2022年9月に、ちょこまかとtwitterにて書いていた短い映画感想の備忘録(一部加筆修正)です。
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【劇 場】
◆謎の赤い隕石を目撃した三好麻里亜を取材のため自宅を訪れた映画監督・黒石光司と助監督・市川美保が次々と奇妙な怪異に襲われる『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』(白石晃士監督、2022) *1は、白石監督がこれまで『オカルト』(2009)や『カルト』(2013)、OVシリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』(2012-)など、一見バラバラに見える作品群によって積み上げてきた、いわば “白石晃士マルチバース” とでもいうべき世界観の、現時点での集大成的作品だった。
本作を観れば、宇野祥平や大迫茂生、白石晃士といったお馴染みのキャスト、堀田真由演じる助監督や飯島寛騎演じる霊能者の名前やキャラクター *2、例のミミズやいつか見たあの景色などなど、これまで白石作品を観てきた観客ならニヤリとしてしまう要素はもちろん、フェイクドキュメンタリーならではのPOV 形式の映像の見せ方や切り取り方の妙、予算以上に画面をリッチに見せる様々な工夫、そして独特の善悪の彼岸感など、しっかりと彼の作家性を1本のエンタメとして存分に堪能できる。また、全篇が明るい真昼間で展開されるのは、本作の題材的にも白石流『ミッドサマー』といったところだろうか。
本作が特徴的なのは、とにかくテンポがよいことだ。というのも、本作の登場人物たちは皆、これまで別の世界線で異常な経験を様々にしすぎたためか、襲い来る怪異への順応と対応がじつに迅速なのだ(ポルターガイスト的にすっ飛んできたものを1発で叩き落とすシーンとか最高でしたね)。そのため、怪異に恐怖したり対応に二の足を踏む展開がギリギリまでそぎ落とされ、そのぶん連続する見せ場とスウィングする謎、癖の強い登場人物たちのアクションによってグングン観客を引っ張ってくれるに違いない。だから本作は、ホラー映画が苦手な方や白石監督作品をはじめて観るといった方に、むしろオススメかもしれない。
劇中、黒石監督がことあるごとに「この映画、傑作になるの?」と尋ねられていたが、エンドロールを眺めながら思わず胸中で「黒石(白石)くん、ケッサクだよ! (しかも超大作!)」とサムズアップしたのでありました。もちろん手持ちカメラによる主観映像で構成された作品なので、だいぶ見易くマイルドなほうであるとはいえグラグラ揺れるので、画面酔いしやすい方はご注意くださいね。
ところで、本作には本編に先立って前日譚的短篇『訪問者』(同監督、2022)が附されている。こちらは室内の監視カメラと黒石監督の手持ちカメラの2種類の視点を用いた作品で、POV ゆえに撮り損ねる怪異という観点が面白かった。
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【ソフト】
◆殺し屋界最強といわれる若手 “国岡” に密着取材する『最強殺し屋伝説 国岡[完全版]』(阪元裕吾監督、2021)は、自主製作映画感あふれる雰囲気──とくに、常に挿入されるキャプションの垢ぬけなさ──にねじ込まれる疑斗の完成度の高さとのギャップが面白い作品だった。もちろん、なんでそこでカット割れるンだよ、というモキュメンタリーとしての破綻 *3へのツッコミは入れつつも、すったもんだあっての後半において酒に酔った国岡が吐露する「普通ってもののレベルが高すぎて俺にはムリポ(要約)」という独白に「わかりみがすぎる」と、ひとり慟哭したのでした。
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◆20億年後の未来、滅亡の危機に瀕した人類が現代の我々に向けた音声メッセージを送信する、オラフ・ステープルドンの同名SF小説を映画化した『最後にして最初の人類』(ヨハン・ヨハンソン監督、2020)は、“見立て” ここに極まれりといったような作品だ。
本作は、すべての物語/人物/景色が旧ユーゴスラビアに実在する風景(戦争記念碑〈スポメニック〉)による “見立て” の映像だけで展開され、しかもその “見立て” を成立させてしまう実景ゆえに放たれる存在感が、画面に独特の世界を強く立ち現わせている。先ごろ死亡報道のあったジャン=リュック・ゴダールがSF『アルファヴィル』(1965)にて当時のパリ市街の風景を宇宙都市、自動車を宇宙船に “見立て” ていたのとはまた別のトンガリかただ。もちろん、本作完成前に急逝したヨハン・ヨハンソンによる荘厳さと不穏さとが交差する楽曲も、本作の世界観の構築と持つ音声メッセージ性を見事に強調している。
余談だけれど、この映画版に限っていえば、全篇ほぼ静止画《的》なモノクロ映像であること、ナレーションのみで物語が語られること、人類の破滅にまつわる円環的な物語構造を持つこと、さらに画面縦横比がヨーロッパビスタサイズ(1:1.66)であることから、手法的にはあきらかに『ラ・ジュテ』(クリス・マルケル監督、1962)が元ネタかと思われる。また、ステープルトンに影響を受けたといわれるだけあって、ときおり現れるアーサー・C・クラーク原作『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督、1968)オマージュも味わい深い。これらのことからも、1930年に著された原作小説から今日にいたるまで、ある種の決定論的人類史感の系譜が連綿と受け継がれていることにも思いを馳せさせられる。
いずれにせよ、ほかになかなかない存在感を放つ1作には違いない。
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【配 信】
◆2018年、タイのタムルアン洞窟の遭難事故における救出活動を題材にした『13人の命』(ロン・ハワード監督、2022)は、実録モノとしてもディザスター映画としても見応えのある作品だった。ハワード監督の作風の印象は、良くも悪くも “ソツはないが淡泊” といった感じだったけれど、本作ではそれが十全に活かされた傑作だ。当時、報道規制があったこともあり不鮮明だった実際の出来事が──もちろん、映画用に改変された部分もあるにせよ──ドキュメンタリックに時々刻々と活写される緊張感もさることながら、そこかしこに描写される “自助” ではなく “共助” の精神にも胸を打たれた。
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