『エンド・オブ・ホワイトハウス』感想

アントワーン・フークア監督。ジェラルド・バトラー主演の“ダイ・ハード”型アクション大作。シークレット・サービスとしてアメリカ大統領夫妻を警護していたマイク・バニングは、吹雪の中発生した不慮の事故により大統領夫人を死亡させてしまう。この事故がきっかけで、マイクは大統領警護の任を解かれ、財務省勤務となってしまった。2年後の7月5日、ホワイトハウスが韓国首相が来訪中、突如として北朝鮮テロリストの攻撃に遭い、あえなく陥落。彼らは大統領らを人質にとり、地下の緊急退避室である“バンカー”に立てこもった。大統領救出の目処が立たぬまま時間が過ぎるなか、大統領代行に任命されたトランブル下院議長をトップとする最高司令部に1本の通話があった。それは、ホワイトハウスに単身乗り込むことに成功したマイクからだった……


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なんといっても本作最大の見所は、まさしく原題“Olympus Has Fallen”や日本版キャッチ・コピーが指すところの、ホワイトハウス陥落シーンだ。北朝鮮テロリストの指揮する軍用機が彼方から現れ、ホワイトハウス一帯を民間人を含めた無差別掃射したかと思うと、今度は突如として民間人に紛れていたテロリスト軍団が捨て身の戦法を用いながら一気呵成にハウス内に雪崩れ込み、内部に侵入していたスパイの暗躍もありつつ、あれよあれよという間に10分ほど*1ホワイトハウスを占拠してしまう様は圧巻。凄まじい数の弾丸と死体がヤマとなって飛び交う様子は凄惨ですらある。

本作における“敵役”である北朝鮮テロリスト・グループのイメージは、いまだ癒えないアメリカが抱える恐怖心の象徴だ*2。というのも本作におけるテロリストの描き方は、北朝鮮とはいいつつも、多分にイスラム原理主義テロリストを髣髴とさせるからだ。

たとえば、彼らは“自爆”によってホワイトハウスの敷地を囲う柵を破壊し、戦闘員/非戦闘員を区別なく皆殺しにするといったところもそうだろうし、予告編でも登場した軍用機に激突されたオベリスクが崩れ去るシーンは明らかに9.11テロ──旅客機が世界貿易センタービルに突っ込み、ゆっくりと崩壊してゆく様──を意識した画作りになっており、これを非常にねっとりと描くのだ*3。さらに恐ろしいことに、今回攻め入ってきたのは北朝鮮という組織的統制の利いた集団だ。顔を覆面で隠し、ひと欠片の感情も示さないまま、ひたすら冷徹に作戦を実行していく様は、いわば軍隊だ。その侵略軍にアメリカが敗北する様を、映画は粛々と描いてゆく。この一連のシークェンスでの絶望感は恐ろしいほどだ。

 
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この後、元シークレット・サービスの主人公が、北朝鮮テロリストたちが灯りの落ちた仄暗いホワイトハウスをゾンビよろしく徘徊するなかに単身乗り込んでいくが、以降の展開がほんの少しばかり失速してしまったのが惜しい。というのも、今後の展開は単発の小さなミッションをひとつずつこなしてゆくという感じのもので、映画全体の布石や繋がりにやや欠けるのだ。前述のように無個性な北朝鮮テロリストたちのキャラクター──明確な個性があるのは首謀者だけ──もそれに拍車をかける。無個性が生み出す恐怖それ自体の効果は抜群だっただけに、もう少し脚本段階で練っておけばよかったのにと悔やまれるところだ。

とはいえ、ピンと張り詰めた緊張感を全編に渡って維持してくれているので、アクション映画としてのある一定ラインは十分に超えているといえるだろう。週末の夜に、今日のアメリカが抱く恐怖の空気を感じるだけでも、本作は十二分に機能するだろう。

*1:劇中の台詞によれば13分。

*2:これはひとつの例だけれど『世界侵略:ロサンゼルス決戦』(ジョナサン・リーベスマン監督、2011)に登場するエイリアンもまた、イスラム過激派ゲリラを思わせる存在だった。ちなみに、『世界侵略』の主人公を演じたのは、本作『エンド・オブ〜』で合衆国大統領を演じたアーロン・エッカート

*3:オベリスク足許から崩壊を見上げるようなショットなど、まさにあのニュース映像にほかならなず、本編にはこのテロ被害によって負傷した民間人が次々と病院に運び込まれるシーンも映される。