャードソン監督。ジャンヌ・モロー演じるマドモアゼルが放火や水門の開放といった悪事に人知れず手を染めてゆく様子を描く。それらの行為はすべて、彼女は田舎村でただひとり都会からやってきた教師でオールドミスである彼女の抑圧された性的欲求の代替行為として描かれるため、暗喩的な画面が全編をとおして展開される。それと呼応して、村の閉鎖性ゆえの抑圧された排他主義が露わになってゆくのも興味深い。暗鬱としたモノクロ画面で展開される抑圧と開示がもたらす悲劇が強烈な印象を残す1本だ。

アメイジングスパイダーマン』……マーク・ウェブ監督。サム・ライミ版をリセットした新シリーズの第1作。正直ライミ版に乗れなかったので、こちらはどうかなと思いつつ鑑賞したけれど、けっこう楽しんで観ることができた。精緻なCGを駆使し、スパイダーマンの主観映像も織り込みながらスピーディに展開されるアクション・シーンは面白いし、物語運びもテンポ良く進んで小気味いい。今回かなりの科学少年として描かれたピーター・パーカーが印象的で、ハイテクなスパイダー・スーツも自作してしまうほどだが、理系工高に通い、自室のオート・ロック機能をすでに自作していたりと、言外の説明をうまく映画序盤から盛り込んでいるので、スムーズかつ説得力を持った存在としてスパイダーマンを打ち立てることに成功している。そのほか、『(500)日のサマー』でもみせたウェブ監督の感情表現の巧さは、今作でも健在だ。ただ、脚本が少し甘い部分も見受けられる。特に、ピーターが叔父を殺したチンピラを追い立てるシークエンスの落とし前が劇中でまったくついていないのが気になる。ここで、スパイダーマンとして振舞うことによって生じてしまう暴力の負の側面をきちんと描き、ピーターをもっと追い込むべきではなかったか。そうすることで彼に強烈な葛藤を持たせたほうが、中盤やクライマックスでみせるピーター(=スパイダーマン)の英雄的側面がより感動的に盛り上がったであろう。また、ヒロイン/グウェン(いまやボンクラ主人公の映画には欠かせなくなったエマ・ストーンが好演)との絡みのシーンなどで多少投げっぱなしな──ともすれば、ないほうがいい──シーンも見受けられたので、もっとタイトに上映時間もまとめられたはずだ。とはいえ、ある一定ラインは確実に超えた良作であることに違いはなく、観て損はないだろう。

狼男アメリカン』……ジョン・ランディス監督。リック・ベイカーによる狼男の特殊メイクと、それへの変身シーンが凄い。また、クライマックスの狼男の暴れっぷりというよりは、それによって巻き起こってしまった自動車玉突き事故の、ある種のフェティッシュともとれるシツコで細かなな描写が素晴らしい(同監督の『ブルース・ブラザーズ』におけるパトカー描写もそうだったなぁ)。クライマックスの幕切れはビックリするほどあっさりバッサリと訪れるが、映画全編に変奏としてのエディプス神話=幼児のエディプス・コンプレクスが見られるところに注目してみると、主人公が恋するヒロインの年上で看護師であるという設定や、狼男の血を受け継いだことで狼男の犠牲者──彼らの特殊メイクもまた素晴らしい──が幽霊となって主人公の眼前に現れることともに納得がゆく造りになっている。

『紙ひこうき』……ジョン・カース監督。ウォルト・ディスニー・アニメーション・スタジオ製作の6分ほどの短篇アニメーション*1。古きよきアメリカの都会を舞台に、紙ひこうきを軸に巻き起こる男女の淡い出逢いを描く。精緻にコンピュータ・グラフィックスで構築されたアニメの上に、アニメーターの手描きによる原画を重ねて同期させるという、『白雪姫』で採用された実写フィルムを実際に模写するという手法に本家帰りしたような作品だ。台詞のないサイレント風作劇でかつモノクロでありながら、鮮やかにふたりの感情の機微を描ききる力量はさすがディズニーといったところ。鉛筆のタッチが見えるキャラクターの動きの柔らかさも去ることながら、3DCGという仮想物理現実が支配する画面の中で空しく落下してゆく紙ひこうきが、ついに物理演算の枷を逃れて舞い踊るクライマックスは、アニメーションの喜びに溢れていて、とても感動的だ。

LOOPER/ルーパー』……記事参照>>http://d.hatena.ne.jp/MasakiTSU/20130212/1360676528

*1:CGア二メーション映画『シュガー・ラッシュ』の前座として上映された。